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【4】2021年、男尻神輿バトル開催!……1


 間もなく夜の8時になろうとしている。
 本日の目玉『男尻神輿バトル』の開催時刻、次第に見物客の足がセンター街を囲む通りへと向かう。
 運営委員のJJはと言えば、センター街の中程にある本部で進行に余念がない。
『皆様、お待たせしました。男尻神輿バトル、間もなくの開催です』
 マイクを通しアナウンスされるJJの声。
 そんな彼の隣りには褌&法被姿の荒ぶる大学生王 大鋸(わん・だーじゅ)が座る。
『今年は解説に空京大学の王大鋸さんをお招きしています。よろしくお願いします、王さん』
『おう! 今年はドイツもコイツもいい面構えのヤツらばっかりだ! 期待してんぞ、オラァ!!』
『そして、実況はぼくジャングル・ジャンボヘッドでお送りします』
『……んじゃ、参加チームの紹介すんぞ! 耳かっぽじってよく聞いとけや、コラァ!!』


 エントリーNo.1『梨ガリくん』
 人数的には中規模のチーム。何より気になるのは、神輿に乗った不思議なゆるキャラ、梨ガリくん。
 梨のキャラが、甘酢に漬けた巨大な生姜即ち寿司屋で出てくるガリを囓っている奇抜なデザインなのである。
 しかし、一体なんのキャラなんだ、梨ガリくん。梨とガリのPRキャラなのか、梨ガリくん。

 【メンバー一覧】
 樹月 刀真(きづき・とうま)
  ……漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)
  ……玉藻 前(たまもの・まえ)
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)
  ……セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)
  ……丸城戸 佐渡(まるきど・さど)
  ……清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)
 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)
  ……ラグナ アイン(らぐな・あいん)
  ……アルマ・アレフ(あるま・あれふ)
  ……ラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)

なんで、下に着るものが褌しかないのっ!?
 漆髪月夜は素っ頓狂な声を上げた。
 問われた樹月刀真は「え?」と言う顔をしつつ「男尻と言うくらいだし尻は見せておいた方が良いかと思って……」
「ちゃんと用意しときなさいよっ!」
「ごはっ!?」
 鋭角から斬り込むアッパーが、まだ始まってもいないのに、刀真の体力を削る。
「別に良いではないか、月夜。晒と褌でライバルの男どもを誘惑出来れば一石二鳥であろう?」
 艶かしい肢体をくねらせる玉藻前。既に他チームの男性陣の視線を独り占めにするじゃじゃ馬ボディだ。
 けれども、月夜は彼女ほど自分の身体に自信があるわけではない。
「……うう、いいよもう。梨ガリくんの中に入ってるから」
 そう言うと、神輿の上の梨ガリくんのチャックを下ろした。つか、入れるんだ、それ。


 エントリーNo.2『冒険屋』
 全参加チーム中、最大の規模を誇る優勝候補の一画。
 しかし参加人数は多いのだが、外部のサポートに回ってるメンバーも多く、実は担ぎ手はそれほど多くない。
 それでもオフェンス&ディフェンスの高さは揺るがないが、サポートに割いた分が吉と出るか凶と出るかが見所だ。

 【メンバー一覧】
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)
  ……メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)
  ……ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)
  ……ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)
 ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)
  ……キリカ・キリルク(きりか・きりるく)
  ……シグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)
  ……ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)
 相田 なぶら(あいだ・なぶら)
  ……フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)
  ……親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)
  ……ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)
 天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)
 羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)
  ……シニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)
 茅野 菫(ちの・すみれ)
  ……パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)
  ……閻魔王の 閻魔帳(えんまおうの・えんまちょう)

