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Zanna Bianca――ザナ・ビアンカ

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Zanna Bianca――ザナ・ビアンカ

リアクション


●17

 同じ頃、
「朔様……今がそのときであります!」
 スカサハ・オイフェウスが声を上げると、
「……スカサハに免じての行動だ。……勘違いをするなよ?」
 鬼崎朔は足元の地面に閃光弾を叩きつけ、炸裂させた。目も眩むばかりの光があふれる中、「とっとと消え失せろ、クランジ」投げ捨てるように、朔はオミクロンに言ったのだ。
「さあ、澪さん。いまなら紛れて山に逃げ込めます」榊朝斗がオミクロンの手を引いた。怪我をしているオミクロンだが、ルシェン・グライシスが肩を貸して歩かせる。
「そこの家の地下です……急いで」
 崩れかかった家にオミクロンを押し込むと、ルシェンは立ち去りかけた。しかしその腕を、
「待て」オミクロンが握った。
「どうしたんです?」
「礼を言う。……ありがとう」澄んだ瞳で澪は言った。
「あなたからその言葉を聞けるなんてね」ふっと微笑すると、「また会いましょう。今度はできれば……友人として」と告げてルシェンは姿を消した。
「こっちよ、澪」
 灯を手に、地下で待っていたのはローザマリア・クライツァールだった。やはり肩を貸して澪を歩かせてくれた。その途上、世間話のような口ぶりでローザは言った。
「澪……本当は、あなたと再会したときに一騎打ちを挑むつもりだったのだけどね。今日はパスね」
「物騒だな」澪はくっくと笑おうとして、傷が痛むのか咳き込んだ。
「でも、次回ね」
「……次だな」
「ねえ、澪、どうしても私たちの提案に乗る気はないの……?」ローザは毅然とした軍人風の態度を少し緩めて言った。
「お前と契約しろという話か……。私の死を偽装して、姿を変え、『大黒澪』として生きよ……と?」
「本気よ」
 ローザは、まっすぐにオミクロン――澪の眼を見つめた。
「私は、借りを返さねばならん」否定も肯定もせず、澪は言った。「妹をあんな姿にした連中に」
「それだって、私たちと一緒なら……」
「怖いのだ」
「怖い?」
「お前たちには理解できまいな……。自分が『殺戮人形』でなくなるのが怖い。人間の倫理ではどうなるか知らないが、これが私たちの生まれた理由、あるいは存在理由だ。存在理由を喪えば……」
「いざというとき借りを返せなくなる、というのね。鏖殺寺院に……」
 二人の会話は途切れた。数分、互いに黙ったまま二人は歩いた。
「ここまででいい」澪はオミクロンの顔に戻って、ローザマリアから肩を離した。「後は一人で行ける」
「じゃあ」
 ローザは右手を差し出した。オミクロンはそれを握った。つづけてローザマリアは彼女の首に、紐を通しネックレス状にした機晶回路キーをかけた。
「もし、貴方たちのような運命を背負った姉妹を救いたいと力を貸してくれるのであれば、それを持って私の所へ来て。私は貴方に道を示すわ。未来という道を、ね」
「覚えておく」
 片足を引きずるようにして、クランジΟ(オミクロン)は、暗い地下道の奥へと去っていった。
「自分が『殺戮人形』でなくなるのが怖い……本当はね、澪」
 ローザマリアはそっと呟いた。
「私も理解できるわ、その感覚なら……」

 やがて雪崩は収まり、ザナ・ビアンカはどこかへ走り去っていった。
 村は雪に飲み込まれたが、村人の死傷者はなかったという。