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平行世界の人々と過ごす一日

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平行世界の人々と過ごす一日
平行世界の人々と過ごす一日 平行世界の人々と過ごす一日

リアクション

 朝、シャンバラ宮殿。

「……一日も早く良くなれば」
 女王の力を手放し治療中のアイシャの見舞いを終えたリア・レオニス(りあ・れおにす)はアイシャの回復を願いながらもロイヤルガードとしての警護に戻った。

 仕事中。
「……(早くアイシャが元気になればな)」
 警護をしつつも心配で堪らないのかアイシャの事を気に掛けるリア。
 その時、
「……ん?」
 前方に人影を発見するリア。
 人影は近付き、見知った姿を露わにする。それはつい先程見舞いしたアイシャの姿であった。
 しかし、
「……アイシャの姿をした君は何者だ?」
 リアは警戒の色を浮かべ、鋭い言葉を投げかける。リアには分かる。自分の知るアイシャではないと。
「警戒しなくとも大丈夫です。私は平行世界の者で敵ではありません」
 アイシャの姿をした人物、平行世界のアイシャは笑みを浮かべて正体を明かし、リアの警戒を解こうとする。
「あぁ、平行世界の……」
 聞き覚えのある単語から納得して警戒を引っ込めたリア。
「あの、リアを見ませんでしたか」
 リアの警戒が解けた所で平行世界アイシャは自分の世界のリアの行方を訊ねた。同じ人物ならもしかしたら知っているのではと思いながら。
「平行世界の俺? いや、見なかったよ」
 リアは軽く頭を左右に振り、答えた。
「そうですか。私だけがこちらに来たのか別の場所にいるのか……リア」
 平行世界アイシャは少し心配の顔で平行世界リアの身を案じていた。
「大丈夫だよ。俺なら、世界が違っても同じが俺が言うんだから」
 世界は違えどアイシャの心配の顔に放っておけずリアは何とか励まそうと精一杯の言葉をかけた。
「そうですね。ところでこちらの私は元気ですか?」
 平行世界アイシャは顔を上げ、リアの言葉に少しだけ安心するなりこちらの自分の事を訊ねた。
「それは……」
 リアは表情を曇らせ、アイシャの置かれている状況を辛そうに打ち明けた。
「……そうですか」
 さすがの平行世界アイシャも少々悲しい顔に。
「あぁ、早くあの優しい笑顔を見たいよ」
 リアは脳裏にアイシャの笑顔を浮かべながら言った。
 その様子から平行世界アイシャは
「…………リアさんはこちらの私を愛しているんですね」
 リアの想いを察した。
「あぁ、とても」
 リアは心痛が滲む声で答えた。出来るならば代わってあげたいとさえ思っているのかもしれない。
 そこへ
「今日一日どこもかしこも大変らしい」
 ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)がやって来るなりリアの隣にいるアイシャに怪訝そうな目を寄越した。
「あぁ、彼女は平行世界のアイシャだ。それで大変とは?」
 リアはザインの視線の意味を知るや正体を教えて話を促した。
「何でも平行世界の人達がこちらに呼ばれてしまったらしい。帰る事が出来るのは翌朝だそうだ。騒ぎの首謀者はイルミンスール魔法学校の双子らしい」
 ザインは今回の騒ぎの内容、つまり平行世界アイシャがこちらにいる理由を説明した。
「あぁ、上映会の時にいたあの二人か。ところでここに来るまでに平行世界の俺は見なかった?」
 イルミンスールの上映会の事を思い出し、リアは何もかも納得した。ついでにザインに平行世界の自分を見たかも確認。
「いや、見ていない」
 ザインは肩をすくめて答えた。
「……そうですか」
 平行世界アイシャはまたもや不安そうな顔をするが
「そう心配しなくともリアなら大丈夫だろ」
 ザインは先のリアと同じ発言をして平行世界アイシャを励ました。
「そうですね」
 平行世界アイシャはこくりとうなずいた。
「……その左手の薬指の指輪はもしかして」
 リアは平行世界アイシャの左薬指に輝く見覚えのある指輪に目を止めて恐る恐る言葉を紡ぐ。
「えぇ、リアとの結婚指輪です」
 平行世界アイシャは左手を掲げて少し頬を染めながらリアに見せた。
「その、良かったら聞かせてくれないかな」
 リアは思わず訊ねていた。結婚の経緯や結婚生活に興味津々だから。
「……(惚気話か。長くなりそうだな)」
 黙すザインは胸中で溜息を吐いていた。
「……少し恥ずかしいですね。リアさんはリアと同じですから……」
 純情な平行世界アイシャは世界が違えどリアを目の前に話すせいか気恥ずかしさを感じていた。
 それでも
「……こちらの私と同じように力を譲渡した後に闘病生活に入りましたが、リアの看病のおかげで乗り切って……大変だとか文句の一つも言わずに励ましの言葉ばかりかけてリアは私を看病してくれたんです。一つぐらい文句を言っても罰は当たらないのにいつも笑顔で……」
 平行世界アイシャは結婚指輪に触れながらゆっくりとこれまでの事を振り返りつつ話し始めた。
「……」
 リアは静かに耳を傾けていた。
「それで……静養をしている時に……いつの間にか一緒に生きて行きたいとリアの笑顔の側にいたいと思って」
 平行世界アイシャはゆっくりと顔を上げて微笑んだ。あの結婚式を思い出しているようであった。
「……そうか。それで今は?」
 リアは惚気にこそばゆく微笑ましい気持ちになりながら映像で見た幸せな二人の結婚式を鮮やかに思い出し、結婚生活について訊ねた。
「とても幸せです。女王の時よりもずっと時間が過ぎるのが早く感じます」
 平行世界アイシャは幸せそうに笑みながら答えた。時間が早く過ぎるのは忙しい時と幸せな時。この平行世界アイシャにとっては後者なのは一目で明らか。
「幸せなんだな」
 世界は違っていてもアイシャが幸せである事にリアは嬉しく思った。こちらのアイシャが元気になれば何も問題は無いのだが。
「えぇ、そうですね。少しでも一緒にいられたらと毎日思います。寿命が違いますから」
 平行世界アイシャはほんの少しだけ憂いを浮かべた。結婚したとはいえ地球人と吸血鬼。寿命は明らかに違う。だからこそ、一分一秒でも一緒に過ごしたいという思いは強い。
「そうか。アイシャにそう思われてそっちの俺は幸せ者だな」
 リアは嬉しそうに笑った。
「そちらはどうですか?」
「見ての通りだよ。でも俺もそっちの俺と想いは同じだよ」
 こちらの事を訊ねる平行世界アイシャにリアは肩をすくめながら答えた。結婚していなくとも抱く思いに違いはないし平行世界の自分を羨ましいとは思わない。今の自分と想いに誇りがあるからだろう。
 そこに
「もう終わりか惚気話は?」
 ザインが見計らったように二人にツッコミを入れた。
「……惚気、ですか」
「おいおい」
 平行世界アイシャは思わず頬を染めリアはツッコミ返していた。