校長室
【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
リアクション公開中!
第三章:ギリシャ(その1) 話は修学旅行のもう一つの行き先に変わる。 そう、ギリシャである。 古代ギリシアのポリスのシンボルとなった小高い丘を指す『アクロポリス』。「高いところ、城市」を意味し、防壁で固められた自然の丘に神殿や砦が築かれているのが普通である。 ギリシャに点在する中でも最も有名なアクロポリスと言えば、アテナイのアクロポリスの上に建設された、アテナイの守護神であるギリシア神話の女神アテーナーを祀る神殿、『パルテノン神殿』である。 「「「3人トリオのパルテノンツアー」」」 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)、ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)、金元 ななな(かねもと・ななな)がパルテノン神殿前で、やぁー!と両腕を突き上げる。 「重複してるぞ」 すかさず突っ込んだのは、きゃぴきゃぴする女子達の手綱を適当に引締めつつ、自身も楽しんでいたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)である。 「古の昔の武士の侍が、馬から落ちて落馬した……ってアレだね」 「あはは、なにそれー」 ルカアコが笑う。 「知っててやるなよ」 呆れた顔でダリルが呟きつつ、手配した執事達と共に、折りたたみ椅子やテーブルを用意している。 ルカルカ、ルカアコ、なななと、一人に一人付く執事たちは「お嬢様」とか言う家令達であり、アクロポリスの丘で景色が良い所でまずお茶とケーキを楽しんでいた。 「執事は、なななにもつけるから何でも命じてね?」 「え! 本当!? なななに何でもしてくれるの!?」 「……出来る範囲でね?」 ルカルカの実家は、日本の結構名家であり、彼らもそこから呼んだそうである。因みに、ルカは通称名の偽名。本名は流香と言うらしい。 「メトープ見てくらぁ」 四人の様子を見て、空へと飛翔するカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)である。歴史に造詣が深いカルキノスは一行のガイド役として参加していた。色々と逸話的な事柄も含めて説明してくれて、ありがたい存在であったが…。 「あー、トカゲが飛んでる!」 親子連れの観光客の少女がカルキノスを指さす。 「ドラゴンだ……」 空を上昇しつつ、カルキノスが少女に振り向く、 地球でも、種族知名度は高くなったが、まだ畏怖の目で見られる現実があった。 「(怖がらせたくねぇから、今までは地球に来ても街には来なかったんだが、歴史遺産は見てぇし)」 ドラゴンだ等の驚嘆には、古代種族の理知的な誇りを持って適当に愛想まいていたカルキノスだったが。 「ルカ?」 「何?」 「遺産壊すんじゃねえぞ?」 カルキノスは、歴史に価値を置くので遺産破壊は彼の逆鱗に触れるのだ。 「……うん。努力してみる」 「ああ! もう勝手に動くなー!」 ダリルが叫ぶ。 「華麗なる家令だね♪」 「ルカ、褒め言葉になってないんだが……」 ルカルカとダリルが会話する横では、ルカアコとなななが話をしている。 「お礼? なななに?」 「そ。アコとルカとダリルは、なななの故郷に連れてって貰った事があるでしょ? 今日はそのお礼も兼ねて、お世話するねっ!」 「ふふふ……ついになななにも地球で部下が出来たのね」 「そこは、友人て言いなさいよ、ななな?」 お茶を飲みながら、ルカルカがなななを見つめる。 「ちょっと待て。ルカ。まさかそこに俺も含まれるんじゃないだろうな?」 「当然」 「そうか……俺もか……」 「ま、お世話するのは執事達だけどね!」 あははは、とルカアコが笑って、先程屋台で買ったクルーリ(表面に白ゴマがまぶしてある塩味のついた硬めのパン)をかじる。クルーリは、ギリシャのドーナツと考えて貰うのが良いだろう。 