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リアクション
■贈られるは、想い
「本日はお集まり頂きまして、ありがとうございます」
「ありがとう!」
司会者の理沙とセレスティアが現れると歓声が上がった。
「おおっ! 理子がいるぞ!」
「あっちはセレスじゃない? そっくりねぇ……一部は大分違うけど」
「む、むむっ?」
セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)と高根沢 理子(たかねざわ・りこ)である。
なぜ声を上げたかというと、理沙とセレスティアが2人のコスプレをして登場したからだ。名前と色が似ているというつながりでの、まあ余興の一つだ。……別に一部分に関する主張が在るわけではない。
一部分がどこかということについては、本人のプライバシーのために黙秘させていただこう。
「ここに来ることができなかった人たちからたくさんのメッセージが届いているから、紹介するわね」
「まずは……イキモ・ノスキーダさんからです。『本日は真におめでとうございます』」
祝福の言葉が述べられていくのに、新郎の鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は優しく微笑み、新婦のルカルカ・ルー(るかるか・るー)は声を出して笑ったりと言葉を受け取る。
新婦が身につけているドレスは幻想的な純白で、宝石も飾られている。かなりの重量が在るだろうが、自然に、そして軽やかに着こなしていた。
ルカルカが言うには
『あら? 契約者じゃなくったって、女はドレスを気合で着こなすものよ』
とのことらしい。
胸に飾られた花やキャスケードタイプのブーケは、エースらがドレス一つ一つに合わせて作ったもので、華やかながら新婦の魅力を引き立てていた。
余談だが、このとき
「うん、イイ感じだね。旦那さん何度でもルカルカに惚れ直すよ」
「エ、エース!」
「そうですね。とても綺麗です」
「も、もうっ!」
と褒めて新郎と2人で新婦を照れさせていた。
「……続きまして、お二人の馴れ初めを『真一郎とルカルカのあゆみ』と題しましたビデオの上映をさせていただきます」
え、とここでルカルカが驚きの顔を見せた。基本、式の段取りをとったのはルカルカだが、PVについてはどうやら聞いていなかったらしい。
真一郎の要望は景色の良いところだけだったりする。まあ、新郎というのはそういうものだろう。ルカとは違い、にこにこと進行を見守っていた。
上映されていくPVには、2人が体験した様々な事件についてうまくまとめられており、また様々な人が登場した。新郎新婦の両親や教導団員、仲間達……式場にいる面々のほとんどが言葉を投げかけていた。
ルカルカがそれらに喜び、時折涙を浮かべるたびに、真一郎がそっと肩を叩く。
「あーあーあったなぁ、そういうこと」
流れていくPVにうんうんと頷いているのはウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)だ。ダークスーツ(ネクタイは落ち着いた緑)に身を包んだウォーレンの表情は、朝からずっと緩みっぱなしだった。
そしてもう緑の目が潤み始めていた。
ウォーレンのパートナー、ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)(彼もブラックスーツだが、赤いネクタイをしている)はそんな彼にため息をついた。仕方なさそうにハンカチを渡す。
「お二人のご両親じゃないんですから泣くのは……まあ、嬉しいのは分かりますが」
「いや、すまねー。でも今日は本当、生涯で一回だけの大切な日だな。
色々こう胸がギュッとなってさ。……ああくそ、上手く、喋れねぇや」
「……はぁ。まぁ、良いですよ格好つかないのが貴方ですし」
ぐずぐずと泣いていたウォーレンだが、一口料理を口にして「うぉっうまいな」と声を上げたのでジュノは白い目(赤い瞳だが)を贈った。
ウォーレンはそんなこと関係ないと言わんばかりに、ただこの場に居られることを感謝していた。
(出会った皆の事大好きだが、この二人は特別な人だ。
二人が始めて出合ったのと俺らが逢ったのは同じ時で……あの瞬間、ある意味二人に一目惚れしていたのかもな。
