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第九試合

――棺桶マッチも、遂に最後の5試合目となった。
 棺桶マッチのラストを締めくくるのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。それぞれセコンドとしてダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)を伴って入場。
 選手名のコールも終わり、ゴングが鳴らされるのを待つだけ。そんな時に、それは聞こえた。
「……ぬるい……ぬるいであります」
 地を這うような忌々しい呪詛にも似たような声。耳にしたルカルカは何事かとリング内を見渡すが、その声は吹雪が発しているようであった。
「ぬるすぎるでありますよ! コルセア!」
 吹雪は大声でそう言うと、コルセアから差し出されたガソリンタンクを受け取るや否や、棺桶や周囲に撒き始めた。
「……何してんの、アレ?」
 ルカルカがリングサイドにいるダリルに問うが、「さあ、わからんな」と返される。
 やがて吹雪がタンクを空にすると、マッチに火を点け放り投げる。
 一瞬で燃え上がる棺桶。それを見て満足げな表情を浮かべ、激しく燃え上がる棺桶を指さし吹雪が叫ぶ。
「この戦いの決着は一つだけであります! この燃え盛る棺桶で相手を葬った方が勝者となるであります! 敗者には『死』有るのみの火葬マッチであります!」
 そう言うと吹雪は狂気を孕んだ笑い声を上げる。
「え、これどうしたらいいの、ホントに」
 対してルカルカは戸惑うばかりである。レフェリーを見るが、こちらも戸惑う様子を見せながらも誰も止める様子は無い。
「このまま試合をするという事だろう、覚悟を決めろ」
 ダリルに言われ、ルカルカは「え、ホントにこれで?」と戸惑うが、実際運営も止める様子が全く見られない為一つ溜息を吐くと両手で頬を叩き気合を入れる。
「あーわかったよ! やるしかないんでしょやるしか!」
「その通りであります! 殺るしかないでありますよぉッ!」
 完全にイッてる眼で吹雪が笑う。
 リング上がカオスになる中、ゴングが鳴り響いた。

 開始直後、ルカルカも吹雪も互いに距離を詰める。
(リングの上にまで飛び火してる……早めに決着を着けないと……)
 早期決着を狙おうと考えているルカルカに、吹雪が「隙ありぃッ!」と飛び掛かる。
 放ったのはジャブに似ていたが、拳を作らず指で突くフィンガージャブ。それをルカルカは最初ジャブかと思い受けようとしたが、危険を察知し身体を仰け反らせて躱す。
「避けるなであります」
「避けるよ! 今明らかに目狙ってたよ!?」
 ルカルカの言う通り、吹雪のフィンガージャブの狙いは目潰しであった。
「目くらいどうってこと無いであります! 命置いてけであります!」
 叫ぶなり鳩尾を狙った水月蹴りを放つ吹雪。こちらをルカルカは両腕で受け止める。
「どうってこと無くない! そっちは足置いてけ!」
 受け止めた足を抱え、軸足を押すように蹴ると吹雪は倒れる。そのままルカルカも倒れ込み膝十字へと持ち込む。が、
「いたたたたたたた! 痛い痛い! 痛いって!」
自身の足に走る激痛に思わず拘束を解いてしまう。吹雪がルカルカの足を肉を引きちぎらんばかりの力で抓り上げていたのである。おまけに拘束が解け解放されるとそのまま足に噛みつく。割と本気で。
「痛いって! 痛いって言ってんでしょーが!」
 噛みついて離れない吹雪の頭をルカルカがバシバシ叩くと、漸く開放する。足にはくっきりと歯形が残り、抓った後と共に血が滲んでいる。
