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メロンパン競争曲

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メロンパン競争曲

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 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は『至高のメロンパン』を4つ購入しようと考えていた。

 ・食用
 ・保存食用
 ・給仕の家系としてレシピ再現用
 ・空京大学に持ち帰って自慢する用

である。
 称号「ちっぱい」の詩穂は『至高のメロンパン』で巨乳気分を味わおうとも考えていた。

――最高級メロンパンで”たゆんたゆん”を味わおうとは、なかなか贅沢なヤツだぜ、詩穂ちゃぁん!


  『母校の蒼空学園に久々に遊びに来たら、今回の特別メニューは食の千年王国に伝わるという
  至高にして究極のメロンパンですね……ぜひ食べてみたいな』

――『至高のメロンパン』は限定50個! おひとり様4個までの購入になっているぜッ!


  『「食の千年王国」「至高にして究極の料理」といえばドーピングコンソメスープです』

――『至高のメロンパン』は名前の通り、シャンバラ原産の至高の食材を惜しげもなく使った最高級メロンパンだッ!
――1度食べればもう普通のメロンパンには戻れないほどの美味しさだと聞いているぜッ!
――食の千年王国の名に恥じない代物になってやがるはずだッ!


  騎沙良詩穂はキロス・コンモドゥスの背中に食らいつく……と見せかけて、あるルートを使って、キロスを追い越したッ!

  意外! それは壁ッ!

 詩穂のスキル【軽身功】は壁や水面を走ったりできるものだ。
 どうして今回、壁を走り抜ける戦略に詩穂は全てを賭けるのか?
 なぜならば……。

――廊下の幅は数人が横一列になってしまった場合、抜かせるスペースがないッ!
――廊下での状態異常系スキルの応酬による激戦に巻き込まれる可能性ありッ!
――飛行だと『奈落の鉄鎖』に落とされることもありうるッ!
――壁を気にする人間は、廊下を気にする人間よりも圧倒的に少ないッッ!
――完璧な作戦だぜ、騎沙良の旦那ァァァ!


――あのナレーション風な文章、解説しまくる人物(第一部)の口調を再現しようとするにもこんなに呼吸が乱れるとは。
――手元に単行本がないのは痛かったな、”にのみや”!
――「クールに去るぜ」とかなんとか書いたりしてオチがつかないまま、元の文章に戻るぜッッ!


 キロスを追い越したのは詩穂だけではなかった。

 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は【ドラゴンアーツ】で窓枠や柱も利用して駆け、
新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は【歴戦の飛翔術】で壁の出っ張りや天井照明の角などを足場にして踏み切り、前進した。

 エヴァルトと燕馬にはそれぞれ、どうしても『至高のメロンパン』を手に入れたい理由があるのだ。


 エヴァルト・マルトリッツはロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)に頼まれてこの争奪戦に参加している。

 エヴァルト本人としては……

  『一度食べたらもう普通のメロンパンは食べられないか……そりゃ困る。
  いくら値段が同じったって、毎度毎度全力疾走じゃ体が保たん。
  味わえなくとも、俺は普通のメロンパンで満足してるとするか。
  ……だが、相方の頼みとなれば話は別だ。自分以外の幸せがかかってるなら仕方ない』

 相方とはロートラウト・エッカートだ。
  『”至高のメロンパン”……ものすごくそそられる響きだよ…!
  だけどボク、こんな重量級ボディだし……とゆーわけで、エヴァルト頼んだよー!』

 機晶姫のロートラウトは争奪前に自分が参加することは不利と考えてエヴァルトに託したのだ。
  「あ、機晶姫だけど、食物からもエネルギーとれるよ。
  それにしても、なんというか……みんな大忙しだねー。さっきの授業なんて、最後あんまり聞いてなかったっぽいし。
  ……ほらほら先生、気を落とさないでよー。
  エヴァルトには妹みたいなパートナーもいるから、お昼はその子のお弁当で済ませてるけど……
  そーだなー、うまく買ってきてくれたら、お礼に半分……いや、四分の一くらいは食べさせてあげよっと」

 エヴァルトは曲がり角に差し掛かると、ブレーキを兼ねて姿勢を低くした。
 それと同時にクラウチングスタートの態勢をとって、走りだす。
 確実にインコースをとって走ることでロスも少ないはずだと考えたのだ。

  『不意打ちがあっても、潜んでいるのはきっとアウトコース側だろうしな』


 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は【歴戦の飛翔術】でレースに参加している。

 前夜のことになる。そもそも燕馬がこの争奪戦に参加することになってしまった経緯だが――
 燕馬の契約者、フィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)リューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)が、
『至高のメロンパン』を食べたい、食べたいと騒ぎ出したのだ。

  「『至高のメロンパン』が食べたいですぅ!」
 フィーアに続いてリューグナーも言った。
  「食べたいですわ!」
 燕馬がこう2人に言う。
  「やかましいぞ偽幼女共、欲しいなら自分で買って来い」

