リアクション
9ターン
『さあ、トップグループ、ついに悪天候エリアに突入しました。
ジェイダス理事長、これは、どういうエリアなのでしょうか』
『題して、ラブハリケーン。
薔薇吹雪の舞う竜巻と、愛憎渦巻く大渦が人工的に作りだされている。
この障害を突破して愛を貫いてこそ、ジェイダス杯の覇者にふさわしいものだ』
『さあ、各選手、無事に愛の嵐を抜け出すことができるのでしょうか。
出て来ました。
トップはカレン・クレスティア選手です。続いて、天城一輝選手の姿が現れます。
両選手とも、着実な運転技術で嵐の間を抜けてきました。
さあ、悪天候エリアを抜けたところでは、ジェイダス杯名物、美しいお兄さんたちのチアの応援です』
海上に浮かべられた特設ステージには、レースクイーンとして一緒に立っているハイレグ水着の綾原さゆみとアデリーヌ・シャントルイユを始めとして、チア美青年たちのフリフリの衣装が勢揃いしていた。
「フレーフレー、ラブリー。頑張れ、頑張れ、レッツゴー」
「ううっ、わたくしたちはお兄さんではありませんのに……。しくしくしく……」
ノリノリで一緒に応援する綾原さゆみの横で、スカートの中にもっこりを隠したお兄さんたちに囲まれたアデリーヌ・シャントルイユが、悲しそうにつぶやいた。
★ ★ ★
『続く選手たちはまだ嵐の中です。はたして、突破できるのか』
「わあ、綺麗です」
「そうも言っては……。バランスが……」
呑気な彩音・サテライトとは違って、綺雲菜織は飛空艇の操縦で目一杯だった。薔薇の花びらを渦巻いている竜巻は、刻一刻と位置を変えて立ち塞がってくる。
「これって、無理です!」
隣を飛んでいたリース・エンデルフィアがもろに竜巻に巻き込まれた。
「きゃあ!」
薔薇の花びらと共にクルクルと竜巻の中央を巻きあげられて上空へと放り出される。
「こうなれば!」
勝負時と考えた綺雲菜織はアクセルギアを発動させた。とたんに激しかった風音が消え、周囲の空間の動きがゆっくりになる。倍加された反応速度を使って、立ち塞がる竜巻を避けて行った。だが、突然巻き起こった新たな竜巻が眼前に立ち塞がる。
「彩音、落ちるなよ!」
綺雲菜織がゆっくりと動く彩音・サテライトにマントの端を絡ませた。
眼前の竜巻に突っ込んだ瞬間、広げたマントが帆の代わりとなって、竜巻の回転方向へと飛空艇を流す。竜巻の真横に流されたところでマントが吹っ飛んだ。突風にあおられて飛空艇から飛ばされそうになっている彩音・サテライトを、かろうじて引き戻すと、綺雲菜織は飛空艇の進路をきっちりと見定めて最大加速をかけた。そのまま、竜巻から飛び出す。直後に、アクセルギアが限界に達した。
激しい風音が復活する。それを背後にして、綺雲菜織は悪天候エリアから飛び出してきた。
★ ★ ★
「あっ、リースやられちゃったぜ」
「ふがいない」
スクリーンを見ていたナディム・ガーランドとアガレス・アンドレアルフスが、やれやれというふうに言った。
「でも、健闘しましたよお」
一応フォローを入れると、セリーナ・ペクテイリスはじきに戻ってくるであろうリース・エンデルフィアのために、コルセア・レキシントンに温かいココアを注文した。
「はい、予約注文ですね。吹雪……。ううん、もういいの、分かってるから」
コルセア・レキシントンが、チケットを握り潰したまま硬直している葛城吹雪を見てつぶやいた。
★ ★ ★
『さあ、後続の選手たちは、まだ悪天候エリア手前です。
神代明日香選手を先頭として、じょじょに近づいています』
「はははは、ついに捉えたぜ、カナタよお!」
雪国ベアが、白熊爆進丸を緋桜ケイたちのタイムウォーカーの横にならて叫んだ。
「お、おのれ、またしてもわらわと張り合うとは。ケイ、飛ばせ!!」
むっとした悠久ノカナタが、軽く緋桜ケイの尻を蹴飛ばして叫んだ。
「いてて、無理言うな!」
★ ★ ★
『さあ、それに続くは、現在順位をキープしたハーリー・デビットソン選手。
ラストグループは、秋月葵選手、笹野朔夜選手、皆川陽選手、南鮪選手と続いています』
★ ★ ★
『現在の順位です。
レースも、半ばを過ぎました。
先頭と最後尾の間はかなり開いています』
1 △カレン・クレスティア
2 △天城一輝
3 ▼
リース・エンデルフィア リタイア
△綺雲菜織 彩音・サテライト
5 △神代明日香
6 ▼緋桜ケイ 悠久ノカナタ
△ソア・ウェンボリス 雪国ベア
8 ハーリー・デビットソン
9 △秋月葵 魔装書アル・アジフ
10△笹野朔夜
11▼皆川陽 テディ・アルタヴィスタ
12 南鮪