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学生たちの休日12

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空京のクリスマス



「さっきの連絡はなんですか?」
 空京の商店街を歩きながら、フィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)に訊ねました。
「どうやら、任務解除らしい。空京方面は、空振りだったようだ」
 ジェイコブ・バウアーが、先ほどマリエッタ・シュヴァールから送られてきた暗号通信の内容を妻のフィリシア・バウアーに告げました。
「まあ、じゃあ、今日はこのまま休日でデートと言うことになるわけですね」
「休日は、まあ、そうだが、なんでデートになるんだ?」
 パンと手を打ち合わせて喜ぶフィリシア・バウアーに、ジェイコブ・バウアーが怪訝そうに聞き返しました。
「それは、若い男女がクリスマスに二人、それも夫婦であれば、クリスマスデートに決まっているじゃありませんか」
 そんなことも分からないのですかと、フィリシア・バウアーが言いました。そして、しっかりとジェイコブ・バウアーの腕にしがみつきます。
 ちょっと、ジェイコブ・バウアーがあわてると、それを楽しむかのようにフィリシア・バウアー力を込めてしがみついてきます。やれやれと思いつつ、ジェイコブ・バウアーが可愛いものを見るようにフィリシア・バウアーの顔を一瞥しました。
「しかし、いきなりだと、レストランの予約も、プレゼントも用意していないのだが……。それに、今の俺たちは軍服姿だぞ」
 あまりにクリスマスには似合わないと、ジェイコブ・バウアーが肩をすくめました。
「いいじゃないですか。これから二人でプレゼントを買って、そして、どこかでお食事しましょう。それに、軍服姿でのクリスマスもおつものですよ」
 そう言うと、フィリシア・バウアーが歩き出しました。ジェイコブ・バウアーを引っぱるようにして前に進みます。
 まったく、プレゼントなし、ディナーなし、オシャレもなし、洒落た言葉もなしと、ないないづくしですが、それでもお互いがいます。それだけで、なんとなく幸せになってしまう二人でした。
「そういえば、プロポーズしてもらったのも、去年のクリスマスでしたよねっ」
「そ、そんなことあったかな」
 あまりよく思い出せないらしく、しどろもどろでジェイコブ・バウアーが言いました。だいたい、あのときもいっぱいいっぱいだったのです。何をしゃべったのかも、はっきりとは覚えてはいません。
 そんな様子を見て、フィリシア・バウアーがクスリと笑いました。鮮明に覚えている、あの日と同じようだと。

    ★    ★    ★

「着きました、着きました」
 ヒラニプラ鉄道を下りたコーディリア・ブラウンが、大洞剛太郎にべったりと寄り添いながら言いました。
「コーディリア、近……」
「なんですか?」
「いや、なんでもない」
 ジーッと見つめ返されて、大洞剛太郎が言葉を濁しました。
 まあ、超じいちゃんである大洞藤右衛門の考えることなど端からお見通しなわけですが、たまにはちゃんとコーディリア・ブラウンの願望を実現させてあげないとだめでしょう。なんだか、いきなり着替えておめかししていることですし。
 あ、もちろん、大洞剛太郎はいつも通りのミリタリーファッションです。いつ何が起きるか分かりません。商店街を見れば、教導団の軍服を着て歩いているカップルもいるぐらいですから。
「まずは、補給物資と、不足している弾薬の注文でありますな」
 空気を読まずに、大洞剛太郎が言いました。最優先がこれです。ちょっと頬をふくらませながらも、いつも通りだとコーディリア・ブラウンがつきあいます。
「後は、超じいちゃんの頼まれものと……」
 ケーキ屋にむかった大洞剛太郎は、コーディリア・ブラウンに選んでもらったケーキとシャンパンをそのまま注文しました。後で取りに来ると言って、店員さんと相談しています。
「後はと……。どこか、行きたい所はありますか? コーディリア」
「あります、あります」
 大洞剛太郎に聞かれて、コーディリア・ブラウンが思い切りブンブンと首を縦に振りました。
 二人がむかったのは、ライトアップされたシャンバラ宮殿前広場です。無数のイルミネーションによって、木々やオーナメントが光艶やかに飾られています。
「これでは、アンブッシュしにくい……、いや、なんでもないであります」
 場違いな感想を口にしかけて、大洞剛太郎があわてて口を紡ぎました。コーディリア・ブラウンの方は、うっとりと光に見とれたまま、ピッタリと大洞剛太郎にくっついています。
 ひとしきり散策した後、予定通り大洞剛太郎はケーキ屋へとむかいました。もうデートも終わりなのかと、コーディリア・ブラウンがちょっと溜め息をつきました。
 預けてあったケーキの受け取りで待っていると、なぜか大洞剛太郎がケーキの箱を二つ持っています。あれれと、コーディリア・ブラウンが首をかしげると、箱の一つを大洞剛太郎が差し出しました。
「これは、コーディリアと食べるクリスマスケーキであります。さあ、後は、プレゼントを買いに行くでありますよ」
「はい」
 嬉しそうにコーディリア・ブラウンが大洞剛太郎に答えました。
 きらびやかにクリスマスの飾りを施されたアクセサリー屋さんを見つけると、二人で入っていきます。それと入れ違うように、ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)が中から出て来ました。
「そろそろ時間ですかな。さて、急がないと。レディを待たせては名が廃るというもの」
 時計を見ると、ホレーショ・ネルソンが足早に、飛空艇発着所へとむかいました。

