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リアクション
ニルミナスの休日
「ふむ……いい湯じゃの」
ニルミナスにある温泉施設、湯るりなすの温泉に浸かりながらアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)は大きく息を吐いてそう言う。
「どう? アーデ。疲れは取れそう?」
アーデルハイトと一緒に入ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)はそう聞く。
「そうじゃな。疲れが湯に溶けていく気がするの」
「それは良かった」
気に入ってくれて何よりだとルカルカは言う。
「ここは静かで平和だけど、その平和は遠い前線で私達が守っているのよね。こういう、皆の生活を守ってるんだって思うとき、軍人やってて良かったなって実感できるかな」
「平和か……それはいつの世もそれは何かの犠牲を伴ってしか存在できないのかの」
「犠牲だなんて……私は思ってないわよ」
「……そうじゃな。お前はそうであろうし、自分が払っているものを分かった上でそう言えるものは強く、そして幸せじゃな」
一つ息を吐いてアーデルハイトは続ける。
「長くは生きるものじゃないの。少しばかり悲観的になってしまう」
歳は取るものじゃないとアーデルハイトは笑う。
「……アーデはどんなときが一番、頑張ってる自分を感じる?」
「ふーむ……難しい質問じゃが、自分の子供や孫のような存在を守ったり育てている時かの」
遠い血縁であったりイルミンスールの生徒であったり。
「誰かのために頑張れるって幸せよね」
「……うむ。そうじゃな」
アーデルハイトはそう答えて深く湯へと浸かった。
「はぁ……なるほど。この村に医者、医療施設が必要じゃないか……ですか」
音楽学校の生徒を集めている中、やってきた相談(というより申し出)にミナホはそう確認する。
「ルカに頼まれてな。村の観光地としての本格的な活動も始まるだろう。保養地で病気を治したり怪我を癒すためにも『医師』と医療設備が必要不可欠だとは俺も思う」
ミナホの確認にダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はそう返す。
「そうですね。最近村の住人も増えてきましたし、流石に私だけじゃ手が追いつかないと思い始めていたところでした」
考えた末にミナホはそう言ってダリルの申し出を受けることにする。
「え? ミナホ殿がこの村の医療を担当していたのか?」
ダリルと一緒について着ていた夏侯 淵(かこう・えん)が少し驚いた様子で聞く。
「? はい。そうですけど。私に魔法的な才能はないみたいなんでそのあたりは村に住む契約者の方とかにお願いしていましたけど。医療関係の知識はある程度はありますから」
診察と手当、薬の処方くらいは自分がやっていたとミナホは言う。
「えっと……なんでそんなに驚いているんでしょうか」
淵が意外そうな顔をしているのにミナホはそう聞く。
「いや、ルカに聞いていたミナホ殿の話からは少し想像できなかったのだ」
「えっと…………まぁ………………そうですよね」
ルカルカが自分のことを悪く言っていたとは思えないが、事件が起こった時の自分の対応を考えたり、今回のような大ポカを考えるとそれも仕方ないとは思う。
「ルカも驚くんじゃねぇかな。……だが、まぁあいつもいろんなこと出来たし不思議でもないか」
こちらも少し驚いていたが同時に得心した様子でカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は言う。
「?……あいつというのはどなたのことでしょうか?」
首を傾げてミナホはカルキノスに聞く。
「いや……ミナホみたいな奴が俺の知り合いにいたなって話だ」
繁栄の魔女の呪いによりミナホは死んだ自分の父親のことを忘れている。
「それで、どうしますか。医療施設、土地はありますからどこかに作りますか」
「うーん……ミナホ殿。空いている家はないか? あるならそこに機材を運んで病院にしたらいいのだ」
淵の提案。
「えーっと…………最近村人も増えてきたので空き家はな…………あ、いえ、一つだけありましたね」
「流石に廃墟みたいな家はなしだぞ」
「一応、大丈夫ですよ。はい。その家自体は普通の家です」
「それじゃそこに決定なのだ。行くぞダリル、カルキ」
そう言ってミナホに案内されてその空き家へと向かう淵。
「はぁ……俺抜きで話を進めるなよ」
「進めるどころか決定してたな」
ため息をするダリルと苦笑するカルキノスだった。
「ここなのか? 確かにこの家はまともだな」
ついた空き家を見て淵はそう言う。
「だがまぁ……確かにここには住みたくないかもな」
カルキノスはその空き家の隣を見て言う。確かにミナホに案内された家は普通の空き家だ。だがその隣は完全無欠の廃墟だった。
「まぁ、問題ないだろう。診療所だ。周りは静かなくらいがちょうどいい」
ダリルはそう判断する。
「さてと……ここを『ニルミナス医院』にするための改装を始めようか。と言ってもリサイクル機材を持ち込むだけだが……カルキ手伝ってくれるか」
ダリルはそうカルキに聞く。
「まぁ、重いものを運ぶのは任せろ。精密機器は任せるが」
当然だとダリルは答え、その後ミナホに向き直る。
