校長室
【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
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「石像が暴れてるなんて……これじゃ皆で気楽に見物も出来ないじゃないのっ!」 村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)が、石像のパンチを間一髪でかわしながら叫ぶ。 「蛇々おねえちゃん! どうする?」 リュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)も、蛇々と同じく石像の攻撃をかわして叫ぶ。 「……仕方ないわ。まずはパルテノン神殿で暴れる石像を鎮圧しましょ。ぱっぱと片してのんびり神殿見物するわよっ! アール! いいわね?」 「……修学旅行の筈だが……また疲れるな……しかし、蛇々の意見には賛成だ。こういうのは早期解決に限る、長引けば長引く程に被害の範囲が増すしな」 アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)はそう言いながら、チラリと「ええい! 面倒だ!」と言いながら石像の注意を引くために走り回っているエスフロス・カロ(えすふろす・かろ)を見る。 「(……だからと言って、エスフロスの早期解決案は全く賛成出来ん)」 エスフロスが長い青髪をゆらして跳躍し、向かってくる石像に対し、モンク特有の構えを見せる。 「エスフロス! 貴重な文化遺産だ、丁重に扱え!」 アールの声にエスフロスが短気な性格をむき出しにする。 「事件の手掛かりを得る為に石像達の足止めを、と蛇々は言ったが、いつまでこうして囮役をやらせるんだ!?」 「壊しでもしたら契約者らの印象が劇的に悪くなるだろう!?」 「壊したら現地の人達に大目玉くらうわよ! 私の少ないお金じゃ到底弁償出来ないんだからやめてよねっ!」 何やら不穏な会話を聞いた蛇々が、「(怒られるなんて絶対イヤーッ!)」と言いたそうな表情でエスフロスに叫ぶ。 「だが、おまえの言う事も一理ある。蛇々!」 アールは主に蛇々のサポートとして、蛇々がサイコメトリを使う為に石像をサイコキネシスで拘束しようと思っていた。 だが、この動く石像達には、特殊な魔法がかけられているせいか、サイコキネシスの効果は3秒程度しか持たなかった。 アールが呼びかけを耳にしつつ、石像と適度に距離を取る蛇々は、色々と今までに得た情報を回想中であった。 「(取りあえず神殿以外の場所では石像や印象的な無機物が動く……って話はなさそうね? 神殿内を含むその周辺に動く魔法をかけた奴がいるのかな?)」 リュナやアール、エスフロスと一緒に周辺を調べて原因を突き止めてやるんだから!と思っていた蛇々であったが、そのような情報は全く得られず、「取りあえずアールがサイコキネシスで拘束した石像の一体に【サイコメトリ】をかけてみよう」という趣旨に切り替えていたのだ。 「(サイコメトリなら魔法をかけられた時の事が少しは分かるかも知れないしね。ある程度原因の要素が絞れる事を期待しよう)……リュナ! アール! エスフロス! もう一度しかけるよ!」 「何だか凄い事になって来たね……頑張らなくちゃ!」 リュナが近くのアールとアイコンタクトをかわす。 「(行くぞ? リュナ!)」 「(うん! アールおにいちゃん!)」 複数の石像の進行方向の分散を謀り、蛇々のサイコメトリを成功させ易くする為や石像達に包囲されるのを回避するため、石像の注意を引き付ける役をしていたエスフロスが、絶妙のタイミングで一体の石像を二人の正面に呼び込む。 その瞬間に、アールがサイコキネシスで石像の自由を奪い、アールのやや後方からリュナが氷術を放つ。 リュナの氷術が動く石像の足を床と氷結させて動きを封じる。 「やった! 蛇々おねえちゃん、早く、サイコメトリを!」 作戦が成功したと思い、リュナが飛び跳ねて喜ぶ。 「リュナ! 気を抜くな! 俺のサイコキネシスはこいつらには3秒程度しか持たないんだぞ!?」 「……え?」 アールがサイコキネシスで止めていた石像の両腕がグググッと動き出し……リュナに振り下ろされる。 ―――バシィィッ!! 「……あれ?」 目を瞑っていたリュナが「痛くない?」と呟くと、アールに庇われた彼女の前で、エスフロスが両腕に嵌めた愛用の白金色の籠甲(ガントレット)で石像の拳を受け止めていた。 「おい、秀才! 頭いいならチビの一人くらい守ってやるのだな! いや、貴様では無理か……」 「おまえとは方法が違うが元よりそのつもりだ」 リュナを身を呈してかばおうとしていたアールがエスフロスを見る。 「原因が分かれば直ぐにこの惨事も治まるだろう……蛇々、今だぞ!」 「はいはい。ここでもうやってるわよ……」 蛇々は、物品に触れることで、その物品に籠められた想いや、それにまつわる過去の重大な出来事を知ることができる、【サイコメトリ】を石像に仕掛ける。 脳内に流れ込んでくる映像……しかし、どれも時代が古過ぎる。 「まだか!? こいつ、凄い馬鹿力だ!」 石像と力比べをしていたエスフロスの膝が震えている。 「もう少し……」 呟く蛇々の脳内に、一人のよく肥えた男の顔が浮かぶ。「フレド」と呼ばれている……それまでずっと固定だった石像の視点が揺れ、動き出す。 「あんたか……」 石像からそっと手を離す蛇々。 「他のが来るぞ!? もう壊してもいいな!?」 鎮圧が長引きそうならば俺は石像を壊すぞ!と予め宣言していたエスフロスが、力を込めた拳を石像に振り上げる。 「エ、エスフロス!?」 「他の観光客やギリシャの市民を危険に晒す訳にはいかん! 『形あるものはいつか壊れる』の名言の下、秩序を取り戻す為の一撃を石像に見舞ってやるのだッ!」 「エスフロスおにいちゃん……ごめんなさいッ!」 リュナがエスフロスに氷術を使う。 「何ッ!?」 カチカチと足元から固まっていくエスフロス。 「リュナ……ど、どうして貴様が……」 「エスフロスおにいちゃんが石像を壊しそうになったら、氷術使っておにいちゃんを氷の中に閉じ込めてもいいって言っていたの……アールおにいちゃんが」 「!!」 「これで俺もエスフロスの監視から離れられるな」 アールがヤレヤレといった顔をする。 「アール……貴様は……俺の」 謎めいた台詞を残し、完全に氷の中に閉じ込められるエスフロス。 「大丈夫かなぁ……でも、これも後でみんなで観光を楽しむためだものね」 リュネが先ほど足元を固めた石像に再度氷術をかけながら、エスフロスを見つめる。 「エスフロス……」 蛇々が安堵とも不安ともつかぬ溜息を吐き出す。