あぁ、きっとこの先ずっと変わらない。
この人達は信頼足りえる人だって)
PVを見て、思い出を振り返れば振り返るほど、体中の水分が目に集中するかのようだった。
涙が出るのは当たり前だった。幸せだから。
自分の大事な人達が一番幸せそうに笑うから。
* * *
「なんつーか。こう改めて今まで起きたことを確認すると、イヤでも年を感じちまうな」
「……ついにおやっさんを認める日が」
「オレはまだ若い!」
長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)はPVを見て感慨深そうな顔をした。すぐにからかおうとした若い団員をじろりと睨んだ後、やれやれと苦笑する。
『……おやっさん、という名前やなかったんか』
「うむ? 違うのか?」
「あれは照れよ。本当はそう呼んで欲しいのよ」
「そうそう。どんどんそう呼んでやってくれよ」
「……いえ、あの人の名前は――」
ぼそり、と背後から聞こえた代王だとか機晶生命体だとか、煽ろうとする団員だとか、何とか止めようとしている声だとかを聞きながら、自由奔放で賑やかな式に溢れた喜びと幸福に、広明は酔いしれる。
「……今日は飲むか。メルヴィアも、固まってないで飲めよ」
「ああ……今日ばかりは、それもいいかもしれないな」
「そうだぜ。飯も美味いし、楽しまねーとな」
「お前は楽しみ過ぎないように気をつけるべきだな」
「そうですね。はじけすぎないようにしてください」
「しかし喜ばしい気持ちはわかるぞ! よしっ! レオン、コッチにこい。PVに載っていない秘蔵エピソードを教えてやる」
「えっいや、遠慮しておく」
「はぁ。ウォーレンもほどほどにな」
* * *
「……懐かしい出来事だな」
「ああ」
談笑しているテーブルが多い中、静かにPVを眺めている一団があった。鋭峰、雲長、英照らのテーブルだ。英照は少し席を外しており、その場に居ない。
いつもと変わらぬ表情、威圧感を放出したままの2人で在るが、彼らを良く知っている面々からすると、少し。ほんの少しだけ表情が穏やかなように見えなくも、ないような。気のせいのような。
「結婚、か。めでたいことだ」
雲長は小さく呟いた。鋭峰が目を向けると、どうやら独り言だったようで、特に反応を求めているような雰囲気ではない。しかし喜ばしいと心から思っているのは伝わった。
雲長が目を周囲へと向ける。
周囲のスタッフたち、出される料理、飲み物、催し物……すべてに祝いの気遣いが見える。
これだけの人たちが心から祝ってくれるというのは、主催者達の人徳だろう。
あとで直接話せる時間が在るのなら、自分も言葉を贈ろうと雲長は思った。
(心からの祝福を)
そして、それはおそらく彼だけではなく――。
「…………」
近くのテーブルに座っていた山葉 涼司(やまは・りょうじ)も、懐かしい、とPVを眺めていた。
「こうして改めて考えてみると、いろんなことがあったんだなぁ」
給仕に来た夏侯 淵(かこう・えん)はしみじみとした涼司の姿に笑った。
「随分と年寄りじみた言葉だな」
「うるせーよ」
「まあ、気持ちは分かるが」
だったらなんで言ったんだ、という文句が聞こえてきそうだが、涼司は追求せずに息を吐き出した。
「まあ、今日は折角来てくれたのだ。楽しんで行ってくれ」
「そうさせてもらう」
続けられた言葉には間髪いれず頷く。
友のめでたい場だ。楽しむ以外の選択肢は無い。
「ダリル」
席を離れていた英照はというと、調理が終わり給仕として働いていたダリルに声をかけていた。
「今日の料理はきみ達が作ったと聞いた。とても素晴らしい出来だな。ジンたちも非常に満足していた」
「ありがとうございます。友人たちの手伝いのおかげです」
「そうか……ああ、忙しいところ呼び止めてすまない。どうしても礼を言いたかったのでな」
どうやら招待の礼を言いたかったようだ。ダリルはその気持ちを察して、深く頭を下げた。
「いえ。こちらこそ来ていただいてありがとうございます。2人も心から喜んでいるでしょう」
英照は軽く手を上げて、「君も楽しむように」と言い残して席へと戻っていった。
「ああダリルさん、ここにいたのですか」
「ザカコ? 何かあったか?」
「いえ、そうじゃなく……そんなところにおらず、あなたも座りませんか?」
