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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~
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リアクション

 花火大会が終わり、終日開いていた救護所も撤収を始める。
(今日も言えなかったし、失敗しちゃったし……駄目だなぁ私……)
 占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)の新しい名前は、まだ高峰 結和(たかみね・ゆうわ)のポケットに入っている。
 今度、名前を考えたと伝えられるのはいつになるだろう……。
 そう考えると、ますます落ち込んでしまう。だから、結和はメモが落ちたことにも気付かなかった。
(……ん?)
 そして、それを拾ったのはエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)だった。ひらり、と地面に落ちたメモを摘み、内容を見る。
「…………」
 連ねられた3つの単語。一見では名とは判らなくてもおかしくないが、エメリヤンはそれを見て、全てを察した。この1日、結和に落ち着きが無かった理由を。彼は、彼女がどれだけ一生懸命に占卜の名前を考えていたのかを知っている。
(どーせ、あいつなら何でも喜ぶでしょ? 挙動不審になるくらいなら、とっとと伝えて楽になっちゃえばいいのにねー)
 良い雰囲気とか、そんなのは占卜にはモッタイナイ。
「…………」
 エメリヤンは占卜に近付いた。無言のままに差し出されたメモに、占卜は不審気に片眉を上げた。
「あん? んだよコレ。俺にか?」
「……? ! ちょっ……何してるのっ?」
 占卜の声を聞いて振り返り、エメリヤンの持つメモを見て結和は急いで駆け寄った。占卜の手に渡る前に奪い取る。
「駄目ですこれはっ、えっと駄目じゃなくて……っ」
「……結和ちゃん?」
 慌てふためく彼女に、占卜の怪訝そうな声が降ってくる。
「…………」
 沈黙が落ちる。胸の前でメモを持って俯いて、それから覚悟を決めてメモを差し出す。結和の顔は、真っ赤になっていた。
「なっ、名前を……考えたので、あの、その、本当遅くなってすみません……」
「……名前?」
 受け取って、占卜は折りたたまれたそれを開く。白い、長方形の小さな紙には、綺麗な字でこう綴られていた。
『Kitaplu Ery?ld?z Efendi』
 キタプルー・アリルディス・エフェンディ。トルコの古典的な名前の方式である出身地・職業等+名前+称号の組み合わせに倣ってつけたものだ。
 キタプルーは、『書籍由来の』。エフェンディは『学者』。そして、アリルディスは『輝く一つの星』という意味だ。
 ――その明るさで周囲の人々を照らすあなたに。
 ――人が星見で導かれたように。
 ――これからも私達を導いて欲しい。
 と、願いと感謝を込めて。
「あの、えっと、お名前を……考えるのなんて、初めてで。どどど、どうですか?」
 受け入れて貰えるか貰えないか、緊張してどきどきする結和の手を、彼はそっと握った。
「ありがとう、結和ちゃん。結和ちゃんが俺のパートナーでよかったよ」
 魔道書として著者の血筋に惹かれた。それは、確かにそうだ。だが、その長い血脈の中の他の誰でもなく、結和と出会えたことを。
「ア……アリルディス、さん……」
「うん」
 彼女のパートナーであることを誇りに思う。
 手の甲にキスを……と思ったが、きっと彼女が戸惑うからやめておこう。だから、代わりに。
「もっかい。呼んで欲しーな?」
「……アリルディス……」
 しかし、次にそう言ったのは結和ではなくエメリヤンだった。なんか、みょーに気取ってて偉そうで立派な名前、似合わないんじゃないの、という視線を送ってくる。それよりは、と「アリル……アリ……」と別の名前を考えるような振りをして。
 ぽむ、とエメリヤンはからかう調子で手を打った。
「蟻?」
「テメェは……」
 その一言で折角の雰囲気がぶち壊しである。
「今日という今日はタダじゃ置かねェぞゴラアアァァァ!!」
 ふるふると拳を震わせてアリルディスは怒り、そして、エメリヤンはすたこらと逃げ出した。

              ◇◇◇◇◇◇

 レイカ達は凄く幸せそうだった。
 私は本当はどうしたいんだろう……
 同時に2人を選ぶことなんて出来ない。
 どっちかを選ばなければいけないんだ。
 私はどっちと一緒にいたいと思ってるんだろう……

 色々あったけれど無事に6人揃って。レイカと場所取りをしていた若松 未散(わかまつ・みちる)は、ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)カガミユノウみくると花火を見た。
 その間に色々と考えて、自分の心に問いかけて。
 答えが出ないまま、今は、帰り道。
 みくるはレイカ達について帰って、未散はハルと2人きりだ。
 2人きりでもお互いに会話は全然なくて、花火大会の高揚感が消えきらない街の中、下駄の音だけがからころと響く。
 そして、沈黙に耐えられなくなった頃。
「未散くん」
 ハルが不意に、立ち止まった。
「……バレンタインの返事、まだしていませんでしたね。あなたが迷っているの、知ってたんです。知ってて返事が出来なかったのです。わたくしが気持ちを伝えても、何も変わらない気がしたから」
「ハル……」
 やっぱり、知ってたんだ。
 申し訳なさと、ああここで断られるんだなという諦観。俯く未散に、しかし、ハルは思いの他暖かい声音で先を続けた。
「でもいいんです。もう、そんなの関係ない」
「え……?」
「わたくしは未散くんが好きです。この気持ちは、何があっても変わりません。あなたを苦しめることを承知で言います。――お願いです。わたくしを選んでください……」
「…………」
 驚きで、しばらく反応が出来なかった。そう言うハルは、凄くつらそうな表情をしていて。その彼の言葉を、心の中で繰り返す。
 この時、初めて。
 未散は決心を着けることが出来た。
「なんでお前はそんなに優しいんだよ……馬鹿じゃないのか……」
 自然と涙がこみあげてきて、それは、容易く未散の頬を伝い落ちる。しゃくりあげながら、涙を拭いながら、彼女は言う。
「私は……やっぱりハルが好きだ。
 もう迷わないよ。お前だけが好き。この気持ちは、お前だけのものだよ」