 更に吹雪はさっと立ち上がると、ルカルカを立ち上がらせまいと執拗にストンピングを浴びせる。嫌らしく頭を狙い続けるが、放った一発をルカルカが捕らえるとそのまま立ち上がる。
「随分と好き勝手やってくれたねぇ……」
 ルカルカは引きつらせるような笑みを浮かべると、足を抱えたまま吹雪の顔面にエルボーを放つ。気合と共に振り抜くようなエルボーである。
 2発殴りつけると、残った手で吹雪の頭を脇に抱え、持ち上げる。
「フィッシャーマンズバスター……とみせかけてDDTぃッ!」
 持ち上げた所で垂直に頭から落下する。前頭葉を強打した吹雪は頭を抱えつつ転がりエスケープ。
「逃がすかぁッ!」
 ルカルカも素早くリングの外へ下りる。
「もらったぁッ!」
直後、コルセアがルカルカの顔に催涙スプレーをかける。顔を押さえるルカルカの横で、フィッシャーマンズDDTのダメージから未だ立ち直れない吹雪をコルセアは無理矢理叩き起こすと「新しい凶器よ!」と観客席から無理矢理ぶん取ったパイプ椅子を手渡す。
「おっと、手が滑った」
 わざとらしい事を言いつつ、ダリルがルカルカに隣にあったパイプ椅子を滑らす様に投げる。そして何故か一緒にルカルカから預かっていた凶器用のゴングまで転がしていた。
(……ん? あれは預かっていたゴング……本当に手が滑ったか。まぁ、問題ないだろう)
 問題しかないだろう。
 視力が徐々に回復したルカルカは足元に滑り込んできたパイプ椅子を手に取り立ち上がる。すると吹雪が満面の笑みで「死ぬでありますよ!」とパイプ椅子を振り下ろそうとしていた。
「調子に乗るなぁッ!」
 振り下ろされるパイプ椅子に、ルカルカもパイプ椅子を振り回す事で弾く。
 両者とも勢いがついていた為、大きく弾かれるが強引に体勢を立て直すとまたパイプ椅子を叩きつけようとする。そしてまたパイプ椅子同士がぶつかり合い弾かれる。
 お互いに相手の攻撃を受けようなんてことは考えず、ただパイプ椅子を叩きつける事しか考えていない。その打撃同士がぶつかり合い、弾き合う。まるでチャンバラだ。
 観客も目まぐるしく変わる展開に唖然とするばかりで、歓声を送る事すら忘れていた。
 静寂でパイプ椅子の枠がぶつかり合う音だけが響いていた。

――パイプ椅子チャンバラが両者ともパイプ椅子を弾き飛ばす、という結末で終えるとリングへと戦いの場を戻す。
 棺桶が燃え盛るのに合わせるかの様に、吹雪の行動もエスカレートを始める。
 目や急所を狙う打撃に、関節技から逃れるための噛みつきや抓りに加え、極めたら本気で折ろうとする腕十字まで加わる。
 それらの攻撃を凌いでも、場外からコルセアがぶつける様に凶器を投げ入れてくる。
 これらの行動にルカルカの身体以上に心が折れそうになるが、ダリルがこっそりと【完全回復】をかける。
【完全回復】を受けたことを知らない吹雪がルカルカをロープへスルーし、戻ってきた所をパイプ椅子でぶん殴ろうと身構えていた。
「くらえぇッ!」
 だが戻ってきたルカルカは、ブル・ハンマーでパイプ椅子ごと吹き飛ばした。
 転がるようにダウンする吹雪を捕らえると、ルカルカはパワーボムで抱え上げる。
「吹雪! 新しい得物よ!」
 やる気無さげに場外からコルセアが何かを放り投げる。それをキャッチすると、吹雪は笑みを浮かべた。
「ふふふ、狂気100倍でありますよ!」
そしてキャッチしたそれ――ゴングを思い切りルカルカに振り下ろした。先程ダリルが『手を滑らせ』て転がした物である。
 カン、と気味のいい音が鳴りそうであるが、実際なったのはゴッ、という鈍い音。
 思わずルカルカは手を離してしまう。逃れた吹雪はコルセアが更に投げてきたパイプ椅子をキャッチ。
「死にさらせであります!」
ルカルカ目がけて思い切り椅子を振り下ろした。座席部分が衝撃で吹っ飛び、パイプの枠がルカルカの首に引っかかったままになる。
