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調薬探求会との取引

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調薬探求会との取引

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「全くやめる気はなさそうだな。リーブラ!」
 美羽と別れてしばらくしてシリウスは離れた所で何やら作業をする黒亜を発見し、先駆けとして『心頭滅却』によって魔法薬対策済みのリーブラを向かわせる事にした。
「えぇ、任せて下さいませ」
 リーブラは『軽身功』で木などを伝い黒亜を目指す。
「……これは別の場所で……試してみよう」
 黒亜は取り出した魔法薬を中止し、別の場所への移動を開始しようとする。リーブラの接近には全く気付いていない。
 黒亜が移動するよりも
「逃がしませんわ!!」
 リーブラの方が一足早く、黒亜に回り込み手加減をした『投げの極意』で投げ飛ばし、逃亡を封じた。
「……」
 黒亜はむくりと起き上がり、座り込んだままリーブラを見上げた。
「……自然に感謝しなさいな。ここが街の道路や建物の中なら、硬い地面で骨を傷めているところですよ?」
 リーブラは表情、声と共に厳しい調子で黒亜に言い放った。
「おい、魔法薬は残っているか」
「……」
 シリウスに投げかけられた質問には当然沈黙を守る黒亜。
「って、素直に答える訳はねぇよな。リーブラ、頼む」
 予想通りの反応にシリウスは慌てずに再びリーブラと交代する。
「……少々、失礼します」
 リーブラはそう言うなり黒亜から目に付く魔法薬を速やかに回収した。
「……実験が遅れる……」
 黒亜は淡々とした調子で魔法薬を確認するシリウスに不満を口にする。
「その心配はねぇよ。というか、どれがどれかわかんねぇな。まぁどれでも一緒か」
 シリウスは魔法薬を確認するのをやめ、薬を抱えて黒亜の前に立つ。
「……?」
 何をされるのか見当が付かぬ黒亜はぼんやりするばかり。
「お前が本物の研究者なら先人に倣ってまず自分の身を犠牲にしたらどうだ。これきし安い実験の代償だろ?」
 そう言うなりシリウスは全ての魔法薬を黒亜にぶちまけた。
「……」
 黒亜は薬を被った自分の身を確認する。
「覚悟とはこの事でしたのね」
 リーブラはようやくシリウスの前言に納得した。
「これで少しは懲りる事を知りゃ……」
 シリウスはさすがに相手も懲りただろうと様子を伺ったが、
「……右腕に痛み有り、効果が変異している……それぞれの薬との相性がまずい……」
 黒亜は平坦な調子で自身に起きた異変を分析するなり、ゆるりと立ち上がった。懲りる様子もシリウス達のお叱りも全くどこ吹く風。
「おいおい」
「……本当に懲りるという事を知らないようですわね」
 呆れるしかないシリウスとリーブラ。
「……効果も弱くなっている……改良の余地がある……」
 黒亜はすっかり自分の世界に没頭し、気付かなかった。
 忍び寄る仕置き人がいる事に。
 その人とは
「採取の邪魔をした罪を償うでありますよ!」
 吹雪だった。黒亜の背後に忍び寄るなり途中で調達した蔦で縛り上げた。
「……」
 シリウスによって黒亜は弱らされていたおかげで簡単に捕縛出来た。黒亜は変わらずぼんやりしている。
 その時、
「……この狂ったような叫び声は魔法薬の影響を受けた妖怪の声ね」
 コルセアが奇声が聞こえる方向に視線を向けた。
「それは丁度いいでありますよ!」
 吹雪は黒亜を連れ、狂った妖怪に向かって嬉々と走って行こうとする。
「……吹雪、まさか」
 コルセアはすぐに察した。吹雪がどんな鉄槌を下すのかを。
「あそこに投げ込んで放置するでありますよ!」
 吹雪はニヤリと笑んだ後『疾風迅雷』で凄まじい速度で走り去った。
「……いつものあれと似たような扱いになってる気がするんだけど」
 去って行く吹雪の背中を見つめながらコルセアは呆れをこぼした。ただし、それだけで止める様子は全く無い。ちなみにあれとは毎度トラブルを起こす双子の事である。
「あいつらと違って黒亜は懲りねぇぞ」
「きっとまたどうにかして逃げ出しますわね」
 双子を知るシリウスとリーブラは溜息混じりにコルセアに話しかけた。
「……厄介ね。まだ形だけでも反省するあの子達の方がマシって事かしら」
 コルセアはまた溜息を吐き出してから吹雪を追いかけた。いつまでもここでぼんやりしている訳にはいかないので。
「気を付けてな」
 シリウスは去って行くコルセアを見送った。

 一方、吹雪。
「ここで貴重な素材を台無しにした事を思い知るがいいのでありますよ!」
 『投げの極意』を会得している吹雪は勢いよく狂った妖怪に向かって黒亜を軽やかに投げつけ、放置して去った。
「……はぁ懲りないと聞いたけど、顔色一つ変えていないわね」
 お仕置きの間中コルセアは呆れながら顔色一つ変えぬ黒亜の様子を見ていた。忘れずに他の捜索者達に知らせを入れていた。
 放置された黒亜は、
「……いい具合に薬が効いている……もう少し強くてもいいか」
 迫る妖怪を冷静に分析するばかりで危機感が全く無い上に反省など一つもしていなかった。そして、何とかかんとかしてこの場を脱出した。