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イナテミス防衛戦~颯爽の支城、氷雪の要塞~

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イナテミス防衛戦~颯爽の支城、氷雪の要塞~

リアクション



●イナテミス中心部

「さて、オレらも出撃すっか。……久し振りにあの格好になんな」
「蛇の王様ー、まさか忘れちゃってるなんて言わないよねー」
「言わねぇよ! ……んじゃ、ちったぁ本気出していくぜ……!」
 ニーズヘッグ出撃要請を受けて、宿屋を出、開けた所に出たニーズヘッグとエリザベート、終夏とニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)、玲奈とイリス・ラーヴェイン(いりす・らーう゛ぇいん)、未憂とリン・リーファ(りん・りーふぁ)プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)が、出撃の準備を整える。
「……おっきくなった?」
『ま、契約者も増えたし、少しはこう、コツってのか? 分かってきたしな。安心しな、ムチャしてるわけじゃねぇ。んなことしたらテメェら苦しませるだけだしな』
 プリムから見たニーズヘッグ(竜形態)は、当初イルミンスールに来た時の三倍以上になっていた。十三名の契約者と、本人曰く『コツを掴んだ』ことで、徐々にかつての姿を取り戻しつつあるようである。
「アスカ、私はそろそろ行かなくちゃいけないんですぅ。離してくださいよぅ」
「もうちょっとだけです〜♪」
 エリザベートにくっついたまま、明日香が離れようとしない。まだ英気が足りないようである。
『直前まで来て何やってんだよ、ったく……』
「……あの、ニーズヘッグ、少し、いいですか?」
 その様子を見て呆れるニーズヘッグへ、未憂が話しかける。
「以前修学旅行でエリュシオンに行った時、アスコルド大帝にエリュシオン帝国と世界樹ユグドラシルの関係について質問したんです。
 『国としては世界樹を崇めているけれど、世界樹が自分達をどう見てるかはわからない』
 って答えでした」
『あぁ、多分分かんねぇだろうな。アイツのことは誰にも分かんねぇ、そんな気がするぜ』
 呟くニーズヘッグへ、未憂が言葉を続ける。
「それから、ニーズヘッグについてどう考えていますかって訊いたんです。
 『ユグドラシルを守る守護者として、直接崇められることは少なくとも、蔑む者はそういないだろう』
 って仰ってました」
『…………』
 その言葉は予想外だったのか、ニーズヘッグは押し黙ったまま言葉を発さない。
「あなたは知らなかったかもしれないけれど、エリュシオンにはあなたに感謝し、祈っていた人がたくさん居たのかもしれない。
 今ここに来ている兵士の中にももしかしたら、『守護者』に憧れて騎士になった人もいるかもしれない。
 ……きちんとご挨拶もせずにあなたを連れてきてしまったから、怒ってるかもしれませんね」
「そーそー、あの人達から見たら、蛇の王様をイルミンスールに連れてきちゃったあたし達は、悪い魔法使いだねー。
 もしくは悪い魔女!」
 リンも話に加わり、ニーズヘッグは本人が思うほど、ユグドラシルで疎まれていたわけじゃないんじゃないか? ということを挙げていく。
『……オレにゃあよく分かんねぇよ……って、これしか言ってねぇぞオレ。
 ま、ユグドラシルには世話んなってたし、何もしねぇってのもな。そんなもんだったけどな』
 考え込むニーズヘッグに、未憂は微笑んで、そして告げる。
「……ニーズヘッグ、彼らに何か伝える事ありませんか? 『百年くらいちょっと留守にする』とか」
 その言葉を聞き、背後でリンとプリムが、口をつぐむ。それはつまり、未憂とニーズヘッグのこうした時間は、百年もすれば終わりを迎えてしまうことを意味していたから――。
『……気が向いたらな。オレが「メンドくせぇ」っつってユグドラシルに帰らねぇかもしれねぇしな』
「もう、ダメですよ。向こうにはラタトスクさんもフレースヴェルグさんもいるんですから、ちゃんと帰ってあげないと」
「そうだね。……ああ、ラッ君とフレスさん、今どうしてるかな。
 もう一度、ユグドラシルに行きたい。そしてラッ君とフレスさんに『ありがとう』を言うんだ。
 ……だから今は、私は、イナテミスを守る戦いをする。もちろん、みんなも、ニズちゃんもね」
 終夏の言葉に、その場にいた者たちが一様に頷き、そしてニーズヘッグも、
『ケッ、テメェらに守られるほど、オレはヤワじゃねぇよ』
 口ではそんなことを言いつつ、協力を約束するのであった。

