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第7章 ご成敗!

「さあ、みなさん、着替えは終わりましたか? リンクスの前に、勢揃いして下さい」
 ハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)はいった。
 ハヅキがフロントのメイドと交渉して宿泊できることになった、大部屋である。
 そこには、霧島玖朔(きりしま・くざく)の誕生日を祝うためにはるばるやってきた者たちが、食事を終えて、温泉からもあがり、ひと息ついて、いよいよお祝いをしようと、めいめいが服を着替えて集合しつつあったのである。
 ハヅキ自身も、ザビク・ラバースーツに着替えて、セクシーなボディラインを強調している。
「私は準備ができたぞ。いつでもOKだ」
 伊吹九十九(いぶき・つくも)もまた、ベルフラドレスに身を包み、玖朔にみせつけるチャンスをいまかいまかと待ち受けている。
「着替えたよ。これでいいんだよね?」
 シャウラロリィタとシャウラヘッドドレスに身を包んだリュシエンヌ・ウェンライト(りゅしえんぬ・うぇんらいと)は、むすっとふてくされた表情でいった。
(あー、もう、何だって、あの変態男にこんな格好でブリッ子しなきゃいけないの!?)
 リュシエンヌの心中には、不満が爆発していた。
「うぅぅ……結局こうなるんだね」
 メイド服に身を包んだ蘇芳秋人(すおう・あきと)は、脚がスースーする感覚に慣れず、落ち着かなげに身じろぎして、周囲をきょろきょろとみまわしている。
 結局、コンパニオンとして認識されていて、そういう格好にならざるをえない秋人だった。
「みなさん、どうぞよろしくお願いします……」
 秋人の後ろから、蘇芳蕾(すおう・つぼみ)がおずおずと顔を出して挨拶する。
 秋人自身の想いはとにかくとして、蕾は、知らない人だらけの中でも、秋人と同じ格好で、同じ場所にいられることで心が励まされ、精神のバランスを保てるように感じていたのである。
「あっはっはー、みんなで楽しくやろうねー」
 Gカップの巨乳をきわどいビキニ水着に包んだ南雲アキ(なぐも・あき)は、ゆさゆさと乳を揺らして、微笑んでいた。
「神殿の客室でお誕生日祝い、なう! といったところですわね」
 八塚くらら(やつか・くらら)は、これから始まるお祝いに向けてテンションをあげ、素晴らしいご奉仕をしようと意気揚々だった。
 総勢7名が、ベッドに腰かけている玖朔の前に集まった。
「それでは、リンクス。今宵は、コンパニオンも多数揃えました。どうぞ楽しんで下さい。お誕生日、おめでとうございます」
 ハヅキの声にあわせて、一同は、ペコリと頭を下げ、いっせいに、
「お誕生日、おめでとうございます!!」
 どこからかハッピーバースデーの歌が流れ始め、テーブルの上には、玖朔の名前がチョコレート板に刻まれた、大きなケーキにナイフが入れられた。
 ケーキにささっている蝋燭の火が、玖朔の瞳の中で揺れている。
「みんな、ありがとう。わざわざこんな神殿で、そんな格好までしてくれて、感激もまたひとしお、だぜ!!」
 さすがの玖朔も、勢揃いしたコンパニオンたちを前にして、くらくらくらっと、欲望の炎が燃え上がりそうになった。

「リンクス、まず私がマッサージをするので、くつろいで下さい」
 ハヅキが、玖朔の背後にまわって、肩を揉み始める。
 ハヅキの視線を受けて、リュシエンヌが動いた。
「お兄ちゃん、お誕生日おめでとー!! 今日はいっぱいお祝いするから、ちゃんと受け止めてねー?」
(マジ最悪だわ……)
 内心、吐き気を催しながらも、リュシエンヌはロリータファッションで精一杯可愛らしくふるまって、玖朔の前にひざまずいた。
 玖朔の手をとって、その指を1本1本、丁寧に舐める。
「おっ、何だ何だ。よせ、くすぐったいよ」
 玖朔は、笑って手を引っ込めようとするが、リュシエンヌはなおもしゃぶりつく。
「はあ。お兄ちゃん、好き。ああー!!」
 舐め清めた玖朔の手の甲に頬ずりして、リュシエンヌは歓喜の笑い声をあげた。
 もう、ヤケクソだった。
 シャウラロリィタをたくしあげて幼い素肌をみせつけると、さすがの玖朔も黙ってみていられなくなったようだ。
「お、おい、よせって。そんなの、みせられたら」
 バシィーン!!
