校長室
平行世界からの贈り物
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通り雨の事で一応の後ろめたさを抱くシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)はお詫びとばかりに土産の紅茶をエリザベートに渡した。隣のリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)もお詫びと招待の礼を述べた。 エリザベートは全く気にしてはおらず、土産に嬉しそうにしていた。 その後、シリウスとリーブラは適当な席に着き、流れる映像に目を向けた。 ■■■ 地球、東京。 「承認、これも承認……はぁ、まだあるな。どれだけあるんだ。というか、なんでオレこんなこと引き受けちゃったんだろ」 守護天使シリウス・ツァンダは女王候補から東京都知事に転身し忙しい毎日を送っていた。現実のミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)とは違い、使命感もなく流されただけのためかなりウンザリ気味。 「……この後は午後から大学講演か」 判子を押す手を止め、深い溜息を吐くシリウス。 「ミルザムのヤツ、今頃何してるんだろうな。また、あちこち自由に旅してるんだろうなぁ」 シリウスは唯一の拠り所、たまに遊びに誘ってくれる友人達の事を思い出していた。 そんな時、携帯電話が鳴り響いた。 「噂をすれば何とやら……オレだ。ピクニックか」 相手を確認した後、シリウスは急いでリーブラの通話に出て遊びの誘いに喜んだ。 「あぁ、何とか休みを取るから大丈夫だ。で、そっちはどうなんだ?」 リーブラと代わりミルザムが電話に出たので休みを取れる事を伝え、近況を聞いた。 「そうか。会った時に土産話を頼むぜ。こっちはウンザリな毎日だぜ。もう判子押しの達人さ」 近況を聞いたシリウスは訊ねられた自分の近況をウンザリ気味に答えた。 この後、ピクニックの打ち合わせをした後、 「それじゃ、またな」 ミルザムと別れの挨拶を交わしてから切った。 「……来月、か。まぁ、それを楽しみに頑張るとするか」 軽く伸びをしてからシリウスは再び書類の確認を始めた。 同時刻、ヴァイシャリー。 「久しぶりの帰還ですわね、ミルザム」 「そうですね。早く百合園のみんなの顔が見たいですね」 リーブラとパートナーの地球人のミルザム・バイナリスタは懐かしそうに通りを眺めた。二人は、長い冒険からよやく戻って来たのだ。現実と違いミルザムは百合園の踊り子として冒険者として人生を満喫し、リーブラは現実とそれほど変わらない日々を送っている。 「久しぶりにシリウスさんとピクニックがしたいですね。前に会ってから随分経ちますし」 ミルザムはふと知事で忙しい友人を思い出した。 「いいですわね。今回の冒険の途中で手に入れた素敵な紅茶を御馳走したいですわ。早速、連絡してみますわね」 ミルザムの提案にリーブラも賛成し、連絡を入れるとすぐに繋がった。 「もしもし、リーブラですわ。突然の事で申し訳ありませんが来月……お暇、ありますか? またミルザムがピクニックにお誘いしたいと…今、変わりますね」 リーブラは連絡理由を伝えてからミルザムと交代した。 「代わりました、ミルザムです。ピクニックの事なんですが……」 交代するなりミルザムが電話に出るとシリウスは休みを取ると約束し、近況を訊ねた。 「相変わらずです。そちらはどうですか?」 ミルザムはさらりと答え、シリウスに近況を訊ねると知事の仕事にウンザリしている様子であった。 この後、ピクニックについて細かい打ち合わせをした後、 「それでは来月楽しみにしています」 ミルザムはシリウスと別れの言葉を互いに交わしてから電話を切った。 「来月が楽しみですわね」 「そうですね」 リーブラとミルザムは来月を楽しみにしながら母校に戻った。 ■■■ 鑑賞後。 「なっ、なにしてくれてんだよミルザム! リーブラは渡さねーぞ! オレのもんだ! オレだけのもんだからな!!」 シリウスは、映像にのめり込み過ぎて暴れ出していた。何せ映像では独りだったので。 「シリウス、恥ずかしいですから落ち着いて下さいな。もう、映像は終わりましたわよ」 隣に座るリーブラはシリウスを落ち着かせようと必死だった。 「……平行世界の私ですか。どのようなものでしょうか」 招待されたアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)は席に座り、流れる映像に目を向けた。 ■■■ その王国はパラミタのどこかにあった。 多くの女性が幸せに満ちた顔でたった一人の男性の名前を愛おしそうに呼ぶ場所。 「キロス様、本日はわたくしの誕生日を祝って下さると」 「キロスさん、結婚記念日の贈り物を持って来たよ」 「昨日はありがとう、キロスちゃん」 様々な女性が好意を示すのは伴侶であるキロスただ一人。 ここはキロスが気に入った女性と重婚しまくっている一夫多妻のキロス王国なのだ。 「みんないつもありがとうな」 キロスは笑みを湛え、多くの女性に平等な愛を捧げている。中身などは現実と同じなのに発するモテフェロモンの威力だけが違っていた。 その王国の中でまだ結婚をしていないのは 「……キロスさん」 女騎士アルテミスだった。その青色の瞳の先には女性に囲まれ笑顔と愛を振りまくキロスがいた。 「あんなキロスさんを見ていると胸が苦しくなって……」 胸に手を当て苦しそうにするアルテミス。 そして、この後に続く言葉は 「これはあのハーレムが原因です!! キロスさんを倒せばきっと治るはず」 勘違い爆発。現実とは違い未だに恋心を自覚していないのだ。 そして、 「キロスさん、あなたの誘惑により自由を奪われた女性を解放するために倒しに来ました!!」 アルテミスはキロスに斬りかかりながら登場。 「おいおい。相変わらず恋心自覚とは無縁の鈍感さだな。まぁ、そこを含めて可愛いけどな」 キロスは軽やかに攻撃を避けてアルテミスの好意などお見通しな笑みを湛える。モテ男故、自分に向けられる好意には鋭い。 「なっ、何を言うんですか。私にその甘言は通じませんから!!」 言葉とは裏腹にアルテミスの顔は赤らみ攻撃の手が止まる。無自覚でも好きな人に可愛いと言われたら嬉しいものだ。 その隙に 「悪いが、続きはまた後でな」 キロスはさっさと退避してしまった。 「逃げるとは卑怯ですよ……ん」 追いかけようとした時、撮影者に気付き、アルテミスは 「何としてでもキロスさんのハーレム計画を阻止して世界を救って下さい」 カメラ目線でメッセージを残した。 ■■■ 鑑賞中。 「なんですか。この映像はっ! 完全に嫉妬じゃないですかっ!!」 映像が流れるなりアルテミスは剣片手にキロスを追い回す自分にツッコミを入れていた。何せ、恋する乙女がハーレム状態のキロスに嫉妬しているとしか見えないから。 鑑賞後。 少し冷静さを取り戻し 「……もしかしてちょっと前の私も、あんなだったんでしょうか」 キロスへの想いを自覚する前の自分を思い出し、顔を赤くして頭を抱えて悶えていた。自覚した今はキロスに会うとテンパって斬りかかるというというのにこれでは斬りかかる以前に顔を合わす事が出来そうになさそうだ。