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リアクション
「山が一大事と聞いて来てみれば面白い事になっているわね。今日はあたしの誘いを受けてくれてありがとうね」
クリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)はぴったりと自分にくっついてる神月 摩耶(こうづき・まや)に振り返り改めて誘いを受けてくれた礼を言った。参加理由は言葉通り面白そうだからというもの。
「うん。えっと、ボク達は黒亜ちゃんを捕まえるために、薬のせいで起きてるっぽい異変の痕を辿って行くんだよね」
摩耶は本日の仕事の内容を確認する。
「えぇ、というか大丈夫? 怖いなら引き返すけど」
クリームヒルトはぴったり自分の隣に付いている摩耶を気遣った。暗闇の山に怯えていると完全に勘違いし怖がる摩耶を守るためなら参加をやめてもいいと。
「大丈夫、怖いわけじゃないよ。はぐれちゃいけないから……(それに……クリムちゃんの体温が感じられないと……不安になるし……)」
摩耶は満面の笑みで平気だと主張するが胸の奥では本当の理由をつぶやいていた。
「それもそうね。でも人捜しとなるとやっぱり二人だと心許ないわね」
クリームヒルトは納得しつつもたった二人である事に頼りなさを感じ表情を変えた。実は自分達の従者も連れて参加する予定だったのだが、摩耶の熱烈な説得で二人っきりでの参加となったのだ。変わらず摩耶の恋心に鈍感である。
「……それは、大丈夫だよ……ほら(二人っきりになりたくて……無理に頼んだのに……クリムちゃんにがっかりされちゃ……ってどうしてボクそんな事思うんだろう)」
摩耶はクリームヒルトの表情に反応し、二人でも大丈夫な理由を探し回り木に付着した蛍光塗料を発見し安堵するのだった。どうして自分がクリームヒルトの反応に敏感になるのかこうも必死なのか分かっていない。クリームヒルトに無自覚な恋心を抱いているとは。
「ん? 目印ね。と言う事はここは安全で捜索済みって事かしら」
クリームヒルトは蛍光塗料に目を向けた。
「そうだよ。他の人もいるし、二人でも大丈夫だよ」
摩耶は力強く肯定する。どうして自分がこれほどクリームヒルトと二人っきりを望むのか分かっていない。ただ、二人っきりの時間が欲しかったのだろうと思うだけ。
「そうね。それじゃ、さっさと終わらせて今度は二人っきりでのんびり温泉に浸かっていきましょうか♪」
何も知らぬクリームヒルトはあっさり納得し、摩耶に笑んだ。以前宿を訪問した時は手伝いだったので今回は客として楽しもうという事らしい。
「そうだね♪」
摩耶は自分が気付かない程声が弾んでいた。
そして、二人は本格的に黒亜捜索に励むのだった。
黒亜捜索開始後。
「……こんなに捜しているのになかなか見つからないね」
「そうね。見つかったという知らせも入らないし」
摩耶とクリームヒルトは未だ見つからぬ黒亜について歩きながら話していた。
このまま平和に済むかと思いきや
「摩耶!!」
クリームヒルトの声が上がる。
「な、何これ!? 黒亜ちゃんの魔法薬の影響?」
地面から蔦のような物が伸び、摩耶の太股に絡み始めた。
摩耶が蔦を攻撃するよりも早く
「すぐに助けるわ」
クリームヒルトが『ライトニングランス』で素速く斬りつけて蔦を片付けた。
しかし、斬ったそばから次々と新たな蔦が伸び摩耶を襲う。
「……斬っても止まらないという事はどこかに本体があるはずよね。すぐに見付けて……」
状況を分析しつつ摩耶に絡む妖怪化した植物の蔦を手を休めずに片付けるクリームヒルト。摩耶を守る事に必死だ。
「クリムちゃん!」
