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 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)と、パートナーのメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は、もーりおんを連れて、西カナンの「天命の神殿」を訪れた。
 記憶を取り戻した巫女トゥプシマティのその後が気になったからだ。
「巫女が戻って来たと言っても、一度は遺跡にまでなった街が、そんなに早く復興とか無理だろ?
 普段の生活とかどうしてるのかな。色々困ってないといいんだけど」
 で、行くのならもーりおんも連れて行こう、と思ったのだ。
 メシエも、神殿の復興に関しては同意見を持っていたので、確認しに行くことにした。
(それにもーりおんを連れて行くのは、自分の寿命が短いから、彼を色々なところに関わらせたい気持ちがあるのだろうね)
 自分が居なくなった後も、もーりおんが寂しい思いをすることがないように、と。
 恐らく、もーりおんとトゥプシマティが友人になってくれたらいいと思っているのだろう。
 勿論、吸血鬼であるメシエも、ずっともーりおんを見守っていくつもりではあるけれど。

 神殿の遺跡の周囲には、幾つかの小屋が建っていた。
 何人かの人々が、遺跡や街を調べているようだ。
 その中にトゥプシマティの姿を見つけて、エースは声をかけた。
「こんにちは」
 応じるトゥプシマティは、花束を差し出されて、エースを思い出したようだ。
「花なら、いただきました」
 ガーベラと薔薇のブーケ。
 トゥプシマティが、「エースは、以前花をあげた彼女と自分を別人と思っているので、花を渡していない自分に渡しに来た」と思っていることを察して、エースは苦笑した。
「贈りたい相手には、何度でも贈るよ。
 あの後どうしたかなと思って。
 それと、俺の故郷で、友人にチョコを贈る日だから、様子を見に来たんだよ」
「チョコ?」
 ブーケと一緒に、チョコを包んだ箱を渡す。
 トゥプシマティは耳慣れない言葉に首を傾げたが、記憶をなくしていた時、彼女はスイーツがとても好きだったので、きっと喜んでくれるだろう。

 もーりおんには既に渡した。
 ありがとう、というお礼の言葉を聞いただけで抱きしめたいくらいだったのに、一口食べて一瞬動きを止めたもーりおんが、いつもより早いペースで黙々と食べ尽くしたその姿に、手作りしてよかったっ……と悶えたことは、また別の話だ。

「元気にしていた? 俺に手伝えることがあったら、何でも言ってね」
「はい。ありがとうございます」
 トゥプシマティは頷く。
「やはり、まだ復興は進んでいないな。まあ、まだ殆ど日が経っていないから当然だが」
 メシエが言うと、トゥプシマティは頷いた。
「イナンナ様が、人を派遣してくださり、調査しているところです。
 必ずしもこの場所でなければならないという理由はありません。
 此処に一から新しく街を作るより、既にある街へ神殿を移すべきかとも考えています」
「成程、合理的だ」
 だが、全くかつての姿を再現、というわけにはいかなくなるのだろう。
 一旦途切れ、忘れられてしまったものは、風化するだけだ。
 何かが失われていくのは寂しいことだ、と、メシエは思う。
 それでも、此処はかつて信仰の地だった場所で、神殿と巫女が余所に移っても、その事実がなくなるわけではない。
「お参りをしよう、もーりおん。
 お参りすることは、土地を大切にするということでもあるから」
 その後で、周りに花の種を蒔こう、と笑みかけると、こく、ともーりおんは頷いた。
 これからの、カナンとパラミタの大地の護りを。皆が平和に、穏やかに過ごせますように。
 そして、もーりおんの棲む、聖地モーリオンが生命で溢れますように。

 祈る二人の姿を、少し離れたところで、トゥプシマティが穏やかな表情で見つめている。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 祈り