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学生たちの休日12

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学生たちの休日12
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    ★    ★    ★

「それじゃ、ツリーはここにおくから、飾りつけは二人に頼んだよ」
 ポムクルさんたちと一緒に鉢植えのもみの木を広間に運んできたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)に言いました。
『――さあ、今日は君が主役の一人だ。綺麗に飾ってもらうんだよ。頑張れ』
 人の心草の心でもみの木に呼びかけると、エース・ラグランツは食卓の飾りつけへとむかいました。
「あれ? ポムクルさんたちがいない。まったくしょうがないなあ」
 まだまだ運ぶ物はたくさんあるのに、植物部屋にあったもみの木の鉢植えを運ぶだけでポムクルさんたちはもう飽きてしまったようです。まあ、そのへんは、ポムクルさんですから仕方ありません。
「ケーキを運んでもいいですか?」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が、メインテーブルに飾る花を整えているエース・ラグランツに聞きました。使用人たちに手伝ってもらってクリスマスケーキを焼いてきたのです。他にも、広間のあちこちでは、使用人たちがいろいろと飾りつけで働いてくれていました。壁には、モールや、絵画や、リースなどが飾りつけられています。
 ポムクルさんたちは……とりあえずいいです。
 本来であれば、彼ら使用人たちに全て任せればいいのですが、今年のクリスマスはできるだけ自分たちでも何かしてみようということのようです。
「ちょっと待っててくれ」
 エオリア・リュケイオンに言うと、エース・ラグランツは食卓の花の最終調整にかかりました。氷を削って作られた花の中には、生花が閉じ込められています。そして、その氷の花を花瓶として、さらに生花をさして形と色合いを整えました。
「はい、もう大丈夫」
 エース・ラグランツに言われて、やっとエオリア・リュケイオンがテーブルの中央にクリスマスケーキをおきました。たっぷりフルーツを混ぜ込んだパウンドケーキを、真っ白な生クリームで綺麗にコーティングしたものです。
 それを見て、ポムクルさんたちがどこからか集まってきました。今にも切り刻んでショートケーキにしてしまいたそうです。
「まだダメですよ」
 エオリア・リュケイオンに咎められて、ポムクルさんたちはまた姿を消してしまいました。
 テーブルの準備が着々と進む中、メシエ・ヒューヴェリアルとリリア・オーランソートはツリーの飾りつけを続けていました。
 星やサンタさんの人形を枝に結びつけ、電飾やモールを巻きつけます。高い所は背の高いメシエ・ヒューヴェリアルが担当して、低い場所はリリア・オーランソートが飾りつけていきます。時に、一緒に飾りを結びつけたりして、実に微笑ましいカップルです。
「後は、てっぺんのお星様だけよね。これは、私がつけたい!」
「しょうがないですね。本当に、リリアはキラキラした物が好きですね」
 そう言いだしたリリア・オーランソートのために、メシエ・ヒューヴェリアルが彼女をだきあげました。
「やった、手が届くよ」
 ちょっと小躍りして、リリア・オーランソートがツリーのてっぺんに星を被せました。
「よいしょっと」
 さあできたと、メシエ・ヒューヴェリアルがリリア・オーランソートをだき下ろしました。そのとき、するりとリリア・オーランソートがメシエ・ヒューヴェリアルの手の中で滑って、反対側をむきます。
 もっとずっと持ちあげてくれていればいいのにと、リリア・オーランソートが、じっとメシエ・ヒューヴェリアルの顔を見つめました。至近距離で見つめられて、可愛いと思ったメシエ・ヒューヴェリアルが、思わずリリア・オーランソートをだきしめてキスをしました。
「ちょ、ちょっと、誰か見ていたら……」
「大丈夫、ツリーに隠れてみんなには見えないさ」
 驚くリリア・オーランソートに、ツリーでエース・ラグランツたちの姿が見えないのを確認して、メシエ・ヒューヴェリアルが言いました。
 けれども、そんな二人を、ツリーに吊り下げられたたくさんのポムクルさんたちが見つめていたのでした。

    ★    ★    ★

「見て見て、空京の街の光が、みんな見渡せますよ」
 空京遊園地の大観覧車の中から外の景色を見ながら、雪風 悠乃(ゆきかぜ・ゆの)が楽しそうに叫びました。
「ねえねえ……」
 振り返ると、今日一日一緒にデートした七瀬 紅葉(ななせ・くれは)が真っ赤になってうつむいています。
「どうしたの? 気持ち悪いの?」
 心配して、雪風悠乃が七瀬紅葉に訊ねました。
 そういえば、ジェットコースターに乗ったときも、メリーゴーラウンドに乗ったときも、雲海の空賊船に乗ったときも、アトラスマウンテンに乗ったときも、なんだかいつもよりも七瀬紅葉は口数が少なかったような気がします。
 七瀬紅葉が男の娘なので、見た目は仲のよい同性のお友達にしか見えません。これが恋人になれば、変なカップルにしかならないと七瀬紅葉は思っていました。でも、それでも、七瀬紅葉は雪風悠乃のことが好きでした。なので、今日こそはちゃんと告白しようと思っていたのでした。
 けれども、決意したのはいいのですが、やはり実行に移そうとするとなかなか大変なのです。告白するチャンスは何度もあったはずなのですが、ズルズルとチャンスを逃してしまい、結局最後のチャンスである観覧車の中となってしまったわけです。
「悠乃ちゃん、聞いて」
「なあに?」
 なんだか無茶苦茶力が入って強張っている七瀬紅葉に、ちょっと雪風悠乃もかしこまって答えました。
「僕は、悠乃ちゃんが好きです!」
 ついに思い切って、七瀬紅葉が告白しました。
「うん、私も紅葉君が大好きだよ」
 あっけらかんと、雪風悠乃が答えました。いけません、これは完全にお友達として好きだよという言い方です。
「違うんだ。僕は、悠乃ちゃんのことを愛してるんだ」
「えっ!?」
 その言葉で、好きだの意味が違うということに雪風悠乃も気がつきました。お友達でなくて、恋人。見た目同性ではなく、ちゃんとした異性としての二人。LIKEではなく、LOVE。
「えっと、ちょっと待って」
「やっぱり、こんな僕じゃダメなのかな」
「そうじゃなくて……。今はちょっと驚いちゃって……。少しだけ、考えさせてくれる?」
「うん、ちゃんとした返事がもらえるまで僕は待ってるよ」
 戸惑う雪風悠乃の言葉に、七瀬紅葉がうなずきました。こういうことは急いではいけないものです。
 紅葉くんも男の子だったんだとあらためて認識した雪風悠乃と、やっと思いの丈を口にすることのできた七瀬紅葉を乗せたゴンドラが、ゆっくりと地上に近づいていきました。