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リアクション
「ルゥ、雅羅、売り子させてごめん! あさにゃんさんも! よろしく頼むよ!」
急ぎ早に駆け回る紅月。次は料理場へ。
「お気にせずー。……現在私、ルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)は祭りを回っていた最中に紅月氏の誘いでここ【アンティークショップ・ヴァージニティー】で売り子をやっているわ」
「い、いきなりどうしたの?」
「何でもないわ。多分雅羅の体質が私にも移ったのかもね」
「移るものじゃないでしょう?」
これまた急に語りだしたルゥに対してツッコムは雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)。
ルゥの言う通り、二人は忙殺されそうになっていた紅月を見かねて売り子を買って出ていた。
そして何故かメイド服を着ていた。
「どうして売り子でメイド服を着ることになるのかしら。謎だわ」
「あら、かわいいと思うけど」
「そうなんだけど、ね。それにこの衣装が着れるなら映画撮影のオーディションに参加してもよかったんじゃない?」
「あれは、ちょっと過激すぎるじゃない?」
「雅羅なら着こなせる。私が保証するわよ」
「保証されたって着ないわよ? はい、CDですね。……確かに、音楽祭楽しんでいってくださいね」
軽快な会話の応酬をしながらも売り子としての責務は忘れない。
「にゃー!」
その横でにゃーとしか言わないのにものすごく売り上げに貢献するすーぱートレーダーちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)。
猫の声しか発することができないのに、身振り手振りで売り子としてばりばり活躍していた。
「ほら、あの子に負けないようにしないと」
「いっそのことみんなでにゃーと言うようにしてみる?」
「にゃにゃ!? にゃ! にゃー!」
「それはいいアイディア? でもお客さんに何言ってるかわからなくなってしまうんじゃ」
「にゃにゃ! にゃーにゃー!」
「ジャスチャーがあれば問題ない? なるほど一理あるわね」
あさにゃんと滞りなく会話する雅羅。
「……雅羅、その子の言ってることがわかるの? そんなに正確に?」
「え、わからない?」
「にゃー?」
「いえ、大体はわかるのだけどそこまで正確にはちょっと……」
「そうかしら。普通にわかると思うのだけど……ねぇ?」
「にゃ〜……にゃ? にゃ、にゃ!」
会話をした後にすぐに売り子に戻るあさにゃん。商売人の鑑である。
「あらあら、私もはりきらないとね。ふーんふーん♪」
上機嫌な雅羅の横顔を見たルゥ。その口から思わず漏れてしまった言葉と感情。
「ねえ、雅羅…貴女にとって私は何?」
喧騒と鼻歌で聞こえないかもしれない、でも聞こえるかもしれない儚げな勇気と共に搾り出された声。
「私にとっての、ルゥ?」
その声は確かに雅羅の耳に届いていた。
「え、あ、いえそのね?」
聞かれてしまったというはっきりとした結果はルゥの恥ずかし魂を燃やしつくし、否定的な言葉が返ってきたらと不安にもさせた。
そしてようやく返した言葉は、
「べ、別に貴女が特別好きだとかじゃないんだからね!?」
彼女らしい何時ものクセだった。
言われた雅羅、言ってしまったルゥの周りは静寂に包まれる。
が、それを壊したのは雅羅の一言だった。
「……そうね。ルゥは、私にとってよき友人よ」
「ゆ、友人?」
「ええ。何度も私を助けてくれた。そんなあなたを友人として呼ばずなんと呼べばいいのかしら」
雅羅の飾らない言葉にルゥの胸にあったわだかまりが少しだけ晴れる。
「そう、私はあなたの友人ね」
「ええ」
「にゃー! にゃー!」
混雑してきたことを察知したあさにゃんが二人に救援要請を出す。
「わかったわ。さあ、全力で売り切っちゃいましょう!」
「……そうね。今なら何でも売れる気分だわ」
そう言って三人は協力して売り子としてばしばし活躍する。
時折流れてくる音楽に三人で鼻歌を歌い、合わせながら。