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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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(血の匂いがする……怪我人、結構いるみたいだな。早く手当てをしたいけど)
 ヒラニプラ行きの列車に乗っていた緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)は、紫桜 瑠璃(しざくら・るり)の手を握りしめながら、じっと耐えて伏せていた。
(大人しくしてるの……瑠璃が動いたら兄様や霞憐ちゃんに迷惑かかるの……)
 瑠璃は状況が良く解ってなかったけれど、パートナーの緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)や、手を握っていてくれる霞憐と同じように伏せて我慢をしている。
 そして遙遠は……。
(このまま黙っていても、無事解放される保証もありませんからね)
 伏せたまま、無抵抗を装いながら、機をうかがっていた。
 痛みを知らぬ我が躯、リェネレーションの発動準備をしつつ――。
 敵か、それともシャンバラ政府側か。
 どちらかが動き、敵の目が逸れた時がチャンスだ。

(あちこち痛いなー。でも、他にもケガしてる人、いっぱいいるし、どうにか頑張らないと!)
 テロリストに捕縛されているノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、ただ一人、列車内を見ることが出来ていた。
 とはいえ、銃で傷つけられた身体からはまだ血が流れているし、手当もしてもらえてない。
(!?)
 そんな彼女の脳に、声が響いた。
(理子様から、ノーンさんの姿を見かけたと聞きました。列車に乗っていられますか? ご無事でしょうか?)
 心配そうな、その声は――知り合いの酒杜 陽一(さかもり・よういち)だ。
(うん、撃たれて体中痛かったり、人質だったりするけど、一応元気だよ!)
 そんなノーンの答えに、陽一はひとまず、無事のようですねと言い、車内の状況について尋ねてくる。
(こっちはね……)
 テロリストの攻撃で、酷い怪我を負っている人が沢山いる。
 要塞が向かってくる方向であるヒラニプラへの避難を決断した人は少なかったため、車内はさほど混み合ってはいない。
(ヒラニプラ行きを選んだ人は、契約者が多いかも。チャンスを伺ってる人も沢山いそうだよ)
 合図があれば、自分も動けると、ノーンは言う。
 誰よりもひどい怪我を負っていたけれど……。

(……落ち着くのよ、イーリャ)
 人々を避難させるために、共に乗り込んだイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は、テロリストの言葉に従い、伏せながら状況を探っていた。
(敵の人数はそう多くなさそう。人質を取られてはいるけれど、列車内にいる契約者の数の方が多いはず)
 代王の理子を捕縛したとの声も、イーリャの耳に届いていた。
 彼女は高い能力を持つ、契約者だ。それはテロリスト側も知っているはず。
 彼女に人員を割いているはずだ。そして気も取られているだろう。
(シヴァ! 私がなんとか隙を作るわ。皆を助けて……お願い)
(どこまでついてないのよ、あんたって人は!)
 すぐ近くで、ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)は切れかかっていた。
(まあ、あたしだってこんなところで死にたくないわ……やってやる!)
 精神感応で言葉を交わし、2人は決行の時を窺う。

(タイミングが合いすぎていますし、おそらく要塞を操っている人物と連携しての犯行でしょうね……)
 鉄橋にも注意を払っていたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、真っ先に鉄橋の傍にたどり着いていた。
 周辺住民の避難活動に当たっていた教導団に、ミサイル防衛は任せて、自分達は一般人の救出を試みることに。
「気を付けて……」
 共に避難誘導に当たっていたミクル・フレイバディ(みくる・ふれいばでぃ)は、鉄橋の前に残り、連絡と合図を担当することになった。
「政府は相手の要求を求めてるところだって」
 まずは交渉という方針だろうが、アルカンシェルと関係があるのなら時間は限られていると思われる。
「乗り込もうとしている契約者は他にもいると思うから」
「はい、皆さんと協力して救出いたします。合図、お願いしますね」
「頼んだぜ!」
 ソアと、パートナーの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)はミクルにこの場を任せると、光学迷彩で姿を見えにくくし、空飛ぶ魔法↑↑で飛んで列車に近づいた。