ふと、後方に見えるパルテノン神殿で「どごぉぉーーーんッ!!」と巨大な音が聞こえる。 「あー。でも今日は色々見て回ったよねぇ。屋台やお店で食べたり、土産物屋でお守りやアクセ買ったり、写真とって、追いかけっこして……」 「バトルもな……」 ダリルがパルテノン神殿の方角を見ながら呟く。 「今日は皆となななとずっと一緒にあちこち回って楽しかったなぁ。軍務離れてパーッと遊んじゃおっ! って決めてたし……」 「ルカ? まだ今日は終わってないよ」 ルカアコが「フフフ」と小さく笑う。 「そうよ! まだ神殿の石像……」 珍しくまともな事を言いかけたなななの発言をルカアコが打ち消す。 「ディナーも楽しみだし。何よりパジャマパーティー!! 恋話とか色々話せるよね! あ。夜着はなななのも含めて新調したのがホテルの部屋に届いてるはずよ」 「そうそう。パジャマトーク!! 修学旅行でこれは外せないわね! ね? ダリル?」 「……パジャマトーク……俺もか?」 「うん♪」 ダリルが諦めた顔をする横で、ルカアコが「部屋にプールはちゃんとある?」と執事にホテルの事を指示していた。 「部屋にプール!! 凄い!! ななな、そういうのは日本の高速道路の近くにあるって聞いてたけど、ギリシャにもあるのね!」 「……誰から聞いたかは、聞かないけど。まだ15歳のなななには早いと思うわよ?」 ルカルカが複雑そうな顔でなななを見る。 「そうなの? 行ってみたいなぁって思ってたんだけど」 「絶対、行っちゃ駄目よ?」 ダリルがルカアコに腕組みして尋ねる。 「しかし、いくら財政難の国だからと言って、そんな一流ホテル高かっただろう?」 「お金? 管理はダリルだからアコは気にしないよ♪」 「……アコ。キャッシュカードで破産するタイプだな」 ルカルカ達は相当金持ちであり、折角の旅行だし、という事であまり頓着していなかったのだ。 「そう言うダリルだって、結構お土産沢山買ってたじゃない?」 「沢山……と言っても、友人達にレース編みのクロスとオリーブオイルくらいだ」 「本は? 何か写真集とか買ってなかったっけ?」 「ああ! セルシウス用に、この地方の歴史書と写真集、それと希臘時代の建築と都市設計の研究専門書等を買った。地球の建築を知る事は有意義だろうと思ったのでな」 「セルシウスねぇ……生きてるのかしら? あの人ミノタウロス倒しに行くって張り切ってたけど」 「電話してみたら?」 ルカアコがなななを宥めつつルカルカに言う。なななは執事に「あなたも電波受信するの?」としつこく聞き、執事を苦笑させていた。 「そうね。セルシウスにも貴方の分のお土産も買ったよって携帯入れとこう……」 ルカルカが携帯でセルシウスに電話しようとして……手を止める。 「ねぇ。セルシウスの番号って誰か知ってる?」 「……」 ダリルとルカアコが顔を見合わせる。 「そもそも携帯を持っていたか? 前にシャンバラの国境地帯をウロウロしてた時に聞いたら、「私は、機械に弱くてな。車の運転も出来ないのだ!」とか言ってた気が……」 「……そっちの状況はどお?って聞きたかったんだけどなぁ」 溜息をついたルカルカが携帯をしまう。 「む!」 ピンッとなななのアホ毛が立つ。 「電波受信したの?」 「そうよ! この宇宙刑事なななに助けを求める声が届いたの!」 ダリルとルカルカが静かに、「ドゴォォォーーンッ!」「きゃーーーッ!!」と大きな物音と悲鳴があがるパルテノン神殿を見る。 「感じるわ、直ぐ近くね!!」 「正解ね。間違いなく……って、あ、こら! ななな!?」 ルカルカが止める前に、なななが走っていく。それに付き添おうとする執事は、「一般人が立ち入るレベルじゃない」とダリルに呼び止められていた。 「……全く。軍務離れてパーッと遊ぶって目的、忘れそうね」 少し不機嫌にルカルカがお茶を飲み干して、立ち上がる。 「行くのか?」 「放っておけないでしょ……はい、休憩終わり! アコ! もう一度行くわよ?」 「はーい」 ルカルカ、ルカアコ、ダリルはゆっくりと白煙のあがるパルテノン神殿に向かうのであった。