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【若社長奮闘記】若社長の恋愛事情

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【若社長奮闘記】若社長の恋愛事情

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★リアじゅうは恐ろしいものだと、じいちゃんが言ってた★


 太陽が真上に昇り始めていた。
 一行は真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)のフリダヤに到着していた。
「……ヘえ〜」
「なんかへんなこと考えてないか?」
 出迎えた真名美の視線に、自分にとってあまりよくない想像がされていると思ったジヴォートがじとっと見返した。
 真名美の視線を台詞に置き換えるならば
「へぇ、こういう女の子が好みなのねぇ」
 といったところだろうか。
 だが真名美は意に介さず、営業用の笑みに何かベツのものを混ぜたような顔で一行を席へと案内した。
「随分と大勢だね。急いで準備を……って、見習い君? どうしたの」
「へっ? あ、い、いえ」
 厨房から見ていた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が袖をまくり、ショックな顔をしている見習い君に首をかしげたが、すぐに作業へと戻ったので深くは聞かなかった。
(まあ年頃だし、いろいろあるんだろうねぇ)
 本人からすると、むしろ聞いてもらった方が生暖かい目線を受けるよりはよかったかもしれない。が、正直な感想を言ったところで同じ結末だった可能性は高い。

「今のお勧めはもんじゃ焼きよ。最近加わったメニューなの」
「もんじゃや・き? なんだそれ」
「もんじゃ焼き、ね。これにする? わかったわ。じゃあ作り方説明するわね。弥十郎、準備は?」
「もうすぐできるよ」
 聞こえた声に頷き、もんじゃ焼きを知らないというお嬢様・お坊ちゃんたちに楽しみにしてて、と声をかける。

 今回、もんじゃ焼きがメニューに加わるきっかけは見習いの一言だった。
「さたーんまんは冬食べたくなりますよね。鍋もそうですけど。学生が夏とかでも気軽につまめる食事ってないんでしょうか」 
 ということで考案されたのだ。

「おまたせ。
 えっと、もんじゃは、このキャベツで土手を作ってですねぇ。そうそう、そこに流し込むわけです。で、焦げ始めたらこのコテではがしながら食べるんです」
 弥十郎が材料を手に出てきて説明をしながら、横で真名美が実演をしていく。鉄板の上から聞こえるジューっという音に歓声が上がる。鉄板料理、というものじたい初めてなのかもしれない。
「なんかどろっとしてるな。腹にたまるのか、これ」
「結構お腹いっぱいになるよ」
「まあ、不思議な食べ物ですわね」
「名前を聞いたことはあったが、実際食べるのは初めてだな」
 口々に感想を言いあう中で、ランだけが輪に入りきれてない。そんな様子を美羽とコハクはじっと観察していた。

「今日はデートですか」
「え? ちが」
「そうだな。こちらの2人は初デートだな」
「ふふ。こうして一緒におでかけするのは久しぶりですわね」
「そうなんですか。なら余計に楽しんでくださいね」
「……たこ焼きはこの液を流し込んで真ん中にそのたこっぽいものを投入して、ねぎとか揚げ玉を入れて、ふちがふつふつと色が変わったらぁクルリンとしてください。変わった材料も用意してますので。スライスした青唐辛子とやチーズとか」
「はい、できあがりっと。熱いので気をつけて……冷まし合ってもいいんですよ。遠慮せずにあ〜んとかしても」
「だ、誰がするか!」
「それは楽しそうですね。ではドブーツ様、お口を」
「しないからな!」
 漫才のようなやりとりをしているドブーツたちとは反対に、ほぼ無言なランにも声をかける。
「初デートなんですよね? ふふ、楽しんでくださいね」
「は、はい」
「……さっきから思ってたけど、楽しんでないか?」
「いえいえ、そんな。めっそうもない」
 ジヴォートにじとっと見られてもなんのその。真名美の笑顔は崩れない。弥十郎はそんな真名美をみて