 玖朔の掌が、リュシエンヌのお尻を張り飛ばしていた。
「あん? お兄ちゃん、いたーい」
 リュシエンヌは頬を膨らませた。
「いけない子には、お仕置きしてやるぜ。何だ、これは? おへそなんか出しやがって、この、この」
 玖朔は、リュシエンヌが露出させたおへそを、指でいじり始めた。
「やだ、もう、そんなとこ、みないでー」
 リュシエンヌは顔を真っ赤にして困った表情を浮かべてみせる。
(真性の変態だわ。もう、こんな男、死ねばいいのに!)
 リュシエンヌは、嫌悪感で気が狂いそうだった。
「可愛いけど、いけない子だから、もっともっとお仕置きしてやる! ほら、四つん這いになって、お尻を向けろ!」
 玖朔の命令で、リュシエンヌはしぶしぶお尻を向けた。
 バシィーン、バシィーン!!
 玖朔は、リュシエンヌのお尻をひたすら掌で打った。
「あん、痛い、ごめんなさい、お兄ちゃん、あーん」
 リュシエンヌは、お尻をうちふって、身悶えた。
「あっはっは。本当に可愛いな!」
 玖朔は、たからかに笑うのだった。

「お、お誕生日おめでとうございまーす、オレ……じゃなくて、あたしは、コンパニオンとして派遣されたアキコでーす!! 今日はいっぱいご奉仕させていただきますね☆」
 秋人は、恥ずかしさで気が狂いそうになりながらも、何とか挨拶をすませて、玖朔の前にひざまずいた。
「お、これはまた、ずいぶんきれいな姉ちゃんだな? 気に入ったぜ」
 玖朔は笑って、ウィンクする。
(わー、この人、オレの女装に気づいてないよ。ある意味すごい!!)
 秋人は感心しそうになる自分を抑えて、玖朔に奉仕しようとしたが、何をすればいいかわからない。
 とりあえず。
「わー、本当に素敵な人ですね!!」
 歓声をあげて、抱きついてみた。
「おいおい、がっつくなよ。よせ、よせ」
 玖朔はニヤニヤ笑いながら、秋人のお尻に手をまわした。
(えー、もうダメ!!)
 気色悪さから秋人はびくっと反応して、玖朔から離れた。
「あ、すみません……あの……」
 秋人が、いまのをどう弁解しようかとかたまったとき。
「あの……アキコ様と一緒に、マッサージいたします……」
 蕾が、秋人の前に出てひざまずくと、寝そべるように促して、その背中に乗り、マッサージを始めていた。
 蕾に促されて、秋人も一緒に、玖朔の身体を揉みほぐす。
「あー、気持ちいい。最高だな、これ」
 玖朔は、目を細めた。
(蕾、ありがとう。フォローしてくれて助かったよ)
 秋人は、アイコンタクトで蕾に御礼をいった。
 蕾は、黙ってうなずく。
「あー、お前も気に入った! 俺の隣に来いよ!!」
 玖朔は蕾の肩をつかんで、自分の側に寝そべらせた。
「はい、ありがとうございます。私でよければ……お好きにお使い下さい……」
 蕾は、消え入りそうな声でいった。
「そう、自分をモノみたいにいうなって。可愛がってやるからさ」
 玖朔は蕾の顎の下に手を差し入れて、首筋に口づけしながらいった。
(蕾! あー、もー、この人本当に、義姉さんのこと知ってるのかな?)
