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~ガルディア・アフター~ 石の魔物と首なし騎士の猛攻

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~ガルディア・アフター~ 石の魔物と首なし騎士の猛攻

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三章「死を報せるモノ」


〜遺跡最奥部付近・通路〜

 静まり返った通路。障害物、段差が多く配置されているガーゴイルもいうに十体は超えているだろう。見つかればただでは済まない。
 なるべく音を立てずにガーゴイルの視線外を移動するのは清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)
 それぞれ別のルートから通路の出口を目指しており遺跡内の構造を漏れなく把握していくつもりであった。
 なぜなら彼らの役目は先行しての地形の把握、最奥部への最短ルートの割り出しだったからである。
 これまでにマッピングした地形データや敵の数などの情報は後方のメンバーに逐次送信されており、それが救出作戦の大きな助けとなっているのは事実。
 北斗は思う。ここまで進んできて人の手が施されたような場所や地形は巧妙に隠されているが確かにあった。長らく入り込む者がいなかった遺跡には思えない。
(ストレガ・マッサー。やはりあの人物が一番怪しいよね。となると、思わぬ仕掛けにも注意しながら進まないとかな)
 クナイは北都の動きを確認しながら、ガーゴイルに気取られないように静かに歩を進める。
 少しでも気を抜けば、発見され最奥部にいるデュラハンにもいらぬ警戒をされてしまうだろう。絶対に発見されることは許されない。
(ガーゴイルはもしかしたら、ストレガが後からこの遺跡に配置した物ではないでしょうか。そうなると遺跡の人によって手を加えられた部分なども合点がいきます。となると……デュラハンも本当のデュラハンではないのかもしれませんね)
 二人は何とか発見されずに最奥部に到達した。そこで奥に鎮座するデュラハンとその後ろに倒れているルカ・シーニュを発見した。目立った外傷はないようだ。
「どうやらあの子みたいだね。怪我がない様でよかった。よし、皆に知らせないと」
 北斗は後方のメンバー達にデュラハンとルカの発見、そしてそこまでの最短ルートを送信した。
「さて、僕らは身を隠していようか。何かあった時の備えの為にね」
「そうですね、備えあれば憂いなしとは言いますし」

