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リアクション
現在、2024年。あおぞら幼稚園前、昼。
「お待たせ、美羽ちゃん」
「今日は来てくれてありがとう、瀬蓮ちゃん」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に誘われた高原 瀬蓮(たかはら・せれん)が待ち合わせ場所に現れた。
「それじゃ、行こう! ナコ先生には幼稚園の台所を使う許可は貰ってるから幼稚園の子達と一緒にお菓子作りをしよう!」
待っていた親友が来た所で意気揚々と幼稚園に入ろうとする美羽に
「……瀬蓮も手伝っていいの? 料理だと迷惑かけちゃうよ?」
瀬蓮は恐る恐る言った。瀬蓮はお嬢様育ちで自分ではほとんど料理をした事がなかった上にドジっ子なので料理に関しては色々失敗ばかりのため親友の誘いだからと来たものの気が引けているのだ。
「大丈夫! 私が全力でお手伝いするから! それに一人よりも二人で料理する方が楽しいし、上手に料理する事も大事だけど一番は楽しくだからね!」
全く気にしない美羽は笑顔で瀬蓮の悩みを吹っ飛ばす。
「……楽しく……うん、そうだね!」
瀬蓮は少しばかり美羽に言われた事を口の中で繰り返した後、悩み顔を笑顔に変えた。
「そうだよ! それじゃ行こう!」
美羽は瀬蓮を引き連れ、幼稚園に入った。
ナコを通して事情を知らされた園児達は美羽によるお手伝い要請にわくわくしながら待っていた。丁度、秋の味覚狩りを体験した後である。
あおぞら幼稚園、教室。
「時にはやり過ぎな悪戯もあったけど色々と楽しい悪戯や発明で楽しませてくれたヒスミとキスミに日頃の感謝を込めて美味しいお菓子をプレゼントしよう!」
美羽は集まった子供達に目的を説明した。
「あの楽しい双子のお兄ちゃん達だね、作るよ!!」
「ねぇ、何作るの!!」
「作ったの食べてもいい?」
美羽の話が終わるなり子供達はわぁわぁと騒ぎ始めた。ちなみに園児達も双子とは面識がある。
「お手伝いありがとう。作った物は二人が来てから一緒に食べようね。作る物は、チョコにクッキーやマドレーヌにプリンにゼリーに色々作るよ」
美羽が作る予定のお菓子を列挙すると
「クッキー!! お姉ちゃん、クッキーはまかせて。お家でね、型抜きしたんだよ!! 上手なんだよ!!」
女の子が胸を張って大声で誇らしげに言った。
「それは頼りになるなぁ。お願いするね」
美羽は可愛らしい子供に微笑ましい気持ちになった。自分達にとって何でも無い事が小さな子供にとっては大した事なのが可愛らしい。
「ねぇねぇ、早く作ろうよ! ボク、プリンが食べたい!!」
食べるのは後でと言われたにも関わらず食べたくて仕方が無い男の子がせっつく。
「それじゃ、早速作ろう!」
美羽の合図で台所への移動を開始した。
あおぞら幼稚園、台所。
「まずは固めたり冷やしたりが必要な物から作って行こう! ちなみにゼリーは色んな味が作れるように色々揃えてるから」
美羽はチョコやプリンなど少し時間が掛かる物から取り掛かる事に。
「こんなにも色々あったら楽しいね」
瀬蓮は味となる様々な物を見回し、ワクワクしたように言った。
「でしょ!」
瀬蓮の反応に美羽は大満足。
早速お菓子作りを開始した。
お菓子作り中。
美羽の丁寧な指導の下、ゼリーとプリンの材料をそれぞれボールに入れてから必死にかき混ぜる作業に突入していた。
「材料はこれで全部入れたから後はひたすら混ぜるだけ! みんな頑張って混ぜよう! よく混ぜたら型に入れて冷やすだけ!」
美羽はプリンの素が入ったボールを必死に混ぜながら言ってから
「瀬蓮ちゃん、大丈夫?」
瀬蓮の案配を確認する。
「うん、混ぜるだけだから。それに包丁を使ったりとかあまり無いから大丈夫だし美羽ちゃんの教え方も上手だから」
ゼリーの素が入ったボールを必死に混ぜていた瀬蓮が楽しそうに言った。本日はお菓子作りで頻繁に包丁を使用する場面は少ない上に美羽の丁寧な指導もあって何とか大きなヘマは今の所ない。