 秋人は、ハラハラしながら事の成り行きを見守るしかなかった。

「あっはっはー、楽しそー。私もー」
 Gカップの巨乳を揺らしながら、アキも玖朔の身体に絡みついていった。
「こっちをみてー」
「うん? うわー、大きいな」
 振り向いた玖朔は、アキの巨乳を目にして驚いた。
「そう? 嬉しいなー、じゃ、ご奉仕ー」
 アキは、ニコニコ笑いながら、巨乳の谷間に玖朔の顔を挟んで、こすりあげた。
「うわ、うわ、これはすごい!!」
 玖朔は興奮して、窒息しそうになった。
「ゆっさ、ゆっさー」
 両脚で玖朔の腰を挟んで、強く締めつけながら、アキは巨乳を両脇から押して、谷間にある玖朔の顔を圧迫した。
「かなりの腕ですね。私も、負けていられませんわ!!」
 くららは、アキの巨乳から解放されて、ぼうっとしている玖朔にすり寄った。
「ご奉仕いたしますわ」
「うん? ああ、お前もすごいな」
 くららに手を取られて、ハッと正気に返った玖朔は、くららの容姿をみて、またしても興奮した。
「何をいたしましょう?」
「ゆっさゆっさは、できないか?」
「えっ? そういうのは、ちょっと、無理ですが」
 くららは戸惑って、答える。
「じゃあ、とりあえず、それ、脱げよ」
 玖朔は、怪しい光を瞳に浮かべて、いった。
「は、はあ? いけません、そんなこと!」
 抗うくららをおさえつけて、玖朔はその衣を引きちぎった。
「いいじゃないか。ご奉仕するんだろう?」
 玖朔は、次第に理性をなくしてきていた。
 露になったくららの肩に口づけして、下着も引きちぎろうとする。
「そ、それは、そういうのはー」
 くららは、バタバタ暴れながら、どうすべきか考えた。
 このまま、身を任せるべきなのか?
 それとも……。

 時刻は、真夜中。
 日付が変わり、神殿の客室に宿泊する客たちも、多くが眠りにつこうとしていた。
 と。
 歩く者とていない夜の道を、神殿に向かって駆けてゆく、一人の影が。
「感じる、感じるぞ。あの中で、とびっきり大きな煩悩を燃やす者がいる!!」
 その男は、一瞬で神殿の側にまで行き着くと、力強く跳躍した。
 そのまま、その身体が浮き上がっていく。
 サイコキネシスである。
 男は、熟練した技で、あっという間に、天誅を下すべき相手が潜む部屋の窓にまで辿り着いた。
「いざ、参る!!」
 男が取り出した巨大なハサミが、月光を反射してキラリと光った。

「ティンギリ・ハーン!!」
 すさまじい叫び声とともに、客室の窓ガラスが、大きな音をたてて割れ、長身痩躯の男が玖朔たちの部屋に侵入してきた。
「ティンギリ・ハン!? まさか、あれが!!」
 ハヅキは一瞬で戦闘モードに移行し、玖朔を守るために、前に出る。
「へ? ティンギリ? 何だ、それ?」
 半分脱げかかったくららのパンツを無理やり引っ張ろうとしていた玖朔は、きょとんとして、窓の方を振り向いた。
 その玖朔の身体が、サイコキネシスで宙に持ち上げられ、床に叩きつけられる。
「つっ! 何だってんだよ」
「この、不届き者がぁああああああ!!」
 ティンギリの構えた巨大なハサミが、玖朔の股間に向かって突き出された。
「やめて下さい!!」
 ハヅキが、ティンギリにタックルをくらわせて、妨害する。
「う、うわあ、やめ、やめろ!!」
 危うく大変な目にあうところだった玖朔は、顔を真っ青にして、後じさる。
(いいぞ。やられちゃえー)
 リュシエンヌは、玖朔に天罰が下されるのだと確信して、情勢を見守っている。
「お、おい、いくら何でも、ハサミで攻撃するなんてひどいよ!」
 秋人は、蕾をさがらせると、ハヅキとともに、ティンギリに立ち向かっていった。
「あららー、大変ー、ナマハゲー」
 アキは、Gカップの巨乳を揺らして、ニコニコ笑っている。
「はー。とりあえず、助かりましたわ」
 脱げかかったパンツを履き直して、ちぎれた衣服の代わりの服を着込みながら、くららはホッとした表情だった。
「今宵、この神殿の中で、この客室が一番風紀が乱れている! けしからん、実にけしからん!!」
 ティンギリ・ハンは、巨大なハサミでなおも玖朔を狙うが、ハヅキや秋人が身を呈して守っているため、うかつに近づけない。
「ティンギリ・ハン。リンクスは、みんなにお祝いしてもらって、舞い上がってしまっただけです。軌道修正させますから、撤退して下さい」
 ハヅキは、不気味なサイオニックを睨んで、いった。
「ならん!! そのような妄言を拙者が信じると思うか?」
 ティンギリは、聞く耳持たないという構えだ。
 そのとき。
「む!?」
 ティンギリの動きが止まり、何かの気配を察知した様子がみられた。
 そして。
 ガチャーン!!