摩耶はクリームヒルトに襲い始めた蔦に気付き、『ダブルインペイル』で切り裂いた。
「ここはボクが何とかするからクリムちゃんは逃げて」
クリームヒルトをひとまず自由にした所で摩耶は逃げるように言う。自分はともかくクリームヒルトが酷い目に遭うのは嫌だから。
「何言ってるのよ。摩耶を放って行く事出来るわけないでしょ」
摩耶を放っておけないクリームヒルトは逃げるような事はしない。
そうやって互いを庇い合っていた時、
「!!」
地面から大量の蔦が一斉に姿を現し二人を絡め取り更に密着状態となった。
そして、伸びた蔦は二人の鎧や服の隙間に侵入し身体を這い回り、蔦に生える繊毛が刺激を与える。
「結局、こんなことに……そしてこの後の展開は……あぁぁん、やっぱりぃっ♪」
クリームヒルト動きを封じられたというのに動じず、うごめき包む蔦に身を委ね、走る刺激に悶えるばかり。
「ク、クリムちゃん……あぁ、か、身体に……」
耳元に当たるクリームヒルトの吐息と這い回る蔦に刺激され、艶声を上げるばかり。
もう二人は抜ける術も精神もすっかり絡み取られて逃げ出す事が出来ぬまま何やかんやとこの状況を楽しむのだった。
この展開の変化はしばらくして訪れた。
「……あれは……」
解除に動くローズが前方遠く絡み取られた摩耶とクリームヒルトを発見した。遠いため慎重に足音を消して味方かどうか確認するために接近。ヴァンビーノもスケッチブックに筆を走らせながら続く。
視認出来る所まで接近すると
「……人が捕まってるみたいだね。何とかしないと」
ローズは自分の安全のため蔦に絡み取られた二人の無事を遠目から確認。
そのローズの隣から
「何だこの蔦は」
ヴァンビーノが地面から伸びた蔦が静かに襲って来るのに気付くなり飛び出す筆でスケッチブックに盾を描き、身を守りながら退いた。
そして、
「ここはロゼに任せるぜ。戦いは得意だろ」
安全地帯まで移動し、まだ現場に残っているローズに言った。
「もう、ヴァンは」
ヴァンビーノに呆れながらもローズは襲う蔦をキラークイーンのグリップで素速く叩き落としつつ解除薬をばらまいた。傷付けないのは相手も被害者であるためと喧嘩しに来た訳ではないからだ。
途端、襲っていた蔦は大人しく地面に横たわった。
「この植物の本体は地中のはず。だとしたら……」
『薬学』を有するローズは蔦の出現場所から本体の位置を予想し自分達を襲った植物が潜むポイントに解除薬を散布した。
「……蔦が大人しく地面に引っ込んでいく」
ヴァンビーノは大人しく見守りつつスケッチブックに状況をかき込んでいた。
「あとは……」
ローズは先の被害者達を救うために向かった。
一方助けを待つ二人。
「はぁー、はぁー、ふぅ〜こういう展開も良いわねぇ♪」
「で、でも人がいる前は恥ずかしいよぉ」
至極満足なクリームヒルトと恥ずかしさに顔を赤くする摩耶。それでも楽しんでいる事には変わりなかったり。
そこに
「すぐに助けるから」
ローズは二人の元に近付くなり手早く蔦と地面に解除薬を散布した。
薬を浴びた蔦は横たわり、次第に地面に引っ込み被害者を自由にした。
「助かったわ」
「ありがとう」
クリームヒルトと摩耶はそれぞれローズに礼を言った。
「どういたしまして」
二人の無事な様子に安堵するローズ。
「ここは描き終えた。別の道、行くぞ」
避難したままのヴァンビーノは自分の用事が終えるなりさっさかと歩き出した。
「……ヴァン、勝手に行かないで」
ローズは我が儘なヴァンビーノを急いで追いかけた。時々、他の捜索者から連絡を受け解除薬を散布して回った。
摩耶とクリームヒルトもまた捜索を再開した。
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