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【空京万博】オラの村が世界一!『オラコン』開催!

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【空京万博】オラの村が世界一!『オラコン』開催!

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第四章  テロとの戦い


 ブースの運営に精を出す生徒たちの陰で、同じ位の数の生徒が、影に日向に会場警備に当たっていた。
 未来パビリオンの警備に生徒の希望が集中したり、そもそも警備の人数が微妙に過剰になったりした結果、一部本人たちの希望とは異なる人員の配置になったものの、特に生徒たちから異論が出ることもなく、警備は順調に行われていた。


「女性には何でも良いから食べ物を奢るんだってば。好みを聞いて、きちんとお店で買って、テーブルまで運んであげる。わかった?」
「わかった」
「おまえさ〜。さっきっから、『そうか』と『わかった』しか言わないけど、ちっともわかってねぇじゃんよ〜。そんなコト言って今だって、プラリネショコラのダブルカップ頼まれたのに、買ってきたのバニラアイスのコーンだったじゃねぇか」
「あ、あれは……。だいたい、なんであんなに沢山種類があるんだ!白いの1つあればいいじゃないか!」
「あのな。ちょっとくらいならともかく、あんだけハデにオーダー間違われたら、どんな女だって『あぁ、この人私に興味がないのね』って思うだろうが!」
「そ、そうなのか」
「全く……。せっかくオレの方は上手く行きかけてたのに。連れが怒っちゃったから、オレの方の娘も帰っちゃったじゃんか」
「す、スマン……」

 私服で会場の警備に当たることになった時、世 羅儀(せい・らぎ)はあえてナンパ師を選んだ。
 叶 白竜(よう・ぱいろん)のいかにも軍人然とした、あまりにカタすぎる印象を少しでも柔らかく出来ればと、(半ばショック療法的に)対極にあるナンパ師を選んだのだが−−。

「は〜。やっぱ、偽装にナンパを選んだのが、そもそもの間違いだったか〜」

 よもやまさか、これ程ナンパ(それ以前という話もあるが)のセンスがないとは……。

「今からでも、誰かに頼んでカップルになってもらうか?それなら、そんなに違和感ないだろ?」
「いや。何事も、中途半端は良くない。それに、今回のような事態はいずれまた起こる。ならば、必要な技術は一日も早く習得したほうがいい」
「いや、まぁそんなんだけどさぁ……」

(こいつも、変なトコロで生真面目かつ負けず嫌いだからなぁ……)

「わかったよ。ま、急ぐようがあるでなし。もう少し、頑張ってみるか?」
「あぁ、頼む。今度こそ、成功させてみせる!」

 決意に満ちた表情で、勢い良く席を立つ白竜。
 その尋常ならざる雰囲気に、周りのお客が『何事!?』という顔で白竜を見る。
 
「いや、だからさぁ……」

 羅儀は思わず頭を抱えた。



 『西シャンバラ・ロイヤルガード』の制服に身を包み、“シャンバラの現在”パビリオンの警備に当たっていた樹月 刀真(きづき・とうま)は、ふと場内に設けられた大時計を見た。
 時刻は12時15分。爆弾テロの予告時間である13時まで、あと45分ある。


 最初のリークの翌日には、さらに実行犯の名前を記した手紙が本部に届けられた。
 実行犯として名前が上がったのは、田村 優子(たむら・ゆうこ)神崎 宏(かんざき ひろし)マイク・ジョンソンメアリ・アメストンの4人。
 
 万博警備本部を通じて照会した所、いずれも、数日前に地球から空京に入国したことが分かった。
 これにより情報の信憑性は一気に高まった訳だが、鑑識では指紋も含めて手がかりになるようなものは一切発見できず、
また《サイコメトリ》による捜査も、差出人が若い女性であることがわかったキリだった。

 ともかく運営委員会としては、この4人の捜索と不審物の発見に力を注ぐことになったのだが−−。

(ん?なんだ……)

 刀真の《殺気看破》の力が、僅かな気の流れを感じ取る。
 微弱だが、明らかな殺意を持った気。

 刀真は、素早く左右を見回し−−。
 背広姿の男を目に止めた。
 背格好が神崎宏に似ているが、背中を向けているため、顔は判別できない。
 男は不自然に周囲を気にすると、小走りで曲がり角の向こうに消えた。
 刀真は急いで後を追いかけたが、角の向こうに、既に男の姿はない。

(ちっ……逃げられた!どうする、追いかけるか……?)

