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メロンパン競争曲

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第四章 動くこと雷震の如し
――故其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山、難知如陰、動如雷震。:『魏武帝註孫子』軍爭第七

 購買が廊下の先に見える。
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)の前には

コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)
想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)
高円寺 海(こうえんじ・かい)

 の姿がある。

  「誰か一人でも購買にたどり着けばいいのだ。
  儂等は行く手を阻まれること前提で作戦を展開してきたのだ!! ホリイ!!」

 甚五郎の掛け声に甚五郎の鎧が人型になった。

 魔鎧のホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)だ。

 倒れて逝ったもの(甚五郎と羽純)の願いと後から続くものの希望。
 二つの思いを背負って明日(購買)へと続く道をホリイは走った。
 甚五郎から受け取った本をバトンにして。

 甚五郎たち参加者はスタート地点からずっと走りっぱなしである。
 対してホリイは今から走る。疲労感のある参加者たちを数人追い越すのはたやすかったが、

 ある地点まで急加速したホリイは手にしていた本を構えて投げた。やり投げの要領である。自身はその地点で立ち止まった。

 その本は葛城吹雪、ルカルカ・ルー、コード・イレブンナインの頭上を越えて……地面に着く直前に人になっていた。

  「おねーちゃん! メロンパン4つ下さい!」
 購買のおばさんから『至高のメロンパン』を最初に買うことができたのはルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)だった。
  「おばちゃんって言っちゃダメって甚五郎と羽純おねーちゃんに言われてるんだよ」

 甚五郎とホリイが手にしていた本は魔導書のルルゥ・メルクリウスだったわけだ。

コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)が4つ。ついでにヤキソバパンも買って離脱した。
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が4つ購入した。
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が4つ購入し、
想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)は2つだけ購入した。

  「美味しーい! またメロンパンを食べに来るからね! その時はよろしくねー!」
 夢悠はメロンパンを一口食べると、応援してついてきてくれたファン達に可愛くアピールした。

――現在、『至高のメロンパン』は残り32個。

高円寺 海(こうえんじ・かい)も4つ購入した。
  「ルカルカ達が買えたことだし、1つ余るんだが……柚と三月に渡すかな」

 海の次に購買にやってきたのは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だった。
 壁を行く作戦が功を奏したのだろう。
 【奈落の鉄鎖】などの重力コントロールでのトラップをしかける参加者がいなかったことも
壁・天井を選んだ参加者には大きい。

騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は予定通り4つ買った。

「至高のメロンパンなるものを一個お願いします」
詩穂の次にやってきたのはエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だ。
エヴァルトはロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)に頼まれた1つだけを買って行った。

――現在、『至高のメロンパン』は残り23個。

 キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)の前には


新風 燕馬(にいかぜ・えんま)
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)


 の3人の姿が見えていた。
 典型的な文化系で体力のないアデリーヌは恋人のさゆみから離れまいと必死であったが、
必死であるのはキロスも同じであった。

 まず、『至高のメロンパン』は一日限定50個だけなのだ。
 走るキロスには今までに購買にたどり着いた人数や現在のメロンパン在庫数はわからない。

 一人を追い抜かすかひとりに追い抜かされるかで大きく運命が変わることはありえるのだ。
 容赦はしていられない。
 前にいるアデリーヌには申し訳ないが、キロスはアデリーヌを追い抜かしにかかった。


 その時だった。キロスは大きく前へ倒れた。

 床に倒れたキロスが顔を上げた。キロスの視界には翻る短いスカートが見えた。

  「俺を踏み台にしたぁ!?」

 キロスの背中を踏み台にして【バーストダッシュ】で飛び出した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)
『至高のメロンパン』を3つ購入した。


――現在、『至高のメロンパン』、残り20個。

 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は購買にたどり着くと、駆け込んできた勢いのまま腹から声を出した。
  「お姉さん、至高のメロンパン3個と蒼空きなこパン1個ォ!」

 次にやってきた綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)も4つ購入することができた。

 さゆみの後にやってきたのはアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)だ。
 軽いノリで楽しんできたさゆみと違って、アデリーヌは――鬼の形相で購買にやってきた。
 体力がないアデリーヌにとって、今回もまた『伝説の焼きそばパン』の時のような荒行だったようだ。


 鬼の形相のまま、購買のおばさんにアデリーヌは言った。
  「メロンパン4つとコーヒー牛乳を私にお売りなさい!」

――『至高のメロンパン』、残り9個。

 次にやってきたのはキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)だ。

 『至高のメロンパン』を4つ買うことができたキロスに声を掛けたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。

  「おまえ、さっきのスカートか!」
  「これ、お詫びに」

 美羽が差し出したのは『至高のメロンパン』1つだった。

  「さっきのは……ちょっとひどいと思うぞ?」
 エアーソフト刀がキロスの背中をつつく。
  「あら? 前に武器で高円寺海くんを倒そうとしてまでメロンパンを欲しがったのは誰でしたっけ?」
 エアーソフト刀の持ち主は加能 シズル(かのう・しずる)だ。
  「4つしか買えないところが5つになるのよ?
   それに『至高のメロンパン』争奪戦が戦場になるのはお約束よね?」

 キロスは『至高のメロンパン』を5つ手に入れた。