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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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「クソッ。ふざけてる場合じゃなかったな!」
理知のヒポグリフの背後にいた凄まじい枕に乗るアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)がコクピット内で吐き捨てる。
「うむ、それがしも酔っ払いの、あしらい位の仕事しか無いと思っていたが……」
ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)が眠そうな顔でアキュートの言葉に同意する。ちなみに彼は夜だから眠いのではなく、年がら年中こんな顔だ。
アキュートは、胸の前で手を打ち合わせて、機体のチョイスをミスした事を後悔する。
発端は、蒼木屋のアルバイト募集の張り紙を見た時である。
「居酒屋の警備員なのに、イコンパイロット優遇? 訳分からねえが、客寄せかなんかか?」
空京大学のキャンパスでウーマと一緒にアルバイトを探していたアキュート。ふと目についたのが蒼木屋のアルバイトであった。
「ウム、平和な酒場での新年会。漢達の一時の休息でもある訳だな」
「休息か……休息をイコンで守るのか」
「アキュートよ、只の警備ではつまらぬ。それより、この水族館のサクラのバイト等どうだ? ただ泳ぐだけで良いらしいぞ?」
「それ、ずっと掲示されてるバイトだろう? あと募集要項は最後まで読めよ。セリで落とされた採れたての魚はその場で調理ってあるぜ?」
「何ッ!? そんなジェノサイドなバイトがあるとは……」
「……なぁ、マンボウ。この居酒屋の客寄せなら最近手に入れたアレで行ってみようかね」
「おお! あのイコンか!! うむ、我らのイコンでさらに盛り上げて見せようではないか!!」
「決まりだな……」

アキュートが前を向くと、空中で二体のイコンがイーグルと激しく交戦し、彼の前のヒポグリフが次々とビームキャノンを放っている。
ガチで戦闘があるとは思わず、イコン『凄まじい枕』で警備員のバイトに当たっていたアキュートとウーマは、客にはウケていたので先ほどまで上機嫌だったが、巨獣を見て後悔していたのだ。
「あ、枕だー!」
「……ん?」
先ほどアキュート達が行った凄まじい枕のパフォーマンス(飛んだり跳ねたり)を見て、喜んでいた幼い少年が、店の外に出てくる。
「そこの坊主。今は危ないから中に入ってろー」
外部スピーカーを使って呼びかけてやるアキュート。
「枕は戦わないの?」
「あ?」
少年の声にアキュートが反応する。
「坊主。見てわからねーか? 向こうはガチの戦闘仕様のイコンで、こっちはただの枕だ。ハナから勝負になるねえんだよ」
「でも、イコンはイコンじゃないの?」
「……」
返答に困ったアキュートがウーマを見る。
「……若き者はその無知さ故にたまに真理を突くことがあるな……」
渋い声でウーマが呟く。
「はッ!! 無理だよ、無理! せいぜい叩き落されて終わりだ」
その時……。
「きゃああぁぁぁぁーーッ!!」
上空でイーグルの一撃を受けた美羽のグラディウスが地表に落下してくる。
「む、危ない!!」
凄まじい枕で少年を庇うウーマ。ソフトな触り心地が少年を包む。
ズドオオォォォーーンッ!!
「美羽ちゃん!? 大丈夫!?」
射撃しながら理知が叫ぶ。
「イタタタ……肩が……」
落下の衝撃で肩を脱臼したらしい美羽が苦痛に顔を歪める。
「美羽さん! 大丈夫ですか!?」
「へ、平気よ。ベアトリーチェ、これくらいで……イタッ!?」
「動かしたら駄目です!」
「骨まではいってないみたいだけど……困ったな、コハクはイコンを動かせないし。ベアトリーチェだけじゃ……」
「……」
騒ぎを聞きつけてセルシウスが店から出てくる。
「む! あの人形は!?」
「……一人、イコンの操縦が可能な方がいますね」
ベアトリーチェがセルシウスの姿を見つけて、眼鏡を押し上げる。

「坊主。無事か?」
アキュートが言うと、少年は頷くが、みるみるその目に涙が溜まっていく。
「……う、うわぁぁーーん、怖かったよーー!」
「……」
泣く少年を前に、いつもなら「そなた、漢が泣くものではない!」と一喝するウーマが黙っている。
「マンボウ……俺は、俺達は……」
アキュートが唇を噛み締める。無力な、あまりにも無力な自分に腹が立ってくるのを感じる。
「アキュートよ。確かにこのイコンはタダの枕。しかし、枕には枕なりの戦いかたがあるではないか?」
ウーマが狭いコクピット内で目玉だけギョロリと動かしてアキュートに問いかける。
「……すまねえマンボウ。グチったって何も変わらねえ……お前の言う通りだ」
「アキュートよ。それがしと共に見せてやろうではないか。枕の本気というモノをな」
「おうよ、相棒。付き合うぜ」
凄まじい枕はゆっくりと浮上する。
「坊主! 見ていな! 今からイコンとして戦ってやるぜ!!」
「本当!?」
「うむ。漢とは何たるものか。その瞼に焼き付けるがいい!」
少年は姿を知らぬウーマの言葉に頷く。
「僕、将来お兄ちゃん達みたいなイコンパイロットになるよ!」
「うむ!」
「……あ、あぁ!!」