「明日香さん、あ――ああ、その、少々よろしいでしょうか?」
 なおもエリザベートにくっついていた明日香の元へ、イナテミスで情報収集に当たっていた神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)が何かを言いかけ、慌てて口を押さえて止めて、明日香を呼び寄せる。
「アメイアさんの目撃情報……といいますか、目撃されるであろう情報を入手しましたわ」
 微妙な言い回しにキョトンとする明日香へ、夕菜が事情を説明する。
 どうやら、明日香と同じ目的――アメイアに一騎討ちを挑む――を持った別の生徒が、アメイアに直接一騎討ちを求めるメッセージを送ったところ、了承する旨の返答があったとのことであった。
「律儀といいますか何と言いますか……場所は雪だるま王国北方、雪原だそうです。明日香さん、どうなされますか?」
 夕菜の問いに、明日香は考えて、そして口にする。
「一騎討ちを申し込んだ方の邪魔をするのはよくないですよね。ですから、私達はその方の後に一騎討ちを挑みましょう。
 その方がアメイアさんを倒してくれるならそれでいいですし、その方が倒されたとしても、フォローに入れます」
 明日香の考えは確かに筋は通っているが、どうしたところで『美味しいとこどり』な感は拭えない。
 しかし、七龍騎士という格上を相手に、守りたいものがある以上、手段なんて選んでいられない。
「分かりましたわ。では、わたくしはエリザベートさんの護衛につきます。エリザベートさんは必ずお守りいたします、安心して行ってきてください、明日香さん」
 夕菜が微笑み、そして、出撃の気配を感じ取ったノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)が明日香の元に集結する。
「エリザベートちゃん、少し、雪だるま王国に行く用事が出来たので、私とノルンちゃん、エイムちゃんを雪だるま王国までテレポートで送ってくれませんか?」
「? いいですけどぉ……」
 入れ替わりにやってきた夕菜を背後に、エリザベートがキョトンとしつつ、明日香の頼みを聞き入れる形で一行を雪だるま王国へとテレポートさせる。
(どうか、ご無事で……)
 パッ、と姿を消した明日香へ、夕菜が無事の帰還を願う言葉を送る。
『おいチビ、いつまでボケッとしてんだ。行く気がねぇなら置いてくぞ』
「う、うるさいですねぇ! 私はチビじゃないって何度言えば分かるんですかぁ! あなたが出撃するというのに、私が行かないわけにいきませぇん!」
 ぷんぷん、と怒りながらエリザベートがニーズヘッグの背に乗り、夕菜が続き、他の契約者も後に続く。
「ふふふ、ついにこの時が来たわ。最強のドラゴンライダーを目指す上で避けては通れない道……そう、エリュシオン帝国の龍騎士団! ヤツらを相手に勝利して、大きな一歩を踏み出すのよ!」
「……いつから最強のドラゴンライダーを目指してたのよ。それに、ほとんどニーズヘッグ任せになりそうじゃない。二十五メートルかと思ったらそれ以上に大きくなってるし、これに乗ってどうやって攻撃するの?」
「いいえ、ニーズヘッグ任せ、これこそが新しいドラゴンライダーのスタイルなのよ。本来はドラゴンがライダーをサポートする、けれど私は、ライダーがドラゴンをサポートするという逆転の発想を実行するわ!」
「ふーん……私には、玲奈が『ぶっちゃけそれしか思いつかなかった』風にしか見えないけどね」
「う、うるさいわね! いいからとっとと行くわよ!」
 急かす玲奈にはぁ、と息をついて、イリスが魔鎧として玲奈に装着され、玲奈がニーズヘッグの背に乗る。
「あれ、未憂さんは乗らないの?」
「ええ、その……もしニーズヘッグの邪魔になりそうな時、直ぐに離脱出来るようにって思って……」
 ニーズヘッグの背から呼びかける終夏に、未憂が怪訝そうな表情を浮かべたところで、ニーズヘッグの声が降る。
『ミユウ、それはテメェの悪い癖だぜ。オレが邪魔だって言ってねぇのに、勝手に自分のことを邪魔だとか思ってんじゃねぇ。
 いいから乗れ、でなきゃ来んな』
「うわー、蛇の王様、オトコマエなんだか冷たいんだか、どっちなんだろうねー」
『どっちだっていいぜそんなの。……どうすんだ、乗るのか乗らねぇのかハッキリしろ』
 ニーズヘッグの問いに、未憂が意を決した表情で答える。
「……行きます。『テメェらを死なせないように守る』とあなたは言いました。なら私達も、あなたを守ります」
「決まりだねー。じゃ蛇の王様、よろしくー」
「……よろしく」
 リンとプリム、そして未憂がニーズヘッグの背に乗り、全員が揃う。
『行くぜ、落ちないようにしっかり掴まってろよ』
 ニーズヘッグの言葉の後、大きく羽ばたいたニーズヘッグによって、一行は浮遊感と共に大空へと運ばれるのであった――。