「ふむ……『ダンジリ』は普通『楽車』と書くはずですが、こっちの世界では文化が違うのでしょうかねぇ」
 天御柱学院理科教諭アルテッツァ・ゾディアックはポツリと言った。
 パートナーの親不孝通夜鷹が冒険屋の関係者と言うことで、彼もまた神輿バトルに駆り出されたわけである。
「さて、私は何を手伝えばいいのですか、ヨタカ?」
「担ぎ手に決まってるぎゃ」
「そもそも御輿は神様の乗り物でして、伝統的に担ぎ手は『若衆』と決まっていますが、ボクでもいい……って!」
 長丁場になりそうな話に2秒で見切りをつけた夜鷹は神輿をよじ上る。
 すると、屋根には何故だか全裸で金箔を塗りたくった天空寺鬼羅の姿があった。
 まばゆいばかりにシャイニングする彼の裸体に、夜鷹の瞑らな瞳もますますキラキラと輝きを見せる。
「なんだぎゃ? たのしそーだぎゃ! ワシも脱いでみるぎゃ〜!!」
「ほう。いい脱ぎっぷりじゃねぇか、小僧。オレみてぇになりてえってか、コイツは将来大物になるぜっ」
 子どもへの悪影響丸出しである。
「ヨタカ! 神様の乗り物には『人』は乗ってはいけないのですよ!」
「まーた先生臭い説教がはじまったぎゃ。うっとうしいぎゃ。って、アルは先生だったぎゃ、わ〜すれてたぎゃ〜!」
「まぁ地祇は神様の部類に入るのかと言う問題もありますが、とにかく降りなさい」
「……あ、あっちの出店のかき氷美味しそうだぎゃ〜」
 アルテッツァはハァとため息、知らんぷりして逃げようとする夜鷹を無理矢理引きずり下ろす。
「ぎゃ、ごめんなさいぎゃ、大人しく担ぐことにするぎゃ」
「……まったく」
「もうすぐスタートだってのに、落ち着きのない集団ねぇ。こんなことで大丈夫かしら」
 ヴェルディー作曲レクイエムは肩をすくめる。
「そんな纏まりのないアンタ達のために、ユニフォームを作ってきたんだからせいぜい感謝なさいっ」
「ははぁ、半被ですか。もとは江戸時代に駕籠かきや下僕、職人が着たものですが、丈が六尺であったので『六尺看板』とも言われており……、ヨタカ、聞いていますか? 聞いていないなら、これで凍らせておきますか?」
「き、聞いてるぎゃ!」
 首筋にひたりと突き付けられたアルティマトゥーレの刃に、夜鷹は身震い。
「それにしても、白地に紺の筆文字で『冒険屋』の染め抜きですか。紺色の襟の部分は、龍の模様に染め抜きがされているんですね。同じ色で、袖口にも染め抜きがありますし……おや、ギルドマスターの色である黄色が、染め抜き中身の龍に塗られてるんですね。さすがはヴェル、センスが良いですね。股引きとだぼシャツが濃紺というのも面白いです」
「うっふっふっふ、特技『ファッション』持ちをなめんじゃ無いわよ!」
 集まった他のメンバーも揃いの法被に喜んでいる。
「やー、気が利いてるなぁ」
「こういうのがあるとやっぱ祭りって感じがするよなー」
「やるじゃん、オカマ」
誰よ、今オカマって言ったの!?
 殺す勢いで振り返るヴェル……とその時、パサッと何かが落ちる音がした。
 見れば涼介・フォレスト。足下に落ちているのは……間違いない、法被である。
 この日の為に用意した粋でいなせな青を基調とした法被。背中には白の染め抜きで丸の中に冒険屋の冒の文字。裾の染め抜きは波形型で襟文字はそれぞれの名前が……例えば『冒険屋 涼介・フォレスト』のように入っている。
「良かれと思って作ってきたんだが……悪い、まさかもう用意してあるとは思わなくて……」
「あ、その、あたしのほうこそ……。でしゃばっちゃってごめんなさい……」
 気まずい沈黙。
 しかし、レン・オズワルドは気にすることなく2人の背を叩いた。
「まぁいいじゃないか。レースは長い。途中で着替えることを考えれば、二種類あっても困らないさ」
「ああ、給水の時とかにか」
「そう言うのも悪くないわね」
 丸く収まったところで、レンはメンバーを見回し、皆のやる気を鼓舞する。
「参加する以上は優勝を目指す! 遊びにも本気を出す、それが人生を楽しむ秘訣ってやつだっ!
「うおおおおおーっ!!!」


