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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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第4章 鉄橋を守れ

「砲身が空京以外の場所に向けられてる!」
「南東の方向?」
 ピングイーン(ダイバーモデル)でアルカンシェルを追っていた十七夜 リオ(かなき・りお)と、フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)は、逸早くその事実に気付いた。
 その方向に何があるのか連絡が届くより早く、リオは空京に連絡を入れ、地図で確認をする。
「狙いは……空京とシャンバラ本土間の鉄橋?」
 砲身が向けられているのはそちらだけではないが、迎撃態勢を整えつつある空京と違い、そちら側は無防備だ。
「フェル、鉄橋の方に行くぞ」
 リオはすぐに決断し、鉄橋までの最短距離、これまでのデータから、ミサイルの到着時間を算出していく。
「空京からの避難も始まってるはずだから……鉄橋を通って、避難している人もいるはず」
 何としても守らなければと思いながら、メインパイロットとしてフェルクレールトは、鉄橋へと急ぐ。
「ミサイルに追いつくことは出来ない。発射される前に、迎撃可能な場所まで辿りつくんだ。こっちの負担は二の次でいい! ダイバーモデルの最大速度で突っ切れ!」
「うん、せめて仲間を巻き込まない場所まで移動しないと」
 イコンを鉄橋方向へ飛ばしている最中、共にアルカンシェルの攻撃に当たっていた仲間達から連絡が入る。
 リオは素早く届いた情報に目を走らせる。
「……やはり、要塞の狙いは鉄橋のようだ。代王が捕らえられている」
「代王が? 鉄橋の上で?」
「そうだ。ヒラニプラ行きの列車に、武装した者達が入り込んでいたらしい」
 なぜ? とフェルクレートが問うより早く、緊急連絡が入る。
『アルカンシェル、ミサイル発射』
 リオはアルカンシェルの方を、モニターに映す。
「絶対、撃ち落とすっ!」
 フェルクレールトは、ハンドガン、ミサイルポットを連射して、迫りくるミサイルに撃ち込んでいく。
 ……ミサイルは、2人の上を通過する直前に爆発した。
「やった! ……と言いたいところだけど、悪い知らせだ。次のミサイルが充填されているそうだ。砲身は未だこちらを向いている」
「弾丸は無限じゃないけれど……。それは向こうだって同じだから。止められるだけ止める」
「ああ、最後はこの機体を盾にしてでもな」
「……うん」
 どうやら敵は本気で鉄橋を落とそうとしている。