 無言のまま、ティンギリは、入ってきたのとは別のガラス窓を叩き割って、外の虚空へと姿を消したのである。
「な、何だろう、あれ? 出ていくのはいいけど、何もいちいちガラスを割らなくたって」
 秋人は、呆れたというように肩をすくめた。
「助かりましたね。おそらく、別の部屋からも、風紀を乱す騒ぎを感知したのでしょう。リンクス、奴がもう戻ってこないように、いまからは控えめでいきましょう」
 ハヅキの言葉に、玖朔はうなずいた。
「みんな、すまなかった。少しばかり、調子に乗ってしまったようだぜ。せっかくお祝いしてくれたのにな」
「いいよー。気にしなくてー。私たちもー、楽しかったからー」
 アキが、ニコニコしながらいった。
「そうか? みんな、俺を許してくれるのか?」
 その言葉に、ハヅキ、秋人、蕾、アキ、くららの4人は、笑って、深くうなずいた。
 リュシエンヌだけは反応がなかったが、ハヅキに睨まれて、慌ててうなずく。
「さあ、いろいろありましたが、私はまだ奉仕していませんわ。さっきの続きからいきましょう」
 くららが、玖朔にすり寄っていった。
「よし、とりあえず、俺が気持ちよすぎて失神するまで、マッサージしてくれ!!」
「わかりましたわ。みんな!!」
 くららの合図で、全員が、寝そべっている玖朔の身体にとりついた。
 ごし、ごし、ぼき、ぼき
 玖朔の全身が揉みしだかれ、骨がきしまされる。
「い、いたた! でも、気持ちいいぜ。ああ、もういいや、みんな、俺と一緒に添い寝だ!!」
 玖朔は、全員の顔を自分の胸に集めるようにして、叫んだ。
(この女たちの香り。これが、俺にとっての一番のプレゼントだぜ)
 薄れゆく意識の中で、最後まで秋人が男だと気づかないまま、玖朔は満足しながら、眠りについたのである。

「いま、窓ガラスが割れるような音がしませんでしたか?」
 志方綾乃(しかた・あやの)は、目隠しをされて革製の椅子に両手両足を拘束された状態で、茅野菫(ちの・すみれ)にいった。
「そう? 気のせいじゃない?」
 菫は素っ気ない口調でいった。
 「気のせい」ですませるには、ちょっと明瞭すぎる物音だったのだが、もしかしたら、菫は、本当に気づいていないのかもしれない。
 それぐらい、菫は、目の前の綾乃に夢中になっていたのである。
「さあ、始めるわよ」
 菫は笑いながら、綾乃の身体に組みついて、その首筋に口づけした。
「ああ、ついに始まるのですね。志方ないですね
 綾乃は、全ての運命を受け入れ、感じ取る用意をした。
「さあ、これでどう?」
 菫がスイッチを入れると、綾乃が拘束されている椅子が、激しく振動を始めた。
 実はその椅子、マッサージ椅子だったのである。
「あ、ああああ!!」
 椅子の背もたれから出てきたローラーに背中をなぞられて、綾乃の喘ぎ声をあげた。
「足ツボの極意!!」
 菫は、すりこぎで、綾乃の足の裏のツボをぐりぐりと押した。
「ああ、痛い!! やめて、あっ、あっ」
 綾乃は身をよじってすりこぎから逃れようとするが、菫は情け容赦なく押していった。
「あははははははは」
 菫は、綾乃の反応をみて、愉快そうに笑った。
 そのとき。
「もっと、もっとです。もっと、菫ちゃんと一緒になりたいですね」
 綾乃の言葉に、
「えっ?」
 と菫が反応したとき、その首に、綾乃の腕が巻きついていた。
 綾乃はいつの間にやら、拘束から逃れていたようである。
「ちょっ、や、やめ」
 菫に抗う隙を与えず、綾乃は、手枷と足枷、それに首輪をはめて、お互いの首輪を短いリードでつないでしまった。
「あららら! あたしにもご奉仕するの?」
 戸惑う菫の目に、目隠しをさせる綾乃。
「さあ、これで、お互い目隠しをして、本能のままこすりあいましょう」
 綾乃はいって、自分も再び目隠しをすると、菫の身体を強く抱きしめた。
 唇と唇が触れ合い、濃密なコミュニケーションをかわす。
「むう。ふう」
 菫は、意識がとろんとするのを感じた。
 綾乃は、唇と舌で菫の身体をまさぐり、衣服の中に頭を潜り込ませていく。
「もう、それ以上は! ああ、やめてったら」
 菫がくすぐったさから大きく叫んだとき。
 ガシャアアアアアアン!!
