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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

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第一章:ローマ(その1)

 秋のローマを一台の赤いスーパーカーが軽快に駆けていく。
 ローマは観光地ゆえ諸外国からの人も多く、例えば寒い国から来た者は半袖、暑い国から来た者は長袖にパーカーを羽織ったりしている。そして、それらを見て過ごす現地のローマっ子達。
「中心部は車侵入禁止の区間が多いわね……意外だわ」
 道行く人々から備え付けのカーナビゲーションに目を移してそう呟いたのは、ハンドルを握るローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)である。
 信号で停車するローザマリアの車。
 スーパーカーに積まれた大排気量エンジンのせいで車内にこもる熱気を気にしたローザマリアが窓を開くと、心地よい風が吹き込み、彼女の長い金色の髪がなびく。
「(遅れないようにしないと……)」と、車内の時計を見たローザマリア。その時、隣のレーンに停まった車の窓が開き、現地人と思われるイタリア人の男性が、「チャオ!」と声をかけてくる。
 男に優雅に手を振るローザマリア。男は窓から身を乗り出す勢いで何かを話しかけてくる。イタリア語に関しては知識の無いローザマリアでも、それがナンパであることはわかるくらい情熱的に。
「ごめんね! 人と待ち合わせしているの!」
 信号が青に変わり、申し訳なくウインクしてアクセルペダルを踏みこむ。
 スーパーカーのエンジンが唸りを上げ、男の車を一気に後方の点にする。
「女性を見たら声をかけなきゃ失礼って聞いてはいたけど……流石イタリアね」
 勿論、ローザマリア自身が、折角ローマに来たという事で普段よりもちょっと御化粧し、垢抜けた感じの服装で御洒落をしていた彼女の外見の影響もあるのだろう。
「……と!?」
 道沿いの一角にあるバス停に佇む、身体のラインを協調するデザインと深いスリットが大変色っぽい崑崙旗袍(コンロンのチャイナドレス)を着た白いセミロングの髪の少女を見つけて、慌てて車を端に寄せつつクラクションを鳴らす。
「ローザさん?」
 手に『ローマ観光ガイド』と書かれた本を持っていた冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が、クラクションに驚いて顔をあげると、目の前に赤いスーパーカーが到着する。
「Hi! 小夜ちゃん、お待たせー!!」
 運転席のローザマリアが小夜子に微笑むと、小夜子が助手席に乗り込んでくる。
「ローザさん。この車は……?」
「現地で足が無いと困るでしょ? だから着くなりレンタカーショップで借りたのよ」
「え……で、でも、確かイタリアって18歳以上じゃないと免許が……」
「店のオジサンが良い人だったのよ。美人だし18歳以上に見えない事もないから、貸してくれるって!」
「……そ、そうですか」
 カーナビゲーションシステムをタッチして、目的地を探すローザマリアに小夜子が何となく次の言葉を飲み込む。
「じゃ、行きましょ。小夜ちゃんは何処へ行きたい?」
「イタリアは歴史のある国ですけど、同時に優れた最先端のデザインも多いですし、遺跡とか……あ、ショッピングも楽しそうですね。それに、ジェラートも食べたいです!」
 普段はあまり使わないSPルージュで桃色に染まった小夜子の口から、次々と希望が出てくるのを聞いたローザマリアが弾む心で目的地をピックアップしてナビに入力していく。
「そうね……高級ブティックが立ち並ぶのはスペイン広場の前の通りだから……近くまで行って、と」
 ローザマリアがナビで最寄りの駐車場を探し当てる。
「近くまで?」
「ローマは中心部は車が進入出来ない区画が多いのよ」
「へぇ……」
 小夜子がローザマリアの説明に頷く。
「正規の駐車場に止めてショッピングへ行く方がゆっくりできるわよね?」
「ゆっくり?」
「そ。折角ローマに来てるんだし、ブティックを端から端まで順繰りに巡っていきましょ。ね、小夜ちゃん?」
「はい!」
 やがて、ナビの案内が始まり、ローザマリアがアクセルを踏み込んでスーパーカーを発進させる。
 車で点けっ放しになっていたラジオではDJが軽快なリズムで、マフィアのとあるファミリーの騒動やギリシャで暴れる石像のニュース等をしていたが、ローザマリアは小夜子との会話を楽しもうとコレをオフにする。
 重低音のエンジン音を聞きながら、二人はこれから始まる修学旅行に胸を時めかせるのであった。