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平行世界の人々と過ごす一日

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平行世界の人々と過ごす一日
平行世界の人々と過ごす一日 平行世界の人々と過ごす一日

リアクション

 午前、空京大学。

「またあの二人やらかしたみたいだね」
「あぁ、本当に懲りないな」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)斑目 カンナ(まだらめ・かんな)は廊下を歩きながら本日の騒ぎの犯人である顔見知りの双子に呆れていた。慣れたもので慌てる様子は無かった。
「もしかしたら平行世界の私達に会えるかもね」
「丞(すすむ)と静か。その可能性はあるな」
 ローズとカンナはもう一人の自分達が来ている可能性を語った。二人が出会った平行世界の自分とは、性別が男の上に性格もこちらの二人の性格が入れ替わっているシャンバラ教導団のイコン設計士のインターン生の丞と指揮者を目指す丞の従兄弟の静である。

 空京大学前。
「聞いたところ、ローズさん達はここにいるらしい」
「カンナもいるだろうからついでに何か話してみるか」
 九条丞と九条静はこちらの自分達の交流について和気あいあい。今回の事についてはここに来るまでに周知済みである。
「というか、オレも一緒でいいのか。邪魔だったら別の所で時間を潰しても……」
 唯一、平行世界の長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)だけが少しだけ疎外感を感じていた。何せこちらの世界は初めてでここに来たのも通りにいた所を丞達に発見されてそのまま同行したまでだ。
「邪魔じゃないですよ。ローズさん、恋人の手伝いが出来ないってイコンの知識がある僕を羨ましがっていたから基本的な事だけでも教えようかなと思ったんですけど、先生もこっちに来ていて良かったですよ。ほら僕はまだインターンの身だから」
 丞は速攻で長曽禰先生の言葉を打ち消した。同化現象事件で共闘した時に洩らしたローズのつぶやきを忘れていなかったらしい。
「そういう事なら、力を貸さない訳にはいかねぇな」
 頼れる講師として長曽禰先生はこのまま同行する事に決めた。
 三人は寛いでいるローズ達を発見した。

 ローズ達発見後。
「ここにいたんだね」
「よぉ」
 丞と静はローズ達に親しげに挨拶をした。
「あぁ、久しぶりだ」
「丞と静に……そっちは」
 カンナとローズは快く迎えた。しかし、ローズは丞達の背後にいる男性を見るや嬉しさと困惑の混じった顔になった。
「あぁ、この人は僕らの世界で技術科の講師をしていてとても頼りになるんだよ。前の事件の時にイコンの知識の事を言ってたでしょ。二人のおかげで無事に戻る事が出来たからお礼にと思って」
 丞は長曽禰先生を紹介した。
「……そうなの(まさか平行世界の広明さんが来るなんて)」
 ローズは平行世界とは言えまさかの人物の登場に言葉少なとなってしまう。
「……(どうしたのかな。先生に会わせた途端、複雑な表情になってもしかして人見知りかな?)」
 何も知らぬ丞は勘違いするばかり。
「先生、名乗らないと」
「あぁ、そうだな。長曽禰広明だ。よろしく頼む」
 丞に促され長曽禰先生は名乗り、握手をと手を差し出した。
「……は、初めまして」
 ローズは、数秒差し出された手を困り顔で見つめていたが恐る恐る手を握り握手を交わした。
「先生の紹介も終わったところで勉強を始めようか」
 丞はそう言って長曽禰先生共々適当に席に着いた。

 その間、静はカンナとの再会を楽しんでいた。
「そっちはあれからどうだ? 指揮者の勉強は」
 静は椅子に座りながら勉強の案配を訊ねた。
「……始めたばかりで何とも言えない」
 カンナは指揮者用の勉強道具を見せつつ答えた。
「そうか。今日は時間もあるし、俺が教えてやるよ。ま、俺もそこまで長くやってるわけじゃあねぇけどな」
 そう言うなり静は機械の義手である右手を勉強道具に伸ばした。
「……そうしてくれると助かる」
 カンナは静の協力をありがたく受ける。
「で、この世界のおやっさんはどんな感じなんだ?」
 静はふと好奇心に駆られ、こちらの長曽禰先生について訊ねた。
「講師というのは同じだが、関係は違う。こちらのローズとは婚約者だ」
 カンナは小さな声で明かした。ちらりと長曽禰先生に戸惑うローズを尻目に。
「……婚約者!? マジで?」
 予想外の事に思わず大声になる静。
「本当に」
 カンナは人差し指を立てて静かにというジェスチャーをしながらうなずいた。
「へぇー、あのおやっさんとねー。なんつーか、因果を感じるねぇ。性別が違っても自分達に関わる奴はそうかわりないってことなのかね」
 静は声の大きさを元に戻し、ニヤニヤと丞達のやり取りを見ていた。
「……かもしれない」
 カンナもうなずき静と同じものを見た。
「で、お前は? こっちでは恋人とかいないの?」
 ローズの恋愛事情は分かったところで次はカンナとばかりに矛先を向けた。
「音楽以外興味ないし恋愛なんて面倒なだけだ」
 カンナはいつもの調子で答えた。
「ははは、違いねえ!」
 静はカラカラと笑った。
 それから
「さてと……」
 表情を戻すなり急に椅子から立ち上がって丞の所へ行った。
「あたしも行こう」
 静の意図を知ったカンナも立ち上がった。
 丁度紹介が終わって丞達が席に着いた頃だった。