 部屋の窓ガラスをぶち破って、ティンギリ・ハンが潜入してきた。
「おぬしら、何をしているのだ? 成敗いたす!!」
 巨大なハサミを構えて叫ぶティンギリ。
「きたわね」
 菫は、待ってましたとばかりに、立ち上がった。
 目隠しをとり、拘束から抜け出す。
「な、なに!?」
 意外な展開に、ティンギリは目を大きく見開いた。
 菫は、最初から、ティンギリをおびき出すつもりだったのだ。
「あたしたちは、愛を確かめているのであって、風紀を乱しているのではないわ。ティンギリ・ハン、あんたの行為こそ、神殿の神官でもないのに風紀の乱れを取り締まるだなんて、それこそ、風紀を乱す行為にほかならないわ」
「黙れ、黙れ!! おぬしに何がわかるというのだ!? 神官でなくとも、神殿の中をきちんとさせたくなるものだ!!」
 ティンギリは叫んで、菫に襲いかかっていった。
 菫はその攻撃をかわすと、ティンギリに向かって、椅子を投げつけた。
 椅子に仕込まれていたロープが伸びて、ティンギリを拘束する。
「くっ、こざかしい真似を!!」
 ティンギリは、拘束を解こうとした。
「ダメよ。あんたも、綾乃と一緒に濃密なコミュニケーションをして、あたしにお仕えすることを誓うのよ!!」
 菫は、ニヤニヤ笑いながら、ティンギリに歩み寄った。
 そのとき。
「ちょっと、割り込ませて頂きますわ!」
 叫び声とともに、客室の扉を破壊して、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が乱入してきた。
 リリィは、ティンギリに駆け寄って、その拘束を解こうとする。
「おぬしは!?」
「わたくしもお供致します。風紀を守る。それもまた、奉仕です。神殿内の風紀を守り、安らかにすごせる空間を作り出しましょう」
 驚くティンギリに、リリィはそういった。
「な、何をするの!? やめなさい!!」
 菫は、リリィを止めようとした。
 だが、そのとき。
「ハイ、そこでストップですわ!!」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)もまた、部屋に乱入してきて、菫の前に立ちはだかったのである!!
