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百合園女学院の進路相談会

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「マリカさんは今年卒業……だよね」
「今更ながら、短大の卒業ってあっという間だなと思いました。……というわけで……というか、今の時点でまだ進路が決まっていない不真面目な生徒でごめんなさい」
 マリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)はぺこりと頭を下げた。
「どうしても結論がでないというか、テレサがこればっかりは相談に乗ってくれないから迷っちゃって」
 テレサとは、マリカのパートナーであり、教育係でもあるテレサ・カーライル(てれさ・かーらいる)のことだ。
 今日はマリカの側に姿がない。
(アドバイスもなかったっていうことは、自分で考えさせるのも教育、っていうことなんだろうな……)
 静香は納得する。であれば、突っ込んだアドバイスをするのは避けた方がいいかもしれない。マリカを一番側で見てきたのはテレサなのだから。
「僕が効くことじゃないかもしれないけど、テレサさんは卒業後どうするのかな?」
「……聞いてないよ。『マリカさんにはもうすぐ成人式を迎えるのですから、卒業後の進路についてはマリカさん御自身で考えていただく必要がございます』って言ってたけど」
 ならば、ますますけじめを付けようとしているのではないか。
 静香はそう考えて、次の質問に移ることにした。
「進路を決めるのって迷うと思うけど、何か僕に聞いておきたいことはないかな? 判断材料になると思うよ」
 マリカは不安げな、ちょっとばかり絶望的な表情を顔に出して、おずおずと訊ねた。
「専攻科へ行く場合、宮殿の男子禁制の区域の警護職を目指す事になるのかなと思うのだけど、そういう目的のコースってあるのかな?
 自分がお嬢様かと考えれば否定要素が大きいのは分ってる。その……行儀見習いはさっぱりだし……正座だけは大丈夫だけど。だから専攻科に行って大丈夫なのかなって不安もあるよ」
「警護職か……したい勉強はないの?」
「より学業を極めるという点での空大への進学というのはちょっとイメージ湧かない。上手くいえないけど、百合園の卒業生でありたいという感じなのかな」
 マリカは自分の中のもやもやしたイメージや願望を、少しずつ言葉に変えて出していく。
「あとは進路といえるのか判らないけど、短大を卒業したら、武者修行の旅をするかな。もっと柔術を極めたい。そのためにはあちこちの道場を回って色んな人と手合わせをする必要があるのかなー、と。
 専攻科への進学って短大卒業から一年なり二年の期間が空いても良いのかな?」
 静香は立ち上がると、側の棚から百合園女学院の専攻科について書かれた資料を取り上げて、マリカに見えるようにテーブルに置いた。
「一つ一つ答えると……今もしやりたいことがあるなら、卒業後専攻科に入学するまで、時間が空いても大丈夫だよ。
 次に、宮殿に男子禁制の場所があるかというと、これはあって……ただ百合園には戦闘自体を目的にしたコースはないよね」
 ちょっと回りくどくなるけど、と前置きして静香は続ける。
「専攻科には女官コースがある。護身術程度は学んでる。それでね、実際に女官として仕えた人たちの中から、武勇に優れた人たちが警備を率先して担当したり、ということがあるんだよ。宮殿に百合園から行くならこういう方法もあるよ」
 焦らないでゆっくり考えて、もし何かあったらまた相談に来てね――静香のその声を聞きながら、マリカは部屋を出た。