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食い気? 色気? の夏祭り

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食い気? 色気? の夏祭り
食い気? 色気? の夏祭り 食い気? 色気? の夏祭り

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 夫婦水入らず

 夏祭り当日、ソワソワと妻である御神楽 環菜(みかぐら・かんな)を待つ御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は落ち着きなく自宅前を行ったり来たりしていた。
「まだでしょうか……いえ、待つ楽しみも有ると言えばそうなんですが環菜の浴衣姿は久しぶりですから……うん、楽しみです」
 自然とニコニコと笑顔になる陽太は「お待たせ」と声をかけてくれた環菜へと振り向いて、一瞬言葉を止めた。
「き……綺麗です、環菜」
「……あ、ありがとう。陽太も素敵よ」
 お互い、ポッと顔を赤らめていると陽太のパートナー達から「早く行ってらっしゃい!」と夏祭りへ送り出されてしまった。


 ◇   ◇   ◇


 祭りは盛況のようで、出店が並ぶ会場は歩くのも一苦労だった。
「流石に喉が渇いたわね……陽太、かき氷ってどうかしら?」
「そうだね、環菜はシロップ何がいいですか?」
 2人で迷った末、陽太はブルーハワイを選び環菜はイチゴを選んだ。手頃なベンチが空いていて運良く座る事が出来るとのんびりかき氷を食べ始める。
「かき氷を食べるとキーンっと頭が痛くなってしまうけれど、これも夏の醍醐味ね」
「溶ける前にって早く食べようとしてしまうから、尚更ですね……って、環菜?」
 陽太は目の前に差し出されたイチゴのかき氷が乗ったストロースプーンに、思わず妻の顔を見てしまう。
「せっかくのデートですから」
 にっこり微笑む環菜に、陽太は夏の暑さとは違う熱が顔に集まるのを感じつつ差し出されたイチゴのかき氷を幸せそうに頬張った。
「うん……イチゴも美味しいですね、じゃあ俺のも」
 ブルーハワイのかき氷が乗ったストロースプーンを環菜の口元へ持っていって食べさせる陽太は、恥ずかしそうにしながらも食べる環菜を見つめていた。

 かき氷で喉を潤した2人は、広場に設けられたお化け屋敷の前に立っていた。
「さ……さあ、入りましょう環菜! 大丈夫です、何が襲ってこようと環菜は俺が守ります……!」
 陽太は苦手とするこの施設を前に、ある決意を持って挑んだのでした。

 将来、今より成長した愛娘の陽菜が
『パパとママと一緒にお化け屋敷に入りたい』
 と、言った時に困らないように……! 愛する妻にお化け屋敷に動じない、ビビったりはしないカッコいい所を見せたい……! その一念が陽太をお化け屋敷へと向かわせた。

 手を繋いだ2人はお化け屋敷の中を進んでいくと、不意に足元を何かが掠めた感触に陽太が立ち止った。
「……? 何でしょう、足元がくすぐったいような……っ!!?」
 暗闇の中で目を凝らしながら足もとを確かめた陽太は、転がっている生首とモロに目が合ってしまった。飛び上がりそうになるのと叫びだしそうになるのを必死で堪えた陽太は、環菜の手をガッチリ掴むと一目散に走り出してその場から離れた。
「よ、陽太!? 大丈夫……? 無理、しなくていいのよ?」
「だ……大丈夫、環菜は俺が絶対……守るから!」

 その頃、小道具の生首を陽太の足元に転がしたお化け屋敷のスタッフは
「漢(おとこ)だ」
 と、呟くのだった。

 その後も天井から逆さづりに落ちてくるミイラやら、お化け屋敷に似合わない紙吹雪が舞ったと思えばそれに紛れて宙に浮かぶ人魂に取り囲まれたりと、陽太には正に限界への挑戦と言える時間だった。


「本当に、大丈夫? 陽太……」
「……はあ……ダメですね、俺。環菜にカッコいい所を見せたかったんだけど」
 花火が始まるまでの休憩とばかりに、簡易ベンチに腰掛けて陽太はぐったりしてしまっていた。傍目にも落ち込んでしまっている陽太の様子に環菜は陽太の髪を梳いていくように撫でると、座る位置に少し間を空けてそのまま膝の上に陽太の頭を乗せた。
「え……? か、環菜!?」
「陽太が頑張ってくれた事は私が一番良く解っているわ……そのご褒美くらい当たり前でしょう?」
 夕暮れとはいえ、未だ人目のある祭り会場での膝枕――

 けれど、陽太はいつの間にかその心地良さに暫し凭れ掛かっていた。


 ◇   ◇   ◇


 すっかり陽が落ちて祭り会場も出店の灯りが賑わいを残す頃、花火観賞に設けられた会場とは別に2人きりで見られる場所を確保した陽太と環菜はその場所に急いだ。
「良かった、まだ見られそうだよ」
「ふふ、陽太ったらあのまま本当に眠っちゃっていたら見られなかったわ」
 クスクスと笑う環菜が先に腰掛け、その隣に陽太が腰掛けた。暫く2人で花火を見上げ、夜空に降り注ぐ光のシャワーを眺めていた。

「……そういえば、この村はイルミンスールの近くだったわね」
「思い出すね、環菜が蒼空学園の校長だった頃を……」
 頻繁にイルミンスールと競い合い、現イルミンスールの校長と顔を合わせれば殆ど売り言葉に買い言葉の応酬が良く有った。
「俺、一度火をかけられるし、雷は浴びせられるし……あの校長には散々な目に遭わされた事も有ったなぁ……」
 今だから懐かしむ事が出来る様々な出来事――過去の積み重ねがあって今がある事に、陽太は改めて思い知った。
「今もあの性格、変わってないんでしょうねぇ……」
 環菜が半ば呆れ半分に呟くと、陽太も頭の上にフキダシを出して思い浮かべてしまった。
「ま、まあ……昔よりは、あの校長も丸くなった……かな?」
 疑問形にしてしまいながら、暫く思い出話に花を咲かせると花火を見上げていた環菜が、ふと呟いた。
「ねえ、陽太……私、幸せだわ」


「環菜……」
「陽太と結婚して、陽菜が生まれて……あっという間の3年だけど、この幸せがもっともっと続いて欲しいって……欲張りになってしまう」
 花火に向いていた顔を陽太の方に向けて微笑む環菜に合わせるように、陽太も環菜を見つめ返した。
「じゃあ、もっと欲張りになるように……今以上に幸せな夫婦生活になる事を俺が予言する? 予言というより、確信……かな」
 どちらからともなく、顔を寄せて吐息がかかる程に近くなっていき唇が触れ合った。
「それは、私も確信してるわ……陽太」

 花火が照らす中、陽太と環菜の影が重なり合った――

 2人は、ただお互いを愛しいと想う気持ちを込めた口付けをかわし合い、ゆっくり更ける祭りの夜を過ごすのでした。