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第4章 愛、ほとばしるままにご奉仕☆

「……というわけで、メイドとは、主人を影日向に支え、主人が迷えば手を差し伸べ、暴挙に出れば心身を張ってこれを止め、立ち止まればそっと背中を押し、主人を前に進ませる者である。主人の身に危険が迫れば命をかけて守り、主人の心身が休まる場所を作り守らなければならない。みな、わかったかな?」
 ガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)は、勢揃いしたメイドたちに向かって呼びかけていた。
 神殿のホール。
 時刻は、午後9時をまわりつつある。
 そろそろ、宿泊客たちはお風呂からあがって、各自の部屋に入り、それぞれの時間を過ごし始めているころであった。
「そして、服装は、不必要なほど肌を露出する必要はなく、清潔で動きやすい服装とし! 立ち居振る舞いは、清楚で落ち着いて、物腰は柔らかく、淑女でなければなら
ない!」
 ガランは、なおも熱っぽく語っていた。
 メイドの心得を説く。
 そこに、ガランは自分の使命をみいだしていた。
「はー、ちょっとしゃべりすぎたかな」
 ノンストップで長時間講義していた影響か、ガランは全身に倦怠感を感じた。
 すると。
 メイドたちの何人かが、ガランの側にきて、肩を揉んだり、腕をさすったりしてくれた。
 また、飲み物を提供してくれるメイドもいた。
 メイドたちからみれば、奉仕の志を説くガランもまた、奉仕の対象なのであった。
「メイドさんたち、オレの話が少しでも参考になれば幸いだな。がんばってくれ」
 ガランが一礼すると、メイドたちは、割れるような拍手を送った。

「お食事も温泉も、楽しかったですね。まだ寝るには早いですけど、何をしましょうか?」
 コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は、神殿の客室で、ルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)と向かい合って、いった。
「うーん、何を、か。我らは夫婦なのであるから、やはり水入らずの、成り行きでよかろう」
 ルオシンは、考えこんで、いった。
「そうですか。それじゃ、私がルオシンさんにいろいろご奉仕しましょう」
「奉仕だと!? それはいったい」
「奉仕は奉仕です。愛を。全ての愛を、ルオシンさんに捧げる気持ちで、奉仕します」
「しかし、コトノハ、育児で疲れているのでは?」
 ルオシンの言葉に、コトノハは首を振った。
「いいえ。それでは、いつも育児に協力してくれるルオシンさんに奉仕します」
「育児に協力? いや、そんなには」
 ルオシンはどぎまぎしていった。
 しかし、最後にはコトノハがルオシンをベッドの上に押し倒し、真心をこめたマッサージを開始していた。
「ねえ、パンツァーって、何なんでしょうね」
 夫の腕の筋肉を揉みほぐしながら、コトノハはいった。
「パンツァー? この神殿の神とされる存在か? そうだな。うーん、何かなんて、考えたこともなかったが。コトノハは、パンツァーに会いたいのか?」
「はい。パンツァーに会って、もっと、ルオシンさんとの絆を深めてもらいたいです」
 コトノハは、素直な気持ちでいった。
「何しろこの神殿は、気が遠くなるほどの、悠久の過去に建造されたものらしいからな。もともとは、このパラミタのものではなかったのかもしれない」
 ルオシンは、神殿に出かける前、ネットで集めた情報をもとに答えた。
「パラミタのものではない可能性がある? どういうことですか?」
「つまり、この神殿の古さを考えると、他の場所、たとえば地球や、もっと別の場所から移動してきた可能性もあるということだ」
「移動してきた、って、どうやってです?」
「それはわからないが、たとえば、物理的に飛んでやってきた可能性もある」
「飛ぶ? この神殿が?」
「あくまでも仮説だ。この神殿の建造時期が考古学の常識を覆すほど古いために、種々の仮説が入り乱れる結果になっているのだ」
 ルオシン自身も考古学の専門家ではなく、全ては請け売りにすぎなかった。
 ただ、コトノハが気にしているから、話して聞かせただけだ。
「パンツァーが神様だとしたら、何の神でしょうか? 愛欲の神? それとも、思いやりの神でしょうか? こうやって、ルオシンさんを気持ちよくさせて、失神させることができたら、出てくるでしょうか?」
 コトノハは、ルオシンの全身のツボを突き、背筋を叩いて伸ばしながら、思いのたけを語り続ける。
 いつしか、ルオシンは、コトノハの与える刺激に身を任せ、パンツァー神についての話は、聞くともなく聞いて、流すようになってしまった。
 それでも、コトノハは語り続けた。
 パンツァーの謎、神殿の謎を。
 そして、2人の愛、絆がパンツァーという存在とどう関わるのかを。
 ふと、ルオシンの脳裏に、ある発想がひらめいた。
「コトノハ、我もマッサージをしよう」
「えっ、あっ、うっ」
 身を起こしたルオシンに肩を抱き寄せられ、コトノハは目をパチパチさせる。
 2人の上下が逆になり、ルオシンがコトノハに覆い被さっていた。
「神に会えるといいな」
 ルオシンはコトノハを抱きしめて、そう、耳もとに囁いた。