 『偽幼女』とは、フィーアとリューグナーのことである。
 2人の容姿は少女なのだが、実際の年齢はそうではないことを示すものだ。
 ちなみに、口調はリューグナーの方がフィーアよりも大人びているが、外見はリューグナーの方が幼い。
 リューグナーは幼い姿と声を強調して燕馬に言う。

  「あんな怨嗟の声に満ち満ちた阿鼻叫喚の地獄にかよわい幼女を放り込むとおっしゃるの!?」
 フィーアも幼い口調で燕馬に言う。
  「まだナラカに落ちたくはないですぅ!」
  「どこの人外魔境の話してるんだよ。……いやまぁ、昼休みの購買は確かに戦場だが」

 燕馬は”戦場な購買”に自らが赴くことを拒否していたのだが……

 リューグナーが燕馬に言った。
  「ほっほーう、わらわ達の言う事が聞けないとおっしゃいますの?」
  「不当要求には断じて応じない」
 断固拒否する燕馬にリューグナーが言う。
  「……『アレ』、バラしますわよ?」
  「ぐっ……わかった、行ってくる」
  「そ、そんなあっさり……一体どんなネタを握られてるですか?」

 リューグナーはフィーアも知らない燕馬の弱みのネタを知っているようだ。

  「……今度は俺が迷惑かける側か」

 燕馬が学園に入りたての頃に、『伝説の焼きそばパン』の販売があった。
 『伝説の焼きそばパン』の時は風紀委員の手伝いをしたが燕馬だが、今回の『至高のメロンパン』では……
 フィーアとリューグナーの分のメロンパンを確保しなければ――

  「上から行くッ!」

 燕馬は空を舞うようにしてライバルたちを追い越して行った。



 「おい待て! オレも『至高のメロンパン』を手に入れないと!」

 キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)も必死ですね。ずいぶん順位を下げてしまったわけですが……

現在の順位を報告します。早い順に並べています。
=================================
コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)
想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)
高円寺 海(こうえんじ・かい)
夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)
新風 燕馬(にいかぜ・えんま)

キロスの前の順位はこうなっている。
――
解説
――
 葛城吹雪の【情報錯乱】はかなりの効果がありましたねー。
 コード・イレブンナインは【神速】とルカルカ・ルーにかけてもらった【ゴッドスピード】。
ルカルカ・ルーも【ゴッドスピード】をかけています。
 想詠夢悠の【ファンの集い】の混乱に巻き込まれずに済んだことがこの順位になって現れていますね。
 高円寺海は盟約者の杜守 柚(ともり・ゆず)の【光術】、杜守 三月(ともり・みつき)の【闇術】を逃れました。
 【光術】と【闇術】のダブルはキツイですね、柚と三月は風紀委員に捕まることも辞さない構えでやりましたからね。
 草薙羽純の【幸せの歌】。当初の「人々に幸福感でやる気をなくさせる」目的と同時に、
夜刀神甚五郎が杜守三月の【闇術】突破するのに大貢献しましたねー。
 たまたま持っていたスキル――本人たちは使う予定がなかったんですが、杜守三月の【闇術】を突破できたことが
綾原さゆみとアデリーヌ・シャントルイユの2人には大きいですね。
 アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)さんの告白が……期待したんですけれど、鈍感劇場に終わってしまったのが……
 どうでしょうねー。キロスが立ち止まった要因、キロスが順位を下げた要因にはなってますけれど。

 背負うものができたわけですから。ここは3人分のメロンパンの重責をバネにして。

 でも……本気で3人分とりにいく意識が本人にあるのかどうかの問題になるんですよねー。
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  「意識はある! おいそのへたくそな解説なんだ! あぁ?!」

――…………

  「……誰かのマネのつもりか?」

――!

  「もう一人解説者がいると、レーサーとのお友達話を始める解説者か?」

――そうそう。ドライバーがコースアウトした時にファーストネーム呼んで絶句してたり、
――この間パーティーに誘ってもらってどうこうとか話しだしちゃう、
――杉下じゃない方の右京さん。マッチさんがくるときに右京さんがどうなるのか毎回楽しみでしてね。
――そんな楽しみもTV地上波放送がなくなって、最近ずーっと聞けてないから再現度低いわけですよ。
――では最後に。

  「ああ?」

――最後にひとつだけ質問……ではなく、警告があります。

  「なんだ?」

――この順位報告にまだ出ていない参加者がいます。

  「たゆんたゆん以外にか?」

――そうです。その方のスキルは【バーストダッシュ】です。頑張ってくださいね、キロスさん。

  「【バーストダッシュ】。飛行能力つき高速ダッシュでやってくるってことかよ!」

 中庭のベンチではコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)を待っていた。
 恋人の無事を祈り、一緒に『至高のメロンパン』を食べることを願いながら。

 美味しいもの、特に甘いものに目がない美羽は是非とも『至高のメロンパン』をゲットしたいと思っていた。
 スタート直後の混乱に巻き込まれはしたが、【バーストダッシュ】を使って購買を目指している。