 エントリーNo.3『タシガン馬術部』
 薔薇学からやってきた貴公子3人組。
 少数ながらも普段の乗馬で引き締まったお尻に、既に女性ファンの黄色い声援が飛び交っている。
 時折、ガチっぽい男性の声も聞こえる気がするが、そこはちょっと怖いのでなるべく見て見ぬ振りをしよう。

 【メンバー一覧】
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)
  ……西条 霧神(さいじょう・きりがみ)
  ……呀 雷號(が・らいごう)

 3人ともに晒と褌。リーダーである尋人は赤褌、パートナーは白いものを着用。
 神輿は上部が柵になっており、サラマンダーと剣竜の子供、パラミタペンギンにわたげうさぎなどが居る。
 モチーフは移動動物園。優勝することより、見物に来た子ども達を楽しませることのほうが彼らには重要だ。
「ザ・わくわく動物神輿……ってね」
 動物の持ち込みに制限はないし、運営もゴリラっぽいし大丈夫だろう……と若干無礼な判断のもと作ったそうである。
「…………」
「……雷號、ダメだよ。そんな顔じゃ子ども達も怖がってしまうよ。笑って笑って」
 鬼院尋人が朴念仁の呀雷號を注意すると、彼は固い表情のままチラリと一瞥。
 雪豹の獣人の彼……当然その時は裸なのだが、しかし人間の姿で半裸と言うのはどうにも落ち着かない。
 なんとなく無防備な感じがして、必要以上に気を張って警戒してしまう。
「……こうか?」
 頑張って笑顔を作ってはみたものの、慣れない筋肉を酷使して作ったそれはおよそ笑顔からほど遠い表情だった……。
……いや、やっぱり普通でいい
…………
 雷號は傷付いた。しかし表情が固過ぎて誰にも気付いてもらえず、更にちょっと傷付いた。
「いや彼よりも、私のほうが色々と意味不明と言うか、問題山積みのような気がするんですけど……」
 そう言う西条霧神の風体は確かにどこかオカシイ。
 褌まではお揃いなのだが、頭には悪魔の角、しかも肩には何故かコウモリ。
 例え今がハロウィンだとしても、警察への通報をしばし考えてしまうアンバランスなコーディネートだ。
「しょうがないよ、ハチマキが足りなかったんだから。でも似合うよ、褌」
「似合いませんよっ!」
 とは言え、『ホスト喫茶 タシガンの薔薇』の現役ホストと言うこともあり、ヘンテコな風貌でも麗しい。
 適度に締まった細マッチョの2人と比べると、ガッシリとした体つきで女子もドキドキである。
「はぁ……、私たちの明日はどっちなんでしょうねぇ」
「明日より今さ。さぁ張り切って行くぞっ!」


 エントリーNo.4『(自称)かよわい乙女』
 ネーミングに反して男性メンバーのほうが多いのはなんなんだぜ!?
 会場から上がる男性たちの落胆の声もなんのその、狐の皮を被った獅子が大会を掻き回す!
 男尻バトルに備え入念に作戦を練ってきたと語るが、果たして本大会のダークホースとなるか!?