「ハイジ様、敵の第一波は退けました。ですが、これでエリュシオンが諦めるとも思えません。
 『状況を変化させる出来事』の発生を早めるように尽力してもらえませんか?」
『うむ……すまんな、そいつは夜にならねば何とも言えんのじゃ。
 代わりといっては何じゃが、アルマイン・マギウスの支援装備を遠隔操作出来るようにしてみたぞ。魔力を消耗したアルマインの傍まで行き、マジックヒールを施すことくらいなら出来る。向こうが数に物を言わせた波状攻撃を仕掛けてきた時、支城に戻らず魔力の補給が出来る手段は、有用に働くはずじゃろう。
 運用はおまえたちに一任する、頼んだぞ』
「あっ、ハイジ様!?」

 何やら一方的に言うことだけ言って通信を切ったアーデルハイトに、フレデリカが文句を言いたい気分になりつつ、今はそのような場合ではないと自らを押し留める。
「……とにかく、私達に出来ることをしなくちゃ。アルマインの運用は篠宮さんに計算してもらえばいいわよね」
「そうですね。では今の旨、あちらにお伝えしておきます」
 ルイーザが言い、アルマイン・マギウス支援装備の遠隔操作による運用を検討してもらえるよう、悠に事情を伝える。

「……なるほど、このプログラムを該当機に打ち込むことで、遠隔操作が可能になる、か。はて、該当機は誰も乗っていないことになるが、無事に動くのだろうか?」
 ルイーザから事情を説明された悠が、疑問に首を傾げる。アーデルハイト曰く、『誰かが乗っているようにアルマインに思い込ませればいい』とのことであったが、それだとイコンの定義を根底から覆しかねない。今は支援装備用にしか使われていないが、これが性能が上がり、他の装備にも応用出来ることになれば、イコンは全く違った使われ方をされることになってしまうだろう。
(……しかし今は非常事態、四の五の言ってられないな。確かに、空中で補給が出来ることは大きい。とにかくやってみよう)
 そう結論付け、悠はウィール支城にいる梓と連絡を取り、プログラムを打ち込めるか検討する。
『まっかせといて! ボクが今までどれだけの機械と戯れてきたか、知らない悠じゃないでしょ? パパっと打ち込んできちゃうから!』
 謎な自信を滲ませ、そう言い残した梓が通信を切る――。