そして一人残ったダリルの腕をザカコが引っ張る。その先には、招待客の面々が笑顔で手を振っている。
「せっかくの式なんですし、ダリルさんも少し位は参加者の1人として式を見る時間があってもいいでしょう」
「……まあ、少しだけな」
友の言葉にダリルはしばしの間、妹の結婚を見守る複雑な兄の気分に浸ることにした。
* * *
「じゃあ次は、お待ちかね。団長のありがた?いお話よ!」
「理沙。もう少しちゃんとした紹介を……申し訳ありません。こちらへどうぞ」
「うむ」
金がマイクの前に立つと、式全体が引き締まる。同時に、彼を良く知る面々は、
『あ、これは長くなる』
という確信も得た。
そんな空気を知っているのか居ないのか。金が話し始める。
「ルカルカ・ルー少佐、鷹村 真一郎中尉。
二人にとって最良となるこの日を、私も心から祝わせてもらおう」
いつもと同じ口調で始まったスピーチに、席に着いた垂は「やっぱりなぁ」と呟いた。
先ほど部下達に押され、客として参加することになった彼女は遠慮なく料理や酒を楽しんでいた。
(料理が上手いのは知ってたけど、本当に美味いなこれ)
隣にいる真一郎のパートナー、松本 可奈(まつもと・かな)と珍しくきちんと服を羽織っているカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)に酒を注ぎ注がれながら、さて、どれだけ続くだろうかと予測してみた。
「どれくらい続くと思う?」
「さあなー。それよりもっと酒のみてーな。飯もうめーし、ほら。これなんかも美味いぜ?」
「わぁっほんとだ。美味しい!」
「美味いのは分かるが、ほっぺたについてるぜ。ほら」
「むぐぅ? 垂ちゃん、ありがとう」
「我々軍人の命は自身だけのものではなく、我々が護るべきもののためにもある。
だからこそ、“敵”が存在しようとしまいと厳しい日常を過ごし、その時がいつ訪れようとも与えられた使命を果たせるよう己を高めることができるのだ。
それは翻れば、個人としての幸せを常に他人の安寧に求めるということにもなる。
このような時勢ゆえ、今後も二人に厳しい任務を課さなければならぬことが多いだろう。
だが――」
ぐびびっぐびっ。
「おっ、良い飲みっぷりだな」
「そりゃそうよ。めでたいせきだぞー! きょうはのむぞー!」
重苦しい空気を吹き飛ばす明るい声援に、引き締まりすぎていた式に少し緩みが出る。
真一郎は困ったように笑ったが、ルカルカはそんな2人に手を振った。可奈はそれにすぐ気づいて手を振り返す。
「君たち自身もまた“軍人”に幸せを与える他人の一人であるのは違いあるまい。
少佐、中尉。二人の未来の安寧も、我々が護るべきものの一つなのだ」
「ルカっちかわいいーッ! あ、今は男装だからかっこいー、かな?」
「ああ、結構似合ってるよな」
「どうも一度は男装いれたいってことらしい」
「へぇ? でもどうせなら新郎も女装すれば……止めた方が良いか。まあ、和装も似合ってるしな……あ、これ美味い」
「そうねー。ってか、しんちゃん めずらしくきんちょうしてるー」
「へえどれどれ……うめーな。つまみにちょうどいい」
「あれで緊張か。あんまり顔にでねーな」
はてさて、スピーチが始まってどれくらい経ったことだろう。さすがに長すぎる、と垂が口を開いた。
「団長?。結婚していない人間が結婚について語るのっておかしくないですか??」
「故に、我々は君たちの幸せが末永く続くことを願い、それを日々の糧の一つとし……むっ」
絶妙なツッコミに式がどっと沸く。が
「ごほんっ」
雲長の咳払い一つでふたたび静まるのは、さすがの貫禄だ。
「……結婚、おめでとう。
堅苦しい挨拶となった手前、恐縮だが、今日は大いに楽しみ、良き思い出を作りたまえ」
本来はもっと長かったろう挨拶を短くまとめ、鋭峰は終わりとした。
もしも垂がツッコミをいれなかったらどうなっていたかは、聞かない方がいいのだろう。
* * *
長く堅苦しい挨拶の後、進行はつつがなく進み、ケーキ入刀になった。
だがただの入刀ではない。
まず巨大なケーキが運ばれてきたかと思えば、宙に吊り下げられた。いったい何が起こるのだろう。
「新郎新婦によるケーキ入刀です。お願いします」
司会の言葉を合図に、真一郎がルカルカをかかえあげた。
ええっ!