    ★    ★    ★

「人が多いですね」
「はぐれるなよ、ユリナ」
「はい」
 黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)と繋いでいた手を軽く引っぱられて、黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)がぎゅっとその手をしっかり握りしめました。
 他のクリスマスデートカップルの間をすり抜けて、ショッピングモールへとむかいます。
「ショッピングモールに入りましたわ。追いますわよ」
「分かった」
 そんな二人の後を、こそこそと椿 ハルカ(つばき・はるか)ミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)が尾行していきます。
「二人の邪魔はさせないのだ」
 そう心に決めているミリーネ・セレスティアですが、はっきり言ってこっちの二人の方が黒崎夫妻にとっては迷惑です。
 つかず離れずついていくと、黒崎竜斗と黒崎ユリナはゲームセンターに入っていきました。当然、椿ハルカとミリーネ・セレスティアも中へと潜入します。
「どうしたの?」
 何やらしきりに周囲を見回す黒崎竜斗に、黒崎ユリナが訊ねました。
「いや、誰かに見られた気がしたんだが……」
 そんな黒崎竜斗の視線を避けて、ミリーネ・セレスティアと椿ハルカがあわててクレーンゲームの筐体の陰に隠れます。ピッタリと身をくっつけあって隠れたので、椿ハルカとしてはもうドキドキです。なにしろ、黒崎竜斗たちの尾行をダシにして、ミリーネ・セレスティアとのデートをセッティングしたわけですから。
「誰もいないわよ。それよりも、あの人形取って。ほしい!」
「任せとけ!」
 黒崎ユリナにねだられて、黒崎竜斗が張り切りました。
 空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)の人形をかかえた黒崎ユリナと黒崎竜斗が次にむかったのは映画館です。
 少し後ろのシートに、椿ハルカとミリーネ・セレスティアも揃って座ります。
「なんか変なんだよなあ」
「もう、竜斗さんったら気にしすぎ」
 なんだか違和感をぬぐえない黒崎竜斗に、ちょっと怒ったように黒崎ユリナが言いました。せっかく感動超大作を見に行ったというのに……。
「うっ、うっ、えぐえぐ……」
「よかったですわよね、あの映画。特にヒロインの告白で主人公が生き返るシーン」
「うんうん。よかったのだ」
 うっかりとまともに映画を見てしまったミリーネ・セレスティアと椿ハルカは、気持ちが入りすぎてもうぐしゃぐしゃでした。集中できなかった黒崎竜斗とは対照的です。
「あっ、二人が、レストランに入りますわ。追わないと……」
「ええ」
 涙を拭きながら、同じレストランに椿ハルカとミリーネ・セレスティアが入ろうとしました。けれども、完全予約制だからと断られてしまいます。
「ここまでのようだな。さて、これからどうするか」
 ちょっと困ったように、ミリーネ・セレスティアが言いました。いきなり、やることがなくなってしまったのです。
「そ、それでは、わわわ、わたくしたちで、で、で、で、でえとををいたしませんかあ?」
 突然真っ赤になって、椿ハルカが言いだしました。
「えっ?」
「あの、その……。もしよければ、わたくしと、わたくしと、わたくし……どつきあってください! あ、いえ、恋人として、つきあってくだしゃい……ああ」
 思い切り噛んだというか、無茶苦茶変なことを言ってしまったと、椿ハルカが真っ赤になってうつむきました。これでは、せっかくのムードが台無しです。
「もう、ナラカの穴に入ってしまいたい気分ですわ」
「じゃあ、私が引き上げてあげよう。さあ、お手をどうぞ」
 そう言うと、ミリーネ・セレスティアが椿ハルカの手をとって、そっと顔をあげさせました。
「えっと、おっ、おっ、桶……」
「噛みましたね」
 ドキドキしすぎてせっかくの返事に失敗したミリーネ・セレスティアを見て、椿ハルカがニッコリと笑いました。