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王子様と紅葉と私

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「改めてお話とは何でしょう?」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、デート中に改まって話をしたいというベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の申し出に、やや不安そうに耳を垂らしつつ首を傾げた。
「その、な。ポチも1匹暮らし始めちまったし、俺やジブリールがイルミンへ出向く機会も増えた。
 そこでだフレイ、一旦、俺達が出会った場所……俺の実家に越さねぇか?」
「え、お引っ越しですか?」
 フレンディスはベルクの急な提案に、目を丸くする。
「とはいえフレイが明倫館まで通うのは厳しいだろうから、寝泊まり用に長屋は借りたままでいいだろ。また長屋生活するかもしれねぇからな」
 突然の引っ越し提案だが、ベルクはこれ以上魔術実験するには今住んでいる葦原にあるマンションだと限界ではないかと考えたというのが本音だった。
 長屋だと猶更、近所迷惑になりかねない。
 ベルクが口を閉ざしてからも、しばらくの間フレンディスは黙って考え込んでいた。
「葦原島往復は修行になる故問題ありませぬ。しかしながら家は時折掃除しておりましたが、ちゃんと暮らすには大掃除が必要かと……」
 フレンディスは、まだベルクと同居すること対する心の準備はできていないのは事実だ。
「今更焦る気はねぇよ。ゆっくり考えてくれ」
「お時間かかるやもしれませぬが精一杯励みたく……それが終わってからになりますが……その……大丈夫、です」
 フレンディスは耳と尻尾垂らしつつ、恥ずかしそうに申し出を受けた。
 フレンディスにとってもベルクの実家は、思い出の場所だ。
 また、現状を配慮すれば引っ越しをするしかない。そう思えば、ベルクの提案を断れはしなかった。
「い、いいのか?」
 駄目元で切り出した提案で、ベルクにとっても即答されるとは流石に想定外だった。
「引っ越しは来年の春を目処に、なるかな」
 少しずつ見えてきた未来に、フレンディスもベルクもそれぞれに思いを馳せたのだった。



 冬のある日、フェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)シェリエ・ディオニウス(しぇりえ・でぃおにうす)とともに空京に来ていた。
 最近は一段と寒くなってきた。少し遅い衣替えを兼ねて、フェイたちは服を買いにきたのだ。
「それにしても、本当に寒くなってきた……」
「そうね、こんなに手が冷たい」
 お互いの冬の服を探しているシェリエをフェイは横目で見た。
「私は寒いのが嫌いだ」
「そんなに?」
「単純に嫌いってのもあるし、なによりシェリエのあの姿が見られなくなるからだ!」
 冬になれば、シェリエは普段着ている露出度の高い服は着られなくなる。
「来年の夏あたりまでお預けでしょ? それとも、二人きりの時はしてくれる?」
「寒くなければ、いいわよ?」
 微笑むシェリエを見て、フェイは服を見る手を止めた。
「あ、この服なんてフェイに似合うんじゃない?」
 フェイとシェリエは、お互いに服を選んで買った。
「……シェリエ」
 会計を済ませて店を出たフェイは、シェリエを小さく呼んだ。
「なあに?」
「これ」
 そう言ってフェイが差し出したのは、小さな紙袋だった。
「開けていい?」
 ワクワクしたようにシェリエが紙袋を開けると、そこにはマフラーと手袋が入っていた。
「……シェリエに似合いそうだったから、プレゼント」
「ありがとう! つけてみていい?」
 シェリエは早速、プレゼントしてもらったマフラーと手袋をつけてみた。
「すごく似合ってる」
「本当? ありがとう!」
 喜ぶシェリエを見て、フェイは優しく微笑んだ。
「この後どうする?」
「このまま食事でもしようか。……?」
 ふとフェイは、目の前を何かが落ちていった気がして視線を上げた。
「雪……?」
「もう初雪の季節か。道理で寒いわけだ」
 そう呟いて、フェイは隣で空を見上げるシェリエを見た。
 優しく降る雪を見上げるシェリエが、輝いて見えた。
「……」
 思わずシェリエを抱きしめたくなったフェイだったが、外だから、と我慢する。
 その代わり、シェリエの肩を抱き寄せた。
「わっ」
「……寒い季節も、悪くないかもね」
 フェイはシェリエがあまり雪を被らないようにと守りながら、二人並んで歩いていったのだった。