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学生たちの休日12

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イルミンスールのクリスマス



「クリスマス……、それは合コンで知り合ったカップルが、今後もつきあい続けるか、それともきっぱりと別れるか、それを決定する決断のとき!」
 世界樹イルミンスールを前にして、風森 巽(かぜもり・たつみ)が、なんだか変な決意に燃えていました。ちなみに、風森巽はココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)と合コンで一応カップルになっています。たぶん……。
 さて、話は、少し前に遡ります。
「何、それは本当なのか!?」
「本当に決まってるのよ。疑うの?」
 ちょっとうるうるした瞳で、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が風森巽を見つめました。策士です。
「分かった。分かったぞおぉぉぉ!!」
 信じ込んだ風森巽が、凄い勢いでどこかにむかって駆け出していきます。それを見送りながら、ティア・ユースティがちょろっと赤い舌を出しました。
「さてと、後はゴチメイのみんなに根回しだよね」
 すかさず、ティア・ユースティがアルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)に電話をかけました。いわゆる内通です。
「……というデートコースを生意気にも計画しているんだよね」
『分かりました。処分はこちらに任せてください。では……』
 淡々としたアルディミアク・ミトゥナの声がそう言って切れました。
 そんなことなどつゆ知らず、ココ・カンパーニュに待ち合わせの手紙を出した風森巽は、イルミンスールのてっぺんにある展望台を目指していました。
 もちろん、ココ・カンパーニュは、果たし状をもらったと、喜んで先に展望台で待っています。戦う気満々です。
「そこまでよ! ここから先へは一歩も行かせないわ!」
 星拳ジュエル・ブレイカーを盛大に輝かせながら、イルミンスールのエントランスで待ち構えていたアルディミアク・ミトゥナが言いました。すでに、戦闘モード全開です。
「悪いが、今は争っている暇はないんだ、義妹さん」
 地雷を踏みました。
「その名で呼ぶなあ!」
 素早くガーターリングから魔法石の結晶を引き抜いたアルディミアク・ミトゥナが、星拳の青い光条に差し入れようとしました。
「話は聞かせてもらった!」
 突然、後ろから押さえ込まれて、アルディミアク・ミトゥナの動きが止まりました。
「さあ、ここは、私に任せて先に行け!」
 アラザルク・ミトゥナです。男同士、風森巽の唯一の味方になってくれたようです。
「ありがとう、義兄さん!」
「その呼び名は却下だ!」
 風森巽の言葉を、即座にアラザルク・ミトゥナが拒絶します。
「このお礼は、いつか精神的に……」
 マシン・シルバージョンに飛び乗ると、風森巽がイルミンスールの中央階段を上っていきました。バイクを使う意味があるのかは、この際無視しましょう。
「ああ、階段を上っていってしまう……。は、放して〜」
 アルディミアク・ミトゥナが、アラザルク・ミトゥナの腕の中でもがきました。
「君は、自分のこと……私たちのことを無視して、ココを行き遅れにしてしまうつもりかい」
「でも……」
「大丈夫。少なくとも、ココの一撃を耐えられるぐらいでなければ、ココの方から抹殺するさ」
 なにげに恐ろしいことを言っています。
 はたして、風森巽は生き残れるのでしょうか。
「そこまでですう。ここから先へは、通しませえん」
 大図書室のあるフロアで待ち構えていたのは、チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)でした。
「悪いが、通らせてもらいます!」
「まあ、いい度胸ですわあ。えいっ」
 きっぱりと言いきった風森巽に、チャイ・セイロンが火球を放ちました。
「えっ……!? うぼあですらー」
 通りすがりの不幸なキネコ・マネー(きねこ・まねー)が、直撃を受けて吹っ飛びました。
「そこ、何をやっているのですか。図書室のそばは火気厳禁ですよ」
 すぐさま、そばにいたアリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)が駆けつけてきました。キネコ・マネーの姿を見て、また何かやらかすのではと後をつけてきていたようです。
「ええと、私はあ……」
「問答無用です、生徒指導室に来なさい」
 イルミンスール魔法学校の生徒ではないと言いかけたチャイ・セイロンを、アリアス・ジェイリルが引っぱっていきました。
「ありがとう、通りすがりの人!」
「ちょっと、あなた、待ちなさい、校内でバイクは……」
 アリアス・ジェイリルが止めるのも聞かず、風森巽はバイクでさらに上へと登っていきました。
「緊急手配。校内でバイクを乗り回す不審者がいます!」
 すぐさま、アリアス・ジェイリルが風紀委員会に連絡をしました。
「ええい、やっぱりバイクで階段を上るのは厳しいな。ここはどこだ?」
 とにかく上を目指した風森巽ですが、アリアス・ジェイリルから逃げるときに大階段を外れてしまったので、どこを登っているのか分からなくなってしまいました。はっきり言って迷子です。
「あのー、ここはどこでしょうか?」
「ここは、どこなのじゃー。宿り樹に果実に行きたいのじゃー」
 途中で出会ったビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)でしたが、はっきり言って、どちらも迷子でした。これでは、お互い役に立ちません。
「ぢゃ、そゆことで」
 風森巽が、先を急ぎます。
「どこに出ちまったんだ?」
 凄く大きい広間のような場所に出て、風森巽が周囲を見回しました。どうやら、修練場に迷い込んでしまったようです。
「よく来たな。我と同じように、ココのパートナーとなれる存在かどうか試してやろう」
 そこで待ち構えていたのは、ジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)です。黒いビキニにエプロンを着けて、シースルーの黒いケープを纏ったドラゴニュートの姿で修練場の奥の壁の前に立っています。
「いや、俺は、ココさんの仲間と戦うつもりは……」
「問答無用!」
 戦うつもりはないと言いきらないうちに、ジャワ・ディンブラが元のドラゴンの姿に戻りました。その身体が何倍にも大きくなり、巨大な翼が修練場一杯に広がります。さすがに、ドラゴンとのタイマンでは、風森巽もただではすみません。
「では、手合わせいただこうか」
 ココ・カンパーニュと戦って以来の本気モードで、ジャワ・ディンブラが言いました。勢いよく、ビュンと巨大な尻尾を一振りします。その一撃で、修練場奥の扉が吹っ飛びました。
 そのときです。
 その扉のむこうから、青いゲル状の物体が噴き出してきました。
「な、なんだ、これは……!?」
 あっという間にマジックスライムに呑み込まれて、ジャワ・ディンブラがすっぽんぽんになって気絶しました。とは言っても、ドラゴン形態ははっきり言ってもともとすっぽんぽんなので、あまり違いはありません。
「こら、ここで何をやっているのよ!」
 アリアス・ジェイリルから連絡を受けて風森巽の後を追ってきた天城 紗理華(あまぎ・さりか)が、マジックスライムを見て顔を引きつらせました。
「全員、すぐにスライムを捕獲して。クリスマスにすっぽんぽんだなんて、洒落にならないわ……。ちょっと、あなた、どこ行くの、こら、逃げるな!」
 同行する風紀委員に素早く指示を出した天城紗理華ですが、こそこそと逃げだそうとする風森巽に気づいて大声で怒鳴りました。その声に反応したのか、マジックスライムが天城紗理華めがけて押し寄せてきます。
「きゃあ!」
「すみません、先を急がせてもらいます」
 その隙に、風森巽が、上への階段を求めてバイクで走り去りました。