「そっか、良かった」
美羽は親友が色々失敗をする料理で楽しそうにしている事が嬉しかった。
「お姉ちゃんの次に混ぜたい人、いる?」
美羽は混ぜるだけなので子供達にもさせようと声をかけると
「やりたい!」
「混ぜる!!」
「次、あたし!!」
子供達が一斉に名乗りを上げる。
「それじゃ、みんな順番に混ぜようか」
美羽は一人だけに任せるような事はせず全員参加出来るように上手く取り計らった。
さらに
「お姉ちゃんも手伝って欲しいなぁ」
瀬蓮も加わりゼリーのかき混ぜも加わり、かき混ぜしたい子供達全員体験出来るようにした。
かき混ぜが終われば最も楽しい作業。
「みんなはどの型がいいか選んでね。あと選んでくれた型にプリンの素とゼリーの素を入れるからね」
美羽は揃えておいた大量の型を並べて子供達に選ばせる。
「お星様!」
「わんちゃん」
「ねこちゃんも」
子供達はそれぞれ好きな型を手に取り主張する。
その結果
「……美羽ちゃん、全部使わないといけないみたいだね」
瀬蓮はくすりと笑みながら言った。子供達の人数もあってか並べた型全部にそれぞれ主張する子達がつくようになったのだ。
「そうだね。でもその方が楽しいからいいかな」
美羽は却下する理由もないため子供達の意見を尊重した。
ともかく型を選び終え、子供達と交代ながら素を流し込む時
「……忘れずにこれも入れなきゃ」
美羽は予め用意したキャンディーをぽとんと型の中に落とした。
「美羽ちゃん、それは?」
気付いた瀬蓮が不思議そうに訊ねた。
「これはヒスミとキスミにあげる私からのプレゼント……と言うより悪戯かな」
美羽は悪戯っ子な顔で口元をゆるませて言ってから
「だから、このお菓子の事は秘密だし食べちゃだめだよ?」
双子以外の者に被害がいかないようにと注意をしつつ口元に人差し指を立てて秘密がばらされないよう言い含めるのも忘れない。
「うん! ひみつだね!」
「大丈夫!」
子供達は美羽の動作を真似して口元に人差し指を立てながらしっかりお約束した。
材料が流し込まれたゼリーとプリンの型は冷蔵庫へ行き、続いてチョコレートとマドレーヌを作り上げた。それぞれのお菓子にきちんと悪戯も仕込むのを忘れない。
そして、一番盛り上がったのはクッキーの型抜き。
「みんな好きな型を選んだかな?」
美羽は綿毛兎の型を手に持ちながら型選びが終わったか聞くと
「選んだー」
「お花だよ」
「音符の形にしたよ」
子供達はそれぞれ選んだ型を美羽に見せながら元気に返事をした。
「瀬蓮も選んだよ。リボンの形」
瀬蓮も自分が選んだ型を見せながらにこにこと返事をした。
「それじゃ、型抜き開始!!」
美羽の元気な合図で一斉に型抜きが始まった。
「ほら、見て見て、上手でしょ」
型抜き経験を言っていた女の子は自慢げに自分が型抜きした物を見せて自慢。
「上手、上手」
美羽はパチパチと手を叩いて褒めてから
「瀬蓮ちゃんはどう?」
瀬蓮の様子を見る。
「ちょっと、上手に出来ない」
瀬蓮は型抜きは成功したものの型崩れしている物を見せた。
すると
「それなら……」
美羽は上手く行く方法を丁寧に教えた。
そのおかげで
「ありがとう!」
瀬蓮の顔は明るくなり再挑戦し、見事に型抜きに成功した物を手にする事に成功した。
型抜きが終わり、焼きに入れてクッキーを完成させた。
それにより
「これでお菓子の準備は完了だね。後は二人を呼ぶだけ!」
お菓子は全て揃った。美羽はすぐさまお菓子の事は伏せて双子をあおぞら幼稚園に呼び出した。丁度昼のお茶会が終わった所だった。
しばらくして、あおぞら幼稚園の前に
「何か招待受けたんだけど」
「一体何だよ。教えろよ」
用事の内容を知らぬヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)とキスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)は現れ、美羽に教室に案内されつつ訊ねた。ちなみにロズはお茶会の後片付けを双子に押しつけられ来ていない。
