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【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮

リアクション







 フレイムタン・オアシスの扉は、先端技術の結晶らしく、音もなく三つに割れ、左右と上に分かれて静かにスライドして開いた。
 ビルに窓と思われる採光部はないので、中は暗闇が奥まで続いている。
 暗闇に警戒して、吹雪や二十二号が扉の両脇から銃器を構える。

「ううむ、暗いな……」

 ダイソウがつぶやくと、

「フッ、どうやらダークサイズは照明の手配をしていなかったと見える。暗闇をなめてかかるとは、ダークサイズもまだまだ甘いな」
 と、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)がずいと前に出る。
 ダイソウはコアを見上げ、

「む、お前はコア・ハーティオン。ではお前は、用意を整えて来たと言うのか」
「ふっふふふ。先ほどヒマワリが泣かされてるにも関わらず、助けに行かずに準備していたのだ」
「そ、そうだよハーティオン! あたしをほったらかしなんてひどいよ!」

 向日葵は再び涙目になりながら、ハーティオンにつっかかる。

「しかしヒマワリ。お前はダイソウトウではなく、永谷たちに説教されて泣いていたのだろう。涙の数だけ、人は強くなるものだ」
「そんなの、自分の準備を優先させた言い訳じゃーん!」

 拳を握って両手を振り回す向日葵を、コアは頭を撫でてなだめ、

「まあまあヒマワリ。どの道、ここでダークサイズにひと泡吹かせねば、何やらひどい目に合わされるのだろう? 私のこれで、ダークサイズを一歩リードしようではないか。チーム・サンフラは私の周りに集え! ゆくぞ、『サーチアイ』ッ!」

 と、コアは独自のネーミングで【顕微眼】を使い、両目を強烈に光らせる。
 コアの光線によって、ビルの中が照らされる。
 扉を入った先に、広いエントランスのような空間が広がっているのがぼんやりと見えた。

「ではダークサイズ諸君! この貴重な一歩は、我々チーム・サンフラがいただく!」

 と、コアの光を先導に、向日葵たちはビルの中へ走り去っていった。

「む、しまった。先を越されてしまった」

 ダイソウはフレイムたんを振り返り、

「ではフレイムたん。我々はお前の炎の明かりを頼りに進むとしよう」
「しまった! その手があったか!」

 と、ビルの奥から、コアの悔しそうな声が聞こえた。

「あーあ、行っちゃった。サンフラったら変なトラブル持って来なきゃいいけど……」

 茅野 菫(ちの・すみれ)は、フレイムたんと『亀川』を適正な温度を保ったまま入れるよう注意しながら、うっとうしいような心配なような、複雑な口調でそう言った。
 それを感じ取ったのかパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)が、

「あら、それならサンフラたちを追ったらどう?」

 と笑う。
 菫はふむと鼻からため息を漏らし、

「って言ってもねぇ、未開の施設の探索でしょ? ダイソウトウが何かやらかすと思うと、気が気じゃないわ……って言ってるそばからちょっと待ったー!」

 菫がダッシュする先では、入口脇の壁に突き出たレバーに手をかけるダイソウの姿が。
 ダイソウが手に力を込めようとした瞬間、クロス・クロノス(くろす・くろのす)が【ピコハン】でダイソウを横殴りにすっ飛ばした。

「ありがと、クロス」
「いえいえ」

 礼を言う菫とほほ笑むクロスに、ダイソウが身体を起こして言う。

「何をするのだ」
「こっちの台詞よ。謎のスイッチに早速手をかけるなんて、どうかしてるんじゃないの」
「スイッチではない。レバーだ」
「へ理屈はいいのよ、まったく」

 クロスが、立ち上がったダイソウのマントの埃を払ってあげながら、

「そもそも、ダイソウトウはダークサイズのトップでしょう? 後ろでデンと構えて、指図するのが立場のはず。ついこの間も、そんなお叱りを受けたばかりじゃないですか」
「うむ、それは確かにそうだな」

 すると、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)もドヤ顔気味に、

「そーそー。ビルの探索なら、動くのはボク達の仕事。指示するのはダイソウトウさまの仕事だよ」
「あら、分かってるじゃない、カレン」

 と、菫が何やら鼻を高くするカレンに言った。
 そしてカレンは、

「一応、ボクもダークサイズ長いしね。だからこういうのは、ボクたち幹部の仕事だよ」

 と言って、レバーを下げた。

「やっぱり分かってないわあんたー!」

 レバーに反応して、入口の扉が閉まり、菫の叫びがビル内を反響する。

「あーあ! 閉じ込められちゃった! どうすんのよこれ!」

 外のからの明かりが遮られ、フレイムたんの炎で浮かび上がる菫の顔は、すっかり失望している。

「にしても、扉を内側から閉めるのは、ずいぶん原始的な装置なんですね……」

 と、クロスがレバーを上げようと試みるが、どうにも持ち上がらない。

「もしかしてこれ、停電とか緊急用のレバーなんじゃないかしら? 扉が開く時も、空圧式のポンプみたいな音が聞こえたし、ちゃんと通電すれば、自動で開閉すると思うわよ?」

