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リアクション
「理沙、大丈夫?」
「襲われかけたけど、無事よ!」
セレスティアと2人で話している理沙を見つけるとルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、ボロボロになった玄関口から駆け寄った。
理沙の情報提供により、ルカルカ達はすぐにリーダーが居ると思われる管理棟へ駆けつけることが出来ていた。
すると、セレスティアが一本の8mmビデオテープを渡してくる。
「ルカルカさん、これをどうぞですわ。事件が起きたときからずっと隠し撮りしたのだけれど、きっと資料になるとおもいますわ」
「ありがとう、預かっておくね」
ルカルカはビデオテープを受け取るとそっと、ポケットに入れ込んだ。
(さて……)
ルカルカは手元の籠手型HCで、先にリーダー捕縛のため2階へ上がっている2人の連絡を待った。
「60人……ってところかしら」
「そんなにいるのね」
一方、 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)とセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、管理棟最上階に居た。
セレアナの神の目により、管理棟に居る敵の数がわかる。しかし、その数は思ったよりも多い数だった。
「しかもみんな似たような人ばかりだから、リーダーといわれる人がどこにいるかまではわからないわ……」
セレアナは残念そうに肩をすくめた。
「そうね……とりあえず、今ここからわかる事をみんなに送るわよ」
セレンフィリティの言葉にセレアナは深く頷くと、銃型HC弐式を取り出し、文字を打ち込み始めた。
「さ、これで完了……あら?」
「どうしたの?」
文字をすべて打ち終え送信ボタンをおしたセレアナは、神の目であることに気がついたのだった。
「何だおま――」
トイレから出てきた男を紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は不可視の封斬糸で縛り上げ、動けないようにすると、すかさずダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はテロリストの口元を押さえた。
「首謀者……リーダーはどこだ?」
「ぐぐぐ」
「声を出すな、指で示せ」
男は何かを叫ぼうとするが、ダリルは決して口元を自由にはさせなかった。
観念したのか、男は人差し指で奥を指さした。
「あそこは社長室ですか……」
「ルカに連絡だ」
唯斗が部屋にかかっているプレートを確認すると、ダリルは籠手型HCでルカに情報を送る。
その情報は、電波に乗ってすぐにルカの元にたどり着いた。
「社長室……」
ルカは籠手型HCを眺めながらつぶやいた。
そこには、ダリルから送られてきた情報が表示される。その情報はルカルカが今居る場所から、ダリルの居る場所まで敵が居ない事も示していた。
それと同じようにして、セレアナが全員に送った、管理棟のテロリスト人数が送られてくる。
「社長室は……30人。やっぱりここね」
ルカルカはそれを確認し終えると、後ろに振り返り夏侯 淵(かこう・えん)とその後ろに並ぶ、軍と警察へ言葉を発したのだった。
「みんな配置について! 私がゴーって言ったら突入!」
「だめ……」
「ちょ……マリア!?」
ガラスの破片などが散乱する玄関口。アリスはしびれ薬により動けない体に鞭を打ち立ち上がった。
二階へと向かおうとしていた藤林 エリス(ふじばやし・えりす)は、フラフラに成りながら歩くマリアを見かけるなり慌てて肩で支える。
「その体でどこに行くつもり!?」
「こんな事件を……起こしたひとのところへ……」
「無理よ! あとは私達に任せない!」
しかし、マリアは縦には頷きはしなかった。それどころかどんどん前へと進む。
「あーもうっ、マルクス! マリアを頼むわっ!」
「えっ、か、肩をかせば良いんですか?」
慌ててマルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)は肩でマリアを支える。
