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ありがとうの日

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ありがとうの日
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○     ○     ○


「……意外と、穏やかな表情ですね。眉間に皺を寄せて帰ってくんじゃないかと思っていました」
「可愛い仲間と一緒だったから」
「そうですか、それは良かったです」
 誘った相手、ファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)と合流をした橘 美咲(たちばな・みさき)は、明るい笑みを見せる。
「遅くまでお疲れ様でした」
「特に俺は、何をしたわけでもないから。……浴衣、髪も、可愛いね」
 ファビオが美咲の姿を褒める。
 赤がベースの、明るく可愛らしい浴衣だった。髪はお気に入りのリボンで結んでいる。
 ファビオを元気づけようと、選んだ場所と格好だ。
「ありがとうございます。この格好で、そしてこうして一緒に過ごしていると落ち着きますね」
「落ち着く?」
「はい、私自身の気持ちがです。ファビオさんは、最近、落ち着けていますか? 捕虜交換とかファビオさんには向いていないと思いますし」
 笑顔のまま、美咲は語っていく。
「権謀術数が蠢く世界より、もっとシンプルに守りたいものの為に剣を振るっている方が、ファビオさんらしいと思います」
「……現代では、剣を捧げる相手を見失ってるんだ」
 ファビオは苦笑して、どこか遠くを見る。
 彼はかつて、アムリアナ女王を深く敬愛し、女王と、女王が愛する世界の為に戦ってきた。
 無論、彼自身も古代シャンバラとそこに生きる人々を大切に思っていたからでもある。
「だから今は、かつての主の子孫に、好きに使われている状態だけれど。本当に守りたいものが出来た時には、心のままに生きると思う」
 そう言って、ファビオは美咲に笑みを見せた。
「わかりました。とりあえず、今日は息抜きしましょう」
 人混みの中、美咲はファビオの腕を引っ張り、もう片方の手で塔を指差した。
「いつかのように、高い所で花火が見たいです。あの場所を借りて、2人で見ませんか?」
「喜んで。……飛んで連れて行きたいところだけれど、今日はやめておいた方がいい?」
「……そうですね、浴衣ですし。歩きましょう」
 逸れないように、互いから目を離さずに、2人は塔へと歩いて行った。

 パアン

 射手座の花火が終わった後も、夜空に花は咲き続けていた。
 ファビオと美咲は人混みの中を抜け出して、2人きりで塔から花火を見ていた。
「手を伸ばせば届きそうな気がします」
「満天の星空と同じだね。でも、決して触ることはできない輝き」
「そうですね……」
 それからは、会話をあまりすることなく。
 並んで、静かに、花々に見惚れていた。
「きっと、忘れられない思い出になります。……ううん、そうじゃない」
 言って、美咲はファビオを見上げた。
「私は絶対に忘れませんー」
 ファビオは穏やかな顔で、首を縦に振る。
 そうして、全ての花が咲き終わるまで、2人は一緒にいた。

○     ○     ○


 捕虜交換を無事終えたとの知らせが、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の元に届いた。
 会合で話し合われたこと、レストと契約者の会話。
 そして、御堂晴海が、エリュシオンに向かったということも。
「……ほんの数ケ月。その時間があれば、彼女は死ななくて済んだかも知れないね」
 共に、報告を聞いていた黒崎 天音(くろさき・あまね)がそう言った。
「生きてはいたでしょうね。シャンバラを裏切ってはいたでしょうけれど」
 そう答えるラズィーヤは、どこか思い詰めているようにも見えた。
「遺体はどうするの?」
「さあ……どこにあるのかわかりませんもの」
「ホントかな?」
 天音の問いに、ラズィーヤは意味ありげな笑みだけ見せて、イエスともノーとも言わなかった。
「彼は新たなパートナーを得たでしょうから、前のパートナーの遺体を求めているのは……ただの情愛だけと考えていいでしょう」
 空京ではもうすぐ万博が開催される。
 万博には、シャンバラとエリュシオン帝国の和平路線を強調する意味もある。
 レストは第七龍騎士団の団長を続けると思われるが、今後は対立することはないはずだ。
「彼女というシャンバラの財産を失ったのは……わたくしの、甘さが原因ですわ」
 ラズィーヤは、ごく軽く、一瞬。自嘲気味な笑みを浮かべた。
「ラズィーヤさん」
 すぐに表情を消し、紅茶を飲む彼女に――天音はそっと手を差し出す。
「花火、終わる前に見に行こう?」
「そうでしたわね」
 天音の手を掴んで、ラズィーヤは立ち上がる。

 ラズィーヤの私邸の最上階のバルコニーに、天音はラズィーヤと共に出た。
 空に浮かぶ、光の花々を、特に何の表情も浮かべず、ラズィーヤは見ていた。
 そんな彼女の全身を天音は身近で見て。
 自分より小さく、細い体に僅かに目を細めた。
 それから少し近づいて。
「僕がラズィーヤさんとどんな友人になりたいのか? 考えていたんだけど……」
 彼女にそっと、囁きかける。
「50年後、全てを譲ったラズィーヤさんが、親しい友人を集めてお茶会を開く時に『あの人がいないとはじまりませんわ☆』と言ってもらえる様な相手になりたいな」
 自分の方に目を向けたラズィーヤに、天音は微笑みかける。
「わりと長期計画でしょ?」
「……楽しみですわね。50年後のお茶会」
 ラズィーヤはそう答えて、いつもの優雅な微笑みを見せた。

 パン、パン、パパン

 遠くの空に、盛大な光の華が咲く。
「綺麗ですわね。本当に……。50年後にも、それまでの夏も。シャンバラに咲く光の花を、お茶した後に見ることができましたら、いいですわね」
 微笑む彼女の隣で、天音は「そうだね」と囁いて。
 共に、シャンバラの人々が作り出した、美しい花を観賞していく――。

○     ○     ○


 翌日。
 ラズィーヤ・ヴァイシャリーを訪ねた神楽崎優子は、冬学期(9月)からの短期留学の意向を示す。留学先は西シャンバラのシャンバラ教導団。
 卒業後の進路としてではなく、将来の事を見据えて、西シャンバラとの絆をもっと深めておきたいと思った。そして今、軍事を学んでおきたいと感じたからだ。
 アレナ・ミセファヌスは、一晩優子と話し合った結果、百合園に残って――寮に戻って、百合園生を守りながら、ヴァイシャリー市民達からもらったプレゼントと一緒に優子の帰りを待つことに決めた。

担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

シナリオへのご参加ありがとうございました。
戦乱が終わり、シャンバラとエリュシオンは新たな関係を築いていくことと思います。
別れた人々との物語もまた機会がありましたら、描かせていただきたいです。

続く皆様の物語が、どのようなお話になるのか、私も楽しみにしています。

尚、シナリオの結果、神楽崎優子(現在短大生)は百合園に籍を置いたまま、教導団に短期留学をすることを決意しました。
アレナ・ミセファヌス(現在高校生)は一緒にはいかず、ヴァイシャリー(百合園)でお留守番となりました。

【感謝】
貴重なアクション欄を割いての私信等、ありがとうございます。
ひとつひとつにお返事を書ききれておれず、大変申し訳ありません。深く感謝し、参考にさせていただいております。