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リアクション
4.
――時は少し遡る。
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)と共に、遺跡内部を歩き回っていた。
目的は『夢を見る匣』――ではなく、金銀財宝の類である。
「うーむ、どうもいい感じのお宝が見つからないであります」
「何やら兵器の遺された場所であるらしいからな。当時は研究所としての役割でも持っていたのであろう」
「それでももう少しくらい金目のモノが見つかってもいいでありますよ――おや?」
テロリストとの遭遇を避けて歩き回った結果、居住区付近に到達していた吹雪たちの前に謎の少女の姿が現れる。
『……サ……い……』
のけぞるようにして二人は少女から距離を取る。
「も、もしやアレが例の幽霊少女というやつでありますか」
「恐らくは間違いないであろう。どうする、吹雪。道を塞がれてしまったであろう」
行き止まりの部屋を探索した帰り道である。
迂回路は見当たらなかったし、下手にちょっかいをかけると話に聞いた調査員と同様に昏睡させられかねない。
「どうするのだ。しばらく隠れてやりすごすか」
「……そうでありますね。『坑道のカナリア』という話を知っているでありますか?」
「唐突に何であるか。人間に影響が出る前に毒ガスを感知するために坑道に持ち込まれる小鳥のことであろう」
「蛸。お前にカナリア役を任命するであります」
「……なんだと?」
「とやー」
吹雪はイングラハムの問いに答えることなく、その足を掴んで少女に向けて投げ飛ばす。
「な、何ィー!? 吹雪、我をなんだと思ってるのかーッ!」
「捨て駒」
宙を舞うイングラハムは放物線を描き、少女に衝突――することなく、その姿をすり抜けるように地面に転がる。
少女の姿は掻き消えていた。
倒れたイングラハムは意識を失っているが――それが少女の影響によるものか単に頭を打ったのか定かではない。
「蛸がやられたか……仕方ない、ここは他の人に押し付けて自分は早々に撤退するであります」
杠 桐悟(ゆずりは・とうご)たちは、『夢を見る匣』解除の手がかりを求め遺跡内を探索していた。
襲いかかってきた哨戒役のテロリストを気絶させ、動けないように拘束して一息つく。
「狂騒に駆られた者たちに『爆弾』など、某に刃物と言うにも性質の悪い話だ」
「ええ、これでは子供の駄々と変わりません。急いで取り上げてしまうべきですね」
朝霞 奏(あさか・かなで)は周囲を警戒しつつ、桐悟の言葉に同意した。
「――爆弾、か。それにしては奇妙な空気だが」
二人の会話にジャンヌ・ダルク(じゃんぬ・だるく)は疑問を口にする。
「どうした。何かに気付いたか?」
「いえ、具体的に何かという訳ではありませんが。どうもこの遺跡は、戦場よりも祭壇に近い空気があります」
「祭壇?」
「どこがと問われると困るのですが。爆弾、兵器を扱う場にしては妙に儀式的すぎるかと」
「ふむ。あながち的外れな感想では無いかもしれんのう」
伊達 晶(だて・あきら)が同意するように周囲を見回して応えた。
「ここの構造は過去、軍事拠点として利用されていたであろうものとは一線を画しておる。研究所であったと考えればそのあたりの差なのかもしれんが、細かい部分にオカルトちっくな装飾の跡があるでな」
「オカルト、か。確かに妙な話だ――」
『……お……ン……』
遺跡についての考察を深めようとするさなか、少女の声が桐悟たちの耳をかすめる。
なんの前触れもなく。ただこちらを向いて立ち尽くしている。
「……どうした? 何かを探しているのか?」
桐悟は武器を収め、できる限り優しく少女に声をかける。
三人は少女の反応を見ながら、柔かに、友好的な対応を心がける。
『……な……い……』
しかし少女の反応は希薄だった。
こちらに顔を向け――ただ、まるでピントが合っていない視線。
言葉が通じているのかいないのか。少女は踵を返すように、遺跡の奥へ消えていく。
「……どうしますか?」
「後を追おう。どこかに導こうとしているのかもしれない」
四人は少女の、ふわふわと距離感のおかしくなりそうな歩みを見失わぬように駆け出す。
たどり着いた先で、少女の姿は消えていた。
行き止まりには部屋が一つ。
「部屋のプレート……消えかかっているがこれは、研究室、か?」
「中は書類でいっぱいじゃのう。探すにも骨が折れそうじゃ」
「有用な情報が見つかるかもしれません。他の方たちにも連絡しましょう――」
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