「国軍、契約者の皆さんとも最善と信じる行動を取ることが求められています」
 マリー・ランチェスター(まりー・らんちぇすたー)は、ローリー・スポルティーフ(ろーりー・すぽるてぃーふ)が操るヘラクレスなんとかで、鉄橋の方に急行しながら、国軍、シャンバラ宮殿へと呼びかけていく。
 1発目の迎撃には間に合わなかったが、天御柱学院のフェルクレールトとリオにより、早い段階で撃ち落とされたと聞いてはいる。
 鉄橋が狙われ始めてからの国軍の動きに、マリーには思うところがあった。
 直接対象に指摘こそしないが、呼びかけ順で国軍を先に出し、国軍に物申したい雰囲気を匂わせた。
 シャンバラ教導団も、避難活動に当たっていた部隊をこちら側に急行させているが、進路で対処に当たっていたマリー達よりも到着までに時間がかかってしまうだろう。
 限られた時間に、現場に近づくことが出来る部隊は少ない。
 だが――。
 国軍は、空京への守りを薄くすることは出来なかった。
 アルカンシェルのミサイル攻撃は、宮殿対策本部、軍対策本部視点で見た場合、別の作戦を成功させるための、陽動とも見えるからだ。
 宮殿と天沼矛、空京駅は、地球とシャンバラを結んでいる。この2か所を崩せば、地球とシャンバラの行き来もデータ通信も容易ではなくなる。
 鉄橋は空京島と本土を結んではいるが、落されたも飛空艇などの手段で、行き来は可能。シャンバラ間のデータ通信にも大きな影響はない。
 列車に囚われた人々の命を軽視しているわけではないが、敵の策略に嵌り、更に大きな被害を出すことは出来ない。
 アルカンシェルの起動と、列車を占拠した者達の繋がりは不明だが、関係者である可能性は十分考えられる。理子を殺害するつもりでも、理子を攫うつもりでも、理子を捕らえたという映像を政府に送る必要などない。つまり、列車占拠の理由は目を向けさせることが目的と考えられる。
 最初のミサイル発射も突入させるための陽動であったと考えられていた。同じ手法による、陽動だという意見が多方面から出ていた。
 部隊指揮を任された軍人達も、迷いは感じながらも本部の指示に従って空京の防衛を優先に動いている。
「理子様は、テレポートが出来ません。理子様を失えば、アイシャ様の女王のお力が落ちます……」
 だからこそ、マリーは優先は鉄橋と考える。
 シャンバラの繁栄に必須なのは、女王の存在。他国との繋がり。
 それらの絆を断つことを――シャンバラの衰退や孤立を敵は狙っているのだろうか。
「ううーん、要塞から脱出する人や、ロリちゃんの仲間の剣の花嫁たちが脱出するときの輸送方法を手配するはずだったのに……あれれ〜?」
 マリーに従って、イコンを操るローリーは首を傾げて、呟いてみるが、マリーからは「急いでください」としか、返事はかえてこない。
「今日のマリちゃんこあい……」
 マリーから鬼気迫るものを感じて、ローリーは大人しく従い、鉄橋にまっすぐ向かっていく。

(仮に理子が殺害されたとそても、アイシャはさしてパートナーロストの影響を受けないんじゃないかな)
 そんなことを考えながらも、表向きは万が一の為にという理由で、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は、ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)と共に、へルタースケルターを操って、鉄橋側に急行した。
「もう一人のパートナーのセレスティアーナは何故狙われなかったのかな?」
「何故、理子様なのでしょうね」
 ブルタとヘルタースケルターはイコンの中で疑問を口にしていく。
 理子は空京にいたためアルカンシェルの陽動で、狙える場所におびき出すことが出来たが、セレスティアーナはヴァイシャリーにいるため、捕らえることが出来なかったと考えられる。
 しかし、捕らえるのならば理子よりも女王自身を狙うべきではないかとも、2人は思うのだった。
「理子にもしもの事があっても、シャンバラにはさほど影響は出ないと思うけれど、洗脳するなどの手段で、女王を害する手先にされたら……面倒なことになるね」
 理子の持つスレイブオブフォーチュンはシャンバラ女王を斬るとされるいわく付きの武器だ。
 何者かに利用された場合は、厄介なことになりかねないとブルタは考える。
「高根沢家は日本有数の名家だし、シャンバラに強い影響力を持つ日本内部の政争の道具として使うことが目的、な可能性も?」
 ブルタは次々に考えを口に出していくが、犯行動機は未だ不明だ。
「ん? ミサイルの破片がこっちに来るって」
「撃ち落とします」
 ピングイーンが破壊したミサイルの破片が急接近。
 自機に当たる可能性は低そうだが、鉄橋に影響を及ぼす可能性はある。
 ブルタとステンノーラは、破片を発見し次第、アサルトライフルを連射して撃ち落としていく。
 列車内の様子を探りたいところだが、そちらに集中をしている余裕はないようだった。
「鉄橋と列車は傷つけさせません……!」
「マリちゃん……わかったよっ」
 駆け付けた巨大昆虫のヘラクレスなんとかも、身を挺して破片から列車を守る。
「でも、長くは持たないよ……」
「軍を……仲間を、信じましょう」
 細かい破片で怪我をしながらも、マリーは退こうとは言わなかった。