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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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リアクション


第3章 繋がる刻(とき) 4

 インテグラルとの交戦を始める前に、まずはイレイザー・スポーンの集合体を叩く必要があった。そのため、戦艦から発進した突入側のイコン部隊は、まずイレイザー・スポーンの注意を引くことから始めている。
「こりゃ……えげつないわね」
 飛行型に変形しているスクリーチャー・オウルを駆りながら、天貴 彩羽(あまむち・あやは)はそうつぶやいた。
 背中に翼があり、ドラゴンのような姿をしているイレイザーの小型版のようなものだが、今回はそれが群れを成して集合体と化している。まるで巨大なイレイザーと戦っているみたいだと、彩羽は舌打ちを禁じ得なかった。
「スペシア、いくわよ!」
『は、はいでござる!』
 同乗する副パイロット――スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)に檄を飛ばし、彩羽は操縦桿を威勢よく動かした。 
 ぐん、とオウルが空を駆り、まるで網の目を縫うように移動した。その高い高機動性が生み出すスピードは驚異的だ。滑空と旋回を繰り返し、敵情報を分析しながらオウルは飛ぶ。
 それも、機体の制御ユニットと共同体と化しているスペシアのおかげだった。
『彩羽殿。右から敵がくるでござる!』
「了解。旋回して撃ち抜く!」
 制御ユニットと一体化したスペシアからの通信は、ほとんど誤差を生み出さずに彩羽へと繋がる。彼女はそれを受け取ると、すぐにオウルの軌道を変えて敵の背後に回り込んだ。
「いけっ――!」
 ツインレーザーライフルが敵を貫く。
 位置情報は既に観測した。ここからは彩羽の独壇場である。
 だが無論――彼女とて仲間は存在する。イコンの第二部隊に彼女は所属しているのだ。
 しかし――
(味方は、あまり期待できないかな)
 彩羽は自嘲的な笑みを浮かべた。
 もともと、彼女は過去に様々な事件を起こしたことで放校処分を受けた存在――一度は教導団やイルミンスールにすらも牙を剥いている存在である。そんな彼女に進んで味方をする者はなかなかいないかもしれない。彼女は孤立無援に近いのだ。
 だが――未来を守りたいのは彼女とて同じである。ここで諦めたら今までの自分が亡くなってしまうと、彼女は危惧していた。
「だから……負けられないのよ!」
 自分へも言い聞かせるように彩羽は叫び、オウルは敵の群れへと突っ込んでいった。


 イコン第五部隊に所属する湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)は、パートナーの高嶋 梓(たかしま・あずさ)とともに、愛機ウィンドセイバーを駆って空に飛び立っていた。
「亮一さん、索敵情報、出します」
「ああ、頼む」
 亮一のモニタに、副パイロットである梓が入手した敵の索敵情報が映し出された。
 彼女の役目は情報管制と索敵にある。ルート上の敵を殲滅するのは亮一の役目だ。火気管制の働きに問題ないことをチェックして、動き出す――
「亮一さん、あれ……」
 梓が見やった方角に、イコンとは全く違うヘリが飛んでいるのを発見した。
「あれは……」
 海上自衛隊のSH−60J航空機である。
 どうやら横須賀方面に向かって飛んでいるようだ。この調子であれば結界の外に出るのはすぐだろう。特に心配はいらなさそうだが……
「そーいや昔、親父が浦賀水道上空を飛行中に巨大ロボと怪獣の群れの幻を見たとか言ってたが……、あー、まさかこの光景だったのか」
「でも、普通の人には見えないはずなんですよね?」
「通常はな。アーデルハイトの力なんかで、結界からは遠ざけられてるし……本来は誰の目にも映らない筈なんだが……例外はいつだってあるってこった」
 昔は冗談だと思っていたことが実は本当だったと知った意外な瞬間に、亮一は肩をすくめた。ヘリが交戦空域から離れていくことが幸いである。
「ともかく、やっちまおう。親父を守るためにもな」
「……親思いなんですね」
「そんなんじゃねえよ」
 くすくすと梓に笑われて、亮一は顔をしかめた。
 自然と、操縦桿を握る手に力が込められる。ぐん、と加速したウィンドセイバーはイレイザー・スポーンの集合体へと接近し、ツインレーザーとレーザーバルカンでその身体を次々と撃ち抜いていった。


 イコンたちが戦う戦闘空域の最中にあって、一際異彩を放つのが巨大ヒヨコのジャイアントピヨだった。
 パラミタに生息しているヒヨコがそのままでっかくなったような、およそ戦闘には向かない風体をいているながらも、目からビームを出したり、口からレーザーを放ったりと、果敢にイレイザーに挑んで、素晴らしい戦いっぷりを疲労していた。
 そんなピヨの背中に乗って、ピヨに指示を飛ばすのがアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)である。
「だああぁぁっ! ピヨ、落ち着け! もっと右だ、右!」
「右斜め56度なのヨ。アキラ、早くするノヨ」
「俺に言うな、俺に!」
 ナビゲートする同乗者のアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)に向けて、アキラは喚き散らした。
「どあっ! ピヨ! さっさと迎撃だ、迎撃!」
 イレイザーが放った炎を避けて、ピヨは目からビームで敵を貫いた。
 ピヨピヨッ、と嬉しそうに鳴き声をあげる。誉めてほしいのだ。アキラが仕方なく頭を撫でてやると、さらにピヨは嬉しそうに空を飛ぶ。
「まったく、先が思いやられるのダワ」
 気分屋なピヨを眺めやりながら、アリスは肩をすくめた。


 戦艦の近く、後方支援に努めるイコン部隊の中に、その機体はいた。
 蝶のような羽と細身のシルエットを持つイコン――ヘルギである。搭乗者は蓮見 朱里(はすみ・しゅり)。そして、副パイロットとして同乗するのは彼女のパートナーのアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)だった。
「まだ、アイン……?」
「もう少し待ってくれ。拡声器の扱いが難しい。味方全体への力を考えるなら、通信回線よりかこっちのほうが効果が大きいんだ」
 アインが機体の拡声器機能を動かすのを、朱里はじっと待っていた。
 彼女の役目は『歌』にある。すなわち、魔法の歌を使って味方部隊を支援することだ。
 そのためには通信回線を開いて仲間たちに歌を届ける手法もあったが、アインの判断で今回は拡声器を使うことを決めた。なぜなら、特に今回は各情報部からの通信回線が数多く開かれているからだ。その一部を使うことは、彼らの情報の交錯に支障をきたす可能性がある。
 そのための、今回の判断だった。
 しかし、慣れない拡声器パーツを使用しようとしていることで、アインの調整にしばし時間がかかっていた。
 その間、朱里はじっと待つしか出来ない。
 歯がゆかったが、それが最も効率の良い方法である。喉の調子を整え、いつでも歌に入れるように準備をする。
「出来たぞ! 朱里、頼む!」
 ついに、アインの合図が彼女に届いた。
「――うん」
 朱里はうなずいて、歌を紡いだ。
 みなに届くように。願いを込めた歌。
 それは――今回の事件で朱里が経験した数々の思いさえも込められていた。
 両親が死んだ、その理由の真実。それを知った自分は、逃げ出すことはもう許されない。
 お父さん、お母さんをはじめ、あの日死んでいった多くの人々の無念に報いるために。かつての『私』が再び笑顔で生きられるようにするために。そして、今この時出会えたたくさんの『仲間』との絆を守るために。
 ――届いて――!
 歌は空に乗り、全ての仲間たちへと飛んだ。