 コトノハは、うん、とうなずいた。
 そのとき、明かりが消えた。
 真っ暗な空間で、ルオシンはコトノハのツボというツボを押していた。
「ルオシンさん。あなたをもっと深く感じたいんですが」
 コトノハは、要望を口にした。
「深く? どういうことだ?」
 ルオシンは尋ねた。
「光条兵器を、鞘に」
 コトノハはいった。
「そうか。わかったぞ」
 ルオシンがうなずく。
 次の瞬間、闇に包まれていた室内は、光条兵器の放つ、まばゆい輝きに満たされた。
 だが、その光は、すぐに消えた。
「あああああああー!! ルオシンさーん!!」
 コトノハの意識は、闇の中に流れる不思議な気に吸い込まれるようになって、深い底に落ちていった。

「ナナ。隣から、すごい声が聞こえてきましたよ。いったい、何なんでしょうね」
 コトノハたちの隣の部屋に宿泊していたルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)は、コトノハが意識を失う瞬間にあげた声を耳にして、声が聞こえた方の壁をみやった。
「ルースさん、絆ですよ。絆を深めるため、みんながんばってるんです。その声が、パンツァーを呼ぶんですよ」
 ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)は、答えていった。
「絆? パンツァー? そうですか」
 ルースは、思慮深い口調でいった。
「ルースさん、奉仕とは、『奉るモノに仕える』という意味合いもありますが、『仕える行為そのものを奉る』とも考えられるのです。愛するルースさんに奉仕することで、感謝やナナの想いを感じとって頂ければ、ルースさんがナナにご奉仕してくださるのではないかと思います。そして、ルースさんにご奉仕して頂いたナナが、またご奉仕をして、それを受けて、ルースさんがナナにまたご奉仕をして……このように、奉仕の輪が無限に広がってゆくのです。これこそ、『奉仕スパイラル』です。ナナは、この奉仕スパイラルのことを、パンツァーに伝えたいのです。だから」
 ルースと並んでベッドに寝ていたナナは、ルースの肩を引き寄せた。
「お互い奉仕しあう。そういうことですね」
 ルースの言葉に、ナナはうなずいた。
「さあ、それでは、メイド式ストレッチをやりましょう」
 ナナは、身を起こすと、ルースの身体を抱え起こした。
「ストレッチ、ですか?」
「はい。足を開いて下さい」
 ルースは戸惑いながらも、ナナにいわれるまま両足を開いた。
「さあ、手取り足取り一緒に!」
 ナナの動きにあわせて、ルースは手や足、腰や背中を、限界いっぱいにまで伸ばして、ストレッチ体操を始めた。
「うっ、身体がかたいので、ちょっと痛いかもしれないです」
「ルースさん。その痛くて気持ちいい感じが、大事なんです」
 ナナは、諭すような口調でいった。
 身体を密着させ、激痛と快楽の入り混じる体勢で、30秒止める。
 その動きを、ナナとルースは繰り返した。
 しばらくして。
「よし、オレも、やりますよ。奉仕返しを、奉仕スパイラルを」
 ストレッチの影響で血行がよくなったルースは、ナナの身体をとらえて、押し倒していた。
「ルースさん。何を?」
「オレも、マッサージをやります」
 ルースは、ナナを抱きしめると、優しくキスをした。
「ルースさん。はああ」
 キスの影響で、ナナはぼうっとした。
「ナナ。オレが、オレが奉仕して、気持ちよくしてあげますよ」
 ルースは、ナナの全身を優しく揉み上げ、愛情をこめて口づけする。
「これがルースさんのご奉仕ですか。素晴らしいです」
 ナナは、感極まっていった。
「それでは、スパイラル開始。ナナも、奉仕のお返しをします」
 そういって、ナナはルースに、自分からキスした。
「うん!? そうきたんですか」
 不意に口をふさがれたルースは目を白黒させたが、すぐに落ち着いて、
「オレからもまた、奉仕のお返し!」
 ルースは、毛布の中に潜りこんだ。
「ル、ルースさん!!」
 ひときわ敏感なツボを突かれたナナは、身悶えしながら、次のお返しを考える。
 無限の奉仕スパイラルによって、夜は、それこそ無限の長さを獲得したかに思えた。

「それにしても、なぜ主は、私たちをこんなところに送り出したのだろうか?」
 夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)は、夜の神殿を巡回しながら、ぼやくような口調でいった。
 神殿の中は、盗掘者や怪しいマッチョマンがうろついていて少し危険なようなことを聞いていたのだが、実際のところは、それほど危険とも思えなかった。
 盗掘者については、誰かが既に捕まえてしまったのか、いまのところみかけないし、マッチョマンは確かに多いが、別に悪いことをしているわけではない。
「いや、それがな、この遺跡でひと晩をともにした恋人同士は、より強い絆で結ばれる、という噂があるらしいぜ」
 リッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)がいった。
「より強い絆で結ばれる?」
 元譲は一瞬きょとんとしたが、すぐに合点がいった。
(パンツァーの神殿というのが出てきて、巫女を選抜するための奉仕比べが行われているそうですよ。お二人で行かれてはいかがですか?)