黙りこんだまま、前へと歩くマリアを止められないと思ったエリスはマルクスに補助を頼み、一足先に二階へ上がるのだった。
すべての準備は整っていた。
ルカルカ達は暗闇に包まれる二階で静かに時を待っていた。
全員が配置についた旨が夏侯 淵(かこう・えん)から連絡があると、ついにルカルカは声を出したのだった。
「突入!!」
「やっぱりきましたか――いきなさい!!」
扉が開かれると、若い声が飛んでくると同時に、30人近くのテロリストが一斉に声を上げてルカルカに対抗しようとする。
「全員突入!! 優先事項、リーダー捕縛だぜ! くれぐれも間違えるなよ!」
淵は手を前に伸ばし、警察や軍隊を部屋に突入させる。
しかし、テロリスト達もリーダーを守るためなのか、さすがにただの一般人ばかりでは無かった。
格闘家、元軍隊だったもの、下手をすれば突入した警察の友人までもが居る次第だった。
そんな中、なんとかしてルカルカとダリル、唯斗は対抗し合うテロリストと警察をかぎ分けて
ゆっくりとこの事件のリーダーへと近づくいていった。
「私を捕まえにくるとはなんと馬鹿な行為……」
四角いめがねを指先で持ち上げ、落胆するように言う。
途端、リーダーの真横を何者かが見えないスピードで駆け抜けた。
「?」
後ろに何かが立っている気配を感じ取ったリーダーは振り向いた。
そこには、唯斗が鋭い目つきでこちらを見ていた。同時にいつの間にか体がまったく動かせなくなっていることに気がついた。
「束縛させていただきました。おとなしく投降していただきます」
「やれやれ……投降ですか。あなた達は何をしているのかわかるのですか? 世界の崩壊を許すというのですか?」
「何にしてもやってることは犯罪よ! 潔く投降しなさい!」
巨大野獣の爪のような形をした武器を、構えるルカルカにリーダーは微動だにもせず、突然笑い始めた。
「ふふふっ……あなた達悪に我らグランツ教は屈しませんよ」
男はくるりと唯斗へ振り向くと、手を差しのばした。
リーダーの袖から銃口のような物が見えると、唯斗は慌てて不可視の封斬糸をほどき、サイドステップでよけた。
「なっ……気をつけてください! 武器を持っています」
「仕方ない、武力行使だ」
ダリルは羽織っていたスーツ服を地面に投げ捨てると、拳を構えた。
リーダーは袖から、ハンドガンを取り出すと構え、打ち込んだ。
「げっ! もうはじまってるじゃないの」
「エリスちゃん、がんばって!」
後ろで、アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)は声を投げ、歌い始めた。
アスカの歌によって、エリスは体に力がみなぎってくるのを感じた。
その勢いでエリスは、空色のレオタード風魔法少女服を揺らし、走るように目の前のテロリスト達を蹴飛ばした。
警察を相手に為ていた、テロリスト達は転がるように地面にこける。
「愛と正義と平等の名の下に! 革命的魔法少女レッドスター☆えりりん! 人民の敵は静粛よ!」
「魔法少女だか、レッド○ルーだか知らんが……やるぞ!!」
こけさせられた格闘家の男が、拳をエリスに向かって振りかぶる。
しかし、エリスはそれを軽やかに避けると、こんどは男のみぞおちをめがけて蹴りを入れる。
「くそっ……なんでこんなのに……世界の崩壊が怖くないのか!? 我らの世界統一国家神様は助けてくれるというのに、それを仇にするか!」
格闘家の男は、吠えるようにエリスに訴えかける。
それに答えたのはアスカだった。
「みんな世界の崩壊は怖いわよ! あたしだって怖いのだから! でも、だからって、テロを起こさないと助けてくれない神様なの?」
「ああ! こうやってみんなが一致団結するからこそ奇跡は起こるのだ!」
「罰当たりな信者さんね〜神様の怒り、教えちゃうぞ!」
アスカは、再びおどおどしい歌を歌い始める。
「さあ、どうした動きが遅くなってきたぞ」
「はあ……はあ……ちっ」
ダリルは威嚇するようにリーダーに声をかける。
リーダーはハンドガンを、ダリルに再び構えるとトリガーを引こうとした。そこで、リーダーは気がついた。
目の前に男2人は居るが、女が居なくなっていた。
「こっちよ!」
「ちっ!」
いつの間にか居なくなっていたルカルカがリーダーの側面に居た。