 男を追いかけるのも勿論大切だが、この付近に爆発物が残されている可能性もある。
 一瞬の判断の後、刀真はケータイを手に取った。



エクス睡蓮、俺だ。今、刀真から連絡が入った。神崎宏の可能性のある、灰色の背広姿の男が、パビリオン内で目撃された。顔は見ていないが、背格好がよく似ていて、僅かながら殺気を放っていたそうだ。警戒を強化してくれ」
「わかった。おぬしも気をつけるのだぞ」
「分かりました、兄さん」

 パートナーたちと手短に連絡を取ると、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は《殺気看破》に意識を集中した。
 何しろお昼時というコトもあり、会場は凄い人出である。とてもじゃないが、目で探すのは無理がある。
「プラチナ、お前は不審物に注意を払ってくれ」
「了解です、マスター」
 殺気看破に気を取られる分は、魔鎧化しているプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)に補ってもらう。

 時計の針は、12時43分を指していた。 



 現在パビリオンにおける不審者発見の時刻とちょうど同じ頃、“シャンバラの伝統”パビリオンでも、佐々木 八雲(ささき・やくも)が、不審者を追跡していた。

 伝統パビリオンにいたのは、メアリ・アメストン。刀真とは違い、八雲はミシェルの顔をしっかりと見ている。八雲はブースの一つから借り受けたご当地ヒーローの着ぐるみを着ていたために、ミシェルに気付かれることなく近づくことが出来たのだ。
 ただ、着ぐるみはとにかく目立つし動きづらいしと、追跡を続けるのは限界がある。
 八雲は尾行を早々に諦めると、矢野 佑一(やの・ゆういち)に【テレパシー】で接触を図った。

(矢野。僕だ、佐々木八雲だ。メアリ・アメストンを発見した。白地にプリントのあるTシャツと、ジーパン、白いスニーカーという服装だ。今、中央通路をそちらに向かっている。こっちは僕が抑えるから、君たちは彼女の頭を抑えてくれ)
(了解です)

 佑一は、ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)プリムラ・モデスタ(ぷりむら・もですた)に目撃情報を手早く伝達すると、潜んでいた物陰から姿を現した。
 佑一は【迷彩防護服】と【ブラックコート】で気配を消しつつ、中央通路が見える位置へと移動する。
 人に見つかりにくいのはいいが、ソレは逆に、『相手が自分を全く避けてくれない』ということでもある。
 この人混みの中をぶつからずに移動するのは、かなり骨が折れた。
 佑一がようやく中央通路を見通せる植え込みまで辿り着いた時、ケータイにプリムラから着信があった。

「佑一、私よ。今、会場内で不審物が見つかったの。私はそっちに向かうわ」
「わかった。大丈夫だと思うけど、気をつけて」
「ありがと」

 プリムラは手短に電話を切ると、改めて不審物に目を向けた。
 そこには、革張りのアタッシュケースが、ベンチの横に置かれている。

 これを最初に見つけたのは、今向こうで客の通行を規制しているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。

「どうしたんですか?」
「スミマセン、ちょっとブースの食材に利用してる希少動物が逃げ出しまして。今、捜索中なんです」
「エェ!大丈夫なんですか?」
「ただの鶏です。脅かさない限り、人に危害を加えるようなコトはありませんので、ご安心ください」

 セレアナはにこやかな笑みを浮かべながら、予め用意されていた通りの回答を客に返している。

「で、どうなの。やっぱり、爆弾?」

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、プリムラに訊ねる。

「調べてみないことには、何とも。危ないから、セレンも下がってて。振動感知式とかだと、最悪近づいただけでも爆発しかねないから」
「そっか……。予告時刻があるからって、起爆装置が時限式だけとは限らないものね。それじゃ私も来場者の整理に当たるわ」
「お願い」
「まっかせて。アリンコ1匹通さないから、心置きなく解除してて♪」

 セレンは茶目っ気たっぷりにウィンクして、その場から立ち去る。
 『プリムラの緊張が少しでもほぐれれば』という気遣いだ。
 プリムラは笑ってその後姿を見送ると、アタッシュケースに取り掛かった。
 


「間違いないな!確かに、動かしても大丈夫なんだな!」
「えぇ。この爆弾に、振動感知装置はついていないわ。単純に、時限式の起爆装置がついてるだけよ。【銃型HC】に爆弾の情報を送るから、解除の参考にして」
「わかった、有難う!」

 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はプリムラに手短に礼を言ってケータイを切ると、アタッシュケースを手に取った。
 このアタッシュケースは、刀真が見つけたものだ。
 ケースに触れた指先から、エヴァルトの脳裏に一人の男の姿が流れ込んでくる。神崎宏だ。

 エヴァルトはケースを抱えて走りだすと、《アクセルギア》を起動して一気に加速した。
 念のため、会場外の人気の無いところまで移動してケースを開けると、実物と送られて来たデータを確認する。

(起爆装置だけを上手くショートさせれば、爆発させずに解除できるな……)

 エヴァルトは起爆装置に手を触れると、出力を最低にして《サンダークラップ》を使った。
 『パリパリッ!』と小さい火花が幾つか走る。 見ると、確かにカウントダウンタイマーは停止していた。

「フ〜ッ……」

 起爆装置の破壊に成功して、ホッとしたのだろう。エヴァルトの身体から、力が抜ける。 
 だが、ホッと一息つく間もなく、エヴァルトのケータイが鳴った。

「もしもし?」
「エヴァルト、爆弾の解除は上手く行ったか?」
「あぁ。何とかな」
「それは良かった。じゃ、次も頼む」
「あ?次?」
「そうだ。同じタイプの爆弾が、あれから3つ見つかった。他の会場でも複数見つかってるらしくて、応援を頼む訳にもいかない。お前だけが頼りなんだ」
「頼りって……オイ!あと15分もないじゃないか!」
「そうなんだ。出来る限り、急いでくれ」
「あーもう!分かった。すぐに行く!」

