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―アリスインゲート2―

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―アリスインゲート2―

リアクション

「お目通りを許していただきありがとうございます」
 恭しく謝辞を述べ、天貴 彩羽(あまむち・あやは)は目の前の若い王子様に頭を下げた。
 頭を下げられた彼は少々慌てて、
「気にしないでください。僕には話を聞くだけのことしかできませんから」
 そう先に断りを入れる。
 彩羽はパラミタ十字教団のアリスティアを経由し彼バルドル・ディン・ノースとの面会に至ったわけだが、その目的は【第三世界】の崩壊、その対処研究の協力体形を模索できないかと話を取り付けにきた事だ。
 ほとんどの国が『キンヌガガプ』の海に消えた【第三世界】に置いて最大国土を有する【ノース】としても世界の崩壊は見過ごせない事態だ。緩やかな崩壊とは言え、国土領海の縮小幅が最も大きいのはこの国なのだから。
「まずは、私たち異邦人……いえ異世界人からのこの世界に対する見解を聞いてもらえるかしら」
 はじめに話すのは、彩羽の知るこの世界の創世の成り立ちについてだ。
 本来この世界は、パラミタにて四賢者の行った『大いなる者』の封印に際して生じた世界の一つに過ぎず、文明も歴史も突如として生じたものでしかない。世界崩壊の際、その前のミネルヴァ防衛軍とドールズの戦いに置いて世界の依り代たる機晶姫ハルと『大いなる者』が破壊、消滅した事によりこの世界もまた消滅するはずだったこと。創造主を欠いた世界が残っているのは、【第三世界】の住人の意志が世界を存続させているのではないかという見解を。そして、彩羽たちが来るパラミタ及び地球がどのようなところで自分たち契約者がどのような存在かを説いた。
 PSが彼女の言うおかしな話に首を傾げるなか、バルドルは静かに頷くだけだった。
「なるほど、あなたの話では僕らとこの世界は“不確定な存在”なのですね」
「そうね。実体的には存在するのはわかるのだけど。それは問題じゃない。問題なのはこの世界が今なお消滅の危機にあるってこと」
 それは【第三世界】だけの問題ではなく、【第三世界】が不完全ながらも残っていた事を知ったパラミタにおいても重大な問題でもある。
「この世界の技術力は私たちの世界よりも先進している。物流は一方通行でも情報は相互流通が可能。この世界の技術を私たちの世界は非常に欲している。そして技術を内包するあなた達を。異世界同士でもこの世界の消滅は問題よ。あなた達に取っては生存の危機であり、私たちにとっては経済的の損失の危機。どうにかしてあなた達の生存を図りたいの」
「しかし、今この現状に対処する方法は有りますか?」
「可能性はいくつかこっちでも模索しているところだけど、具体的にできるかは難しいわ。あなた達の協力も必要。話は通せそう?」
 一呼吸置いてバルドルが答える。
「王や議会に話を通すのは難しいでしょう。あなた方が異邦人というのもありますが、一番は彼らがあなた達の行動にあまりいい心象をいだいていません。理由はお分かりですよね?」
 契約者たちはこの世界に来て協力的に手を貸しているのは【ノース】ではなく【グリーク】の軍にだ。そして国境の街に現れた折には【ノース】にある兵器会社ESCに多大な損失を与えている。損失の補填は国が援助していることからも、上層階級からの心象はいいものではないと予想ができる。
 この国の上と交渉するには何らかの貸しを作る必要がある。
 彩羽にコールがかかる。
「少し、失礼していい?」
「どうぞ」
 王子の許可をもらいその場で通信に応じた。通信をしてきたのは佐野和輝だ。
「なに? いま【ノース】のVIPとお話中なんだけど」
<協力を取り付ける交渉中か。丁度良かった。そいつらに貸しをつける情報を一つ教えるからうまく話をつけろよ>
 そうして和輝から幸運のお守り(ラビットフット)の話しを聞く。
 通信を切り、開口一番に貸しとなる情報を提示する。
「たった今いい情報が入ったわ。【グリーク】の軍研究者に脱走者がでてるって。【ノース】(こっち)に亡命してくるかもよ」
 王子の眉が上がる。だが、もっとも血相を掛けたのはSPだ。
 バルドルはSPに「直ぐに連絡を」と短く言いつけると、SPは席を外して部屋の外へとでた。
 彩羽は後は向こうの反応を待つだけだった。もっとも、協力関係が結べるかどうかは別にして、この貸しによって【ノース】とのパイプは太くなったことは確実だった。