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4)エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)

純白のスーツに身を包んだエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、
グレーのスーツのパートナー、
リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)を伴って現れた。

「このたびはお招きいただいてありがとうございます」
エメは、貴公子然とした笑みでもって、
トッドさんに優雅に一礼する。
「こちらこそ、どうもありがとう。
お掛けになって」
二人は、ソファに腰かけた。

「では、さっそくですが。
エメさんは、鏖殺寺院回顧派首魁ということですけれど、
今後のご予定についてお聞かせ願えます?」
「え?」
エメの蒼い瞳が見開かれる。
会場がざわめいた。

「どういう意図での質問か判りませんが……」
エメは、軽く咳払いをした。
トッドさんは、いつもの少女のような笑みで、エメを見つめ返していた。
観客たちはざわざわと、お互いの顔を見合わせている。
「会場の様子を見ても、
回顧派が正しく認知されているとは思えませんので
鏖殺寺院の生まれた経緯から説明させて下さいね」
柔和な笑みを浮かべる。
これは、しかるべき立場についた自分の責務でもある。
そう、エメは考えた。
これを機に、地球に向けて、正しい知識を伝えることができればと。

「鏖殺寺院とは、
アムリアナ陛下の妹君ネフェルティティ様と、
その臣下に付けられた忌名です」
「まあ」
トッドさんの短い感嘆の声が、会場全体の気持ちを代弁するようだった。
エメは、ゆっくりと続ける。

「5000年前、シャンバラでは機晶技術等の開発が過度に進められており
ネフェルティティ様はその危険性を憂えたのですが
シャンバラではその言葉に耳を傾けて貰う事はできず
とある所へ助力を願い出て……そこで呪いを受けてしまったのです。
何者が、何故呪いをかけたのか……それは長くなりますので割愛させて頂きますね」
トッドさんは、きっと知りたがるだろう。
でも、重要なことを伝えるために。
エメは、自分のペースを崩さぬよう、努めて落ち着いて話した。
こうしたことは、エメにとっては、呼吸するようにできることであったのだけれど。

「ネフェルティティ様とその臣下達は狂気に侵され
知り得た情報を話すと死に至るという呪いの効果のせいで
本当の理由を話す事もできないまま
……シャンバラを救う為に実力行使に訴える道を選んだのです」
「それで?
それからどうなったの?」
トッドさんに促されて、エメは続ける。
「現在も各地で鏖殺寺院が暗躍していますが、
実は一つの纏まった組織ではなく、
元幹部や元構成員、
関係ないマフィア等がそれぞれ勝手に活動しているのが実体です。
正直鏖殺寺院を名乗られるのは迷惑なので
出来れば撲滅したいと考えてますよ」
「つまり、悪いことをする方々は、
エメさんたちにとっても敵、ということなのね」
「ええ」
トッドさんは飲み込みが早いようだ。

「……で、私の属する回顧派ですが
簡単に言うと、鏖殺寺院となる前の状態に戻ろうという派閥です。
本来ネフェルティティ様が提言していたのは大地との共生。
そして困った方があれば進んでお力になる事。

ですから、今後の予定と言われましたら
今までと変わらず、困った方があればお力になりたいと思っていますよ。
ただし、回顧派自体には何の権力もありません。
特別な力を持つ女王器や秘密の隠れ家もありません。
他の契約者の方々となんら変わらないのですよ」
穏やかな微笑で、エメはそう締めくくった。

「なるほど。よくわかりましたわ」
トッドさんが微笑を浮かべた。
(もしかして、このために?)
エメは、トッドさんの笑顔を見つめ返した。
地球に広く鏖殺寺院のことを伝えてくれようとしたのだろうか。
まあ、もちろん、単なる好奇心なのかもしれないのだけれど。

すると、リュミエールが、ポン、と手を叩いた。

「いきなり教育番組になってスタジオ観覧のコはごめんね?
お詫びにお土産だよ。
まず、これはトッドさんに」
「まあ、すてき!」
トッドさんが少女のように目をキラキラさせる。
リュミエールの渡したプレゼントは、蒼薔薇のドレスシャツであった。

そして、
ホスト喫茶【タシガンの薔薇】謹製のお菓子を、
リュミエールは、スタジオ観覧者に配り始めた。
エリュシオン・カナンにも支店を出して
空京万博でも出展していた、【タシガンの薔薇】のお菓子だ。
「僕の【愛】以外は原材料表示に無い物は入ってないから安心してね」
カメラ目線でウィンクして見せる。

「こっちの薔薇のティセットは視聴者プレゼント。
宛先はこちら……ってやったら、テロップ出してくれるんだよね?」
リュミエールが手で指し示すと、
テレビ局の住所が表示された。

「ずいぶん手馴れてますね」
「一度、こうしてテレビ出演してみたかったんだ」
微苦笑を浮かべるエメは、リュミエールが最近、
「トッドの部屋」をはじめ、地球のテレビ番組を研究していたのを思い出した。
「タシガンの薔薇はホストとお喋りしながら
お茶やお菓子を性別拘らず楽しめる喫茶店だよ。
是非来てね」
観覧席から歓声が上がる。
「わたくしも伺いたいわ。
今日はどうもありがとう」
「こちらこそ」
「待ってるからね、トッドさん」
エメとリュミエールは再び優雅に一礼した。

こうして、
エメは、地球に回顧派に関しての情報を、広く伝えることにも成功するのだった。
そして、タシガンの薔薇も繁盛するのだが、それはまた別の話である。