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リアクション
1.
遺跡からはかなり離れた位置に、一台の装輪装甲通信車が停車している。
「調査隊員について身元を洗った結果、数名の斥候――スパイが潜入していたと推測できるであります」
マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)は、報告書を裏椿 理王(うらつばき・りおう)に渡した。
隊員の詳細なプロフィールなどをまとめた資料には、粗雑な偽装の跡がいくつか見受けられる。
「なるほど。テロリスト共の早すぎる動きの一因か……十分だ。助かるぜ、大尉」
「いえ。あまりお役に立てなくて不甲斐ないであります」
「この短時間でこれだけ調べてくれれば十分だ。情報はそれだけで武器になる」
「恐縮であります。おそらくテロリストに大規模な組織の後ろ盾はないでしょう。素人の仕事であります」
「ま、かといって油断しちゃあまずいけどな。――と、解析は進んでるか?」
理王は桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)にも資料を回し、情報の分析と伝達を進める。
「うん。本格的な内部の地図に関しては、流石に潜入組の報告待ちだけど。それとテロリストたちに外部と通信してる様子はないみたいだね」
屍鬼乃は複数の端末を操作しながら応える。
作業としては恐ろしいほどの量だが、その指先には一切の迷いがない。
「情報と合わせて各員へ伝達してくれ。遺跡内へ潜入後は、パスワードと主犯格の発見を優先だ。陽動も開始させる」
「了解だよ。『鳥より獣へ。鍵と王を掘り出せ。旗は時計に従う――』」
陽動組、潜入組、制圧組――その全てに対して、符牒と機械式の暗号を絡めた形式で通信を行う屍鬼乃。
「それで、大尉はこれからどうするつもりだい?」
その姿を横目に、理王はマリーへと振り返り、問いかける。
「団長の護衛に向かうであります。かのお方を表舞台に立たせる訳にはいきませんので」
「テロリストに譲歩は禁物、とはいえな。あの人が出ると強硬姿勢に非道なイメージが付き過ぎちまう」
「……今の発言は聞かなかったことにするであります。入った情報は逐一報告させていただきますので、情報管理をお願いするであります」
「言われるまでもないさ。団長によろしくな」
敬礼を交わし、理王は通信機を手に、マリーは団長の元へと向かう。
それ以上の会話は必要なく、それぞれがそれぞれのやるべき事を理解して行動する。
自らの役割を果たすために。
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エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)とアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)は通信を確認し、銃を構えた。
「『旗一号了解』……と。中尉は向こうから陽動に参加してくれる。数はバラけるだろうが、しっかり引きつけろよ」
「分かってるって、仕事はするさ――でも綺麗なオネーチャン見かけたらナンパしちゃっていいよな?」
「……後にしてくれ。作戦が成功したら潜入組にデートでも申し込めばどうだい」
「ナイスアイデアだぜエルヴァ。結構美人さんが多かったしな……」
軽口を叩きながらも遺跡内部の様子を伺う。
侵入を防ぐ役割だろう、テロリスト達の一部は入口付近に集結しているようだった。
派手に戦闘を行えば、その注意を陽動部隊に向けることは難しくない。
「問題ないな。以降は作戦通りだ、アルフ。悪い癖はほどほどにしておけよ」
エールヴァントは相棒を諌めつつ、予定された陽動作戦開始の時刻を確認した。
「へいへい――野郎ども、俺たちの役割は潜入部隊のサポートだ! 殲滅する必要はない、派手に暴れてやれ! ……あ、美人は出来るだけ怪我させんなよ?」
アルフの呟きに笑みを返しつつも、真剣な表情に切り替わった兵士たちは武器を手に陣を組む。
プロフェッショナルである彼らが鬨の声を上げるようなことはないが、その士気は十二分に高まっていた。
陽動を効果的に行うためには、それぞれの部隊が一斉に行動する必要がある。
その場にいる誰もが、エールヴァントの一声で戦闘を開始する覚悟を決めていた。
時計の針が重なる。
「――行くぞ」
静かな開戦の宣言と共に、兵士たちは撃鉄を起こす。激しい銃声によって、作戦は開始された。
「――無理はするな! 足止めを優先して戦闘を継続するんだ!」
クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)の激が飛ぶ。
陽動部隊は初撃の交戦からじわじわと後退している。
傍目に見ればテロリスト達が押している形だが、それこそがクローラの戦術であった。
後退する兵士たちを追い立てるように攻めるテロリスト達は、少しずつ足を止めた撃ち合いに持ち込まれながら、遺跡から離れた場所へと誘導されてしまう。
「戦線を維持しろ! 深追いは厳禁だが、逃げる余裕は与えるなよ!」
市街戦へと移る。周囲の住民には事前に避難してもらっていた。
ここまでは計算通り。潜入部隊は遺跡内への突入を開始したようだ。
「このまましばらく膠着状態を続けるぞ」
戦闘の指揮を行いつつ、建物の影に隠した機晶戦車を確認する。
後は制圧班の連絡を待ち、一気に攻勢に転じるまでだ。
テロリスト達の数は多いが、対戦車戦を想定した武装を保持している様子はない。
「――制圧班、予定位置につきました!」
「よし、戦車砲撃開始! 外壁に大穴を開けてやれ!」
轟音が響き渡る。
セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)はクローラの周囲を警戒しつつ、制圧に参加していた。
遺跡内部に残るテロリストへ対応出来れば望ましかったが、契約者の防衛より優先するという訳にはいかない。
「各個撃破させてもらうよ――っと!」
セリオスが腕を振り、かまいたちと炎の壁が哨戒役のテロリスト達を分断する。
「シャンバラの犬どもが――!」
戦闘の混乱に乗じたのか、突如現れたテロリストがクローラに銃を向ける。
「させるか――!」
アブソリュート・ゼロ。絶対零度の氷壁が、銃弾を防ぐ盾となる。
「指揮官なんだから油断するなよ、クロ」
「その呼び方はやめろ……助かった。制圧を続けよう」
テロリスト達の中には投稿する者も現れ、陽動作戦としては十分な戦果が上がり始めている。
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