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リアクション
「ウルディカ、この短冊に願いを書いてくれ」
祭りに参加するなりグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はおもむろにウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)に短冊を差し出した。
「……エンドロア、どういうつもりだ」
短冊を差し出されると思わなかったウルディカは当然のように聞き返した。
「俺の事はあなた達が叶えてくれる。だが、あなたの事は俺には叶えられない。勿論願掛けしたからどうなるわけではないだろうが、厳しい相手ならモチベーションを上げて挑む方がいい……これはモチベーションを上げるためにやると聞いた」
グラキエスは真剣な表情で差し出した短冊に込められた恋するウルディカを応援したという気持ちを伝えた。しかし、所々何かおかしい。
黙すウルディカは
「……(モチベーションを上げるだと……確実に何かと混同しているな)」
それに気付いていた。どうやらグラキエスは縁結びの願掛けと混同してしまっている上に、願掛けと言う行為がモチベーションアップのためなどと少々ずれた考え方をしている模様。
「どうしました、ウォークライ。いつまでも見つめていないでさっさと受け取ったらどうです? エンドが困ってしまいますよ」
ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)はなかなか短冊を受け取らぬウルディカに痺れを切らし、からかいを含んだ笑みを浮かべつつ勧めた。
ロアのその様子からウルディカは
「……キープセイク、またお前か。またエンドロアをダシに俺で遊ぶ気か」
片思いで醜態を晒す自分をネタにおちょくっていると気付き怒る。まさにその通りでウルディカを応援したいにも関わらず分からないグラキエスがロアの願掛けの提案を鵜呑みにしてこの展開。何せグラキエスはロアの意見を鵜呑みにする傾向があるので。
「遊ぶとは失礼ですね。私はただエンドのあたなが人生を謳歌して幸せになって欲しいという思いに共感して少しでも協力出来ればと……」
からかいつつも自分やグラキエスが気遣っている事は伝えるロア。
「……よく言う、ただ俺をおちょくって遊びたいだけだろ、妙な遊びを覚えやがって」
ウルディカは不愉快そうにロアを睨んだ。応援だけなら喜んで受け取るものの弄り遊ぶというのがあるから困る。
「……そう思うのでしたら皆の応援に応えてみてはどうですか。きっとエンドも喜びますよ」
ロアは言葉の端々にグラキエスの思いやりを混ぜながらも弄って遊ぶのはやめない。
「……(このままでは先に進めない。ウルディカに短冊を書いて貰うために来たのに)」
二人のやり取りを黙して眺めるグラキエスは少し困ったように手元にある短冊に目を落とした。このままでは一番の目的であるウルディカの恋の応援が果たせないからだ。
意を決したグラキエスは
「キースもほどほどにして……ウルディカ」
ロアを宥め、ウルディカに再度短冊を勧めた。
「……分かった」
ウルディカは仕方無いという手つきで短冊を受け取った。無視をするという選択もあったが選ばなかった。なぜならグラキエスが純粋に自分のための幸せを考えて欲しいと願っていると察したから。
「……(しかし……)」
短冊を手に取ったのはいいが、願い事を書くに惑うウルディカ。内容が恋愛事なので尚更である。
その横ではウルディカの醜態を眺める二人。
「エンド、気分はどうですか? 喉が渇いたりしてませんか?」
ロアはいつものようにグラキエスを気遣っていた。
「……大丈夫だ」
グラキエスは僅かに笑みながら答えるなり悩み惑うウルディカを見守る。
「そうですか。いくら夜でも最近は暑いですから、我慢しないで言って下さいね」
ロアは大丈夫そうな返事に安堵するも油断はしない。些細な事でもグラキエスは体調を崩しかねないので。
「あぁ、分かった」
グラキエスは頷いてから
「ウルディカ、書けたか?」
願掛けの案配を訊ねた。
続いて
「書く事は決まっていますから、もう書けましたよね」
ロアも弄りを含みつつ訊ねた。
「いや、まだだ。大体そんな願いを書くなど、女々しいだろうが」
ウルディカは真っ白な短冊から顔を上げ、書けない言い分をまくし立てるように言った。
「そんな事も書けない方が女々しいですよ、ウォークライ。照れてないでさっさと願い事書いたらどうです」
ロアのウルディカ弄りはまだ終わらない。
「お前、他人事のように……そもそも相手はあの女史だぞ。願掛け程度でどうにかなるものか」
ウルディカは言い返した。
「先程、エンドが言っていたでしょ。モチベーションを上げるためだと」
ロアがにこやかに願い事を書くように促すと
「……まあ、願掛け程度ならしても害にはならんか」
ウルディカはちらりとグラキエスの顔を見、覚悟を決めたのか短冊に願い事を書き記した。
その様子を見ながら
「…………(少しでもウルディカを励ます事が出来ればいいが)」
グラキエスはウルディカの恋愛成就を叶う事を願った。
ついでに
「…………(今日は七夕だったな……願いか……ウルディカやロア達みんなが幸せになって欲しいが……そのためには俺が……」
グラキエスは儚げだが優しい眼差しで二人を見つつ考えていた。自分を支えてくれる彼らが幸せになれますようにと。自分は十分だから。ただ、彼らが幸せになるためにはグラキエス自身が元気になる必要がある。パートナーロスト的な意味でもまずいと本人は思っているが、
「……自分の力ではどうにもならないし、叶えてやれない……ま、願掛けした所で無意味だろうし)」
仲間達任せのためグラキエスにはどうにもならないから。
それでも
「…………(悪くない)」
こういう穏やかな時は心地良く悪くない。ずっとは続かないと分かっていても続いて欲しいと切に思うのだった。
「エンド、ようやく書けたみたいですよ……どうしました?」
「いちいち、報告するな、キープセイク……どうした、エンドロア」
自分達を見守る視線に気付いたロアとウルディカが心配そうに声を掛けた。また具合を悪くしたのかと。
「……何でも無い。書けたのか」
グラキエスは淡く笑ってから仲間達のやり取りに加わった。
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