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空に架けた橋

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空に架けた橋

リアクション

「お……あ、違うか」
 ケイは作業に使われている機晶ロボットを目にして、一瞬警戒をしたが、すぐに胸をなでおろす。
「欠片とかも残ってないよな。突然暴れだすなんてこと……あってほしくないからな」
 ぽっかり空いた空間を見ながら、ケイは呟いた。
 回収した機晶姫は、ヒラニプラで修理を受けると聞いた。
 アルカンシェル内に保存されている機晶姫はないとのことだったが、注意しておいて損はない。
 ドン
「!?」
 音が響くと同時に、ケイは音の方へと走った。
 爆発などではなく、積まれていた荷物が落ちただけだった。
「荷物一つだって、頭の上に落ちたら大変だ。積み方注意しないとな」
「手伝います」
 ソアも駆け寄って、崩れた荷物を積み上げていく。
 中に入っているのは修理に使われる資材や工具。それから……。
「これは……外に運んだ方がいいんじゃないか?」
 箱の中から飛び出したのは、侵入してきた機晶姫の部品と思われる塊。
 拾い集めた欠片を入れて、積んでいたらしい。
「脳に当たる部分はないと思いますが……万が一のことを考えますと、置いておかない方がいい気がしますね」
 ソアがそう言うと、ケイは頷いて積んだ箱を抱え持った。
「よし、外に運んで預けてくる。その間、代王のことよろしくな」
「はい」
 ケイは高く積んだ箱を持って、業務用リフトの方へ。
 ソアは、セレスティアーナ達の元へ戻っていった。