 【メンバー一覧】
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)
  ……ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
  ……カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)
  ……夏侯 淵(かこう・えん)
 水神 樹(みなかみ・いつき)
  ……カノン・コート(かのん・こーと)
  ……カジカ・メニスディア(かじか・めにすでぃあ)
  ……水神 誠(みなかみ・まこと)

「自称ってなによ、自称って!」とルカルカ・ルー。
「まぁまぁ……」と水神樹。


 エントリーNo.5『おっぱいイズジャスティス』
 ド直球なセクハラネームの五枠、大穴。
 若干、二名による最小規模のチームなれど、観客からの期待度はファビュラスマックス!
 さぁ一体どんなおっぱいを見せてくれるのか。男のドリームを叶えてくれるのか。乞うご期待。

 【メンバー一覧】
 豊緑 遥(ほうえん・はるか)
  ……バルシャモ・ヘックリンガー(ばるしゃも・へっくりんがー)

「そう! おっぱいは正義! おっぱいこそが祭られるべき神!
 おっぱい聖人と言うか竜人バルシャモ・ヘックリンガーは天に向かって雄叫びを上げる。
 神輿は特別仕様、彼ひとりで担げるように前方にしか担ぎ棒がない。
 肝心の神輿本体は電飾で彩られ、四隅から中央に乗る豊緑遥に向かって照明、あたかもお立ち台の様相である。
「オレはそれを世の中に示すべく、我が主にして絶対的な乳を誇る神『遥』の導きの下栄光のゴールへと突き進む!」
「うおおおおおおおっ!!」
 ……今のうおおおおっは見物客からの期待の声である。
「だ、大丈夫かなぁ……」
 そして、遥はなんだか不安そう。果たしてセンター街の乳神となることができるだろうか。


 エントリーNo.6『流れ☆首』
 ファンの集いで集めたと言うモヒカンや首狩族、パラ実系空大生がメンバーの大半を担う祭りに咲いた悪の華。
 ドージェが彫刻された神輿には、各種干し首系アイテムが飾られ、様々な刃物で武装されている。
 かなり近寄りがたいが、問題はただのファンでどこまで契約者に対抗出来るかと言うところか。

 【メンバー一覧】
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)
  ……宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)

「とりあえず根回しでゴロツキ連中を集めたけどよぉ……」
 チュパカブラ型ゆる族の宙波蕪之進は沈んだ表情。正直なところ、この集団の仲間だとは思われたくない。
 ポニーテールに法被で決めた藤原優梨子は目を細め「何か文句でも?」と冷ややかな視線を向ける。
「ああ、いや! 付き合うけど!」
「別に担ぎ手に参加して頂かなくても結構です。目に見えて上背が足りなさそうですし」
「あー……言われてみりゃそうだな……」
「神輿の上に乗って、罠が仕掛けられてないかトラッパーで警戒してください」
「それなら楽で良いが……、神輿の上は目立つな……。せめて光学迷彩で隠れさせて貰うぜ」
 蕪之進はすぅーっと風景に溶け込んだ。


 エントリーNo.7『ヒーロードッグ』
 さて、トリを飾るのはラッキーナンバー7の少数集団。
 ヒーローマスクを冠った犬をモチーフにした可愛らしい神輿がトレードマークだ。
 並みいる強豪を押しのけて、勝利を手にすることは出来るのか。見せて欲しいぜ、ジャイアントキリング。

 【メンバー一覧】
 永井 託(ながい・たく)
  ……アイリス・レイ(あいりす・れい)
  ……那由他 行人(なゆた・ゆきと)

「二人とも、今日はがんばろうね」
 にこやかな永井託に対し、アイリス・レイはちょっぴり複雑な顔。
 神輿になんて興味ないのに……なんで私までこんなことに……と思いつつも、託に押し切られここまで来た。
 しかし、神輿作りにも手伝ったし、ここまで関わったらやるしかない。
「わかったわよ」とアイリスは頷く。
「うん! がんばろうな!」
 那由他行人も加わって、3人は拳を合わせる。バトルに向けての意気込みはバッチリだ!


……以上、7チームによる男尻神輿バトル、間もなく開催ですっ!