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リアクション
第四試合
リングサイドに着いたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、少し不安に感じていた。
今回の参戦に関して、アデリーヌは綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)に好き勝手暴れさせるつもりで許可を出したのである。
さゆみはアイドル活動、略してアイカツに現在非常にストレスを感じているようで、コールタールのようなどす黒い何かが心にドロドロに沈殿している。
そんな中選手の募集の話があり、自ら食いついたのである。更に数ある試合の中でも危険度の高い蛍光灯リングを自ら選んだ。
好き勝手やらせるつもりであったが、本当に出させて良かったのか。自分も一緒に出ればよかったのではないか。というか自分も出たかった。
と思考が脱線し始めた所で頭を振ってリングへと視線を戻す。リング上ではレオタード姿のさゆみがエルと対峙している。
さゆみはゴングが鳴るのを今か今かと待ちわびている。今にも飛び掛かりそうである。
ただ事では済みそうにない、とアデリーヌは思った。
――その予想は、正解であった。
開始直後から、さゆみはフルスロットルでエルに襲い掛かった。
まず手当たり次第落ちている蛍光灯を拾い、奇声のような物を上げてエルの頭目がけて振り下ろす。
エルは微動だにせず蛍光灯を受ける。真っ二つに折れるとさゆみはそれを捨て、新しい蛍光灯を拾い振り下ろす。
何度かそれを繰り返すと、エルの額から血の筋が流れ出す。飛び散る破片で切れたのだろう。
「その程度!? もっと気合い入れて血ぃ流さんかい!」
さゆみがエルに向かって叫ぶ。
「なら貴方も流してもらいますよ」
エルはそう言うと、先程のお返しとばかりに蛍光灯を拾いさゆみに振り下ろす。それをさゆみは防御せず、頭から受ける。
――そこから(蛍光灯で)殴られたら(蛍光灯で)殴り返すを互いに繰り返す壮絶なしばき合いが始まった。
次第に攻防は蛍光灯で、から蛍光灯を挟んで、に変わっていく。
さゆみがエルに蛍光灯を抱えさせてからドロップキックをぶちかますと、エルはさゆみに蛍光灯を抱えさせてヘッドバッドをぶちかます。
さゆみが割れた破片を撒き散らすとその上にバックドロップを放つと、お返しにエルは破片の上にボディスラム。ならばと今度はさゆみはパワーボムだ。
どちらかが技を放てばもう一方が返す。お互い一歩も引かない――否、引けない意地の張り合いが続いた。
さゆみもエルも、露出した肌は傷だらけでそれは顔とて例外ではない。額や頬には切り傷が至る所にできており、エルはその金髪が一部血に染まり赤くなっている。黒髪のさゆみは解りづらいが、同じく出血しているだろう。
やがて蛍光灯を使うのを止めると、お互い単純に殴り合いが始まる。最初はエルボーから始まり、次第に拳を使った物となる。
ボクシングの様な打ち合いではなくもっと武骨な拳の叩きつけ合い。男性同士でもここまでの事が出来るかどうか、という程の殴り合いによる鈍い音が観客席まで響いていた。
「もっとよ! もっと来なさい! もっと気合入れて血ぃながせぇッ!」
さゆみが怒鳴り、エルに拳を叩きつける。ゴツゴツと鈍い音が、次第に水音が混じりだしてくる。
流れが変わったのはエルが一発ストレートを入れた時であった。ぐらりとさゆみの身体が揺れる。しかしよろけつつロープに体を預け、悲鳴のような叫び声を上げてフロントハイキックを返す。
今度はエルの身体が揺れ、ロープに体を預けると反動を利用し飛び上がり、さゆみの頭を抱えてDDTで叩きつけた。
突然のDDTにより、さゆみの動きが止まる。
これを勝機と見たか、エルはさゆみを抱えるとパワーボムの体勢で持ち上げ、更に腕を上げて高々と掲げると一気にリングへと落とす。
リング上のさゆみがまき散らした破片の上にラストライドで叩きつけられる。大の字になったさゆみをエルがフォールする。しかし2.9で何とかさゆみは肩を上げた。
フォールを返したものの、さゆみはダメージが大きく起き上がる事が出来ない。しかし今フォールしてもさゆみは意地で返すだろう。それはエルにも解っていた。
ならば、とエルはリング上の蛍光灯を集め、一ヶ所に並べる。並べ終えると、倒れているさゆみを無理矢理引き起こし、並べた蛍光灯をまたぐ様に立つ。
エルはさゆみの頭を脇に抱え、ブレーンバスターの様に持ち上げる。するとさゆみがエルの正面に来るように持ち替えた。体勢的にはファルコンアローのような形になった。
そのまま背中から蛍光灯の上に叩き落とすのか、と見る者は予想していた。だが、それは違った。
「必殺! ラブドライバー!」
エルはそう叫ぶと、自ら尻餅を着く様に開脚して飛び上がり、さゆみをそのまま脳天から垂直に落とした。
まるで突き刺さるかのように並べられた蛍光灯に落下したさゆみ。蛍光灯の破裂音と共に、鈍い音が鳴り響きそうであった。
SSDというブレーンバスターからリバースパイルドライバーへと移行する荒業である。垂直に頭から突き刺さる上、飛び上がるため高さが加わる危険極まりない技である。
突如放たれた危険技に会場が一瞬静まり返る。
静寂の中、エルはピクリとも動かないさゆみの片足を抱えフォール。唖然としていたレフェリーもハッと我に返るとカウントを始める。
これにはさゆみも返す事は出来ず、カウント3を数えられることとなる。
ゴングが鳴り響き、試合が終わった事に気付くと観客からざわめきが起こる。
ピクリとも動かないさゆみをリングから下ろすと、慌ててアデリーヌが駆け寄る。息はある様子にアデリーヌはほっとする。
だが意識がない為、さゆみは緊急で救護室へと運ばれることとなった。
その間もアデリーヌは横に離れずについていたが、血まみれのさゆみを見て、興奮したようにハァハァと息を荒げていたとかいないとか。
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