「それは教室に入ってのお楽しみだよ」
美羽は笑って誤魔化し案内を続ける。
「……お楽しみって」
「……ホント、気になるよな」
疑問を口にしながら目的の教室までついて行った。
あおぞら幼稚園、教室前。
「さぁ、開けてびっくりだよ……ちなみに何かが出て来るとかないから」
美羽はドアは開けず、双子に任せる。双子と違って安全だと付け加えるのも忘れない。
「……びっくりって」
「一言多いんだよ」
文句を言いながら双子はドアを開けた。
途端
「すげぇ、何だよ、これ。お菓子ばっかじゃん」
「パーティーでもあるのか」
テーブルに沢山のお菓子が載っているのを見て浮かれながら美羽に訊ねた。
「みんなで作ったんだよ。やり過ぎとか迷惑も掛けられたりしたけどいつも楽しませてくれているヒスミとキスミに日頃の感謝を込めて」
美羽はにっこりとパーティーの趣旨と共に双子に日頃の感謝を伝えた。
「本当かよ?」
「すげぇ」
まさかの言葉に仰天する双子。何せ説教はあれど感謝はまれだから。
「本当だよ!」
美羽が念を押すと
「ありがとうな」
「ありがたく食べるぜ」
双子は早速近くにあるお菓子を頬張る。
「すげぇ、美味しいぜ」
ヒスミはマドレーヌを食べると
「ありがとう、そう言ってくれると嬉しい」
自分の作ったお菓子を美味しく食べられている様子に瀬蓮は嬉しそうであった。
「美味しいぞ。これからも色々と作るぞ!」
キスミはクッキーを食べながら悪戯にますます精を出そうと宣言する。
その時
「楽しみにしてるよ。こっちのプリンとゼリーも食べてみてよ。美味しいんだから!」
美羽は二人をおだててさり気なくとっておきのプリントゼリーを差し出した。
「んじゃ、俺はゼリーを」
「プリンを食べてみるか」
おだてられウキウキと双子は何の疑いもなくそれぞれ頬張った。
途端
「!!!!!!!」
二人の口の中で激しく何かが破裂し顔があっという間に歪んだ。
「お兄ちゃん達、びっくりしてる」
「すごいお顔!」
子供達は双子の驚き様にきゃらきゃらと楽しそうに笑う中
「私の悪戯入り特製プリンとゼリーだよ。お味はいかが?」
美羽がしてやったりとニヤリとした。
「……何だよ……これ……」
「……何かプリンの中に……入っていると……思ったら……」
衝撃がまだ口に乗る双子は美羽を睨みながら苦しそうに言葉途切れ気味に問いただした。
「口の中で破裂するキャンディーを仕込んだの。たまにはこちらの悪戯で二人を驚かせたいと思ったから」
美羽はにっこりと種明かしをした。される方もたまにはする方に回りたいものだしお仕置きたまには休業したいと。
美羽の言葉から悟ったのか
「……なぁ、もしかして……」
「……他のお菓子にも……あったりとか……」
並ぶ様々な菓子に青い顔になった。本当に察しはいい。
しかし言ってしまっては悪戯にはならないため
「あるようなないような?」
美羽はおどけたように悪戯の所在を誤魔化した。
「ちょっ、何だよ、その曖昧な言い方!!!」
「これってオレ達のためのパーティーだよな?」
双子は美羽を睨み付け大声で文句を言った。日頃の感謝の割には自分達が痛い目に遭っているため何か違うと。
「そうだよ。ヒスミとキスミと言えば悪戯だし、ぴったりでしょ! ほら、美味しいよ。ね、瀬蓮ちゃん」
双子の扱いに慣れている美羽は双子の言い分なんぞ気に留めずさらりと流し、親友に話を振る。
「……う、うん!」
話を振られた瀬蓮は戸惑いながらもこくりとうなずいた。
「……うぅ」
双子はやられたとばかりに唸っていた。
この後、子供達に悪戯菓子を渡されたり自ら手に取ったりと上手い具合に仕込まれているお菓子を消化し、安全なお菓子に当たると大袈裟な顔で安堵して頬張っていた。
「……平和で楽しいのが一番だね、瀬蓮ちゃん」
「そうだね、美羽ちゃん」
美羽と瀬蓮は安全なお菓子を頬張り双子を眺めながら平和で賑やかな日常を愛しく思っていた。