会場が驚きに包まれ、次の瞬間に真一郎はルカルカを高々と放り投げたので、さらに驚きが増す。
「真一郎さん!」
「いきますよ!」
「はぁっ」
宙に舞ったルカルカがナイフではなく二本の刀でケーキをこまかく切り分ける。ケーキを切るのは難しいものだが、その断面は美しい。
おおっ。
完成が起きる中、見事な切り口で切り分けられたケーキが皿に盛られた。
新郎新婦からの、サプライズ演出だ。
「今日は来てくれてありがとう! このケーキや今でてる料理は私の友人達が作ってくれたの。たっぷり味わっていってね」
「まだ式は続きますが、どうか最期まで楽しんでいってください」
分けられたケーキは招待客に振舞われた。
* * *
ケーキを食べている間に、フロアには美しい音色が響いた。パイプオルガンの音だ。会場の隅に置かれたオルガンに、いつのまにかサイアスがスタンバイしていた。
「次は、クエスティーナさんとサイアスによる賛美歌です」
「えっ歌っ? 歌なら私も」
「ほらほら、理沙。下がりますよ」
そんなやりとりに微笑みつつ、紹介されたクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)はパイプオルガンを弾くサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)に目で合図を送った。
「ルカさん鷹村さん。ご結婚、おめでとうござい……ます。お二人に心を込めて贈ります」
多くは語らない。
祝いの気持ちも、感謝も、すべて。心からの想いを歌に、音色に乗せる。
貴方はいつも私達の喜び
私達の心を慰め潤おしてくれる
貴方はあらゆる苦悩を防いで
私達の生きる力となるでしょう
全てを照らし満たす太陽のような
それは魂の宝、替え難い歓び
だから、貴方を失わないわ
私達の心と目の届く限り
オルガンの奏でる音と一体化したその声は、新郎新婦、招待客の心だけでなく、式場に飾られた草花にまでも行き渡る。
最後の音が消えるとともに拍手は自然と沸き起こり、その中には美に敏いジェイダスもいた。
「うむ。美しい演奏と歌声だった」
クエスは最後ににこりと新郎新婦に笑いかけ、サイアスとともに席へと戻っていった。
* * *
その後は、理沙が代王2人を巻き込んで急遽、理子&理沙、Wセレスの4人でPOPなラブソングを披露したり
「さあ、あたしたちも負けてられないわね」
「ええ、いくわよ」
「ちょっと理沙。司会が目立ってどうするんですか」
「おー! なのだ……ん? そのぬいぐるみいいな……」
「あ、おそろいで持ってた方がいいわよね。ってことで、土星くん出番よ!」
『『なんでやねん!』』
土星くんが巻き込まれたのはご愛嬌として。
「なるほどな。このためにぬいぐるみが必要だったのか!」
「いや、違うだろ」
撮影係のジヴォートが納得しているのに、ドブーツが冷静に突っ込みを入れたり、と予定にない催しもあったが、なんとか式は進行していった。
最後は朱里の出番だ。
「ルカルカさん、おめでとう! お2人のこれからの幸福を願って、私からも歌を贈るわ」
朱里がもてるスキル全てを使った、歌と踊りのパフォーマンスを行う。
途中の早着替えやドリームバタフライが舞う幻想的な演出には歓声が起きた。
こうして式は始終笑顔が絶えないまま、無事に修了し、新郎新婦の旅行への出発時刻となった。