〜遺跡最奥部〜

 大きく開いた穴の様な窓から月光が差し込む大広間。その中心に剣を携えた黒い甲冑の騎士――デュラハンが鎮座している。
「お前が、デュラハンか……その娘を返してもらおうか」
 睨み付けるような鋭い瞳で刀を向け、問いかけるガルディア。
 直後、疾風の早さでデュラハンの剣が振り抜かれた。ガルディアの刀とぶつかり、火花を散らす。高速の剣戟が幾重にも交わされ、互角に打ち合うが重い一撃を受け、ついにはガルディアが後方へ飛んだ。
「……っ!」
 吹き飛ぶガルディアを受け止めたのはエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)であった。彼女は自らも武器を構える。
「交渉決裂だねぇ。ガルディアさんも一人でやろうとしないのー。ほら、みんなで連携すればきっとうまくいくよっ」
「……連携か。確かに一理あるな。よし、心がけてみよう」
「よっし! じゃぁいっくよぉーーー!」
 低い姿勢で地面を滑るように走るエクス。走りながら地面を蹴って跳躍、空中で双刃の柄を連結させ、巨大な掟破り武器を顕現させる。体重を乗せたその一撃は剣で受けようとしたデュラハンを後ずらせるほどに強い衝撃であった。
 更に振り上げ、数回打ち合うエクスとデュラハン。形勢はエクスの有利。重い一撃を捌くのに精いっぱいでデュラハンは攻勢に出れていない。
 デュラハンの右手に持っている頭部の瞳が不意に光ると、ガルディアがエクスに警戒を促す。
「エクスッ! 離れろ!」
「ッ!!?」
 デュラハンとエクスの間で小規模な爆発が発生。無詠唱で爆炎系の魔術を行使したようだ。攻撃に特化していたエクスはまともな防御ができずに回転しながら吹き飛ばされる。
「まったく、あの子は!」
 脇から隙を窺っていたディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)は吹き飛ぶエクスを追う。空中で何とか追いつきその身を抱え込んだ。着地の際、地面を滑りながら勢いを殺し壁に衝突しない様に配慮。
「魔術も使うみたいだから深追いは禁物て言ったでしょっ!」
「あはは、ごめんなさい」
「もう、大きな怪我がないからいいけど。さぁ、もう一度行くわよ……合わせて!」
 デュラハンに猛進、重い一撃で確実にダメージを重ねていくエクス。更に両サイドから剣戟の隙間を縫うようにディミーアとガルディアが攻撃を仕掛ける。
 猛攻ともいえるその剣戟の嵐にデュラハンは魔術を唱える暇すら得ることはできないようだ。
「ここまでは順調のようねぇ。デュラハンちゃんは手も足も出ないって感じかしらぁ?」
 前線の様子を注意深くみていたセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)。その言動からは想像しにくいが、前線の様子を注意深く見ているようで、前線で戦うガルディア達と警護団の三人に的確な指示を与えている。
 そのおかげか、デュラハンという並のモンスターとは比べ物にならない強さの魔物に対し組織だった戦闘を維持することができていた。
「そうみたいね、あなた達がいてくれて助かったわ。あのコミュニケーション能力欠落した古代兵器と二人だったらどうしようかと……あぁ、想像したら頭痛くなってきた」
「古代兵器? ああ、ガルディアさんですか。コミュニケーション能力の欠落はどうかとおもいますよ」
 タイミングを待つベルネッサのぼやきにむすっとした口調で反応したのは湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)。切り札用の武器を製作中であり、その視線は手元に固定されたままだが、あまりその表情は機嫌がいいようには見えない。 
「もう、凶司ちゃん。そんなあからさまに不機嫌になっちゃだめよぉ。今は作業に集中してないな」
 ベルネッサが他の男性の話をしているのが気に入らないようだった。考えないようにしているのか手元の作業に集中し始める。まあ、表情はそのままだが。
「デュラハン、難敵ですね。ですが……先程までの戦闘データを基にブレイクポイントを割り出して、それに合わせた装備を構築すれば……勝てない相手じゃない」
 宙空に浮かび上がった光のキーボードを指で叩きながら、時には手を動かして浮かび上がるデータの位置、装備のパーツを組み立てていく。その動きは常人では何をしているかわからないほどの早さであった。確実に切り札となる装備の構築は進んでいく。
(装甲は厚く、エクスのあの武器でもひびが入る程度の頑強さ。ならば中は脆いのか? 撃ちこんで内部で破砕されるように仕込めば、いけるか……)
 ぶつくさいいながら凶司は高速でキーボードを打ち込む。それに合わせてデータが構築され、パーツが次々と完成していった。
「……できましたっ! 二人とも、使ってください!」
 作成された装備は二発の弾丸だった。細長い筒状で先に青い弾頭がついている。
「調度いいタイミングよん。さぁ、みんな離れてねぇー!」
 セラフはベルネッサとタイミング合わせて照準にデュラハンを捉え、作成された特殊弾を装填、発射した。
 セラフとベルネッサ、二人の二丁の銃ベルネッサから放たれた弾丸は真っ直ぐに飛んで二発ともデュラハンの右肩部に命中。
 直後、青い光が甲冑を内側から突き破るように発生。その光は次第に強くなり、部屋全体を振動させるような轟音と共に炸裂した。
 見ると、デュラハンの右半身が消し飛び、膝を付いている。頭部は吹き飛んだらしく、かなり離れた位置に転がっていた。
「よし、今のうちに調査しちゃいましょうか」
 頭部に走って近づいたのは御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫である少女御神楽 舞花(みかぐら・まいか)
 彼女が触れようとした時、頭部から無数の影で構成された触手が伸びる。
 あっというまに彼女は触手に絡め取られてしまう。
 触手は四肢を拘束、中空で大の字に舞花を縛り上げる。影は舞香のふくらみに絡み付き、ぎりぎりと締め上げた。締め上げられる度に身をよじって抵抗するが、拘束されている為思うように抵抗できない。
「ひぁ、や……ぁうっ、いた、い……誰か……助け」
 彼女が魔法を詠唱するのを警戒したのか、影の触手は彼女の口の中に侵入した。舞花の小さな口いっぱいに影が広がる。彼女の口内を影が好き勝手に蹂躙する。上手く口が閉じられず、満足に舌も動かない為、魔法を唱えることもできそうにない。
 足に絡み付いた影が彼女のスカートの中へと侵入していった。そこを守る為の手段は、もうない。他の者に助けを求めようにも、手負いのデュラハンとの戦闘でそれどころではないようだ。
 しかもこの場所は入口からは死角になっており、よほど注意していなければ後方から追いついてきたメンバーにも発見されることはないだろう。
 彼女の脳裏に恐怖という二文字が浮かぶ。身体を這いずり回る影が何をしようとしているのか、年若い彼女にも想像できないわけではない。口には影がいっぱいに広がっており悲鳴を上げる事すら許されなかった。
「んんっ……んっ……んぁ、くっ……んっ」
 必死に声を上げようとするが、影はそれをあざ笑うかのように最後の砦を攻略に掛かる。陥落は、時間の問題であった。

 ――――どれだけ時間が経っただろうか。朦朧とする意識の中で、彼女は剣戟の音を聞く。
 体は小刻みに痙攣しており、全身に力が入らない。ゆっくりと視線を下ろすと床に彼女の下着であったものが無残に引き裂かれた状態で落ちていた。
 不意に体を締め上げる感触が消える。温かい何かに包まれるような感覚が、目を閉じ闇に沈み込もうとしていた彼女の意識を浮かび上がらせた。
「……もう、大丈夫だ」
 舞花を抱き抱えていたのはガルディアであった。彼は一瞬だけ舞花に優しげな視線を向けた後、すぐに目の前を睨み付ける。その視線の先には、影の触手を生やしたデュラハンの頭部が浮いていた。
 ガルディア達を無視するように頭部は高く浮かび上がると、手負いのデュラハンにぶつかるように融合した。
 半壊した右半身を黒い影が包み上げ、肥大化した巨大な影の腕が構成される。頭部の位置に影の塊が現れ、赤い瞳を輝かせた。
「あれは、影の魔物……シェードで、す」
 体力を大きく失っている舞かは掠れるような小さな声でガルディアに教える。
 ガルディアはそれを受け、検索を開始してある程度の情報を得ることに成功した。
「魔物辞典参照開始。シェード。術師に使役される陰で構成された使い魔。使役するのが強力な術師であればあるほどその能力は高くなる傾向にある。人の精気を奪い、己が力とする……か」
 舞花を安全な離れた場所に座らせるとガルディアはデュラハン――シェードの方を見る。
「やっかいな相手のようだが。引くわけにはいかない……」
(ありが、とうって言わなきゃ……でも、口が動かない……あとで、言えたら……いいな)
 その背中を見ながら舞花は力尽きる様に眠りへと落ちていった。