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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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「なんじゃ? 今の悲鳴は?」
 青白磁が反響した声に反応する横で、魔界コンパスを見つめるセルフィーナが呟く。
「まるでお腹をすかせたラスボスの必死の訴えのようですわね」
「ガッハッハ! のう、クロスフィールド。チャンスがあればわしが騎沙良より早う倒してもええんじゃろう? ドラゴンをのぅ……」
「ええ、その時はわたくしが治しますわ……こっちですわ」
 二人は詩穂達と行動を共にするツアコンだったが、年内に107階へと急ぐ計画を立てた六花のため、先行して露払いを行なっていた。尚、彼らが現在いるのは106階である。
「……にぃしても、あれじゃのう。100階超えたらゾンビもガーゴイルもちぃーっとも出やせん」
 ヤのつくお仕事と間違えられる事の多い青白磁が、退屈そうに言う。
「そうですわね。モンスターにも植生というのはあるのでしょうか?」
 二人の前を帰還途中のレンが高速で駆け抜けていく。
「今の……レン様?」
 セルフィーナが顔をあげる。
「オズワルドー! もう帰るんかぁ?」
「鍋の用意があるんだ。おまえ達も最深部で腹ペコのラスボスを倒したら早めに帰ることだな」
 振り返った青白磁の先には既にレンの姿はなく、言葉の反響が漂うだけであった。
「まず、攻撃より回復より、餌を与えなければいけないかもしれませんわね」
 セルフィーナがクスリと笑い、ダンジョンの角を曲がろうとすると、
ミシッ……
 背後で不気味な音を立てた壁の一部が崩れ落ちる。
 二人が覗き込むと、壁の中にあった大空洞内で激戦を繰り広げる者達がいた。

 そのドラゴンは地下に住んでいたため滅多に人がお目にかかる事がなかった。非常に滑らかで光沢のある鱗を持っていることから、通称:ヴェルヴェットドラゴン(Vドラゴン)と呼ばれ、血肉は魔法の素材にも、また鱗は装飾品としても破格の値段で取引されると言う。破格の値段というのは、レア度だけではなく、当然これを倒せる実力者が少ない事にも由来していた……。
「(……何か嫌な予感するなぁ。貰った地図だとここには道なんてないはずだけど)」
 円に言われるがままに順路を外れた歩は危険を感じていた。だが、折角後輩のイングリットが身を挺して自分たちを行かせてくれたのだ。進まない理由はない。
 歩だって、先頭を歩くつもりはなかった。
「ゆけ! DSペンギン!」
 危険を悟り、必死に円の服を引っ張り止めようとするDSペンギン達。だが、「ぷー、怖気ずいてるー」と無理やり進んで行こうとする円を見かねて先頭を交代したのである。今でも歩の後ろを行く円が、「そういえば煩悩でモンスター出るって言ってなかったっけ? 巨大ペンギンが現れないものか!」と言い、「ドラゴンぐらいの大きさのぺんぎんさーん! でーてきてー!」と時折叫んでいる。
 段々と天井が高くなる中、大きな石が乱立した間を体をねじって歩く歩。たまに胸がつっかえる彼女を、後方からスルリスルリと一切胸が石に当たらない円がジト目で見つめる。
「よし、抜けたよー……」
 石の間を抜けた歩がバンザイのポーズのまま硬直する。
ギョロッ……
 Vドラゴンの赤い瞳と目が合う歩。歩の顔とドラゴンの瞳が同じくらいだと言えば、その大きさは想像できるだろう。
「……こ、こんにちはー……しっ、失礼しましたー」
 引きつった笑顔のまま、ゆっくり後ろに下がる歩。
 Vドラゴンが口を大きく開き、歩に襲いかかる。
「きゃーーッ!!」
 思わず目を閉じる歩。走馬灯のように、これまで出会った彼女の王子様達の顔が浮かぶ。
「……あれ? た、食べられてない?」
 見ると、白黒の大きな動物がドラゴンと戦っている。
「あれってペンギン? 助けてくれたの?」
「歩ちゃん、ボクの煩悩がやっと叶ったよ……」
「円ちゃんの煩悩?」
「うん、やっぱりDSペンギンは可愛いなぁ、ダンジョンにも巨大ペンギンとか居ればいいなぁとか思いながらここまで来た甲斐があったなぁ」
 シミジミと言う円。
 歩は心の動揺を抑えながら、後方から付いてきたツアー参加者に呼びかける。
「(よ、よーし、ツアコンが動揺してたらお客さんも動揺しちゃうよね)……み、見てください! アレが悪のドラゴンと戦う正義のペンギンさんです! 皆で応援しましょうー!」
「「「うおおおぉぉ!?」」」
 無表情でVドラゴンをヒレで叩く巨大ペンギン。Vドラゴンも尻尾を振り回して巨大ペンギンを壁まで弾き飛ばす。
「カパッ」
 壁に叩きつけられた巨大ペンギンが口を開くと、燃え盛る炎をVドラゴンに浴びせる。
「冷凍光線だーー!」
 円が指示すると、巨大ペンギンは息を吸い込み、今度は強烈な冷気を吐き出す。
「怪獣映画みたいだね……」
「うん! ボク、怪獣映画好きなんだー!」
「……」
「だから、巨大ペンギンも子供にはやさしいよ!」
「ほぅか。わしも子供には優しくせんとなぁ」
 青白磁が壁を突き破って、大空洞に入ってくる。
「ヤ……」
「ヤのつく人?」
 歩と円の発言をスルーした青白磁はポケットに両手を突っ込んだまま、敵を確認する。敵は巨大ペンギン相手にブレスを吐くVドラゴンだ。
「なんじゃ、Vドラゴンか……相手にとって不足なしじゃけ」
 青白磁は【軽身功】でダンジョンの壁を移動するようにVドラゴンに近づく。
 【先の先】、【神速】、【ゴッドスピード】を駆使し、更に【七曜拳】による連撃を加える青白磁。
「どうじゃ!? わしの拳はぁ!!」
 青白磁がVドラゴンの額の上に飛び移り、指を額に突き立てる。
「【黒縄地獄】の指先1つでダウンじゃぁぁぁ!! だだだだだだだだだぁぁーーッ!!」
 秒間16連射の勢いでVドラゴンの額を突きまくる青白磁。
 Vドラゴンの動きがスローになり、「倒れる……」と誰もが思ったが、クワッと目を開いたVドラゴンが咆哮する。
「なっ……わしの攻撃がちぃとも、効いてないじゃと!?」
 青白磁の計画では、うっかりドラゴンを仕留めてしまい、そこを次の冒険者のためにセルフィーナが【命の息吹】で回復させるというものであった。「おっと、すまんすまん。ドラゴンと戦いたかったんか、ワレ」そんな台詞まで考えていたというのに……。
 Vドラゴンは天井に向かってブレスを吐く。
「どこ狙ってるんだろう?」
「円ちゃん! 上ーーッ!!」
 天井に向かって吐かれたブレスが土砂の洪水を一同に浴びせた。