 半ばヤケクソ気味に電話を切ると、エヴァルトはもう一度アクセルギアを起動した。

「面倒な手を使いやがって、テロリスト共め!見つけたらタダじゃおかないからな!」

 悪態を吐きながら、エヴァルトは風の様に走った。



ルカ、そこの十字路を右に入って、すぐ左に曲がって!まっすぐ走ったら、突き当たりをまた左だ!お前のスピードなら、それでアイツに先回り出来る!』
「無茶言うわね、さっきお寿司食べたばかりなのよ!」
『試食ばっかりしてるから、腹が膨れるんだ。食後の運動にちょうどいいだろ?運動しないと、太るぞ』
「大きなお世話よ!」

 腹立たし気にケータイを切ると、ルカはの指示通りに、パラミタパビリオンの通路を走り出す。
 今2人は、テロリストの田村 優子(たむら・ゆうこ)を追っていた。

 自分たちと別行動を取っている、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)から、『田村優子を見つけた』という連絡があったのが、5分ほど前。

 その連絡に基づき、空と陸から手分けして探していた所、《空飛ぶ魔法↑↑》と【ホークアイ】で上空から捜索していた淵が発見したのである。
 
 うっかり見つからないように手早く着陸すると、淵はダリルに《テレパシー》で連絡を取る。

(田村を発見!現在中央通路を南に向かって移動中!4人で包囲してぇんだけど、そっちはどうだ?)
(こっちも目標を尾行中だ。次の角の先に、カルキが空から先回りしてる)
(わかった!なら反対側にはルカが回ってるから、袋のネズミだぜ!)
(了解だ。何かする前に、確実に捕えるぞ。絶対に気取られるなよ)
(わかってるって!)

 淵は未だ気づいた様子のない田村の後を追い続ける。
 やがて、ルカとカルキが張っているはずの十字路が見えてきた。
 角から、一般客を装ったルカが姿を現すと、田村の方へと歩いて行く。
(なんだかんだ言って、全速力で走った割りに息一つ乱れてないあたり、さすがだぜ)
 などとルカの様子を伺いながら、カルキが出てくるはずの通路に目をやるが、一向に出てくる気配がない。
 カルキノスはドラゴニュートだから、およそ見失う筈もないのだが、それらしき人物は全く見当たらない。
 それどころか、自分の反対側から来る筈のダリルの姿も無かった。

(クソッ!何やってんだ、アイツら!)
 
 淵はルカと目配せしながら、早足で田村に近づいていく。
 こうなったら、ルカと2人でやるしかない。

 淵は田村を追い越すふりをして、《機晶スタンガン》を押し当てる。
 田村の体が『ビクン!』と激しくひきつるが、淵は気づかぬふりをして通り過ぎる。

「だ、大丈夫ですか?」

 そこにすかさずルカが駆け寄り、倒れそうな田村を受け止める。
 淵は、『いかにも、今気づきました』という感じで振り返ると、「オイ、どうした?」と言いながら戻ってくる。

「急に、この人が倒れて……」
「なんだって。ちょっと見せみろ」

 淵は2人の側にかがみ込むと、田村の様子を確認するようにしながら、《ヒプノシス》をかけた。
 これで田村は、当分目を覚まさないはずだ。

「これは、早く救護所に運んだほうがいいぜ」
「スミマセン、誰か来て下さい!急病人です!」

 2人はまさに打ち合わせ通りに演じ切り、田村の身柄の確保に成功。
 田村は、救護所ではなく運営委員会本部に連行されることになった。
 ところが−−。


「オイ!ダリルにカルキ!人に仕事全部押し付けといて、こんなトコロで何してやがる!」

 田村を運び込んだその本部に、全く姿を見せなかった2人がいた。

「お前たちこそ、どうしてこなかった?しょうがないから、俺たち2人で田村を確保したんだぞ!」
「な、ナニ言ってやがる!田村ならココに−−」
「ちょ、ちょっと淵、アレ見て、アレ!」
「ん!なんだようるせえなルカ!俺は今こいつらに−−」
「アソコ!ほら!」

 淵の頭を掴み、『グイッ』と視線を変えるルカ。
 その淵の視線の向こうにいたのは−−。

「あ、アレ……?田村……?」
「お、オイお前たち、その後ろにいるヤツ、もしかして−−」

 椅子に縛りつけられている田村を見て、驚くルカと淵。
 両手両足を縛られて、担架で運ばれて来た田村を見て、驚くダリルとカルキ。

「「「なんで2人いんだよ!」」」
「……もしかして、双子とか?」
「「「そんなワケあるか!!!」」」

 ルカのネタとも天然とも取れないボケを、一斉に否定する3人。
 だがこれは、更なる混乱の前触れに過ぎなかった。