(楽しそうで何よりだなぁ)
 と笑っていた。

「あ、それとこれはサービスね。口直しにどうぞ」
 からかったお詫びに、ということではないだろうが。真名美は最後にパンナコッタを差し出した。
 さんざんからかわれたジヴォートとドブーツは「これぐらいで騙されるか」という顔をしながら無言で食し(ジヴォートが「うまいな」とすぐに機嫌を直したのでドブーツが「早すぎるだろ」とツッコミを入れていた)、ライラは「あらあら」と笑い、ランは……少し唖然とした顔をしてから、子どもっぽい彼の態度に小さく笑った。


***


「ん〜っいいわね、この活気」
「そうね。以前よりもますます賑やかになっているみたい」
 久々にとれた休暇。綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)はアガルタに遊びに来ていた。
 以前来た時も賑やかであったが、益々発展している様子に、2人は少し笑った。……あとで、自分達の状況を思い出して肩を落とした。
「素敵ね……ここが街のどこか分かればもっと」
「ラフターストリート、だとは思うのだけれど」
 そう。2人は迷子だった。

 繰り返すが、2人は久しぶりの休暇だった。そして久しぶりゆえに、いつもより心が開放的になっていた。なのですっかり忘れていたのだ。さゆみの方向音痴を。
「う、ごめんね」
 泣きそうな気分になっているさゆみを慰めようと、アデリーヌは近くにある店へ入ろうと促した。フリダヤ、と書かれたそこからは良い香りがしている。
「そっか。もうお昼ごはんの時間なのね」
「ええ。美味しいもの食べて、それから店の人に道を聞きましょう」
「……ありがとう」
 ゆっくりと、しかししっかりと手を握り合い、微笑みあう。そして仲良く店内へ。

 店には団体客がいるらしく、随分と騒がしい。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
「席空いてますか?」
「はい、どうぞこちらへ」
 真名美が応対に出る。その途中、ジヴォート一行の横を通り過ぎる。
(2人組が3組……とカメラが3台? 一体どういう一団なのかな?)
 なんとも珍妙な一行に興味がわく。注文をしたあと、料理を待ちながら観察する。
(いいところのお坊ちゃん達って雰囲気ね)
(……あのぎこちない2人ははじめてのデート、ですか……どうりで)
 聞こえてくる会話で事情を察する。カメラはデートスポットの紹介をするために同行しているらしく、ならば

「ねえ、私たちも一緒に行っていい?かしら」
 彼らについていくのが安全であり、またデートスポットを回るのであれば2人で過ごす休暇にもちょうどいい。カメラに撮られることは、アイドル活動をしている彼女たちにとって苦ではない。
 それになにより

(高みの見物ってのも楽しそう)

「えっと……? まあ、俺はかまわねーけど」
 ジヴォートが戸惑ったまま周囲を見るが、反対の声は上がらなかったため、またまた一行が増えた。
 これは……何デートと呼んだらいいのだろう?

(なんつーか、ますますカオスなことになってんなー。さすがイキモの息子というかなんというか……あーあ。また静かに文句言い合ってるし。ははは。こいつらめんどくせぇー。
 仲良過ぎだろーよ)
 どんどん増えていく一行に狐面をつけた男、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は店の裏で音を漏らさずに苦笑した。
 そんな彼の足元には男たちが横たわっている。強面の男たちがジヴォートたちの周囲をうろちょろしていたので、何かある前にと唯斗が意識を刈り取ったのだ。
 実はこのデート中。彼はずっとこうして不審な輩を倒し続けていた。
(間違ったらごめんな! 反省はしないけど!)
 一応心の中で謝り、警察も呼んでおく。後ろめたいことがなければ釈放されるだろう、たぶん。
(んー、しっかしアレだな。お相手の嬢ちゃんの事、忘れてね?
 見合いが行われるって事はだ。相手のラン嬢ちゃんは純粋に好意を持ってくれてるかもだろ?)
「というか、そうだと俺が面白いけどな……っとと、移動するか」
 ジヴォートたちが店から出てきたので口をつぐむ。いや、他にも彼が口をつぐむ理由があった。
 何か、不穏な気配を察知したのだ。