舌打ちをしながら、ハンドガンをルカルカに向けて乱射する。しかし、リーダーのハンドガンは壁に穴を開けるばかりで、目標には命中していなかった。
「終わりです」
唯斗が、静かに言った。
リーダーのハンドガンは音を立てて地面に落ちる。
どうじに、リーダーも唯斗の見えない糸によりその場に座り伏せられてしまった。
「終わりよ!! リーダーは捕縛した!」
ルカルカが叫ぶように声を上げる。
周りで格闘していた警察とテロリスト達もきょとんとした表情でこちらをみた。
「ぐっ……まだ終わってなど……」
「終わりです……あきらめなさい」
「なっ――マリア様!?」
苦しそうなマリアの声だった。
マリアはマルクスに担がれながら何とか、リーダーの目の前に立ったのだった。
「やっぱり、何か言いたいことがあるの?」
ここまでして来たマリアにエリスは、何か強い意志を感じ取っていた。
マリアはそんなエリスにただ、深く頷いて返した。
「リーダー……いえ、ブライアンさん。あなたを私、グランツ教からマリア・ラヴェルが破門を命じます」
「なっ――」
その言葉に誰もが、驚いていた。
何より驚いていたのはリーダー、ブライアンだった。
「マリア様、それはどういうことですか!! 私はこんなにグランツ教のために尽くしたのに!!」
「……」
マリアはそんなブライアンの言葉にただ、無言で目を閉じたまま聞いていた。
「あんまりではないですか!」
「……」
「なぜ黙るのですか!! 我らの国家統一神様は世界を救うのではなかったのですか!」
「……よく聞きなさい、ブライアン。グランツ教の幹部はあなたを『異端者』と見なされ……『規範を背いた者達は重罪者。相応の鉄槌は避けられない』と」
「そんな……私のやってたことは間違っていたと?」
ブライアンは、か細い声で泣くようにその場に崩れ落ちた。
「マリア、その鉄槌というのはどういうことなのですか?」
「私にもわかりません。ただ、幹部から聞いたのは『異端者は抹殺してもかまわない』と聞きました」
ブライアンはもはや泣くことも、喋ることも出来ず、ただ呆然と座り込んでいた。
「……裏切られたのですね、この方は宗教に……」
マルクスは小さくつぶやいた。
この男は、宗教に洗脳され、また宗教に搾取され……捨てられてしまった。
マルクスにはそう感じられた。しかし、マリアはまだ捨てては居なかった。
「あなたは、このまま捕まってはいけません。逃げなさい」
「!」
「何をっ!!」
ダリルを始めとし、その場の全員が驚きの声を上げた。
「マリア様……」
「はやく逃げてください……ここはあなたの代わりに私が首謀者として捕まります」
「あなた、何をいってるかわかってるの!?」
ルカルカはマリアの肩を捕まえると、鋭い目つきでにらんだ。
しかし、マリアの目もまた、何かの決意に固められたような真剣な表情をしていたために驚いた。
「今回の首謀者は私、マリア・ラヴェルです。この方はただの一般人。これで無事に片付――」
「ククク……そうはさせませんよ」
突然、トーンの低いこもったような声が部屋中を響いた。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああっ!」
次の瞬間マリアの目の前に飛んだのは、鮮明な血吹雪。
このグリーンパークに入って、最初に見たようなどす黒い血の雨が部屋に流れた。
「!?」
ダリルがすばやくブライアンにかけより首元に手を当てる。
しかし、ダリルはルカルカの顔を見ると、首を横に振った。
マリアは目の前にただ立つ男を見た。
「何が起きたの……」
「…………」
「そんなことはどうでも良いじゃ無いですか。それよりも、今はもっともっと、混沌、血をながしてほしいのですよ」
「!」
それ、クルーエル・ウルティメイタム(くるーえる・うるてぃめいたむ)は何かよくわからない鉄の塊が、ブライアンに突き刺さり無言でその場に立っていた。
その疑問に答えたのはクルーエルではなく、横に現れたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)。
体中についた何個もの目、人間とは思えない容姿、そのすべてをとってみても、怪物以外何者にも見えなかった。
そして、さらに横にはそこには身長140センチ程度の小柄な女の子が立っていた。