「丞、ちょっと飲み物と食べ物を買ってこようぜ」
「案内はあたしがする」
 ある目的のために丞を誘う静とカンナ。
「何で買い物?」
 訳が分からぬ丞は疑問の顔。
「何でって……馬鹿、気が利かねえな」
 静はちらりと少々顔色がおかしいローズを見るなり溜息。ローズの様子を見れば察す事も出来るだろうと。
「……ああ、そうか、お礼なんだからそれも用意しなくちゃだったね」
 丞は気が利かないを別の意味で捉えてしまった。
「……行くぞ」
 今ここでいちいち説明するのも面倒な静は丞の腕を引っ張って急かす。
「分かったよ。先生、ローズさん、ちょっと待っててくださいね」
 丞は急いで立ち上がり、ローズ達に断りを入れてから静達と行ってしまった。
「ちょっと」
「おいおい」
 ローズと長曽禰先生は妙な展開に待ったを入れるもその声は去る背中には届かなかった。

 残された二人。
「…………(広明さんに会えたのは嬉しいけど……別世界なんだよね。こっちの広明さんじゃなくてちょっと寂しいかも)」
 ローズはちらりと長曽禰先生の横顔を見ながら複雑な心境。
「……悪いな、騒々しくしちまって」
 長曽禰先生は苦笑気味にローズに声をかけた。
「いえ、賑やかで楽しいですから。それより、あの……丞君はどうですか?」
 ローズは平行世界の自分の事を訊ねた。
「あんな感じさ。争いに関わらないイコンの事でいつも一生懸命だな」
 長曽禰先生は笑いながら言った。そこには確かな信頼があった。こちらとは少し違うものだが。
「そうですか。丞君、少し神経質な所もあるようですが、彼を宜しくお願いしますね。きっと貴方の信頼に答えるよう頑張ると思いますから……って変ですね。私まるで丞君の保護者みたい」
 映像や共闘での事を思い出したローズは保護者のような事を言い出す。それに気付いた途端、自分に呆れて軽く笑いが洩れる。
「先の事件で二人を助けてくれたと聞いた。今日もあいつの事をそこまで気に掛けてくれてありがとうな」
 長曽禰先生は大事な二人が無事だった事に改めて礼を言った。おそらく帰還した二人に話を聞いたのだろう。
「……いえ、そんな事は……それより先に始めましょうか」
 礼を言われ戸惑うローズは話題をイコンの勉強に変えた。
「そうだな。待っている時間ももったいねぇし」
 何も知らぬ長曽禰先生も賛成した。
 勉強用の資料を調達してから始められた。

 しばらくして
「ただいま、たくさん買って来たよ。もう始めてるんだね」
 大量の飲食物を抱えた丞達が戻って来た。
「あぁ、待ってる時間がもったいねぇからな」
 長曽禰先生はローズに揃えて貰った必要道具を見せながら言った。
「へぇー、おやっさんも、まんざらでもないって感じ? ダメだぜ、その人婚約者いるからな」
 静はニヤニヤしながら長曽禰先生をからかった。
「静、人をからかうもんじゃねぇぞ」
 長曽禰先生は当然ツッコミを入れた。
「カンナ」
 静のからかいを聞いたローズはカンナに向かって口を尖らせた。静が知らぬはずの事を知っているという事は誰かが洩らしたという事。自分でなければカンナしかいない。
「……静、こちらも始めよう」
 カンナは素知らぬ顔で静を伴ってさっさと指揮者の勉強を始めるのだった。
 とにもかくにも五人は楽しい勉強の時間を過ごした。