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リアクション
「そう言えば、そんな事ありましたわね」
リーブラが歩きながら呟く。
「そうそう。セっさんて方が愛着わくだろ?」
シリウスが言うと、別の方からも「セっさんコール」が起きる。
「セっさん! 俺が渡した友情のバッチ、持ってるかぁ? 落としたりしてへんやろな?」
話かけてきた日下部 社(くさかべ・やしろ)に振り向くセルシウス。
「貴公か。安心しろ、この通りトーガにつけている」
「そっか、無事ミノタウロスを倒せたら一緒に鍋しような♪」
満面の笑顔で笑う社に、セルシウスの表情がやや曇る。
「貴公……本当にミノタウロスを食らう気なのか?」
「当たり前や! めっちゃ精出る鍋やで? しかも伝説や!」
「むぅ。しかし、今まで食べた話など、我がエリュシオンでも聞いたこと等ないぞ?」
「セルシウスさん。折角の修学旅行です。現地で伝説にまでなっている食材を堪能しない手はありません」
セルシウスの傍を歩くクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が静かに言う。
「現地で伝説にまで昇華している「牛」です。 きっと旨いに違いありません!」
「せや! クロセルさんの言うとおりや!!」
「(蛮族め……どこまで貪欲なのだ)まぁ、倒してから考えるとしよう。だが、食べてもしもの事があっても知らぬぞ?」
「病原性のプリオンですか? でも、あれは人体には影響しないものです。ならば食べても大丈夫でしょう。しかし、鍋を醤油味で頂くか味噌味で頂くか、決めねばなりませんね」
「おお! クロセルさん! そこは忘れとったわ!! でも、牛肉はアクが出るんやから味噌ちゃうか?」
「定石通りならそうですが……悩みますね」
鍋の味付けで盛り上がる社とクロセルに、東 朱鷺(あずま・とき)が冷ややかな声をあげる。
「キミ達?」
「なんや?」
「朱鷺はミノタウロスを従者にしたいの。勝手に食べないでくれる?」
「従者に?」
「そう。最近は実験(訓練)を行うのも、被害の出ない場所に移動しないといけなかったり、相手がいなかったりで結構深刻な問題だったの。けど、古の怪物たるミノタウロスなら及第点でしょう?」
「シャンバラへ連れて帰るつもりですか?」
クロセルが尋ねる。
「ええ。でも、二頭いれば一頭くらいはあげるわよ?」
朱鷺の提案に、クロセルと社が顔を見合わせる。
「クロセルさん。やられたわ……二頭居た場合を考えてへんかったわ」
「はい。迷宮から出たら直ぐ様鍋用の野菜の確保に走らねばいけませんね」
「はぅ!?……二頭食べる気?」
社とクロセルの会話を後方で聞いて、ハァーッと長い溜息をつく望月 寺美(もちづき・てらみ)。
「せっかくの修学旅行なのになんでこんな事になってるんですかぁ〜!? 社とクロセルさんは何を考えてるんでしょう……はぅ〜」
「鍋の野菜に決まっておるであろう! あとはシメをうどんにするかラーメンにするか……いや、雑炊という手もあるか」
寺美の悩みをズバッと別ベクトルへ解決したのは、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)である。
マナは、牛鍋実現のため、食材(ミノタウロス)までのセルシウスを守るという任務についていた。
そのため、『レーザーマインゴーシュ』という名のナイフとフォークを打ち鳴らしつつ、後方からいつ何時迫るかもしれぬ強化・凶暴化された動物達を露払いしていたのだ。
「ちなみにぃ、ボクはミノタウロス鍋なんて食べませんからねぇ?」
「まさか……焼肉にするというのか!? それとも生は危険だとわかっていても食べてしまう魔性のユッ……」
「マナ様。危険な方向へ話を持っていくのはやめましょう」
シャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)が、膨らみ続けるマナのミノタウロスグルメ妄想に釘を刺す。
幼い頃よりマナを主君と仰ぎ続けるマナ様至上主義者の側仕えのシャーミアンは、マナの教育方針を巡ってよく対立するクロセルの仕向けた牛鍋計画に難色を示していた。
「(クロセルめ。またマナ様に妙なモノを吹き込んで……)」
シャーミアンは、前方で「しまった。葛切りはギリシャに売っているのだろうか……」と呟くクロセルをジト目で睨む。マナは相変わらず寺美に「伝説的な牛を鍋にすると聞いたのだっ! はるばるヨーロッパまで来て、現地の有名な食材を食べれるチャンスを逃す手はないのだっ!」と熱く語り、「ボクは食べないって言ってるのぉ!」と寺美を怒らせていた。
「(せめてマナ様が食される前に安全性の確認をしなければ!……どうせクロセルは鍋奉行に徹する気だから、某が倒れてはブレーキ役がいなくなる)」
そう考えたシャーミアンは、毒見役として最初に目をつけていた寺美を脳内候補から外した。寺美の言動を観察する限り、ゆる族だけど、頭はゆるくないらしいという事がわかったためである。
「(何としても、鍋完成までに吟味せねば……)」
シャーミアンの恐るべき選別がこっそり始まる中、未だ牛を熱く語るマナの話に少々ウンザリした寺美が後方を振り向く。
「もう、朔さんはこんな二人に付き合わなくてもいいんですよぉ? でもミノタウロスを倒して人の為になるというのなら、世界のマスコットを目指すボクも頑張らないわけにはいきませんね!……て、あれ? 朔さん!? はぅ!? 何でいないのぉ!!」
「貴公? どうした!」
前方を行くセルシウスが振り返る。
「セっさん! いないよぉ! 朔さんやみすみさんがぁ!!」
寺美の悲鳴に歩いていた一同の足が止まる。そこは丁度迷宮の十字路であった。
永谷が四方を見渡して呟く。
「まさか、先ほどの分かれ道の戦闘ではぐれたのでは……?」
「そらアカン! セっさん! 二人を探しに行こうや!」
「賛成です。鍋が余ってはいけません」
社の提言に、クロセルもすかさず同意する。
「セっさん、クロセル、社! どうもそう悠長な事は言ってられないみたいだぜ?」
シリウスがエレキギターを構える。
「む!?」
「三方向から来ますわね」
リーブラが剣を向ける。
「混戦になれば朕達の分が悪い……という事だな」
頭脳をフル回転させたミカエルが呟き、
「トトと朕でセルシウスを守る! 社達は左! クロセル達は右! 朱鷺とシリウス達は前方を迎え撃つ! よいな!?」
ミカエルの指示に一斉に各通路に散らばる一同。
「了解!」
「やるしかないようですね」
「しゃあねぇな!」
「寺美! 行くで!!」
皆に守られるようにして、ポツンと十字路の中央に立つセルシウス。
「……何!? 私は戦わなくて……よいのか?」
「セっさん、謂わばあんたは大将なんだ。いくら兵が残ろうと大将がやられたら軍は終わりだろ? だから動かないでくれよ!!」
「そうです。そこでドッシリと構えてて下さい。何もしなくて大丈夫です!」
シリウスと朱鷺の言葉に、セルシウスが「そうか……」と頷き、彼を守る盾となった永谷は「皆さんの優しさ……かな?」と思う。
「来たでッ!! みんな、セっさんを守るんや! 絶対、死守やでぇぇーッ!!」
「「「おーうッ!!」」」
社の声と共に、三方向より襲ってきた獣達と一同の戦闘が始まるのであった。
案内は頼りになるセルシウスだが、戦闘でまるで役にたたないという事がわかった一同は、この後も迷宮で遭遇する獣達との度重なる戦闘に疲労が溜まっていくのであった。
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