「いろいろ破壊されてはいるが……ある意味、楽になったと考えるか」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が、格納庫まで続く穴を見ながらつぶやいた。
 無論、制御室は必要ではあるが。アルカンシェルは元々、敵の手にあった要塞だ。
「エアロックの解放は、内通者によるものであったようだが、それはそうとしてアルカンシェル自体になんらかの仕掛けがなされていないとも限らない」
 内通者がいたことが、仕掛けがないという根拠にはならないのだ。
 そんな考えの元、クレアは部下と交代でアルカンシェルを回り、細部まで細かくチェックしていた。
 特に、生命維持、動力に関わるようなところは重点的に。
「アルカンシェル起動のリーダーと思われる男は、エネルギー室にいて、その性能を知っていた」
 だが、十二星華のアレナ達は、魔導砲の存在を知らなかったという。
 恐らくは厳重に管理されていたシステム。
 アルカンシェルの起動までに、そこまで把握していたということ。
 エネルギー室には、エネルギー炉を含め、魔導砲の制御装置と思われる装置、計器は完全に壊れて失われていた。
 そのあたりと、現在稼働している計器をも念入りにクレアは調べておく。
 先端テクノロジー、機晶技術、R&D、ナゾ解明、防衛計画、博識、記憶術といった能力を駆使して、小さなことでも何一つ見逃すことなく調べ、仕掛けといえるようなものは、もう存在しないと結論を出していく。
 それともう一つ。クレアは任務を任されていた。
「この辺りは、整備が必要ですね。イコンに使われている部品で行える範囲の損傷かと思います」
 クレアと一緒に行動し、アルカンシェルの状態を見て回っているのは葉月 可憐(はづき・かれん)という、放校された女性だった。
 彼女は、アルカンシェルの見取り図を描きながら、『整備が必要』『普通に入手できる部品、技術で修理可能』『普通の部品、技術では修理不可』等と、整備が必要な箇所に書き入れていた。
「整備は、ひとつひとつは大した意味はないかもしれないけど、全体で見たときにかなり効率変わったりするし、軽視されがちだけれど大切なことだよねー」
 パートナーのアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)も一緒に、真剣に見て回っていた。
「私達は休憩、その他で7時間くらいは時間を割くけど、それ以外は点検や整備をしてると思う。……監視役さんは適当に休憩してねー」
 アリスがそう言うと。
「こちらも同じくらいは調査に携わっているはずだ。気にしなくていい。必要に応じて、交代要員も呼ぶしな」
 クレアはそう答えて、無理はしないようにとも言う。
 可憐はちらりとクレアを見て、会釈をしただけで自分の仕事へと戻る。
 点検後、可憐達が行うのは修理ではなく、主に整備だ。
 我は纏う無垢の翼で飛びながら、配管や天井も見て回る。
 能力や技術を生かして、整備に携わりたいという希望の他に。
 放校者である自分が、どこまで許されるのか。
 どこまで携われるのかを、可憐は知りたいと思っていた。
 監視は自ら求め、24時間教導団員についていてもらっている。
 食事は簡単に携帯食を調理したもので済ませ、夜はアルカンシェルの外でテントを張って野営。
 休憩はアリスと交代して3ずつの睡眠、及び濡れタオルで体を拭いて汚れをとって、その他の時間は、全て点検と整備に充てている。
「制御室がないから、要塞内の状態がきちんと管理されてないんだよね。危ないなー」
「こういう機会に、整備をしておくことと、こまめに点検を行っておくことが大切です」
 アリスと可憐がそんな会話をしながら、整備に勤しんでいる場に――。
「お疲れさま」
「お疲れー」
 理子とセレスティアーナが現れた。
 2人は手を止めて驚き、クレアは代王に敬礼をする。
「ち、ちょうどいいかもしれません。これまでの報告書です」
 可憐は挨拶をした後、昨日までの分の報告書を代王に差し出した。
「点検大事よね。アルカンシェルと、乗組員を護ってくれて、ありがとう」
 理子はそう言って、報告書を受け取る。
「んと、ひとつ聞いてもいい?」
「どうぞ」
 アリスの言葉に理子が答えた。
「私達は放校された者なんだけど、アルカンシェルに乗ってニルヴァーナに行けるのかな?」
「それは、その人と、役割の提案次第じゃないかな。アルカンシェルの乗組員には放校者もいるって話だし、ニルヴァーナは放校者を積極的に受け入れているし」
 命を賭してアルカンシェルに突入し、制御室の制御に貢献し、月軌道での戦いの際も、制御と防衛に力を注いだ人物が、放校者だと理子は報告を受けていた。
 だがその者は、探索隊の部隊長――アルカンシェルの指揮を担ている神楽崎優子の信頼を受けている人物であり、アルカンシェル内でおかしな振る舞いをすることはなかったと聞いている。
「なんで放校になったんだ? プリクラの撮りすぎか? イーオン、アルカンシェルにはプリクラあるのか?」
「プリクラは搭載していない、はずだ」
 イーオンはセレスティアーナの問いに真面目に答える。
「ないそうだ。問題ないぞ、熱中して仕事を忘れることもないだろうからな!」
 セレスティアーナのそんな言葉に、理子が笑みを浮かべる。
「代王様〜!」
「報告があります」
 皆が集まる中に、イルゼ・フジワラ(いるぜ・ふじわら)と、シュピンネ・フジワラ(しゅぴんね・ふじわら)が駆けてきた。
「物資搬入資料ですぅ」
 そう言い、イルゼはノートパソコンに搬入状況を表示し、理子とセレスティアーナに見せる。
 しかし、2人がパソコンに目を向けたその瞬間に。
 イルゼは表示を切り替えて、アルカンシェルとは関係のない報告書と意見書を見せる。
 代王に会えるこの機会をチャンスととらえ、確実に2人の目に入れる為にとった手段だった。
「これら一連の……」
「待って」
 説明を始めようとしたイルゼだが、理子とセレスティアーナを護衛する者達に阻まれ、2人の目に入っていないことに気付く。
「看過できない方法だな。今日はそんなことの為に来ているわけじゃない」
 翔が理子の前に立ちながらそう言う。
「それはあなたにとって重要なことなのでしょう。そしてシャンバラにとって重要とあなたが感じていることなのでしょうが、今、お2人を騙して行うべきことではないなずです」
 シャーロットもセレスティアーナの前に立ちながらそう言う。
「どうしたのだ?」
「お見せする資料、間違えてしまったようです」
 セレスティアーナの質問に、ソアはそう説明した。
「ねえ、あなたは何の為にここにいるの? その話って今回の事件とは関係ないよね? 報告書を出す事も大切だけどさ、依頼を受けておきながら全うしていない人達の意見って重要だと思う?」
 理子が悲しげで、強い目で語り始める。
 月軌道での戦いの際も、事件に集中して仲間と協力をしていたら。対策を打ち出していたら。宇宙に投げ出された誰かの傍にいたら。
 助かった命があったかもしれない。それをしなかった為に、誰かを死なせてしまっているかもしれない。
 今も同じだ。整備に、修理に、仲間を助けるために動いていれば、助けられる命があるかもしれない。
「……今、皆どんな気持ちでここにいると思う?」
 理子はとても悲しそうにイルゼに「また機会があったら」と言葉を残し、セレスティアーナの手をとって歩き出す。