「診療所が出来ても常駐は出来ないが、何か緊急のことがあった時は呼んでくれ」
自分の立場上そうなるとダリルは言う。
「分かりました。よろしくお願いします」
簡単な改装は一日で終り、次の日にはニルミナスに小さな診療所ができていた。
「はぁ……食べた食べた。あいつらも気が利くようになったわね」
満足そうな様子で歩きながらそう言うのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。
「……そうね」
一瞬だけ物言いたげな顔を見せたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はいつもどおりの様子でパートナーにそう返す。
(危なかったわね)
先ほどまでの顛末を思い出してセレアナはそう思う。
音楽学校の開校に合わせてイベントが行われると知ったセレンはそこで料理を作って提供するとか言い出した。食べ物屋を出すという案自体は別に問題はないが、その料理をセレンが作るとなれば話は別だ。セレン自身の自覚がないだけでセレンの料理はあれであれがあれなので、もしもそんな事態になればイベントは阿鼻叫喚地獄になる(断言)。
そこでそれを阻止しようとセレアナとニルミナス防衛団はあの手この手でセレンの気を他に向けさせた……率直に言うとごまかして話を有耶無耶にした。おもに美味しい物やお酒で胃袋をせめた。
「おー、ちゃんと校舎完成してんじゃん」
音楽学校につきセレンはそう言う。途中の出来上がるまでの様子は何度も見たが、ちゃんと完成したのを見るのはこれが初めてだった。
「そうね。立派な校舎。これだけ大きければ結構な生徒や教師がいるんじゃないかしら」
セレアナも少しばかり完成した校舎に感心した様子でそう言う。
「? 何か張り紙が……えーと…………『生徒募集中です』っと…………」
「ねぇ、セレン。気のせいかしら。この生徒募集の張り紙の日付、一昨日になってるんだけど」
まさか、生徒募集を今の今までしてなかったのだろうかとセレアナはパートナーを相手にする時と動揺に頭を痛くする。
「ま、ミナホが問題起こさないなんておかしいと思ってたもの。そんなことだろうと思ったわ」
(……いえ、流石に村長もセレンにはそう言われたくないと思うわよ?)
少なくともセレンの破天荒ぶりと比べたらミナホはマシだろうと思うとつい先程までのことを思い出してセレアナは思う。
「てわけでセレアナ。あたしたちもここの生徒になりましょうか」
「なにがてわけで……よ。……まぁ、いいけど」
歓迎する立場にしておくよりも歓迎される立場にしてたほうが村や音楽学校にとって正解だろうとセレアナは判断する。
(それに……恋人と学園生活ってのも悪く無いわよね)
ほんの少しだけ期待を持つセレアナだった。
「おぉ〜。今度は学校ができるんだ。いつの間にか色んなモノが出来て、村というよりは町って感じかなぁ」
出来上がった校舎を前にミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)のパートナーアーミア・アルメインス(あーみあ・あるめいんす)はそう感嘆の声を上げる。
「大分変わったし、前に撮った写真と比較してブログに乗せたら面白そうかな」
久しぶりに旅の途中で骨休めにとニルミナスへときたアーミアだが、以前来た時との比べた時の変化を見るとなかなかに面白いと思う。
「ふーん……生徒募集か。ブログに載せてみようかな」
これだけ立派な校舎であればこの短い期間でも募集する人はいるんじゃないかとアーミアは思う。
そんな感じで音楽学校を始め、村のあちこちをカメラ片手に回っていく。
「いろいろ変わって大きくなってるみたいだけど…………雰囲気だけは変わらないね」
村の外れにある小さな丘。村全体の姿をカメラにおさめてアーミアはそう思う。
「人口はともかくとして施設の充実具合じゃ町って言ってもおかしくないんだけどな……雰囲気だけは村のまんまだな」
「ユ、ユーグ? いたの?」
後ろからかけられる声に驚き、そのかけてきた人が自分が会いたいと思っていた相手で更に驚く。
「美人さんが丘に登っていくのが見えたからな。気になったんだよ」
「もう……相変わらず話がうまいんだから」
「そうでもないぞ。嘘はともかくお世辞を言うのは苦手だ」
「普通逆だと思うんだけど……本当にユーグって変な人」
そんなユーグと話して楽しいと思う自分も少しばかり変わっているかもしれないとアーミアは思う。
「ユーグは? 最近はどうしてるの?」
「いろいろあって基本的には村を離れてる。村のすぐ近くにはいるけどな。……そっちはどうなんだ?」
「こっちは相変わらずかなぁ……色んな所を回ってるわよ」
「旅か……楽しそうだな」
少しだけ羨ましそうにユーグは言う。
「ね、ねぇ……もし、良かったらなんだけど…………あたしと一緒に旅をするってことは出来ない?」
胸の高鳴りを感じながらアーミアは言う。
「そうだな…………今は無理だが、全部方が付いたらそれもいいかもな」
もちろん、その時になってアーミアの気が変わって無ければの話だがとユーグは言う。
「そっか。……それじゃ、その時を楽しみにしてるね」
言葉通りの心を映した笑顔をアーミアはユーグに見せるのだった。
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