 吹雪はルカルカの背後に回るとパイプ枠が引っ掛かったままジャーマンで投げ捨てる。かなり危険な落ち方をし、ルカルカが大の字になり動かない。
 それを見た吹雪は、棺桶の蓋を蹴飛ばして閉めるとコルセアに向かい叫んだ。
「コルセア! アレを出すでありますよ!」
 コルセアはリング下をごそごそと漁ると、長テーブルを取出しリングへと入れる。
 吹雪はそれを運ぶと棺桶の前に設置。無理矢理ルカルカを引き起こし、一発背中に腕を叩きつけるとテーブルの上に寝かせる。
 更に吹雪はテーブルの上に乗り、燃え盛る棺桶を背にする。そしてルカルカを引き起こすとブレーンバスターの体勢を取る。
 このまま持ち上げ、後ろに倒れ込めば棺桶の蓋の上に雪崩式の様に落下する。蓋の上ではあるが、硬さがある上今尚炎が燃え盛っている。ただでは済まないだろう。
「ふんぬぅぅぅぅぅぅゥッ!」
 吹雪が力を込めるが、ルカルカが堪える。
「持ちあがるでありますよぉッ! ふんぬぉぉぉぉぉぉぉッ!」
 再度、吹雪が力を込めると、僅かだがルカルカの身体が浮いた。だがすぐに降りてしまう。
「ぬぅ……いい加減諦めて火だるまになるでありますよ!」
 拘束を解くと、吹雪はルカルカの股間を狙い爪先で蹴り上げようとする。女性とはいえこの場所を強打すると痛い事には変わりはない。えげつない急所蹴りである。
 だがそれを足で挟んで止めると、ルカルカがローリングソバットを吹雪の鳩尾に叩きこむ。
 衝撃で吹き飛びそうになる吹雪の頭をルカルカは掴むとそのまま脇に抱え、もう片方の手で足を抱えるフィッシャーマンズの形を取る。
 観客はそのままフィッシャーマンズDDTでテーブルに叩きつけるのかと読むが、ルカルカは持ち上げた勢いで吹雪の身体を回転させ向き合うような形にする。
「火だるまになるのは……そっちだよ!」
 抱え上げた状態でルカルカは跳び上がり、開脚しつつ前方の棺桶に向けて吹雪を叩きつける。テーブル上からの雪崩式に近いキークラッシャー99であった。
 吹雪の身体はそのまま落下し、蓋に叩きつけられる。燃え盛る棺桶の蓋は叩きつけられた衝撃で割れ、そのまま吹雪の身体は中にすっぽりと納められてしまう。
「熱っ! さ、流石にもう来ないよね……?」
 吹雪を食らった棺桶はまるで歓喜するかのように燃え盛り、余りの熱さにルカルカは距離を取ると疲れたように呟く。
 その時、空いた穴から腕が伸びた。それは吹雪の腕であった。
「う、嘘……」
 ルカルカが驚き慄いていると、燃え盛る炎の中で吹雪の腕はゆっくりとサムズアップを作った。そして、
「あ、あいる……びー……ばっく……で、あります……」
その腕はゆっくりと棺桶に飲み込まれるよう、サムズアップしたまま沈んでいった。
 続いて大きな穴が開き、棺桶を飲み込む。リング上に残ったのは吹雪がやらかした残骸と棺桶から飛び火した火、そして疲れ切った表情のルカルカであった。
 それでも何とか笑みを作り、ルカルカは観客に勝ち名乗りを上げるのであった。

「お疲れ、楽しめたか?」
 試合後、リングを後にしたルカルカにダリルが話しかける。
「まぁ、ね……」とルカルカは疲れ切った表情で応える。
「しかし、試合前に勝ったらバラを降らすとか言っていなかったか?」
 ダリルが思い出したかのように言う。勝利した際、演出として【創生の薔薇】で真紅の薔薇を大量に複製創造し一面に降らせる、とルカルカは言っていたのである。
「いや、だって棺桶とか燃えてたし……」
 そんな状態でバラを降らせたところで燃えて終わりだろう。
「まあ、そうだな」
「……楽しめたは楽しめたけど……二度と戦いたくない相手だったよ」
「……その、なんだ、お疲れ」
 疲れ切ったように溜息を吐くルカルカの肩を、ダリルがそっと叩いた。