「映画じゃあるまいし……」
 陽一からハイドシーカーを預かり、葛葉 翔(くずのは・しょう)は、ベルフラマントで気配を薄れさせ、空京側から軽身功の能力で静かに列車の屋根に上った。
「っと、お前らも映画の役者になりに来たか」
 屋根の上には先客の姿があった。姿は良く見えずとも、ハイドシーカーで確認できる。
 ワイルドペガサスで上空から列車に近づき、窓からは見えないよう屋根の上に降り立ったのは、シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)。身長20センチの、パートナー霧雪 六花(きりゆき・りっか)を連れている。
「理子はシャンバラにとって大切な人ですし……恩も返したいですしね」
 シャーロットは女王に十二星華達の恩赦を願い出たことがある。
 減刑を認めてもらえたのは、理子の尽力もあったからだと考えていた。
 だから……十二星華、そう愛するセイニィを処刑から救って貰たもらった借りをも返したいという気持ちがあった。
 理子にも、そして女王にも。
「目的は同じようですね」
 ソアは知り合いの姿に安心をし、姿を軽く見せる。
 翔はうなずいて、ハイドシーカーで列車内を探り始める。
(ロイヤルガードとしては、理子を優先しないといけないんだろうが。理子の性格からして自分を助けるために、一般人が怪我をしたら気にするだろうしな)
 それに、シャーロットに理子のことは任せても大丈夫そうであった。
 そう考えながら、翔はテロリストの位置を確認しようとする。
「邪悪な感覚はこのあたりに」
 ディテクトエビルで、ソアはテロリストの大まかな場所を探り当て、翔がそのあたりの状況をハイドシーカーで探って、おおよその配置を知る。
 人質になっている理子とノーンの位置は、陽一がテレパシーで確認済なため、彼女達の傍にいて、ディテクトエビルにひっかかる相手が、テロリストだ。
 強さは……ここにいるメンバーなら、問題なく倒せる程度の強さと思われる。
 同じ条件ならば。
「俺はノーンさん達の解放を優先する」
 小声で言い、翔はノーン達が捕らえられている車両の方へ。
 シャーロットは理子が捕らえられている車両。
「では、私達は後ろの方を」
 運転席側に仕掛ける人物がいるとの話を、ミクルからの連絡で知っていた為、ソアとベアは、後部車両の方に移動する。

「……理子さんと連絡が取れた。彼女が捕らえられてるのは、真ん中の車両だ。敵の人数は10人以下くらい、自分の傍に2人いるとのことだ」
 魔鎧の風祭 天斗(かざまつり・てんと)を纏った風祭 隼人(かざまつり・はやと)は、理子から天斗のテレパシーで聞き出した情報を、空京側から共に鉄橋へ向かっているメンバーに伝えた。
「その位置なら、流れ弾に当たることもなさそうですわね。連絡が取れる方には、運転席に入る時には窓より頭を下げるように伝えてくださいませ」
 そう言うと、イルマ・レスト(いるま・れすと)はスナイパーライフルを手に、宮殿用飛行翼で空へと飛び立つ。
「ああ、わかった。俺も行かせてもらう。頼んだぞ」
 隼人は朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)にそう言うと、光学迷彩で姿を見えにくくし、列車の方へバーストダッシュ。
「慎重にいかないとな」
 千歳は、小型飛空艇ユースティティアを走らせながら、サイレンを鳴らし始める。
 気づかれずに接近することは自分では難しいと考えた。ならば、別の役割を担うまで。
「百合園女学院所属、ジャスティシアの朝倉千歳だ」
 ハンドガンの射程圏内で停止し、身分を明かして警告。
 目的を明かすことと、人質を解放することを要求していく。
 真正面の車掌室は、布でガラスが覆われており、中を見ることは出来ない。
 だが、軽く布が揺れて、中の人物が自分を確認したことが見て取れた。
 千歳は、せめて女性や子供だけでも解放するようにと、説得を続けていく。
(まあ、説得に応じることはないだろうけどな)
 心の中ではそう思っているが。
 説得に応じるようなグループならば、理子が乗った列車を占拠などしないだろう。
 だから、千歳のこの行動は、犯人グループの説得――ではなく、時間稼ぎだった。
 自分に、犯人達の注意をひきつけておくこと。
「サイレンを止めろ! 要求は政府に電話で連絡をする。これ以上近づいたのなら、乗客を橋の外に捨てる」
 そんな声が車内から響いてきた。
「わかった。離れよう。連絡ならば私を通じて行うことも出来る。女王陛下へ連絡をつけることも可能だ」
 サイレンを止めて、距離を置きつつ、千歳は説得を続ける。
 次の瞬間。
 パンと、運転手側に銃声と破裂音が響いた。

 カモフラージュの能力で身を隠しながらイルマは運転席の傍に到着していた。
(身を隠せる場所なんてありませんわね)
 そして、協力者達が配置についたとの合図を受けた直後に、橋の下より高欄に上り、運転手を見張っていたテロリストの一人を狙撃。
 銃声と破裂音が短く響いた。
「その位置から動かないでください。事が終わるまでの間に入ってきた者は全て撃ちます」
 イルマは捕らえられていた運転手にそう言い、スナイパーライフルを構え続ける。
 運転手の捕縛や、占拠だけではない。イルマは破壊にも警戒している。
 運転装置を破壊されるわけにはいかないのだ。ミサイルにも狙われているのだから。
「借りるぜ」
 イルマに撃たれて絶命したテロリストの胸ポケットに、通信機が固定されていた。隼人は手を伸して確保する。
 そして通信機に向かって怒鳴る。
「2両目車外、右側に不審者を発見!」
 その後は、列車外からレビデートを利用し、一切の足音を立てずに天井を移動し、ハイドシーカーで中の動きを探る。
(声が漏れている。このあたりにいるな)
 声を上げて、状況を確認しようとしている者。一定の強さがあり、動きのある者をテロリストと判断し、携帯電話で仲間に報告をする。