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12)桐生 円(きりゅう・まどか)

桐生 円(きりゅう・まどか)は、
今回のテレビ出演を機に、「おねーさん系」への変身を遂げようとしていた。
パートナーのオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)
ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)たちも、
楽しく見物……もとい、見守っている。

「円さんは、バストサイズAAAを
気にされてるということですけれど、
豊乳グッズや補正下着などをお試しになったことはおありなのかしら?
もし、他にも努力されてることがあればぜひ伺いたいわ」
「え? 胸!?」
いきなり失礼なことを聞かれたが、円はキレたりはしなかった。
「ちょっと待って、時系列に沿って思い出すから。
覚えてる範囲でごめんね。

ボクも今まで色々努力してきたんだ。
胸大きくしようとしたり
ボクより胸の大きい子達をぶっ殺せば
相対的に胸が大きくなると思って努力したり
色々試したの」
「まあ、たとえば?」
トッドさんが身を乗り出す。
「んーと、まずは百合園の寮内の浴室で
友達と一緒に揉めば大きくなるって話だったので
揉んで貰ったんだけど
ちょっと大きくなったと思ったんだ。
でも、実際には腫れただけで
少ししたら元のサイズに戻ったの。
あれは駄目だ、痛いだけだね効果なかった」
「ああ、あの、黒い悪魔の大発生の事件ですね」
トッドさんがうなずく。
「うん。
それで、ちょっと胸の大きい人が滅びたほうがいいなって結論だして
ジャタ族の技術を利用して
巨大化して世界中の巨乳を滅ぼそうと思ったんだー
でも、失敗して滅ぼせなかったんだけどねー」
口を「3」の形にしてつまらなそうにする円だが。
「なるほど、ザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)さんと
ジャタの森の精 じゃたさんが、
契約者の皆さんの前に現れた最初の事件の時に、
【ヘルジャッジメント円】さんが誕生したんですね」
トッドさんはノリノリで聞いていた。
「次になんか設定崩壊ビーム出来るってニンジャが居て
その子がアーデルハイトっていうロリババアを
巨乳にするって言ってたから
そのビームに滑り込んで巨乳になろうとしたわけなんだけど
なんか、その人が言うには、
『桐生円の胸を大きくするのは、
この世界をこの世界たらしめている、基本法則を変更するということだ。
つまり、宇宙の摂理そのものを変更するということ!
人間の身たる俺には不可能だああああああああ!!』
って言ってた。
本当かどうかわからないけど。
無理だって言われたから
神になって、設定を変えればいいじゃないと思って
設定ビームを受けてたら
身長300Mになって口から火を吐きながら
周りの巨乳どもを滅ぼそうとしてた。
なんであーなったんだろう」
「アーデルハイトさんの連続殺人事件の時のことですね」
首をかしげる円に、トッドさんがうなずく。

「なんでそんなに詳しいの?
まあいいや。
次に覚えてるのは
原点に返って空京百貨店の図書コーナーに行ったんだ。
そこで色々本を買ったり、
『背が伸びる黒魔術』
『実践☆豊乳体操 〜絶対綺麗になるんだモン!〜』
『実録体験 胸からメロンが!』
とか買ってみたんだけど
セクシー体系になれるような体操を夏休み中ずっとやってたら
なんと!体重が落ちて胸がスリムになりました」
こんな風なポーズ取るんだよ、と、円が荒ぶる鷹のポーズを決める。
そろそろこれがテレビであることを忘れ始めている。
「んで最後にじゃぁ神様の国なら
巨乳になれる薬とかあるんじゃないかなって思ったんだ。
それで、アスコルド大帝に礼儀正しく頼んできたんだ。
胸が大きくなる薬とか開発してないの!?
というか開発してください!って
そしたら」
円はふんぞり返ってアスコルド大帝の声真似をした。
「『気紛れだ、汝がそう望めば、その通りにしてやろう』
って言ってくれてよっしゃ!
これはボクの時代が来た!
と思ってたら
『別の望みを叶えてもらおうとしても我は応えぬ。あくまで胸に関することのみだ』
って言ったんだ!
背の高さとか無いとだめじゃん!
そりゃ!ちょっと迷ったけど!
140センチの巨乳ってどうよ!
背の高さがないとやだぁー!
おねーさん系になれないー!」
円はその場でごろごろ転がり始めた。
「外見というより、性格的な問題で無理な気もしますが。
修学旅行の時のお話ね」
トッドさんはお行儀の悪い子は特に気にならない様子だった。
円はがばっと起きて言う。
「いや、でもこれだけは言える、エリュシオンは神の国だ。
巨乳になれる方法はあそこにあるのかもしれない」

「美味しいもの食べたらすぐ大きくなるって」
観覧者のテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)から、そんな野次が飛んでくる。
他人事なのでいつも以上にお気楽であった。

「でも今は胸については気にしてないよ」
円は、ふと、真面目な顔をして言う。
「まあ、どうして?」
トッドさんの問いに、少し照れながら答える。
「ボクの恋人にホワイトデーで
パットだって告白したら
『ありのままの円が、見たい』
って言われて、今はありのままで居ることにしてるの。
馬鹿にされたらイラッとするけど」
「まあ!
そういえば、円さんはパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)さんの恋人でしたね」
「え、何で知って……って、これテレビ!?」
トッドさんに言われ円は重要なことを思い出す。
「もしかして、ボク、全世界に向けて告白しちゃったの?
……きゃー!」
赤面する円であった。