「どういうこと? あんたもティンギリに協力するっていうの?」
 菫の問いに、オリガはうなずいた。
「この神殿の中で、憎しみの感情を一番持っているのがティンギリさんです。わたくしは、そのティンギリさんに愛をもってご奉仕することで、その憎しみをやわらげ、死してなお現世に残す未練を断ち切って欲しいと思うのですわ!!」
 オリガは、リリィとともに、ティンギリを助け起こした。
「助けてもらったことは、礼をいおう。だが、拙者は、仲間が欲しいといった覚えはない!! ついてくるのは勝手だが、拙者の邪魔をするなら容赦はしない! 特におぬし! 拙者を改心させようなどと、つまらぬことを考えるべきではないぞ」
 ティンギリは、オリガを睨んでいった。
「もちろんです。まずは、誠心誠意、ご奉仕させて頂きますから!!」
 オリガは、力強く言い放った。
「では、さらばだ!! ここの行いは罠だとわかったからな!!」
 そういって、ティンギリは、再び窓から外に出ていった。
「ああ、お待ちになって下さい!!」
 リリィとオリガ、扉から部屋の外に出て、ティンギリがどこに行ったか、探しに向かった。
 部屋には、菫と、床に倒れて喘ぎ声をあげている綾乃だけになった。
「うーん、協力者がいるとは。失敗したわね」
 舌打ちする菫の首に、綾乃の腕が巻きついた。
「さあ、続きをやりましょう」
 綾乃は、再び菫を拘束する。
「えっ? いや、もう、ティンギリを捕まえられなかったし! って、もういいんだって! きゃあ」
 菫は悲鳴をあげたが、綾乃の勢いは止まらない。
「いっときますけど、今度の拘束は、そう簡単には解けませんよ?」
 綾乃は意地悪な笑みを浮かべて、菫の身体と自分の身体とを絡まり合わせ、こすりあわせていく。
「あ、ああー!! ほ、本気になっちゃうでしょ!! もう!!」
 菫と綾乃。
 2人の長い夜は、始まったばかりであった。
 
「おお、おぬしら、本当にいい身体つきしてるじゃねえか。気に入ったぜ!!」
 秘伝『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)は、客室に勢揃いしたマッチョマンたちの素晴らしい筋肉を鑑賞して、ご満悦の表情だった。
「よし、おぬしらも、これをみろ! これが、我の、筋肉だぁああああ!!」
 闘神は、自ら上着を脱ぎ捨て、筋骨隆々とした肉体を誇示してみせた。
 居並ぶマッチョマンたちの間から、おおーっという声があがる。
「うおりゃあああ、はあっ!」
 雄叫びとともに力こぶをつくってみせる闘神。
「イアー! ホッホー!!」
 マッチョマンたちも興奮して、衣服を脱ぎ始め、ついには全裸になって、全身の筋肉を誇示し始めた。
 室内は、異様なむさ苦しさに満ちていく。
「うん? なるほど、筋肉だけじゃなく、そこも素晴らしいじゃないか!」
 闘神は、マッチョマンたちの肉体美にほれぼれとした。
「よし、我が、愛と勇気と力とで、おぬしらの身体をマッサージしてやろう! さあ、横になれい!!」
 闘神は、ベッドの上に全裸のマッチョマンたちを並べて寝かせると、そのお尻を力強く叩き、額に汗を浮かべて、力いっぱいのマッサージを始めていた。
「あ、あぎゃあ! イッツ・エキサイティング!! 最高だぜ!! だりゃああ!!」
 闘神にツボを突かれるたびに、マッチョマンたちはめいめいがよがり狂って、天に向かって豪快な叫びをあげるのである。
 神殿の中で、その部屋だけが異色の部屋になりつつあった。
「さあ、ここもだいぶデカくなってきたな? じゃあ、我が力いっぱい抜いてやろうか!!」
 闘神がニヤッと笑って、マッチョマンたちの下半身に手を伸ばした、そのとき。
 ガシャアアアアアン!!
 窓ガラスが割れ、ティンギリ・ハンが乱入してきた。
「何をトチ狂ったことをしておるか! いい加減にせい!!」
 巨大なハサミを構えて、闘神に迫るティンギリ。
「ある意味、おぬしのは斬り甲斐があるわ!!」
 闘神の股間にすさまじい「ガンつけ」を行いながら、ティンギリは吠えた。
「面白ぇ! さあ、我と裸プロレスをしよう! 準備はバッチリだ。好きにしていいんだぜぇ?」
 闘神は、ティンギリの前に全てをさらして、誘った。
 だが、誘いに対するティンギリの答えは、聞くことができなかった。
 なぜなら。
「ちょっと、待ったああああああ!!」
 すさまじい怒鳴り声をあげながら、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が乱入してきたからである。
「おう、待ってたぜ。お前が、ティンギリ・ハンかあ。だいぶ派手に暴れてるそうじゃないか。気に入らないぜ、お前のやってることは、要するにただの暴力なんだからな!」
「いかにも。拙者がティンギリ・ハンだ。拙者の信条を理解しろとはいわぬ。だが、邪魔するなら殺す! 覚悟するがよい」
「やっぱり闘いしかないよな。望むところだ! いくぞ!!」