「エッツェルさん、もっと血を流しても良いの?」
「もちろんですよ、にしても、私は良い協力者を得ましたよ。まさかブライアンの子供がこんな狂気にあふれたすてきな子供とは……」
「まさに運命ですねぇ〜クッククク」
「まさか……その子、ブライアンの娘? 協力者?」
マリアはわき出る疑問を次々とエッツェルにぶつける。
エッツェルは笑いを止め、一度咳払いをすると言葉を続けた。
「そうですよ、この子はロザ。ブライアンの娘なのですよ」
「あなた達には命をかけた戦いをしてほしかったのですが――」
まるで地獄にたたきつけられたかのように呆然と見つめるマリアに、エッツェルは腕を伸ばす。
しかし、その腕はエリスの蹴り足により、大きく仰け反らされた。
「マリアには触らせないわよ!」
「ほう……グランツ教の人を守るなんて優しいんですねぇ……」
「違うわよっ! グランツ教を守るんじゃなくてマリアを守るのよ!」
「くくく……クックック」
エッツェルは不気味な笑みを浮かべると、クルーエンをぬるりと体に取り込む。
そして、触手のようなものをルカルカ達の背後へと振るった。
「うわああああああああああああああああああああっ!!」
途端、ルカルカ達の背後にいたテロリストと警察達が悲鳴を上げた。
突然、銃声と共に高らかに笑みを浮かべるエッツェルに、銃弾が飛んできた。
「悲鳴は実に良い……愉快ですねぇ……愉快ですよ。クックック……おやあ、誰です?」
全員が社長室の入り口へ振り返るとそこには拳銃を握りしめたセレンフィリティと槍を構えたセレアナが立っていた。
「遅かったわ……」
「神の目で見たとき、変な人が居るとはおもったけど……まさか契約者だったなんて」
セレンフィリティとセレアナは、エッツェルから視線を外さずに話す。
ルカルカ達には何のことだかわからなかった。
「どういうことなの?」
「どういうことも何も……ここのリーダーに逐一事件の計画を与えてたのは、そこのロザよ。そして今納得がいったの。さらにロザをそそのかしたのは……あいつよ!」
ルカルカの質問に、セレンフィリティはエッツエルにあごを向けながら答えた。
エッツェルの体から、先ほど打ち込んだはずの鉛玉が水音を立てて、出てくる。
「おや、よくわかりましたね……そうですか……では、もう一つ良い話を教えましょうこれから、さらに死人が出ます」
「させないわよ!」
セレンフィリティのハンドガンが、金属音を立ていつでも発射できる状態になる。
「みんな死んじゃえ……」
突然、体が凍り付くような声に、セレンフィリティとセレアナは背後へ振り向いた。
「なっ――」
いつの間にかセレンフィリティ達の前に居たはずのロザが、背後に立っていた。
テレポートなのか、何なのか考える余裕も持たせないかのようにロザは両手持っている振りかざし、セレンフィリティ達に直進する。
セレンフィリティは右腕にかすり傷を、セレアナはどうにか槍で防いだ。
ただ、不気味に笑うばかりの少女に危機感すらセレンフィリティ達は感じたのだった。
「さあ、パーティーの始まりですよ……フフフ」
「待て!」
ルカルカが声を上げた瞬間、少女は何かをつぶやき始めた。
「モットアラソエ……ニクシミアエ……モットシンジャエ……」
ロザの持つ短剣が黒く光り始め、そこからあたりを黒いモヤが漂い始めると、それは部屋中に包まれた。
ダリルは、遮られてくる視界を何とか目をこらしロザとエッツェルの姿を探す。
「ちっ……逃げられたか」
そのもやの隙間からエッツェルの居た場所を見直すと、すでにそこから居なかった。
次第にモヤが落ち着くと、視界が回復していく。ダリルは再び舌打ちをうった。
頃にはロザの姿も消えて無くなってしまっていたのだった。
「た、大変よルカ!!」
「なんで……なんで争ってるのよみんな!!」
淵の驚く声にルカルカは後ろへ振り返る。
後ろで繰り広げられる光景に、ルカルカは絶句した。
自分たちの連れてきた、警察、軍隊はテロリストと戦うどころか、仲間同士で殺し合いを始めていたのだった。
「正義が……やられるなんて……」
血が飛び散るその光景に、エリスも思わず体が震え動け出せなくなっていた。
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