 少し時間は遡る。
 ラフター通りにある一つの食堂。食堂なのに、なぜかいつも賭けが行われているというアガルタ食堂では、今日も今日とて上田 重安(うえだ・しげやす)が食うか食われるかの食材との勝負を繰り広げていた。
「ぐぬう。負けないでござるよ」
「重安、今日は勝ってもいいぞー」
「なにおぉ。負けてくれてもいいんだからな」
 それを眺める観客達は好き放題に言ってのけるが、当人からするとそれどころではない。
 鳥、のような羽を持った貝? のような。海老のような……不思議な食材の触手攻撃を必死に受け流し、切り落とす。

(まあ今回もなんとか処理できそうね)
 そんな様子を窓から見たコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は眼鏡のズレを直し、家計簿……ではなく。店の会計処理を続ける。
(野菜や生鮮食品が大分安くなってきたわね。これならなんとか……)
 大分安定してきた物価に店の利益。コルセアの頬も緩む。
(あとは今日一日何事もなく済めば)

「このテロリストがいる限り、アガルタでデートは成功しないのであります!」

 聞き覚えのある声とほぼ同時に街に響く爆発音。
 窓を振り返れば、やはり見覚えがあるっぽい人影が両手に爆弾を握り締めていた。
 その人物はコルセアのパートナー、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)にそっくりだった。
「【非リア充エターナル解放同盟公認テロリスト】の何かけて、阻止してみせるのでありますよ!」
 使命に燃えている姿は本当にそっくり……いや、あれは本に



「さっ仕事仕事。ワタシは何も見てないし聞いてない……うん、そうよ」
 カーテンを引き、窓をしっかりと閉め、ついでに耳栓をと思ったがなかったのでイヤホンを耳につけ、電卓に手を伸ばした。

 ほぼ同時刻。ようやく食材を倒した重安もその音に気づいた。
「んん? 一体なんの音でござ」
「自分こそは非リア充エターナル解放同盟公認テロリストなのであります! リア充がいるかぎり、自分達の戦いは終わらないであります!」
「そうだー! リア充撲滅だ!」
「爆発だ!」
 周辺の非リア充たちを味方につけた吹雪が、暴れていた。そして元々あちこちにトラップをしかけていたのか。あちこちから上がる悲鳴。
 これはいかんっと助けに向かう重安だが、一歩踏み出した時、カチっと音がした。
「ん? ぬおおぉぉぉっ」
「むぅ。なんだい。今回も吹雪ちゃんの勝ちかい」
「ふふふ。甘いな旦那。俺ぁ、最初から吹雪ちゃんに賭けてたぜ」
 爆発音と共に飛んでいった重安の姿を見送り、喜んだり悔しがったりする住民達。……騒動に慣れすぎである。

「ちぃっ。ここの街の住民はどうなってんだよ」
 唯斗が舌打ちした。
 そのことに関しては本当にどうなってこうなったのか。自分にも分からない。

 彼はまず状況を確認。
(嬢ちゃんたちは無事……ってか、ライラ嬢はかなりのやり手だな。ライラ嬢がいれば問題なさそうか。他の契約者もいるしな)
 周囲に漂う煙にも「あらあら」と言いながらしっかりと周囲へ目を走らせている彼女を見て、唯斗は走り出した。周囲の時すら、置いていくかのような速度で。
 この隙にジヴォートが抜け出したのだ。


***


「それにしても、良かった。どうやらハーリーさんは元気みたいだよ、ペンタ?」
 そうペンギンアヴァターラ・ヘルムに話しかけたのは酒杜 陽一(さかもり・よういち)だ。その後のアガルタが気になり、街を見回っているようだった。
 声をかけられたペンタは言葉を理解しているのかいないのか。まったくだ、と言っているかのように首を縦に振った。
 陽一は愛らしい様子に少し笑い