 ラルクは、鳳凰の拳でティンギリ・ハンに殴りかかった。
 ティンギリは、その拳をがしっと受け止めて、弾き返す。
 ラルクは、ひるむことなく次の攻撃を放った。
「うらああ! くらえ、必殺のパワーボム!!」
 ラルクは両脚でティンギリの首を挟み込むと、力強く相手の身体をはねあげて、逆さまの姿勢で相手を床に叩きつけた。
「ぐっ!!」
 そういう、組みつかれる系の技に慣れてないティンギリは、モロにダメージを受けて、床に伸びてしまう。
「どうだい。すぐには動けないだろう?」
 ラルクは、倒れたティンギリを、仁王立ちになって見下ろしながらいった。
「くそっ!」
 ティンギリは舌打ちする。
 ラルクが、そんなティンギリを捕えようと手を伸ばしたとき。
「お待ちなさい! この世に『リア充死ね』の意思ある限り、仮面雄狩るは幾度でも現れる! とあー!!」
 仮面を被ったリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が部屋に乱入してきたかと思うと、ラルクを突き飛ばし、ティンギリを助け起こしていた。
「くっ、何しやがる! その力と技、ただ者じゃないな?」
 突き飛ばされてよろけたラルクは、リカインを睨んだ。
「いかにも! 仮面雄狩る、シャンバラを支える宦官を生み出すため、誠の力と技で、勇敢なる戦士、ティンギリ・ハンに加勢しよう!!」
 リカインは、ティンギリ・ハンを下がらせながら、いった。
「おぬし、何を企んでいる? 拙者を利用しようなどとは、考えない方が身のためだぞ」
 ティンギリは、リカインを不審そうにみていた。
 緊張した室内。
 ラルクとリカインが睨むあう中、リカインの傍らの空間に、モザイクがかかった、天狗の面のようなものが浮かびあがり、大声でわめき散らし始めた。
「お前たち、本当にわかっているのか? 真の愛とは、決して一方通行のものではないのだぞ!!」
 禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)である。
「よし、そこで、道を説け!!」
 リカインは、河馬吸虎をつかんで、室内で茫然としているマッチョマンたちに向かって、放り投げた。
「な!? 何をするか!!」
 怒鳴る河馬吸虎を尻目に、リカインは撤退。
「ここも罠だったか。ならば、次の対象を狩るのみ!!」
 叫んで、ティンギリ・ハンも窓から外に出ていく。
「くっそー、逃げられちまったぜ!!」
 ラルクは床を蹴りつけて悔しがった。
「オープンユアブレスト、胸も心も解放して、真なる願いを、望みをぶちまけてみせろぉっ!!」
 河馬吸虎は道を説き続け、絶叫した。
「このお面のいうとおりだぜ!! さあ、みんな、胸も心も解放して、奉仕するもされるもない、愛の相互交通、コミュニケーションを始めるとしようぜ!!」
 闘神は叫んだ。
「オー! オーオオー!! 素晴らしい!! 俺たちの心はひとつだ!!」
 マッチョマンたちも、感極まって、いっせいに叫び声をあげた。
 闘神とマッチョマンたちは、部屋の中心に向かってダッシュし、身体と身体を組みあわせると、互いの汗の匂いをかぎ、涙を拭い、完全なる筋肉の合体化を実現したのである。
 ここに、真の友情、いや、愛情が生まれたといってよいであろう。
 
「なぁなぁ、ナガンの身体、ちゃんと女の身体かい? 確かめてみてくれよ」
 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は、客室に集まっているメイドたちに向かって、そういった。
 いまや女になってしまっているナガンは、全裸になって、メイドたちに身体の隅々をみてもらっていた。
「ナガン様。どこからどうみても、女性になってしまっていますよ」
 メイドたちは、目をこらして何度も何度も確かめるが、何度みても、ナガンは女だった。
「そうかい? まだ女の身体に慣れてなくってねぇ。ピンと来なくってさ。試しに、感じさせてくれないか。いろいろマッサージしてさ」
 ナガンは、メイドたちに奉仕を頼んだ。
「ご主人様、かしこまりました。誠心誠意、お揉みいたします!!」
 メイドたちは、いっせいに、ナガンの身体にとりついて、白い身体を揉んだり、噛んだりし始めた。
「あはは! いや、いいって、噛むのはいいって! 痛いよ、わあ」
 ナガンは、くすぐったさと痛さが混じりあう心境で、よがり狂った。
「うん? ああ、剃るの? まあ、それもいいかもね。剃って、自分でよくみれば、わかるか。ありがとうね」
 親切にも、メイドたちの一人が剃刀でナガンの体毛を剃り始めているのをみて、ナガンは、感謝の言葉を述べた。
 メイドたちは、ナガンの敏感な皮膚を傷つけないよう、慎重に配慮しながら、剃刀を使っていった。
「ああ、もっと、野蛮にやらなきゃいけないかな。そうしなきゃ、奴は来ないかも。いや、もう来たか?」
 ナガンが首を傾げたとき。
 ガシャアアアアアン!!