 というパビェーダの仮説は、納得するに充分なものだ。

「だが」

 と、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は前置きして、

「機晶エネルギーが切れておるのだろう? 電力復旧と言えど、根本のエネルギーが切れていればどうにもなるまい……」
「ということは、ボクたち出られなくて、ここで餓死だねっ!」

 カレンがまったく逼迫していない様子で言った。

「カレン、おぬしが言うと、皆の神経を逆なでするではないか」

 ジュレールがカレンの脳天を軽くチョップする。
 十六夜 白夜(いざよい・はくや)がビル内が大きな吹き抜け状になっているのを、フレイムたんの炎でぼんやり浮かび上がるのを視認しながら、

「にしても、わざわざこんな劣悪な場所に、このようなしっかりした施設を作るとは。何の考えもなしに技術の無駄遣いをするほど、ニルヴァーナ人も阿呆ではないと思うがのう」
「この場所そのものに、意味があるっていうこと?」

 パビェーダが白夜の言葉に反応する。
 白夜も頷いて、

「うむ。何か貴重な資源がある、もしくは……」
「ここ単体で自活できるシステムがある、と……」

 白夜とパビェーダの議論を聞いて、クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)がうずうずしてくる。

「よぉーし、みんなで探険大会だぁー! ねえねえイリス、どこから探す? どこから探すー?」

 目がキラキラ輝くイリスが、フレイムタン・オアシスの暑さで死んだ魚の目になっているイリス・クェイン(いりす・くぇいん)に言う。
 イリスは空っぽの目でクラウンを見上げ、

「そうね……リニアの完成に役立つかもね……」
「あーん、イリスぅー。目が死んでるよぉー!」

 暑い所が大嫌いなイリスだが、リニア完成に有用かと思いフレイムタン・オアシスの探索に参加した。
 ただ予想通りと言うべきか、『亀川』が発する冷気を背中に受けながら、全くテンションが上がらない。
 むしろ時間を追うごとに下がっている気がする。

「さぁー、そんなあなたにお勧めなのが、こーちらの商品っ」

 少しうっとうしさのある甲高い声で、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)が誰かのモノマネをしてしゃべる。

「暑いですよね苦しいですよね。そんな辛い季節にはこちら、『マグマイレイザーの皮』!」

 フレイムタン・オアシスで倒したマグマイレイザーから、密かに皮を回収してみた裕輝。
 溶岩の熱すらシャットアウトする、その強力な耐熱性に目をつけた彼は、

(お、やっぱこれ、使えそうやん……)

 胴体の皮膚はすでに回収して遺跡へ運搬されていたため、裕輝は手足の皮を剥いでいた。
 羽織ってみると、

(以外といけるかも)

 といった具合で、ダイソウ達が扉を開く挑戦をしていたころに、いそいそと作業していたらしい。
 裕輝は今にも裏声にひっくり返ってしまいそうな高音で、

「ちょっとじっくりご覧ください、この表の鱗。コントラストが素敵ですねぇ。これものすごいです。ちょっと待ってください。今ならですよ? 今なら、さあこの裏側。とれたてでまだ血だまりが残ってます。この血だまりもお付けして、これぜーんぶまとめて、一万Gでお願いします。分割金利手数料は、ジャパネットセヤマが負担します」

 と言いながら、イリスの肩にかける。

「ひ!」

 皮の内側に張り付く血の気持ち悪さに、イリスは身体を硬直させる。

「ななな、何なのよこれ……」
「まぁ、最初気持ち悪いのはガマンや。如何せん洗浄水が足りひんかったからなぁ。慣れればどうってことないで」

 と言う裕輝は、すでにマグマイレイザーの皮を着こなしている。

「そのマグマイレイザーの皮……ください……」

 向日葵の声に裕輝が振り返ると、今にも溶けてしまいそうなチーム・サンフラが勢ぞろいしている。

「あれ、いつの間に戻ってきたんや」
「ビルの第一歩を制したのはいいものの……やっぱりフレイムたんと『亀川』から離れすぎちゃダメだたみただ……」

 あまりに熱のせいで、永谷も口が回らない。
 フレイムタンはもともと、並みの生物は死滅するほどの高温の環境である。
 調子に乗って奥へ進もうとしたが、フレイムたんと『亀川』の温度相殺エリアからはみ出したとたんに、チーム・サンフラはあっという間に熱にやられてしまった。
 向日葵達が裕輝の商品に我も我もと手を伸ばし、

「おお、思わぬヒット商品作ってしもうた……」

 裕輝は分割金利手数料無料と言った手前、格安でチーム・サンフラに皮を売る。
 どうにか断熱材を手に入れたチーム・サンフラだが、他方ではレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が、ビルの壁や階段の手すりなどに【氷術】をかけているのが見えた。
 加えて白夜やパビェーダ、クロスなども【氷術】を放ち、ビル内部に氷の環境を作る。

「長く持たぬだろうが、これならある程度自由に動けるじゃろう」
「一応金属の一種みたいね。溶岩からは離れてるから、密室になったのが逆に役に立ったわ」
「スキルを使える人で、断続的にフォローしていくことにしましょう」
『そ、その手があったかーっ!』

 チーム・サンフラはマグマイレイザーの皮を握りしめた後悔しそうに羽織り、

「……バカね」

 と、菫はつぶやいた。