「……最近物騒なことが続いたけど、この街の人たちは強いね。もう前を向いてる」
 顔見知りの人も、そうでない人も。笑顔で生きている。
 と、ペンタが何かジェスチャーをした。
「うんん? ああ、そうだね。ニルヴァーナの人たちも元気だったね」
 言葉は分からないものの、なんとなく先ほど出会ったニルヴァーナ人たちのことを言っているような気がして、同意した。ペンタも満足そうなので合っているのだろう。……いや、そもそも通じているのかはやっぱり分からないが。

 彼らが満足そうに街を歩いていると、唐突に街がざわつき始めた。
 とはいっても、悲鳴というよりは『またか』という慣れた雰囲気だが。
 いつものことだ、といった態度に少し苦笑しつつ、ほうっておくわけにも行かない。陽一は騒ぎの方へと駆け出した。その際、ペンタを頭に乗せておく。
 大人しくしていたペンタは……しかし突然飛び出した。

「うおっ? ペンギンっ?」
「ペンタっ!」
 角を猛スピードで曲がってきた人物が驚きながらペンタを抱きとめた。陽一は慌てて頭を下げる。
「すみません、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……お前も大丈夫か」
 ペンタの安否を確認してほっと息を吐き出すのは、デートから逃げ出してきたジヴォートだった。

「覚えておくがいいであります、貴様らがデートする限り第二第三の刺客が放たれるであります!」

 後ろから聞こえてきた声と爆発音に、2人がハッとする。ジヴォートは後ろを心配げに見ながらも反対方向へと走り出そうとし、陽一が彼の手を掴む。
「あの……ペンタ、返してもらってもいいですか?」
「え? あ」
 ペンタを抱きとめたままだったことに気づいたジヴォートは完全に足を止め、ペンタを地面に下ろす。完全に勢いがそがれてしまった。
「……ふぅ。目をそらすなってことかな」
「あの、大丈夫ですか?」
 ため息をつくジヴォートに声をかける。ジヴォートは答えようとして、陽一の指にはめられたリングに気づく。
「結婚してるのか?」
「え、ええ」
 戸惑いつつも、相手を思い出したのか。自然な笑みをこぼす陽一に、ジヴォートも笑う。
「結婚が悪いものだとは思ってない……けど」
 どこか苦しそうな様子に、もしかして結婚を強制されているのかと察する。
「……? えっと、事情は分かりませんが……あなたはあなたらしくいればいいと思いますよ。その末に結婚というものが待っているか。別の道かは分かりませんが」
 あなたは悪い人じゃなさそうですから。
「俺らしく?」
「はい……まあ、通りすがりの独り言だと思ってください。では」
 ペンタと共にお辞儀をして去っていく陽一の背を、ジヴォートは逃げることも忘れて眺めていた。

(追いついたはいいが、逃げる気配はなさそうだな。場所だけ伝えとくか)
 唯斗はそんな様子を見て、ドブーツにジヴォートの居場所を伝え、少し遅れて合流した。
 誰もがほっとし、それから怒った。
「ちょっと、彼女を放って逃げ出すってどういうこと!」
 ジヴォートに近づき、さゆみがささやく様に言った。アデリーヌも静かに怒っているようだった。
 もう2人とも気づいている。ジヴォートにヤル気がないこと。そして……どうやら破談にするために他人の手を借りていることに。
 だからこそ、ランに聞こえないように怒っていた。
「そのようなやり方で丸く収まると思ったら大間違い。却って禍根を残します。ご自分で自分の意思を伝えるべきですわ」
 ジヴォートは、そんな2人をじっと見返す。少しの間だが、二人の仲むつまじい様子を見た。楽しそうにしていた。
 いや、2人だけじゃない。みんなも楽しそうで……それを壊しているのは自分で……なのに心配してくれ、こうして怒ってくれる。

「なに?」
「いや。本当に俺はめぐまれてると思って」
「それはどういう……」
「お前らがいいやつらだってことだよ。ありがとな……それと、悪い。疲れたから先にホテル戻るわ。大丈夫、にげねーから」
 だがこの時ですら、ジヴォートはランの方を見ることはなかった。