 との、水橋エリス(みずばし・えりす)の言葉に促されて、元譲たちは神殿にやってきたのだが、その裏には、なるほど、自分たち2人のことを気遣ってくれていたのだとわかり、元譲は思わず笑みを浮かべていた。
「奉仕、奉仕といわれても、私たちが奉仕すべき相手は主ただ一人なのだから、他の人に奉仕することはできない。そうかといって、見ず知らずの人に奉仕されるというのも、落ち着かないものだ。だから、なぜここに? と思ったのだが、そういう意図があったのか」
「お節介だよなぁ、あの人も」
 そういって、リッシュも笑った。
 神殿の中での自分たちの役割を考えて、不審者を警戒する巡回の仕事をやってみようと思ったのだが、現時点で特に危険はなく、2人そろって遺跡の散策をしているような、そんなのんびりした心境にひたっていたところである。
「さて。それならそれで、この神殿行きはマスターからもらった報賞みたいなもんだ、しっかり楽しませてもらおうぜ」
 リッシュの言葉に、元譲は顔をしかめた。
「おいおい、私たちはまだ巡回中だぞ。気を抜くのはいけない」
「わかってるよ。この仕事が終わったら飲むか? 二人で飲むの久しぶりだろ?」
 リッシュの提案に、元譲の心も動いた。
「ふむ。そうだな。では、酌のひとつでもしてやろうか?」
 そんなことを言い合っているうちに、巡回は終わり、二人は部屋に入った。
「さあ、飲むのだ」
 元譲は、二人きりの空間に入ったことに安堵を覚え、リッシュに酒をついだ。
「おお、ありがとう。それじゃ、俺からも」
 リッシュもまた、元譲に酒をついだ。
 二人は、お疲れ様の乾杯をして、一杯目の酒を、ひと息に飲み干した。
「はー」
 リッシュは、疲れていたのか、酒のまわりが早いように感じた。
 酌み交わすうちに、元譲も酔ってきた。
「絆が深まる、というのは本当であろうか?」
「ああ、パンツァーという神のおかげかどうかはわからんが、宿泊した連中はみんな、喜んでいたぜ」
 そう答えながら、リッシュは、うつらうつらとなる自分を感じていた。
「ちょっと、いいか」
「むう?」
 リッシュは、自分の頭をねじこむようにして、元譲の膝の上に安置することに成功した。
「このまま寝るつもりか? 私をこの体勢のままにして?」
 元譲の声も聞こえていないのか、リッシュはそのまま、膝枕をしてもらっている状態で、寝息をたて始めた。
「まったく、しょうがないな」
 元譲はため息をつくと、姿勢を崩さないように注意しながら、毛布をリッシュにかけてやった。
 ふと気づくと、元譲は頭を横にして、自分に耳を向けていた。
 その耳をみて、元譲は、何とはなしに、耳掃除をしたくなった。
 客室にあった耳かきを使って、リッシュの耳を掃除していると、本人が目を覚ました。
「うん? 何をやってるんだ? 痛っ!!」
 頭をよじった拍子に耳に痛みが走り、リッシュは顔をしかめた。
「動くな。埃まみれだったのをきれいにしてやっているところだ」
「そ、そうか。まあ、お手柔らかに、頼む、よ……」
 そういいながら、リッシュは再び、元譲の膝の上で眠りについた。
 ただし、今度は、顔をうつぶせにして、元譲の腰に息を当てている。
「その体勢で息苦しくないのか?」
 元譲は何ともいえない恥ずかしさを感じないでもなかったが、リッシュがあまりにも無邪気な様子で寝入っていたため、そのままにしようと思った。
 そのうち目を覚ますか、朝まで眠り続けるかはわからないが、しばらくこうしていたい。
 そんな気持ちが元譲の中に湧きあがり、気持ちを不思議と落ち着かせていた。
 しばらく、リッシュの顔面を膝に乗せた状態を維持していた元譲だが、いつしか、元譲自身も眠気を催し、ついに、元譲も身を屈めて、リッシュの背中に額をつけた状態で、寝入ってしまったのである。
 遠くで、フクロウが鳴いている。
 耳を澄ませば、マッチョマンのイアーという叫び声も聞こえる。
 夜の闇は、いよいよ深くなりつつあった。