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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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リアクション


第3章 繋がる刻(とき) 12

「校長先生には……指一本触れさせません!」
 正確にはまだ校長にはなっていないのだが。遠野 歌菜(とおの・かな)はそんな細かなことには気づかず、石原の前に身を投じた。同時に、彼女は二つの槍を構えて敵を見据える。
 敵は――複数体のイレイザー・スポーンだった。
 繭の中心部に差しかかり始めたとき、新たに現れた敵である。
「羽純くんっ、いくよ!」
「ああ、分かったよ、歌菜」
 歌菜と同じように、月崎 羽純(つきざき・はすみ)は二つの槍を持つ二槍の構えを取った。次いで、二人の槍は敵を同時に斬り裂く。まるでお互いを鏡写しにするように、左右対称の動きを取る二人の槍は、次々と敵を斬り伏せていった。
「安心して戦っていいぞ。後処理は俺がする」
 二人がとどめを刺し損ねた敵へは、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が銃の引き金を引く。銃弾に身を穿たれて次々と倒れるイレイザー・スポーンの群れは、逆にそれが哀れにすら見えるほどだった。
「これで、ラストか」
 最後の一匹を貫いて、ダリルは紫煙を吐き出す銃を腰に収めた。
「やったね、羽純くんっ! 私たちのコンビネーションもなかなかのものじゃないっ!?」
「あぁ? んー……まあ、そうだな」
「もう〜、やる気ないなぁ……」
「歌菜がいちいち細かいんだよ。どっちだっていいじゃねえか、そんなこと」
「えぇ〜……結構大事だと思うんだけど……」
 歌菜の願いは聞き入れられないようで、羽純は面倒くさそうに首をひねりながら先へ歩いていった。
 ともかく、これで最後のイレイザー・スポーンを倒したのだ。
 すると――
「ほんとっ!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が嬉しそうに弾んだ声をあげた。
 なんでも、彼女のHCにたったいま連絡が入ったらしい。それによると、外のインテグラルをついに時空の穴に閉じ込めることに成功したそうだ。
「ということは……」
「あとは無事に、パラミタと地球が繋がるのを見届けるだけねっ」
 ダリルの言葉を継いで、ルカは皆を促した。

 中心部にあったのは、巨大な門である。それを開くと、その奥には広大な空間が広がっていた。白靄の中にあってそこは、神秘的な光が溢れている。
 そしてその中心で、石原は勾玉――リンク・オブ・フォーチュンを取り出した。
 しかし、彼の顔は険しい。勾玉をぎゅっと握り締めて、彼は言った。
「駄目じゃ。このままじゃと、パラミタと地球を繋ぐことは出来ん」
「え、それって、どういうこと……っ!?」
「繭の力が弱まっているのが原因じゃ。多くのスポーンに侵入されたことで、世界を繋ぐ力が減少しておる」
 石原は困り果てたようにうなる。しかし、すぐに彼は思い至ったように顔をあげた。
「方法は、一つだけある」
「それって……?」
「わしら皆の力を一つに集めて結集させることじゃ。それが出来れば、繭の力を補完することができるじゃろう。特に――おぬしら契約者の力があれば」
 石原はそう言って、勾玉を握る手を皆に差し出した。
 初めてのことに戸惑いを隠せない仲間たち。だが、その中にあって、最初に石原の手に自らの手を重ねたのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。
「おぬし……」
「へへっ、みんなの力がないと、出来ないことなんでしょ? だったら、私頑張るよっ。ひーマンと、それにパラミタやみんなのためだもん」
 それは初めての試みである。力を失うかもしれない。あるいは、逆にパラミタを崩壊させる結果になるかもしれない。しかし、美羽はみんなの力を、そして石原を信じていた。
「そうですね……」
「うん、美羽の言う通り」
 続いて、手を重ねたのはベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)だった。
「それに、美羽さんが勇気を出してるのに、私が出さないのは癪に障りますしね」
「……ちょっとぉ〜、ベトリーチェってば、それどういうこと〜」
「ふふ、言葉通りの意味ですよ」
「もぉ〜」
「一本やられたね、美羽」
 二人は口を尖らせる美羽とすまし顔のベアトリーチェを見て、コハクはくすくすと笑みをこぼす。そんな彼女たちの姿に勇気をもらったのか、次々と仲間たちの手が重ねられていった。
 遠野 歌菜(とおの・かな)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)騎沙良 詩穂(きさら・しほ)――そして、彼女のパートナーたちも。
「ゆくぞ……!」
 石原が合図したその瞬間――勾玉が光り輝いた。
 繭が振動する。白い光の糸たちが徐々にほつれ、ほどかれていく。目の前が真っ白になり、まるで天と地の境目がなくなったような浮遊感に包まれる。
 ついにパラミタと地球が繋がれようとしているのだ。
 そして眩しい光に全てが包まれたとき、彼らはパラミタ大陸の姿を脳裏に見た。

 石原たちが目を覚ましたとき、彼らがいたその場所は戦艦の甲板上だった。
「いったい、何が……」
 うめくような声を発しながら、よたつく身体を支えるように起き上がる。
 パラミタと地球は繋がったのか? 戦いは一体どうなったのか?
 様々な疑問を抱えながら、彼らが空を見たとき――そこにあったのは、閉じられようとしている時空の穴と、消えてゆくイレイザー・スポーンたちの姿だった。
「終わった……のか……?」
「そうよ……パラミタはっ!? パラミタはどうなったのっ?」
 契約者たちがそれぞれ思い思いの気持ちを吐き出しつつあったとき、誰かが叫ぶように言った。
「出てる……っ! 現れてるわ!」
 なぜか。
 それは判然としない“感覚”としか呼べないものだったが、全員の脳裏に、日本の領海に顔を覗かせるパラミタ大陸の姿が見えたのだった。無論、肥満にも。
 いや――きっと彼こそが、最もハッキリとした感覚でそれを実感していただろう。
 誰ともなく、肥満は静かにつぶやいた。
「ついに、繋がったんじゃな」