 窓ガラスが割れ、ティンギリ・ハンが乱入してきた。
「何をしておるか! 女になったのなら、慎みを知るがよい!!」
 ティンギリ・ハンは、ナガンに詰め寄った。
 メイドたちは悲鳴をあげて、恐ろしいサイオニックから逃げ惑う。
「おや、ティン。その鋏でどこかモグつもりなのかい? 右腕も左腕も右足も、男性器すらモゲてしまってるんだけどねぇ」
 ナガンは、落ち着いた口調でいった。
「むう。おぬしも、拙者を呼び出そうとしておったのか!!」
 ティンギリの顔が、怒りで真っ赤になった。
「怒るな、怒るな。それとも斬りつけるかい? 傷痕がない部分なんてないけどね」
 ナガンは、冷ややかな口調でいう。
「そうだな。おぬしは、堕落している。斬る!!」
 ティンギリは、巨大なハサミで、ナガンに斬りかかった。
 メイドたちは悲鳴をあげるが、ナガンは動じない。
「待てよ。こんなに禁欲せざるを得ない状態なのに、ほんの少しの発散もダメかい?」
 ナガンの問いに、ティンギリは動きを止めて、考え込んだ。
 この者は、堕落しているのではなく、ただ不幸であるのか?
 それとも……。
「ティン、奉仕精神を学ぶべきですわよ。他人に奉仕し、他人が満足する事に喜びを感じられるようになれば、さらに欲を捨てられますわ。まずは、ナガンの足に、奉仕してみてはどうです?」
 ナガンは、素足をティンギリ・ハンに向かって投げ出して、いった。
 ティンギリが、考え込みながら、その足に触れようとした、そのとき。
「待て! 騙されてはいけないぞ!!」
 神豪軍羅(しんごう・ぐんら)が、乱入してきた。
「うん? 誰だい?」
 ナガンは、軍羅の姿をみて、目を細めた。
「ティンギリ・ハンよ、よく聞け。その者は、奉仕の精神を説きながら、そういう自分はただ、メイドたちの奉仕に身を任せているのみではないか!! そのような者の言葉に惑わされ、本来の使命を忘れることは、断じてあってはならん!!」
 軍羅の言葉に、ティンギリは我に返った。
「それも、そうだな。言葉にばかり注目していては、真実がみえぬ。おぬしの言葉が嘘か誠か、まずは全力でぶつかってみなければな。よって、斬る!!」
 ティンギリは、再びハサミを構えて、ナガンに斬りかかっていった。
「ちぇっ。そっちこそわかってないね。ご奉仕がしたい奴にご奉仕させる、っていうご奉仕をしているのがナガンなのに」
 ブツブツいうナガンの身体を、メイドたちがいっせいに持ち上げた。
「あれ? 何するつもり?」
「ご主人様! ここは危険です! 私たちが安全な場所にお連れします!!」
「えっ、いいよ、うわっ! 安全な場所って、まさか外じゃないよね?」
 ナガンの抗議も空しく、メイドたちは、恐るべき人海戦術によって、ナガンの身体を超高速で部屋の外へと運んでいった。
「待てい、おのれ!!」
 ティンギリと軍羅はナガンを追うが、奉仕の志あふれるメイドたちが身を呈して妨害してくるため、先に進むこともできない。
「どうする?」
 軍羅は、ティンギリに尋ねた。
「奴らを追って、外に出る! ちょうど、外からも不逞の輩の気配を感じるのでな!!」
 いって、ティンギリは、窓から外に飛び出していった。